「カタカナ語」や砕けた表現はやめるべき? Web制作者も知っておきたいイマドキの文章作成テクニック

テキストコンテンツのプロであるワン・パブリッシング取締役社長の松井謙介さんは、「人が書く文章」の重要性はますます高まっていると考えています。それはWeb制作に携わるクリエイターにとっても同じとのこと。ならば、現場から届いた質問に直接答えてもらうことにします。松井さんとの「文章力」についての一問一答、じっくりと読んでみてください!(前後編の後編)
答えてくれた人

松井謙介 さん
株式会社ワン・パブリッシング取締役社長兼メディアビジネス本部長。長年にわたって文章編集・校正現場の最前線に立ち、雑誌『GetNavi』発行部数最大記録なども打ち立てた実績のあるプロ。雑誌、Webメディア、広告のコピーライティングなど、多岐にわたる制作を通じて読者の心に訴えるコンテンツを生み出してきた。2020年からは、『Web Designing』の連載「文章力を上げる鉄板ルール」を担当。2025年9月には『生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術』(マイナビ出版)を上梓。日々、コンテンツと格闘しながら生きている。
テーマ③|現場で役立つ文章テクニック

どうすればフックがあって、読み手がハッとする文章を書けますか?
(Webライター・24歳)
基本的には「アウトプット」を自分に課して生きる、ということが重要です。毎日SNSを書く、毎週noteを書く、こうしたルールがあれば、人は必ず「インプット」を意識します。「何か書くことないかな、ないならつくらないとな」という考えが、自分らしい視点につながります。正直苦行ではありますが(笑)、書かないで文章が上手くなることは絶対にありません。
読者をハッとさせるには、と少しテクニック的なことを言うと、「文章の緩急」を意識するのがおすすめです。
いい映画やいい演劇、漫才は必ずチェンジオブペースで盛り上がりをつくります。雑誌や書籍では難しいのですが、Webは行間のデザインやインタラクションの工夫で、「読み手のスピード感」をコントロールできるはず。インプットを磨き、スピード感を調整する……それができれば、少しずつ面白い文章が書けるようになるはずです。



どんどん登場する新しい「カタカナ語」。使わないほうがいいとの声も
あるようですが……。 (企画・29歳)
文章術の本のなかには、「なるべくカタカナ語は使わないように」といった書き方をしているものがありますよね。しかし私は、よほど複雑な言葉でない限り、どんどん使った方がよいと考えています。
なぜなら「新しいカタカナ語」が登場するのは、これまでの日本語ではうまく表現しきれない新しい事象が生まれているから。つまり必然性があるのです。
ただし、注意すべきは書き手と読み手、発信側と受け取り側のコンセンサスがあるかどうか、という点です。
例えばWeb Designingの読者であれば「シナジー」と書いても問題ないでしょうが、読者層が70代以上の媒体であれば「シナジー(共創による相乗効果)」といったような補足があったうがよいはずです。読み手が小学生だとするならば、シナジーとは書かずに「いっしょにがんばって結果を出すこと」と書くのがいいかもしれません。
その言葉にどの程度の共通理解があるか。その点について、常に意識することが大切です。



イマドキのやや砕けた日本語を、Webメディアで使うのはありでしょうか? (Webディレクター・29歳)
例えば少し前に流行った、「チャリンチャリンビジネス」とか、最近TikTok発で広がっている「かわちい」といった言葉は、従来の表現ではうまく説明できない状況や感覚を上手に表していますよね。この辺の新語がどんどん生まれる柔軟性は日本語のいいところ。私は積極的に使うべきだと考えます。
ただし、この言葉が、対象としている読み手の間で浸透しているか、さらには発信する媒体でにふさわしいか、といった点についてはよく検討する必要があるでしょう。
ちなみに、こうした表現は時代とともに古びていくということにも注意が必要です。例えば「太陽のように明るい女性」「ガラスのハート」などという昔からよく使われてきた表現がありますが、こうした言い回しはすでに手垢にまみれているばかりか、時代にそぐわない面もあるように感じられます。
「新しい」だけでなく「古い」表現に対しても、使用に適しているかどうか敏感になるべきでしょう。「俺の味噌汁を作ってくれ」なんて時代錯誤のプロポーズは、大失敗の気配しか感じられませんよね!



文章を執筆する際に、あらかじめ「考えておいたほうがいいこと」とは?
(オウンドメディア編集者・29歳)
文章術の本のなかには、「なるべくカタカナ語は使わないように」といった書き方をしているものがありますよね。しかし私は、よほど複雑な言葉でない限り、どんどん使った方がよいと考えています。
なぜなら「新しいカタカナ語」が登場するのは、これまでの日本語ではうまく表現しきれない新しい事象が生まれているから。つまり必然性があるのです。
ただし、注意すべきは書き手と読み手、発信側と受け取り側のコンセンサスがあるかどうか、という点です。
例えばWeb Designingの読者であれば「シナジー」と書いても問題ないでしょうが、読者層が70代以上の媒体であれば「シナジー(共創による相乗効果)」といったような補足があったうがよいはずです。読み手が小学生だとするならば、シナジーとは書かずに「いっしょにがんばって結果を出すこと」と書くのがいいかもしれません。
その言葉にどの程度の共通理解があるか。その点について、常に意識することが大切です。
テーマ②|相手の心を捉える文章を書くには?



