競合サーチとアクセス解析によるオンライン施策「ベネマ集客術」、ユーザーヒアリングなどのオフラインのデータの両輪でPDCAを回す

サイトを開設したが、アクセス数に伸び悩んでいるという例は少なくないだろう。そういった際、どのようにして競合リサーチを行い、アクセス解析の結果と照らし合わせて施策を練ればよいだろうか。また、ヒアリングによって現状を把握した上で、数字に裏付けられた施策を提案したい。今回は、そんな事例を紹介しよう。

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問題点の洗い出しと施策の提案

今回取り上げる「DHマイライフ」は、歯科衛生士(通称:DH)向けの就職・転職ポータルサイトだ。開設後1年が経過して、アクセス数もユーザー数も伸び悩み、最終的なコンバージョン(CV)であるサイト経由の面談申し込みも増えていないことが課題だった。

DHマイライフ
全力コンサルタント(株)が運営する歯科衛生士向けの就職・転職ポータルサイト。開設後1年を経過しても、求職ユーザーのコンバージョンに伸び悩み、大手の転職サイトとのシェア競合に苦戦していた

サイト開設後の運用としては、Facebookページへの記事投稿とリンク、サイト内ブログの更新、そして「歯科医衛生士 求人」「歯科衛生士 就職」といったキーワードでのSEOを行っていたが、競合比較ツールである「Similar Web」(01、02)を使用してみると、競合に比べてトラフィックが乏しい状況だった。

01 競合サイト分析ツール「SimilarWeb
02 「SimilarWeb」による競合リサーチ(上)。無料版ツールでもサマリー程度にはリサーチできる。競合サイトのアクセスだけはでなく、オーガニック検索と広告の比率なども参照可能だ(下)。このセクションで、競合サイトへ流入している検索ワードや、広告で出稿しているキーワードもリサーチできる。 ほかにも多くの機能があり、運用の参考には最適なツールだ

リサーチを進めると、競合の多くは、求職ユーザー向けのランディングページ(LP)を展開し、そのLPに対してサーチエンジンマーケティング(SEM)を行っていた。LPスタイルのコンテンツ展開であれば、広告と遷移先のコンテンツを連動させることが容易だからだ。SEMによる集客施策は、タイトルや文章といった広告媒体側のコンテンツ性と、広告をクリックしたユーザーが遷移する先のWebページとの親和性が高いことが成功の肝であり、ユーザーが広告をクリックしても、遷移先に違和感があると、そのまま離脱してしまう。したがって、このようにSEMとLPを組み合わせる手法はWeb集客の王道となっている。

また、当時の「DHマイライフ」は、情報量こそ豊富だったが、CVまでの導線が明確ではなく、ターゲット層が曖昧であった。

そこで、ターゲットを明確にして、問い合せ&面談申込みのCVまでの導線が非常にシンプルなLPを制作した上で、リスティング広告を仕掛けるSEM展開の提案を行った。

アクセス解析から採った最初の一手

施策に着手する直前の2カ月のGoogleアナリティクスのデータを見てみると(03)、オーガニック検索では求人や就職に関連するサーチキーワードが少なく、ピンポイントの歯科医院名、そして就転職活動には無関係と思われるキーワードからの流入が多く見られた。つまり、本来リーチしてほしい潜在ユーザー層からのリーチが得られていなかったのだ。

そこで、まずはユーザーに検索してもらうべきキーワードを洗い出し、それに訴求できるLPを構築したりマーケティング施策を講じるなどして集客を行うのが急務であると考えた。

03 受託前月の特に施策を行っていない時点でのオーガニック検索キーワードのリスト (左)。残念ながら、就職・転職に有効なキーワードで検索されているとは言い難い状況だったことがよくわかる。現行のオーガニック検索キーワード(右)。「歯科衛生士 求人」「歯科衛生士 転職」など、本来の歯科衛生士向けの就職転職ポータルサイトとして検索されるべき姿になり、訪問してほしいユーザーにリーチできている

「ベネマ集客術」とは?

LPの設計では、とにかく1ページ単体のコンテンツでユーザーの共感を得て、いかにCVへのモチベーションにつなげていくかが鍵となる。当社の制作では、コンテンツ設計に「ベネフィット・マーケティング」、通称「ベネマ集客術」を用いている。ここでいう「ベネフィット」とは「ユーザーが得られる恩恵」のことを指し、CVによって「どういう体験ができるのか?」「自分がどう変われるのか?」という「自分事」として、「最終的に得られる恩恵に共感と期待を持たせる」という心理的なアプローチを行うのが「ベネマ集客術」である。

この事例では、求職ユーザーが求めるベネフィットは「就職・転職決定」というマイクロCVではなく、「その就転職によって、どのような環境で働くことができるのか?」ということになる。その「近未来の自分」に期待を持って面談に行く姿をイメージさせるのが、CVへのモチベーションであると仮説を立てた。

