One’s View テーマ「ファシリテーション」 三瓶亮さん

 本記事は、2021年8月発売号の『Web Designing』に掲載された「One’s View」の再掲記事です。

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バンドのMCから学ぶ心得

 音楽や演劇など、人前で表現をするような活動をされている方は、往々にして司会やファシリテーションもうまい印象があります。


 かく言う私も、学生時代から今に至るまでバンド活動をしてきているのですが、勉強会やイベントなどでファシリテーションをする時に、その経験が活きていると感じることがあります。そもそも音楽をやっている故の声量であったり、人前に出ること自体に慣れているという点も大きいですが、20年近い活動のうちに改善していったテクニカルな面もあります。


 というのも、私は決して喋りがうまい方ではなく、むしろ精力的にバンド活動をし始めた頃は業界の偉い人「曲はいいのにMCがダメ、ライブではあまり喋らないほうがいいよ」とまで言われてしまうような人間でした。そうは言われても、ライブでお客さんとの意思疎通をはかりたいという気持ちが捨てきれず、結局、下手ながらもMCをどうにか良くしようと四苦八苦し、今では場を和ませられることもあるくらいには話せるようになりました。
 何が改善されたのか、特に体系立てて考えたこともなかったので、いくつか、「過去にやらかしていたこと」と「それに対して実践してきた改善策」を挙げてみたいと思います。


 若い頃、自分は落ち着いたナチュラルなキャラでいきたいと思っていたのか、ライブでも地声でボソボソ喋ってしまっていました。今聞くと単純に聞こえづらいですし、思っていた以上にネガティブな印象を与えます。キャラかどうかは関係なく、前に立つ人間は思っている以上に「声のトーンを上げる」必要があります。そうすると自分がこの場を仕切っているんだ、という覚悟と意識が自分と周囲に伝わり、場が締まります。


 また、場がもたないせいか、やたらとお客さんに話題を振る時期もありました。お客さんとの関係性もできておらず、盛り上がってもいないのに、お客さんの反応を待ってシーンとしてしまう、という気まずい状況です。たまにビジネスシーンでも見かけますが、場が温まっていなければ「むやみにオーディエンスに振らない」のが吉です。オーディエンスに場の行く末をゆだねるのは危険な賭けなので、そこには絶対に逃げない、という腹のくくり方が大事です。


 昔の自分はとにかく独りよがりな進行もしていました。その場にいるオーディエンスのことを一切考えず、自分の用意した台本にただただ従い、さながら機械のようなMCでした。若いし経験もないから仕方ない部分もあるのですが、「オーディエンスの顔や仕草をよく観察する」ことが大事です。伝わっていなければ立ち止まるなど、状況に対応した人間らしい対応というのがあれば、卓越したトークスキルがなくても、多少はオーディエンスとつながることができるはずです。ビジネスにおけるファシリテーションでも、場の些細な空気を感じ取り、フォローしたり舵切りをすることが大事です。


 これらの改善策はほんの一例ですが、こうした細かいトライアンドエラーを繰り返してきました。正直、正解なんてないと思いますし、いつまで経っても満足は得られません。ですので、ファシリテーションに対してアドバイスを求められると、決まって「場数を踏むしかない」とだけ言ってきました。今こうして細かい点をまとめてみても、結論は同じです。どれも場数を踏まないとよくならないので、苦手意識のある方は、一つでも多く実践の場を用意し、課題を一つずつつぶしていってみてはいかがでしょうか。

ステージで人前に立って、MCで場を仕切るという経験が、まさか仕事で役立つ日が来るなんて、あの頃はまったく考えていませんでした。MCが苦手だった僕も場数を踏み、いまとなってはオーディエンスともつながれるようになりました
Photo:Airi Okonogi

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