企業が顧客との関係を深められるSNSコミュニケーションの効果的な方法とは?

企業のSNS活用といえば、どうしても販促、告知用途での情報発信がメインになりがちです。

しかし、ユーザーは告知や広告を見たいわけではないので、これではあなたの会社とユーザーとの関係は深くなりません。重要なのは、SNSであなたのユーザーとコミュニケーションをとり、ユーザーとの関係を深く継続的なものにしていくことです。

そこで本稿では、 『SNS時代の顧客コミュニケーション成功術』(田中 千晶・著、マイナビ出版・刊)から、SNSコミュニケーションの重要性とその方法を解説した章をご紹介します。

目次

SNSコミュニケーションってそもそも何?
~SNSコミュニケーションの重要性~

 企業がSNSを運用する時代が当たり前になってきました。しかし、その多くが未だ手探りで上手く運用できていない企業が数多く存在します。私は SNS運用において「分析力」「継続力」「コミュニケーション力」「コンテンツ企画力」の4つの力を重要視しています。一般的に重要視されやすいのは「コンテンツ企画力」で、どのような投稿がバズるか、などコンテンツ企画に関するSNSノウハウ本が数多く存在します。そのため、SNSが広報とイコールであるような考え方が広まっている現状があります。しかし、本来SNSは広報とは異なり、一方的な発信ではなく、気軽に双方でコミュニケーションが取れることが最大の魅力であり強みです。それはプライベート目的だけでなく、ビジネスとして活用する際も同様です。

 SNSは「Social」Network Serviceの略語です。つまり、ソーシャル=社会的な繋がりを実現するサービスです。社会的であるということは、相手と自分が相互に影響を及ぼすことを意味します。しかし、私たち企業アカウントの運用者は、SNSの大前提である「コミュニケーションをとるものである」ということを見落としています。
しかし、個人でSNSを使っているユーザーは当たり前のようにSNSでコミュニケーションをとっています。SNSの本場であるアメリカのシリコンバレーでは企業がSNSを運用する際には、企業アカウントではなく個人ユーザーをフォローする傾向があり、2つの考え方を持っています。(合弁会社 Spansionの創設メンバーEdward Wu氏によるインタビューから抜粋)

  1. 全員が自由に使用することができる(自分自身としてSNSをする)
  2. 企業が認知拡大のために使用することができる(企業としてSNSをする)

 人々は、個人のリアルな情報が知りたいのであり、企業が推敲を重ねた文章を知りたいわけではありません。企業PRのためにSNSを行っている人も個人のアカウントを動かし、その中で企業についてやパーソナルライフについて、また普段の日常など個人としての姿も見せて、個人ユーザーと近い距離間でコミュニケーションをとることを大切にしているのです。

 したがってSNSでは「ユーザーコミュニケーション」を欠かすことができません。無視されると分かっていながらコミュニケーションをする人はいません。「企業公式って宣伝ばっかりだよな」と思われてはいけません。「この企業公式、返事来るんだ!」と思われることが大切です。私たちのように企業アカウントを運用する際にも、SNSはコミュニケーションツールであることを忘れないようにしましょう。

SNS運用で成功するための大原則

 ひと口にコミュニケーションといっても、個人アカウントと企業アカウントでは考え方が異なってきます。ここでいう個人アカウントとは、営利目的でなくプライベートとしてSNSを利用するアカウントで、企業アカウントとは営利目的で企業や企業に属する個人が運用するアカウントだと定義しておきます。

 基本的に個人アカウントのコミュニケーションは、自分が気になった投稿にいいねをしたり、参考にしたいアカウントをフォローしたり、反論したいときや共感した投稿にコメントをしたりと、特に深くは考えず自身の好きなようにコミュニケーションをとることが多いでしょう。一方で、企業アカウントで同じことをしてしまうと、一向にアカウントは伸びません。また、炎上のリスクもあるでしょう。

