パーマ大佐「森のくまさん」騒動で考える著作者人格権

パーマ大佐の「森のくまさん」騒動とは?

パーマ大佐(本名:國土 郁音〈こくど いくと〉)さんは、日本のお笑い芸人・YouTuber・音楽パフォーマーです。埼玉県北本市出身で、太田プロダクションに所属しています 。2016年に「森のくまさん」の替え歌でメジャーデビューしましたが、原曲の訳詞者馬場祥弘氏から、著作権侵害で提訴されました。最終的には和解が成立しています。
この記事では、パーマ大佐の「森のくまさん」が何故著作権情報上の問題となったのか、詳しく解説していきます。

目次

パーマ大佐の「森のくまさん」は著作権法違反?

「森のくまさん」の歌詞とその文化的背景

童謡「森のくまさん」は、子供から大人まで幅広い世代に親しまれている曲です。この曲はアメリカの民謡「The Other Day, I Met a Bear」を原曲としており、日本には日本語の訳詞が付けられて広まりました。「森のくまさん」の日本語訳詞を作った人物は 馬場祥弘(ばば よしひろ) 氏とされています。「森のくまさん」というタイトルだけでなく、歌詞の内容も可愛らしい動物たちの冒険を描いており、ユーモラスな物語となっています。

歌詞の中では、可愛いくまが女の子を追いかける場面が描かれていますが、元のアメリカ民謡では少し違った内容が歌われています。原曲の内容と日本語訳詞を比較することで、文化の違いや翻訳の際にどのように内容が変更されたかを知ることができます。

項目日本語版「森のくまさん」英語版「The Other Day, I Met a Bear」
出会い森でくまに出会う森でくまに出会う
展開「お嬢さん」が落とし物を拾ってくれたくまに感謝し、仲良くなる「私」が「くま」に追いかけられ、木に登って逃げる
結末「お嬢さん」と「くま」に友情が芽生えるような、ほのぼのした終わり方「私」が「くま」から逃げ切って助かったというスリリングな終わり方

日本語版は、子ども向けの教育番組などで使われることが多く、優しさ・友情・感謝をテーマにした内容。英語版は、キャンプソングや遊び歌として使われ、ユーモアと冒険が強調されています。

「森のくまさん」は、文化的背景を知る上でも理解を深める良い機会となります。この童謡がどのようにして日本で受け入れられ、人気を博したかを知ることで、文化の交流や融合の面白さにも触れることができます。

(Text:Web Designing Web編集部)

パーマ大佐とレコード会社は誰に訴えられた?

童謡「森のくまさん」をもとにした曲をお笑い芸人のパーマ大佐が発表したところ、「森のくまさん」を和訳した馬場祥弘氏が、パーマ大佐とレコード会社に対して著作権法を根拠に販売差止めと慰謝料などを請求する騒動が起きました。オリジナルの曲はアメリカ民謡ですから、どのように利用しても著作権法上の問題はありません。この騒動で問題になったのは馬場氏が和訳した歌詞との関係です。

この件はいわゆる替え歌とは異なり、パーマ版では馬場版の歌詞そのものに手を加えていません。ただ、歌詞の間に独自の歌詞を加えただけです。また、馬場版の歌詞の著作権はJASRACに譲渡されていて、パーマ版のCD販売などについては使用料を支払ってJASRACから使用許諾を受けていました。それなら、なぜ著作権法違反が問題となったのでしょうか。

パーマ大佐が訴えられた原因は?

実は、ここで問題となったのは著作権法上の“同一性保持権”という権利です。これは著作権ではなく、著作者人格権という権利のひとつです。著作者人格権は財産権ではなく、人格権で、同じく人格権とされている肖像権やプライバシー権といった権利と同様に、他人に譲渡することができません。ですから著作権がJASRACに譲渡されていても同一性保持権のような著作者人格権の権利者は著作者である馬場氏のままなのです。

著作権と著作者人格権の関係性

この同一性保持権は、作品の変更、切除などの改変を禁止する権利で、パーマ版は馬場版を改変しているので、同一性保持権の侵害になるというのが馬場氏の主張でした。しかし、パーマ版は新たな歌詞を挿入してはいますが、歌詞そのものに改変を加えたわけではありません。そのため、このような行為も同一性保持権の侵害になるのかは疑問だという声も多かったようです。

パーマ大佐の歌詞改編は何が問題だったのか?

しかし、パーマ版は別の歌詞を挿入することによって、馬場版の意味とはまったく違うものに改変されています。また、馬場版をまったく知らない人がパーマ版の歌詞を目にしたら、パーマ版で挿入された部分の区別はつきません。このような手法はやはり、歌詞の一部を改変してしまう替え歌と同様、馬場版に対する改変として同一性保持権の侵害ということになってしまうでしょう。なお、替え歌といってもオリジナルの歌詞の痕跡をとどめない程度の大幅な改編をした場合には、まったく別の作品であるとして同一性保持権の侵害とはなりませんが、その線引きは微妙で、どの程度改変すればセーフなのかは一概にはいえません。

執筆者プロフィール

桑野 雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2024年鶴巻町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など。

鶴巻町法律事務所 http://kuwanolaw.com/

※本記事はWeb Designing 2017年6月号(2017年4月18日発売)掲載記事を転載し、Web Designing Web編集部が再編集・再構成したものです。法律等にまつわる記載につきましては、本誌掲載時点の法令等に基づいています。

「知的財産権にまつわるエトセトラ」とは?

鶴巻町法律事務所の桑野 雄一郎さんによる、Web Designing本誌の人気連載です。
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