より効果的にカスタマーサクセスを実現する

顧客の本当に欲しいものを見つけ、難しい選択をサポートできれば、顧客は必ず対価を払ってくれる。それには、AI技術と人間との協調/協業が必要だろう。

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人は “後悔したくない”だけ

手近にあるわかりやすい手がかり(店の前の行列や、権威者のお墨つきなど)を利用して簡単に意思決定する(01)。

もちろん、そうした簡易的な判断は時々間違えることがあるが、仮に外してもそれほど後悔はしないはずだ。なぜなら、店の前の行列や権威者のコメントを参照するのは、皆が採用する一般的な基準なので、外した時に自分を責めるには及ばないからだ。並んでいた客や権威者が間違っていただけなのだ。

逆に、「誰も人が入っていない店」や「権威者が推奨しない店」を自ら選び、それが外れだった時には、他人を責める余地がないので強い自責の念にかられる。それが嫌だから、我々はつい既存の手がかりを採用してしまうのだ。

生活者のインサイトは、「後悔したくないが、情報処理コストもかけたくない」という都合のいい思考がベースになることが多い。最高の結婚相手を見つけたくて婚活サイトに登録する人は「絶対失敗したくない」気持ちが強くなりがちで、多少気の合う人が見つかっても「この選択は正しいのか?」という不安を解消するために「もっと他の人も」と検索する。しかし選択肢を増やせば増やすほど、選べなくなりがちだ(02)。

01 顧客が感じる「メンタル・コスト」は意外に大きい
近年フィジカルなコストが技術の進歩で低下傾向にある。そのために、相対的にメンタル・コストが顕在化しているのではないだろうか
02 6種類と24種類、どちらが選びやすい?
人は複数の選択肢を一度に情報処理するのが苦手。米・コロンビア大学による実験調査では、ジャムの試食販売で、24種類から選ばせた場合、6種類と比べて売上が10分の1に減ったという。選択肢が4倍になったら、認知負荷が10倍になったわけだ。他にも、「AさんよりBさんが嫌い」「BさんよりCさんがもっと嫌い」と言っていた人が、「CさんはAさんよりもマシ」と言い出す状況はよくある

「カスタマーサクセス」とは後悔回避のサポートだ

では、AI技術はどこまで買い手の納得のいく選択を手助けしてくれるのか。実はAI活用の手前で考えるべきことがある。それは買い手(顧客)の認知負荷への耐性だ。行動デザイン研究所の直近のリサーチによる仮説では、耐性の高い人、情報処理に必要な手持ちのエネルギーが潤沢な人は、選択肢が多ければ多いほど満足する傾向がある。

逆に耐性の低い、エネルギー残量の少ない人は、選択肢が多いと思考停止して判断を放棄する傾向がある。そこで目の前の顧客がどちらのタイプかわからない時、「3択」の提示が実用的な解決策となる。前者は「本音はもっと選択肢が欲しいが、3択なら最低限許容できる」と考え、後者は「3択で十分、これ以上は無理」となる。両者の重なるところが3択なので、世の中の選択肢は3択が多いのではないだろうか(03)。

「選べないのなら、選ばなくてもいいようにする」設定も作戦だ。最近、多様なサブスクリプションモデルが注目されているが、「毎月、送り手が決めたものがサプライズで届く」タイプのサービスは、顧客の選択コストを0にしている。また「毎月定額で聴き放題/見放題の音楽/映画配信サービス」も顧客の「後悔」を解消するメリットがある(04)。

「カスタマーサクセス」という概念は、サブスクリプションモデルの成長と密接な関係があるが、顧客にとって「よりよい選択」のためのサポートはカスタマーサクセスの必須の要素になる。重要なのは、客観的に正しいが顧客の納得の低い選択肢を強いるのではなく、顧客の後悔という精神的コストを低減するサポート。AI技術と人間系の協調で、それは初めて可能になるはずである。

03 なぜ、世の中には「3択」の質問が多いのか?
「3の研究レポート」(行動デザイン研究所)では、「3は、多い/少ない、どちらの意味も持つ“曖昧な”数で、それが使い勝手の良さとなって人がよく“3”を使う」という仮説を立てている。選択肢を減らすことは、受け手のコスト(認知負荷)と、現場の送り手のコスト(認知負荷)両方の軽減となり、マーケティングを成功させる重要な要因にもなる。
参考:人はなぜ「3つの理由」と言ってしまうのか?
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/report/45812
04 サブスクリプションモデルは顧客の後悔を減らす仕組み
サブスクリプションモデルは多様な領域に拡がっている。例えばシェアリングサービスは、顧客の後悔回避に役立っている。「所有しない」選択肢は、「所有(購入)する金銭的コスト」だけでなく「気に入らないものを家に置く精神的コスト」を大きく低減するからだ

※Web Designing2018年10月号掲載記事を転載

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