 さらに、個人アカウントの場合はあくまで感覚でコミュニケーションをとっているため、マニュアルがなく属人的な運用になります。企業アカウントでのコミュニケーションではある程度フォーマットやマニュアルを定めて、複数人で運用する場合でも同じようにコミュニケーションをとることが可能です。また、目的としてはビジネスで活用するため、顧客に対して信頼度を高めて効果的にアプローチすることが重要です。

 本書で解説するSNSコミュニケーションとは、SNS上でブランド名やハッシュタグなどで検索し、自社のことを話題にしているユーザーを見つけ、企業から積極的(アクティブ)にユーザーとコミュニケーションをとる手法を指します※1。明日からユーザーと関係構築を行い、自社の見込み顧客として育てあげ、成果に結びつける手法を実践できます。

※1 アクティブサポートとも呼ばれます。

ハードル別! SNSコミュニケーションの種類

 SNSコミュニケーションの中には「いいね」「リポスト」「コメント」「フォロー」「DM※2」の5つの種類があります。一般的なものでいうと、こちらからアクションを行う場合、気軽に行えるものから、行う際には少し注意が必要なものまでハードルの基準が異なります。それぞれハードルが低いものから順番に1つずつ解説していきます。

※2 DMとはダイレクトメッセージの訳です。

気軽に行え、拡散が狙える「いいね」

 みなさんSNSでいいねをしたことはあるでしょうか? 最も簡単なコミュニケーション方法がいいねです。いいねとは他人の投稿に対してハートマークで好意を伝える機能です。

 いいねの特徴は以下の3つです。

「拡散性がある」
「気軽に行える」
「ユーザーに対して実施すると返ってきやすい」

 この3つの特徴の説明をしながら、効果的な使い方を紹介します。
 
 まずは「拡散性がある」という特徴についてです。Xの場合、いいねを押された投稿は、いいねを押したユーザーのフォロワー向けに拡散がなされます。タイムラインのおすすめに「○○さんがいいねしました」という投稿が表示がされるようになります。自分がいいねを押すと、自分のフォロワーのタイムラインに表示がされるので、いいねを押すアカウントであると認識されます。

2024年6月12日のXのアップデートにより、本記事執筆時点では、すべてのユーザーの「いいね」が非公開化され、タイムラインへの表示もされない状態となっています。

また自分の投稿がいいねを押された場合の拡散力にも期待ができます。 InstagramやFacebook、TikTok、YouTubeの場合は、このような拡散の機能はありませんが、いいね数が多い投稿はアルゴリズム的にもSNS側からの評価が高く、おすすめに載りやすい傾向にあります。結果、投稿の拡散に繋がります。そのため、いいねは非常に重要なコミュニケーション項目になります。

 次に「気軽に行える」という特徴についてです。いいねしたい投稿を見つけたらハートマークやグッドマークをタップすることで「いいね」が完了します。いいねした場合、投稿者に対して「●●さんがいいねしました」と通知がいきます。(YouTubeは例外で、いいねや低評価は、誰がどの動画を評価したのか、配信者からも視聴者からも知ることはできません。 )私たちのアカウントを知らない人に知らせることができるので、企業アカウントでは積極的にいいねをしていきましょう。また、いいねは私たち企業アカウントからユーザーに対して一方的ではありますが、「みんなの投稿見てるよ!」というアピールになります。

 「ユーザーに対して実施すると返ってきやすい」という特徴では、返報性の原理を紹介します。返報性の原理とは、誰かに何かをしてもらうとお返しをしたくなる心理状態のことを指します。いいねは好意を示すので、「いいねしてもらったからいいね返してみよう」という心理を期待できます。「いいね」をすることは、いいねというエンゲージメントを増やすための施策としてもおすすめです。

拡散性の優れた「リポスト」の活用

 リポストの機能は主にX、Instagramでよく使用されます。Facebookではシェアと呼ばれます。

X のリポスト

 以前、XがTwitterだった時は、「RT(リツイート)」などと呼ばれていました。Xになった今は名前が変わり、従来の「RT(リツイート)」と同様に他のユーザーの投稿をシェアする機能を「リポスト」と言います。また、従来の「引用RT(リツイート)」と同様に他のユーザーの投稿に自分のコメントをつけてシェアする機能を「引用」と言います。
 
