インターネットの歴史に紐解く Webディレクターの仕事と役割

Webサイト制作の分業化が進み始めた2000年頃から、制作現場を取りまとめる「要」となってきたWebディレクター。それから20年以上、インターネットを取り巻く環境の変化に応じて、Webディレクターの役割も変わり続けています。日本Web協会代表理事であり、自身もWebディレクターとして長いキャリアを持つ中村和正さんに、その歴史を振り返っていただきました。

教えてくれたのは…

中村 和正さん
株式会社グレイスノート 代表取締役/一般社団法人日本Web協会 代表理事。地方代理店で営業・制作・納品までWeb制作事業を一人で担う。大手制作会社へ転職しWebディレクターへ。フリーランスを経て2018年グレイスノートを設立。2023年より日本Web協会代表理事。
https://grace-note.co.jp/

一般社団法人日本Web協会 (JWA)は、Web制作に従事する組織・団体・個人を対象にした業界団体。会員を対象にしたセミナー、研修会等を実施。
目次

分業化する現場で必要とされた
「制作のわかるマネージャー」

Web業界の歴史は、短いながら幅は広く、人の経験は多種多様です。今回は主に私の見てきた範囲からのお話になることをご了承ください。

Webディレクターという職業は、おおよそ2000年頃には制作業界の中で一般化していたと思われます。ただ、ワークフローが確立していたわけではなく、分業化が進んだ現場のマネジメントとクリエイティブ監修の両方を求められ、個々が持てるスキルで属人的に対応する状況が多く見られました。

私は一人で制作してきた経験があったために、Webディレクターとしてクライアントの要望を前さばきしつつ、作業量を見極め、制作チームと連携してスケジュール調整などを行うことができました。その頃活躍していたWebディレクターにはこうした「一人制作」の経験者が多かったのではないでしょうか。

“ホームページ”がクラフト的な造形物と見られていた当時、サイト制作にはクリエイティブの強さが求められ、その要求はWebディレクターに向けられました。クリエイティブを志向してWebディレクターを目指す人も多く、「やりたいことのためにマネジメントも求められる」状況だったと言えます。こうした背景から、クリエイティブもマネジメントも取り仕切る“Webディレクター”のあり方が業界内で一般的になっていったと考えられます。

クリエイターからマネージャー、
そして「成果を生み出す人」へ

改めてWebディレクターの役割の変化を振り返ってみましょう。インターネット普及初期、“ホームページ”は趣味の一つとして受容されてきた側面があり、当初は「一人制作」が当たり前でした。技術的にできることも限られていました。

企業による制作依頼が増えると制作側も組織化され、前述したように分業化したチームの取りまとめ役としてWebディレクターが誕生します。インターネットの使い方を社会が見極めようとしていた2000年代前半、Webディレクターにはより創造的な提案が求められました。

2000年代後半には、見るだけでなくサービスとして利用されるWebサイトが増え、開発規模の拡大や技術分野の高度化も進みました。こうなると「一人制作」のノウハウは通用しません。Webディレクターの役割はデザイン、エンジニアリング、写真・動画やコピーライティングといった各分野の専門家をマネジメントすることが中心になりました。

その後、スマートフォンの普及と並行するように、Webサイトはマーケティングやビジネス成果を追求する場となりました。Webディレクターには、ビジネスを理解した上で制作者との橋渡し役となり、目的に沿ったデザインや機能を形にすることが求められました。制作者の持つ能力をいかに引き出せるかが、成果と結びつく環境になったのです。

近年、Webディレクターの活躍を個人名で聞くことが少なくなりました。チームプレーなくしては成果を出せなくなった現在、実績が制作会社名で知られるようになったのはある意味正しい形と言えるかもしれません。

社会的役割を増すWebサイトと
Webディレクターの現在

Webサイトの制作が大幅に遅れた時、昔は徹夜や合宿で何とか間に合わせることが少なからずありました。これは制作側のプロジェクトマネジメントが未熟だったことにも理由があったと思います。また、いざとなればパワープレイで何とかできる制作内容でもありました。

現在はキックオフからしっかりマネジメントし、確実なものを公開しなくては、クライアントの社会的信用に関わります。社会におけるWebサイトの影響力はかつての比ではありません。この点においてWebディレクターは以前よりも高いマネジメント能力が求められていると言えます。

Webサイトが社会・ビジネスのインフラとなったことで品質に対する責任は増していますが、自分たちがつくったものを人が使ったり、役に立ったりすることの面白さは以前と変わりません。むしろ、一人ではできない大きな仕事に関わる充実感は高まりました。

生成AIやノーコードツールの普及により、形を変えた「一人制作」が可能になった現在。個人で活動するフリーランスも増え、Web制作の裾野が広がっています。一方で、チームでなくてはできない大規模・複雑な案件がなくなるわけではありません。今後は個人単位で可能な制作と一定規模以上の制作とで棲み分けが進み、Webディレクターには一層「チームの力で成果を生む」スキルが必要とされるのではないでしょうか。

ディレクションのスキルを補強する Webプロジェクトマネージャー資格

Webディレクターの仕事は領域によって特色が異なるため、実践での学びが主体になります。しかし、プロジェクトマネジメントの側面に限れば体系的な知識として学ぶことが可能です。JWAの「Webプロジェクトマネージャー資格」は、Web制作業務にあわせた形でその基本を学び、認定を受けられる制度です。

Text:笠井美史乃
※本記事は、「Web Designing 2024年10月号」の記事を一部抜粋・再編集して掲載しています。

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