クライアントやユーザーに信頼される文章って、どう書けばいいですか?
(Webディレクター・27歳)
文章における信頼感は、読み手との関係性や距離感を意識すること、つまり相手のことを考えるところから始まります。独りよがりな文章はNGで、「どう書いたら相手が理解しやすいか」という発想が必要です。
ここではその第一歩である「表記」の話をしておきたいと思います。いわゆる文章「術」の部分です。例えば「てにをは」や「敬語表現」がきちんとできているか、さらには「表記の統一」がなされているか。文章をきちんと整えようという書き手の姿勢は、読み手にちゃんと伝わります。
なお、ここで紹介した要素の中で、なじみの薄いのが表記の統一でしょうか。これは「ウェブ」と書くか「Web」とするか、「サーバー」と記すか「サーバ」とするか、文字の表記方法についてのルールをつくることを言います。
私はさまざまな企業と仕事をさせていただいていますが、統一表記を用意している企業は多くありません。その重要性を理解できている人がまだまだ少ないのです。「統一表記」はそれほど手間なく用意することが可能。これがあるだけで、信頼度の高い文章を書けるようになり、「誰でも余計なことに惑わされずに文章を書けるようになる」と言った副次的な効果も生まれます。



文章力が足りないことにデメリットがありますか? そんなに困らないのでは? (Webデザイナー・32歳)
文章の書き方が適切でなかったために、相手にマイナスのイメージを与えてしまうことって、我々が考えているより頻繁に起きているのではないかと思っています。
例えば、皆さんの周りに「会っているといい人なのに、メールではいつも怒っている(ように見える)人」、いませんでしょうか? また、「言いたいことを婉曲的に表現し、読み手に不快感を与えてしまう人」、いるのではないでしょうか? そうした人たちからメールを受け取った経験のある人ならば、「デメリットがない」とは言い切れないのではないかと思います。
ではなぜ彼らは、そんなメールを書いてしまうのでしょうか。もちろん、文章そのもののクオリティに問題があるケースもあるとは思いますが、彼らが読み手との関係性や距離感を掴み損ねていることに大きな理由があると思います。飲みに行く間柄の人に出すメールなのに、文章では妙に堅苦しい敬語を書いてしまう……そうしたズレが、人間関係にも悪影響を及ぼすリスクがあります。



体験に基づく文章の基礎である「ナラティブ」。それはどんな文章のことで、どんな使い道がありますか? (Webディレクター・30歳)
そもそも、ナラティブとは「語り」などと訳される言葉で、「ある出来事や経験を、特定の人物の体験や主観的な視点から語る」といった意味があります。
例えば新型掃除機のPR文を書く際に、「吸引力が2倍になりました」と事実だけ書くのではなく、「実際に1週間使ってみたところ、吸引力が2倍になったおかげで掃除の時間が半分になり、生活に余裕が生まれました」と、体験をベースに主観的な視点で書くわけです。するとそこには共感が生まれ、文章は俄然イキイキとしてきます。
しかし、ナラティブには弱点もあリます。テーマとした体験や主観的な視点に共感できない人が出てくるからです。そんなときは、「主婦の皆さんへのアンケートでのお悩み第1位は、プライベートの時間がとれないことだろう。この掃除機が解決してくれるはず」と、多くの人が関心を抱く「ソーシャル」な情報を結びつけましょう。こうすることでナラティブはより魅力を増し、読み手を惹きつける文章になります。
書籍情報
生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術


●定価(紙/電子):1,980円(税込)
●著者:松井謙介
●判型:B6変/208ページ
●ISBN:978-4-8399-90271
●発売日:2025年9月24日
生成AIの進化により、議事録やレポート、マニュアルといった事務的な文章は効率的に自動化できるようになりました。しかしビジネスの現場では、それだけでは不十分。企画書や提案書、人材募集文、オウンドメディアの記事など──人の感情を動かし、行動へとつなげる文章には、書き手自身の思考や意見、そして「相手にどう動いてほしいか」という意図が不可欠です。
最新のAIは流麗な文章を生み出し、表現力も増しています。しかし、「誰に向けて、何を伝えるのか」という視点は、人間にしか持ち得ません。読み手を意識し、関係性を踏まえて言葉を選ぶことこそが、成果を生む文章の鍵なのです。
本書では、生成AI時代にあっても欠かすことのできない「自分で書く力」を、実践的かつ最新のテクニックとともに解説。あなたの仕事に直結する「伝わる文章術」をお届けします。
取材・文:小泉森弥、イラスト:村林タカノブ