 リポストは拡散ができる、自然にタイムラインに流れる、客観性を担保できるという特徴があります。例えば「この製品使い勝手がよかった!」という投稿をリポストすると、フォロワーのタイムラインに「○○さんがリポストしました」という文章つきで流れます。文章さえなければ自分がフォローした人の投稿と変わらない形式です。自社製品の使い勝手がいいという評価を自然に刷り込むことができます。
 
 引用は拡散ができる、コミュニケーションを他人に見せられる、発言が主観になるという特徴があります。引用は必ず文章を追記するため、1 投稿としてカウントされます。「この製品使い勝手がよかった!」という投稿を「ありがとうございます」と追記して引用すると、感謝を述べていることがメインの投稿となります。

 このようにリポストと引用はフォロワーに与える影響が異なります。

 リポストの注意点は3つです。現在のXでは、リポストをすると投稿内容に対する無言の同意、または好意的であるという解釈をされることが多くあります。そのためリポスト元の投稿が炎上した場合に飛び火するので、センシティブな話題はリポストしないようにしてください。

 2つ目の注意点は、リポストしすぎないということです。リポストしすぎると他人のタイムラインを埋めてしまう可能性があります。タイムラインはユーザーが自分の好みに合わせて作っている場合が多いです。そこに知らない人の投稿を沢山流してしまうと、リポストばかりのアカウントはフォローを外されることが増えます。また「フォローしたらタイムラインを埋められちゃうな…」と敬遠される理由にもなってしまいます。最初のうちは「5投稿したら1リポストしてもいい」ぐらいの感覚でリポストしてください。

 3つ目は先ほど述べた2つのまとめです。リポストはする・しないの線引きが難しいです。センシティブな内容はリポストしちゃだめ、リポストしてもいいけど、しすぎてはいけない、じゃあ何をリポストすればいいのかという悩みに当たることがあるはずです。

 企業アカウントを運用するときは、基本的には引用をおすすめします。

リポストの注意点

リポスト=投稿内容に対する(無言の)同意
リポストしすぎると他人のTLを埋めてしまう
する・しないの線引きが重要

 次に引用の効果についてです。引用とは先ほども説明した通り、自分のコメントを書き込んだ上で別の投稿を引用できる機能のことです。引用をすることで、引用元の投稿に「●件の引用」という欄が表示されます。ここをクリックすると引用投稿が表示される仕組みになります。そのため、引用したアカウントのフォロワーにも自分の引用投稿が表示される可能性があるということです。そのため、引用を行うことで自分のフォロワーだけではなく、引用先のフォロワーにも見られる可能性があり、インプレッションが伸びやすくなります。また、リポストとは異なり、自分のコメントがついていることで、ユーザーにも興味を持ってもらいやすくなります。興味を持ってもらうことで引用投稿のいいねやインプレッションが増加する可能性が高くなるというメリットがあるのです。

Instagram のリポスト

 リポスト機能の使い方としてはXと同様です。他人の投稿を、自分の投稿で引用し再度投稿する機能を指します。ただ、Xと異なり、拡散目的ではなく、Instagramのリポストの特徴は「投稿作成コストが低い」こと、「コミュニケーションを見せられる」の2 点です。

 まずは「投稿作成コストが低い」という特徴についてです。Xと比較して Instagramは、画像や写真などを用意しなくてはならなく、投稿作成に時間がかかりやすい点があります。そのため、他人の投稿を自分の投稿として再投稿できるリポスト機能を活用すれば、0からコンテンツを作る必要がないため投稿作成コストがかからないメリットがあります。

 リポストできる場所は自身の投稿欄(フィード投稿)と、ストーリーズの2箇所です。一番手軽で簡単な方法は、ストーリーズへリポストをすることです。フィード投稿として自分の投稿欄にリポストをするには、少し手間がかかったり、ユーザー視点でも自分の投稿が企業の投稿欄に表示されることにハードルを感じてしまうこともあります。一方で、ストーリーズの場合は投稿してから24時間で自動的に消えるため、ハードルを感じにくいことと、以下の手順で簡単にリポストを行えます。

