《2026|Web制作の現在地 Vol.5》こぎそ(Lumilinks)が目指す「説明できるデザイン」とは?

変化のスピードが速まるなか、Web制作・開発の現場は、いまどこに立っているのでしょうか。2025年を振り返りながら、2026年をどう見据えるのか。現場で向き合う人たちの言葉を手がかりに、現在地を探っていきます。第5回は、プロダクトデザイナーのこぎそさんにお話を伺いました。
プロフィール

こぎそ
株式会社Lumilinks 代表取締役 / プロダクトデザイナー
受託制作や事業会社での経験を経て、2020年よりSmartHRでプロダクトデザイナーとして開発・デザインシステム設計を担当。その後生成AIベンチャーを経て、現在はスタートアップのデザイナーとしてプロダクト開発に従事。個人法人ではデザイン組織向けアドバイザリーや教育・AI活用支援、PRやコミュニティ事業を展開。
2025年、制作の前提はどう変わったのか?
2025年を振り返って最も大きかった変化は、AIの進化、なかでもAIエージェントの台頭でした。v0やClaude Codeといったツールによって、エンジニア自身がUIを素早くプロトタイピングできる環境が整い、「デザイナーに依頼して待つ」という従来のフローが崩れ始めました。
正直なところ、葛藤もありました。もともとデザインシステムを整備してきた立場として、「画面を作る」という行為がコモディティ化していくなかで、デザイナーの価値はどこにあるのか、と。
ただ年末に向けて見えてきたのは、AIが生成する「それっぽい画面」と、ユーザーの課題を深く理解したうえでの設計とのあいだには、明確な差があるということです。AIは既存パターンの再構成を得意としますが、「なぜこのUIなのか」という意思決定の文脈までは持てません。
その結果、デザイナーには、より上流の課題定義やユーザーリサーチ、そしてAIが生成したものを評価・編集する能力が、これまで以上に求められるようになったと感じています。
制作の現場で浮かび上がった課題感
2025年を通して強く課題感を覚えたのは、個人のスキルや資質が、これまで以上に問われるようになったことです。
これまでデザイナーやエンジニアの専門性は、「クラフトする力」に支えられてきました。美しいUIをつくれる、堅牢なコードを書ける、細部まで作り込める–––––そうした職人的なスキルが、市場価値の源泉だったと思います。
しかしAIの進化によって、この「作る力」の専門性は急速に溶け出しています。誰でも一定水準のアウトプットを出せる時代になり、クラフトだけでは差別化できなくなりました。
その結果、より浮き彫りになってきたのが「事業に対する姿勢」です。なぜこのプロダクトをつくるのか、誰のどんな課題を解決するのか、事業としてどう成長させるのか。こうした問いに対して、自分ごととして向き合えるかどうかが、強く問われるようになっています。
手を動かす前段階にある「考える力」と「事業への当事者意識」が、これまで以上に個人の価値を決める要素になった–––––そう感じています。クラフト偏重だった自分自身も、この変化に適応する必要性を強く感じた1年でした。
2025年を通して、あらためて重要に思ったこと
2025年にあらためて重要だと気づいたのは、「説明できること」の大切さでした。ここには、大きく二つの意味があります。
一つは、意思決定の根拠を言語化することです。なぜこの機能を優先するのか、なぜこのUIを選んだのか。直感的に「良い」と感じたとしても、それを論理的に説明できなければ、チームの納得感は得られませんし、後から振り返ることもできません。
もう一つは、自分自身の判断軸を説明できることです。忙しいときほど「なんとなく」で決めてしまいがちですが、その積み重ねは、プロダクトの一貫性を少しずつ損なっていきます。判断に迷ったときこそ、立ち戻れる原則を持っておくことの大切さを学びました。
2026年を迎えて、意識したい仕事のあり方
2026年に向けて、より意識して取り組みたいのは「仕組み化」です。個人の頑張りに依存した働き方から、再現可能なプロセスへと転換していきたいと考えています。
具体的には、プロダクト開発において、ユーザーフィードバックの収集から機能化までのパイプラインを整備することです。現状では優先度判断が属人的になりがちなため、定量・定性データを組み合わせた意思決定フレームワークを確立したいと考えています。
また、デザインとエンジニアリングの境界領域で働いてきた経験を活かし、AIツールを前提とした新しいワークフローの型づくりにも挑戦したいです。これまで培ってきたデザインシステムの知見が、AI時代にどのように変換されるのかを、実践の中で検証していきたいと考えています。
個人としては、アウトプットの継続性を高めることも大きなテーマです。2026年1月25日に開催予定のカンファレンス「KNOTS」のようなイベント運営や発信活動を、一過性の取り組みに終わらせず、持続可能な形で回せる仕組みをつくりたいと考えています。
いま制作に向き合う人たちへ
2026年を見据えて、いま現場にいる人へ伝えたいのは、「試行回数を増やそう」ということです。
AIツールの登場によって、アイデアを形にするコストは劇的に下がりました。かつては「作る前によく考えろ」が正義だった場面でも、いまは「まず作ってみて検証する」ほうが、早く答えに近づけるケースが増えています。完璧な設計書を書く時間があれば、プロトタイプを3つ作って比較したほうが、より良い判断ができることも少なくありません。
一方で、このスピードに振り回されないことも大切だと感じています。手を動かすことと、立ち止まって考えることのバランス。とくに「なぜ作るのか」「誰のために作るのか」という問いは、AIには代替できない人間の仕事です。
変化の激しい時代だからこそ、目の前の課題に誠実に向き合いながら、小さく試し、学び続ける。その姿勢こそが、結果的に一番遠くまで行ける方法なのではないかと思っています。
文:こぎそ(Lumilinks)