LPの設計では、対象となるペルソナを策定しながら、それがどんな人物像なのかをコンテンツで明記した。そして、そのペルソナの悩みや困りごとを列記し、当サイトがどのように解決していけるのかを定義した。さらに、他社との違いや独自性、大手競合にはないメリットを明示し、権威からの推薦をもって信用証明につなげ、最終的な後押しのサイトからのメッセージを伝えてクロージングという導線を組んだ。

リスティング広告のチューニング

LPリリースと同時に、リスティング広告によるSEMも開始した。費用対効果の検証のしやすいリスティング広告は、テストマーケティングとしても最適である。つまり、入札単価を抑えて「CPA(Cost Per Acquisition:顧客獲得単価)」を下げつつも、クリック率を維持しながらCVが増えるように、除外キーワードの設定や細かい入札の繰り返しなど、きめ細かい運用チューニングを行った。

当初は、フォームへの到達は多いものの、「フォーム離脱」が目立った。その原因は明白で、集客の質を高めるための方針から「面談が前提のフォーム送信」となっていたからである。それでは、ユーザー、特にターゲット層である女性には心理的な障壁が大きいので、「まずは電話やメールで相談ができる」という「1ステップ」を追加した。それによって、CVRは大きく改善し、セッション数もLPをリリースする以前の20倍にまで伸ばすことができた(04)。

04 LPはサブドメインで展開したので、ドメイン全体のセッション数は、それ以前の平均的なボリュームの約20倍になった
05 直帰率の推移。LPの開設前は直帰率が高かったが、LPリリース後は50%前後で安定している。理想的には、さらに低い状態で安定することが望ましいが、LPとSEMを組み合わせるという手法の性質上、ある程度の直帰が発生してしまうのは避けられない

ユーザーヒアリングも重要

LPに限らず、Webサイトの設計時には、その根拠はあくまでも「仮説」でしかない。サイト設計時に立てた仮説が果たして正解だったのか、その効果をアクセス解析で検証し、その結果に基づいて、再び改修提案を立てて、サイトに反映していくという、いわゆる「PDCAサイクル」を実行していく。

そして、サイトの数字データだけでは読み取りきれない、リアルな声や状況をクライアントとのディスカッションから吸い上げ、数値的な根拠も参照し、総合的にベストな施策を模索していくことも求められる。このように、オンラインとオフラインの両方の視点から検証していくことが大切である。

この事例は、面談に申し込んでもらい、最終的には歯科医院への紹介マッチングに導くのが最終的なゴールだが、そのCVの質が高いのは、当初クライアントとのコンセンサスで狙っていた20代ではなく、30~40代のベテラン層であることがヒアリングから判明した。

そこで、LPをベテラン層向けのビジュアルやコンテンツに改修し、併せてリスティングの施策方針もターゲットに合わせた内容に改めた。それによって、CVも最大で10倍程度まで引き上げることができた。

06 改修前のLP(左)と、ベテランDH向けにファーストビューを改修したLP(右)。ユーザーが詳細まで読んでくれるかは、ファーストビューに掛かっていると言っても過言ではない。いかに「自分事」であるかをイメージさせるかが鍵となる

また、ユーザーの傾向変化が顕著に現れたのが、スマホ(モバイル)からの利用率の急騰だ。受託する前月の3月はモバイルの割合が19.48%であったのに対し、リリース後の5月にはそれが一挙に59.48%まで向上した(08)。運用を重ねて行くうちに、スマホユーザーのほうがPCユーザーに比べてCVRが高いことに気づき、GoogleならびにYahoo! JAPANへの媒体費もスマホ向けにシフトさせていった。それによって、2015年9月期にはモバイルの割合も68.51%まで上昇し、LP経由でのCV数も当月が期間中最大という成果に結び付いた。

07 Googleアナリティクスの「ユーザー→モバイル→サマリー」(左)で表示されるデータの抜粋(上)。当初は、ほとんどがPCからのアクセスだったのに、半年の間に6割以上がスマートフォンからに変わったことがわかる

Webマーケティングに王道なし

Webマーケティングで重要なのは、基本に忠実に「PDCAサイクルを回転させる」ことだ。要点をまとめておこう。

・ ヒアリングとアクセス解析から問題点を洗い出し、要件を整理する
・ ペルソナを策定し、そのペルソナのベネフィットとなるポイントを仮説立て、コンテンツ設計を行う
・ リリース時点は、すべてがあくまでも仮説に過ぎない。効果測定で、その仮説が正しいのかを多角度から検証する
・ 効果検証から、新たに見いだせる事実や仮説を、次の改修運用に組み入れる
・ これらは、アクセス解析やオンライン上で得られるデータだけでなく、クライアントの感触やユーザーのリアルな傾向など、必ずオフラインの要素も含めて総合的に判断する

Webマーケティングは1日にして成らず!である。中長期的な視点を持ってプロジェクトをブラッシュアップし、成果の最大化につなげてほしい。

※Web Designing 2015年12月号掲載記事を転載

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