リポストをしたい投稿を見つけたら紙飛行機マークを押してください。
「ストーリーズに投稿を追加」という表示が出てくるので、タップして作成します。
リポスト時のマナーとして定着している「事前にリポストの許可を取る」「タグ付け、またはメンション(相手を指名してメッセージや投稿をする機能)をする」に気をつけてください。

 この手順で簡単に1投稿として完成します。そのため、まずは手軽に行えるストーリーズへのリポストをマスターしましょう。

 次に「コミュニケーションを見せられる」という特徴です。「無視されると分かっていながらコミュニケーションをする人はいません」という話をしましたが、リポストをすることでコミュニケーションを取る気があると思わせることができます。コミュニケーションを取るアカウントだとアピールすることで、他のお客様もDMでの口コミや相談がしやすくなります。
 
 Instagramのリポストは、フォロワーやユーザーとの交流を見せつけることができる機能なので積極的に活用して、親近感を高めていきましょう。

 こちらは弊社のクライアント企業「有限会社 増山硝子店」様がリポストを活用してお客様とコミュニケーションを取っている事例です。

 このように、お客様からの口コミ投稿をリポストし、感謝のコメントを添えることで、丁寧な印象を与えられるだけではなく、さりげなくフォロワーにお客様からの口コミを紹介できるため、サービスの宣伝効果も期待できます。

Facebook のシェア

 使い方としては、Xの引用と同じです。Xのリポストのように、コメントを付けずに他のユーザーの投稿をシェアすることもできますが、Xと異なる点としては拡散力はあまりありません。Facebookは原則実名登録で、フォロワーも知り合いが多い傾向にあります。そのため、投稿を拡散する目的のシェアではなく、ユーザーとの親密度を高めるユーザーコミュニケーションとしてのシェアを行いましょう。イメージとしては、先ほどInstagramのリポストで紹介したようなお客様からの口コミ投稿を感謝のコメントをつけてシェアをするなどです。
 
 その他、YouTube やTikTokには別のSNS 媒体(LINEやInstagram、X等)への動画共有機能はありますが、InstagramやXのようにアプリ内で動画をシェアする機能はないため、割愛させていただきます。

ユーザーとのコミュニケーションを活発にする「コメント」

 次にコメントの活用です。コメントとは投稿に対して個別に返信の投稿をする機能のことです。吹き出しマークを押すことでコメントができます。投稿をしたユーザー本人に向けてメッセージを送りたいときに使用します。コメントの特徴は投稿者にダイレクトに伝えられるということです。コメントだと1対1で「私のためにコメントがある」という親密さを感じさせることができます。私個人にコメントがほしいから企業アカウントの話題を出したり、投稿に対してコメントをして返信を待つというような心理も存在します。またアルゴリズムの観点から、コミュニケーション量が多いと投稿がタイムラインや検索の時に優先的に表示される傾向があります。待つだけでなく、積極的に検索し、コメントすることでコミュニケーションを活発にすることができます。

 また、コメントについては定期的に機能が追加されています。企業アカウントで使う可能性がある制限機能について紹介します。2024 年5月時点ではXの場合、投稿時にコメントの公開範囲の制限ができ、「全員返信OK」「フォローしているユーザーのみOK」「認証済みアカウントのみOK」「@ポストしたアカウントのみOK」の4つのパターンがあります。Instagram、TikTokの場合は投稿時にコメントをオフにする機能がありますが、ユーザーによって公開範囲を分けることはできません。Facebookは投稿時にコメントを制限する機能はありませんが、投稿後にコメント欄を削除したり、アカウントの設定でどの投稿もコメントをオフにすることができます。YouTubeの場合もコメント欄を制限することができ、「コメントをすべて許可する」「不適切な可能性があるコメントを保留して確認する」「すべてのコメントを保留して確認する」「コメントを無効にする」の4つのパターンがあります。それぞれ、コメントを制限できる機能を紹介しましたが、よほど変なコメントが想定される以外は基本的には全員からのコメントを受けつけてコミュニケーションをとることをおすすめします。

こちらからはあまりアクションしない方がよい「フォロー」

 フォローとは、自分が興味を持ったアカウントをファン登録することです。フォローをすることで自分のタイムラインにフォローしたユーザーの投稿を優先表示させることができます。こちらも「いいね」と同様に返報性の法則に則って、「フォロー返し」を狙い、フォロワーを増やすことも可能です。ただし、フォローの乱用はNGです。ユーザーの心理として、フォロワーよりもフォローの方が多いアカウントは、「フォローでフォロワー稼ぎをしているのかな」とアカウントの評価が下がってしまう可能性があります。ただし、アカウントの立ち上げ段階ではフォローを行い、まずはアカウントの認知を上げることも必要です。その場合でも、フォロワーよりもフォローの方が多くならないように気をつけましょう。

カスタマーサポートの役割も果たす「DM(ダイレクトメッセージ)」

 DMとは、SNSアカウントを使って無料でメッセージを送れる機能のことで、ユーザーと1 対1の間だけで会話ができるだけでなく、グループを作成し、複数でメッセージを交換することも可能です。ビジネスチャットツールと同様に、DMグループに追加していない他のユーザーからはDMの内容が見られない仕組みになっており、ビジネスでもよく使用されています。企業アカウントではお問い合わせの場として活用していることも多く、私がこれまで支援したクライアントの事例では、0から運用開始し、半年未満でお問い合わせを5 件獲得し、売上に繋げた企業もいるほど、SNSにおけるDMは重要な役割を果たします。メリットも大きい分、コミュニケーションを取る際には注意が必要です。メールと同じで、誰彼構わず一方的にDMを送りつけてしまうと営業感が強くなってしまったり、スパムと思われてなかなか成果に結びつきません。また、多くの企業がDMを営業の場として活用しているため、日々多くのDMが届くユーザーにとっては、知らないアカウントから来た DMはまず開くことも少ないでしょう。いきなりDMを活用して営業を行うのではなく、あくまでクロージングの場として活用することをおすすめします。次のパートの「④「DM」の実践」で実際に私が検証し、DM 返信率を18%から50%にまで上げ、商談獲得に繋げたコミュニケーション方法を解説していきます。

ユーザーとの関係を築きあげるSNSコミュニケーション方法とは!?
頻度はどのくらい?

 ここからは説明したコミュニケーション法を使って、ユーザーと関係構築を行っていく方法について説明していきます。クライアントの実績で運用約1ヶ月で商談獲得に結びつけたコミュニケーション方法は以下です。

① ペルソナアカウントへいいねを行い、認知させる
【1ユーザーあたり毎日2 ~ 3いいね】
② コメントや引用(旧引用リツイート)で関係構築を行う
【1ユーザーあたり毎週1 ~ 2 件】
③ ユーザーの投稿にコメントをする
【1ユーザーあたり毎日1 件】
(ここでケースバイケースによってはフォローを行うことも※あまり行わない方がよい)
④ 商談のDM(ダイレクトメッセージ)送付

 このように、コミュニケーションハードルが低い順にステップアップしていきます。特にユーザーとの関係構築において一番重要になるのが①~③の工程です。先ほど説明した通り、見ず知らずのアカウントからDMが届いてもほとんどの人が開封しないか、返信しません。そのため図のように小さなコミュニケーションを継続して行い、まずはアカウントを認知させ、他人からフォロワーになってもらうことでユーザーからの信頼を勝ち取り、DMを送ることが大切なのです。

 次に、それぞれのコミュニケーションにおける実践方法について解説していきます。

「いいね」の実践

 先ほども述べたように、「いいね」はSNSコミュニケーションの中で一番ハードルが低いコミュニケーションです。まずは毎日ユーザーの投稿にいいねを行うところから始めます。このいいねを行う活動のことを私は「いいね周り」と呼んでいます。このいいね周りの結果、ユーザーからいいね返しがよく来るようになったら、次のリポストへステップアップしましょう。ここでいいねによる双方向のコミュニケーションが発生している状態が重要です。

 ここで、いいね周りを行う際のポイントについて解説していきます。

同業の投稿にいいねを押しているユーザーの投稿にいいねする

 同業の投稿にいいねを押しているユーザーは、そのジャンルに興味のあるユーザーだと判断できます。そのため、1から検索していいねを押す投稿を探すよりも、効率よくターゲット層にアプローチすることが可能です。

1ユーザーあたり3投稿に連続していいねする(目安)

 連続でいいねをすることで相手の通知欄に自分のアカウントが連続で表示されます。そのため、相手に気づかれやすく、いいね返しやフォロワーになってもらう確率が上がります。

ペルソナに合わせた時間帯にいいねする

 ユーザーがよくSNSを活用する時間帯の少し前の時間帯にいいねを押しましょう。ユーザーがSNSアカウントを開いた瞬間にいいねの通知が目に入るため、気づいてもらえる可能性が上がります。一般的に朝の通勤時間(7: 00 ~ 9:00)、昼休憩の時間(12:00 ~ 13:00)、夜就寝前の時間(20:00 ~ 21:00)にSNSを利用するユーザーが多いため、この時間の少し前の時間を狙うとよいでしょう。

「リポスト」の実践

 ユーザーの投稿をリポストする際は、なるべくコメントをつけた引用投稿を行うことをおすすめします。ここで、引用すべき4つの項目について紹介します。

質問・疑問に対する回答

 商品・サービスに対して質問や疑問を投稿しているユーザーがいたら、コメントやDMで回答するのではなく、引用を活用しましょう。同じ質問・疑問を持っているけど、表明していないユーザーの助けになりますし、今後同じ質問・疑問がくる可能性を低くすることができます。また、同じ質問・疑問が来たとしても「この投稿で回答しているので見てください」と手間を省くことができます。カスタマーサービスの一つとして認知されるようになれば、 DM等へユーザーから問い合わせが増えてくるでしょう。

プラスアルファの情報提供

 商品・サービスは日々変わっていきます。その時々で引用リポストして、「プラスアルファの情報提供」をすることで最新情報を伝えるきっかけになります。例えばカラーバリエーションを紹介したり、入荷情報を追記する、おすすめポイントをアピールするなどが当てはまります。普段の投稿で情報提供をしていくのですが、コンテンツの都合上、漏れてしまった内容や頻繁に更新される内容などは引用リポストを活用して伝えることができます。引用は他人の投稿だけでなく、自分の投稿でもできるので「プラスアルファの情報提供」は活用しやすい内容です。

感謝を伝えるもの

 ユーザーのポジティブな評価、例えば「好き」「面白い」「かっこいい」「使いやすい」などに対して感謝を伝えるようにしましょう。「ありがとうございます」の一言で問題ありません。商品・サービスに対する良い評価を見せつけられることで、宣伝っぽくない客観的な評価を伝えることができます。口コミや利害関係のない投稿などの客観的に見える評価は信頼度が高く、人が信じやすい傾向があります。また、良い評価を投稿すれば公式アカウントが反応してくれるということをフォロワーに覚えさせることができたら、良い評価の投稿が増えるという効果も期待できます。返信内容を考える必要がないので、新入社員の方でもやりやすい引用の使い方です。

内容の訂正

 「プラスアルファの情報提供」に似ていますが、最新情報への更新や投稿の誤字脱字の訂正、コンテンツ内容自体の訂正などが当てはまります。基本的には自分の過去の投稿を使います。過去売り切れたものに対して「再入荷しました」という訂正や、間違った情報を伝えてしまった際の「以前の投稿で●●とお伝えしましたが、正確には●●でした。申し訳ありません」などといった使い方ができます。他にもユーザーが誤った商品の使い方をしている時などに「正しい使い方」を投稿するなどができますが、晒しあげるような状態になりかねないので、その場合は引用を使わず通常投稿がおすすめです。

 以上が活用しやすい引用リポストの内容4つでした。「質問・疑問に対する回答」「プラスアルファの情報提供」「感謝を伝えるもの」「内容の訂正」をぜひすぐに実践してみてください。

「コメント」の実践

 ここからは相手との会話を意識しましょう。どのようなコメントをすればいいのか、2つの方法を紹介します。

 1つ目は相手の投稿にコメントするというスタンダードな方法です。コメント先の投稿に対して共感したり、意見を述べるなどのコミュニケーションを取ります。例えば、ユーザーの投稿に対して「お疲れ様です! 素敵な1日を!」と誰でも言えるコメントであっても、十分に有効なコミュニケーションです。現在は廃れていますが、2010 年くらいまでのXでは「ご飯食べてくる」「いってらっしゃい」といったやりとりもありました。相手の投稿に返信するのは単純な挨拶として捉えていただいて構いませんし、その場合は炎上もしにくい簡単なコメント活用となります。

 2つ目に他ユーザーから自分の投稿にコメントがあったときの返信です。会話のラリーが発生するパターンです。相手の意見が発生しているコメントに対して共感を示しています。例えば自分の投稿にユーザーから「おはようございます!」と挨拶があった場合、「コメントありがとうございます」と必ず返信をすることが重要です。ここでは気負いすることなく踏み込みすぎない会話を続けることを意識してください。返信せずにいいねをつけるだけで終わる企業アカウントもあります。そのいいねは、感覚として会話終了合図として使うLINEのスタンプと同じです。既に認知度があるアカウントの場合は、多数寄せられたコメントに1つ1つ返信をしてしまってはきりがないため、いいねで終わらせてもよいでしょう。ただ、まだ運用開始したてで認知度が低い時は必ずコメントには返信することを心がけてください。
 
 また、ユーザーから寄せられるコメントには種類があります。以下の図のように、「感想コメント」「質問コメント」「アカウントや投稿についてのBADコメント」「ご意見/クレーム」「不祥事が起こった場合のBADコメント」「無関係なコメント」の6つの種類に分けられます。

 基本的に、「質問コメント」についてはすぐに対応するとアカウントの印象が良くなります。また、「ご意見/クレーム」に関しては丁寧に返信をし、可能な限り解決策を提示するようにしましょう。また、営業・経営判断上、すぐには対応しないことやできないことに対する「BADコメント」や「無関係なコメント」には反応しないほうがよいでしょう。中には「貴重なご意見ありがとうございます」としている企業アカウントもあります。

 あまりにも毎日毎日何コメントも行うのはユーザーから嫌がられる可能性や、コミュニケーションではなく、営業として捉えられる可能性があるため、多すぎには注意しましょう。

 上記コメントを行い、自社コメントに対するユーザーからの反応(いいねやコメント返しなど)が出てくれば、最終ステップのDMへステップアップしましょう。

「DM」の実践

 いよいよ商談アプローチや来店促進などの営業をかけていく最終のDMの送付方法について解説していきます。ここまでに①~③を繰り返し行い、ユーザーとの関係構築ができている状態にしておきましょう。

 まず、DMの注意ポイントについて説明します。1 対1のプライベート空間で他のユーザーから見られる心配がないからといって、気を抜くのは危険です。DMを送る際には「スクリーンショットをとられるかも」という意識を持っておきましょう。他人から見えなくてもスクリーンショットをとられたら拡散可能になります。誰に見られても大丈夫なDM 文章を送りましょう。上記に付随し、カスタマーサポートである意識で丁寧な言葉遣いを徹底しましょう。丁寧な印象を心がけることでプラスの印象になることもあります。また、関係構築ができているからといって、送りすぎはNGです。送りすぎてしまうことで営業感が強くなりユーザーが離れてしまう可能性が高くなるため注意が必要です。

 DMで送る内容はいきなり商談をもちかける内容より、ワンクッション会話や相手にとってメリットのある情報を送ることでさらに商談獲得やコンバージョンに繋がる可能性が上がります。手軽に送れる内容としては、日々の SNSコミュニケーションのやり取りのお礼やフォローのお礼メッセージを送ることです。

 また、BtoCの場合は、

・製品やサービスに関するアンケートや会話
・カスタマーサポート的な動き(近隣の店舗案内等)
・有益情報や資料のご案内

 BtoBの場合は、

・製品やサービスに関するアンケートや会話
・事例、実績情報
・有益情報や資料のご案内

などを送ることでユーザーとの関係構築をさらに強くすることができます。

 DMの開封率、返信率をあげるためには、「構成&内容(分かりやすさ)」「オファー内容」「送る時間(ペルソナ)」に気をつけましょう。特に、内容の
部分では「定型文っぽさを出さない」「相手にとってのメリットをしっかり伝える」ことがポイントになります。

 1つめの「定型文っぽさを出さない」ことについては、誰にでも言えるようなロボットのような文章ではなく、人間感を出すことが大切です。そのために、事前にユーザーの投稿内容を見たり、プロフィール欄のリンク先を見たりして、相手がどんな人なのかをチェックしましょう。そこで、自分や自社との共通点を見つけ、文章に盛り込むことで定型文感をなくすことができ、興味を持ってもらいやすい内容になります。また、DM 文章のテンションは普段の投稿と合わせるようにしましょう。普段の投稿がフランクなら堅すぎないほうが違和感のない文章になります。

 2つめの「相手にとってのメリットをしっかり伝える」ためには、自分や自社サービスの説明だけを行うのではなく、課題例をあげてイメージしやすく、相手にとってどんなメリットがあるのかも同時に記載することが重要です。相手にとってのメリットをこちらから提示することにより、返信率が高くなります。

 DMの構成の部分でNGなことは以下になります。

・長文、改行無しの文章
・分かりやすい定型文
・いきなり会社の説明など、自己満足な文章
・流れ作業でメールを送る

 以下の図を参考に分かりやすいDM 文章を作成してみましょう!

 ユーザーコミュニケーションによりDMで商談を獲得した成功例として、建築工事業を行っている「株式会社鳥居建設21」様を紹介します。

 取り組みとして、 まずユーザーとの関係構築を行うために、 公式 Instagramアカウントから見込み顧客になり得るペルソナアカウントに「いいね」や「コメント」を毎日行ったり、ストーリーズのアンケート機能を活用し、ユーザーを巻き込むような投稿を行ったりと、まずはユーザーから親しみやすさを感じてもらえるように、コミュニケーションを積極的に行っていきました。

 以下は弊社のSNSCHOOL(SNS研修サービス)で鳥居建設21を支援した際に実際に作成した「DM 戦略」の表です。

 ステップ1、ステップ2は先ほどお伝えしたユーザーとの関係構築を行うためのアプローチ法です。まずはフォロワーになってもらうために日々の投稿や「いいね周り」などの活動を行います。

 そして、次のステップ3は、いいねやコメントである程度コミュニケーションがとれ、関係構築ができたユーザーに対して送るDMです。いきなり営業感のある内容ではなく、まずは挨拶から始めました。

 ステップ4としては、引き続き投稿のコメント欄でコミュニケーションを取り続けることです。この段階でさらに関係構築を深めていきます。

 最後のステップ5では、いよいよDMで営業に繋がる内容を送っていきます。ここでのゴールは「受注」ではなく、あくまでも「問い合わせ」を獲得することと定めました。DMのパートでお伝えした、相手に対してメリット感を出す内容を意識しています。

 この流れを継続して行った結果、DMからのお問い合わせを3 件獲得し、その3 件とも実際に商談に繋がったなど商談化率100%という成果に繋げることができました。
 
 このように、ユーザーコミュニケーションを戦略立てて行うことで、売上増加に繋がる問い合わせの獲得や来店促進に繋がる成果が残せます。まだユーザーコミュニケーションに取り組んでいない方は今すぐ実践してみてください。

SNS時代の顧客コミュニケーション成功術

  • 定価(紙/電子):2,739円(税込)
  • A5判、カラー
  • ISBN:978-4-8399-8551-6
  • 発売日:2024年08月28日
  • URLをコピーしました!
目次