微妙なニュアンスを言語化! 伝達力UPのオノマトペ活用術

社内やクライアントに制作物のデザインについて説明するとき、微妙なニュアンスを言葉でうまく伝えられず、もどかしい思いをした経験のある方も多いのではないでしょうか。そんなお悩みを解決すべく、言語化の指導を多数行う山口拓朗氏に、伝達力を上げるオノマトペの活用術をお聞きしました。

目次

その「ヤバい」はどっち?
「伝わらない」問題の原因は

企業向けの研修や講演を行う中で、部下をもつベテラン層の方々から「自分の言うことを部下に理解してもらえない」「若い人たちの話すことがうまく理解できない」といった相談を受けることがこのごろ増えました。

世代間のコミュニケーションギャップというのはどの時代にもあるものですが、近ごろは世代間のスタイルの違いが顕著なこともあって、互いに「伝わらない」という状況が深刻化しているように感じます。

その背景には、スマートフォンが普及し、チャットによるやり取りが主流になったことがあります。短い言葉でメッセージを完結させるため、使う言葉がどんどん簡素化されてきているのです。

代表的なのは、「ヤバい」「エグい」という言葉です。これらは本当に便利な言葉で、美味しい食事に「ヤバい!」と感嘆することもあれば、逆にまずいという意味で「ヤバい」と言うこともあります。美味しいもまずいも、楽しいもつまらないも全部、「ヤバい」の一言で簡単に表現できるのです。

でも言葉を受け取る側としてはどうでしょう。前後の文脈や背景をきちんと読み取らないと「ヤバいって何だ?」となりますよね。便利すぎる言葉は、受け手側を混乱させることもあります。デザインで言えば、「かっこいい」と表現することがよくありますが、ポップでビビッドな感じをかっこいいと思う人がいれば、シックでモノトーン調がかっこいいと思う人もいるので、「かっこいい」だけでは受け手によって捉え方が異なりますよね。つまり自分の意図したことを相手にしっかり伝えるためには、抽象的な言葉ではなく、具体的な言葉で共有することが大事になるのです。

しかし、そもそも言葉の選択肢を持ち合わせていなければ、最適な形でイメージを表現することはできません。自分の言うことが相手に伝わらない、または相手の言うことが理解できないというコミュニケーションのズレは、こうした語彙力の低下から来ているものと言えます。

簡単で便利な言葉しか使わないということは、思考をしないということ。スマホから与えられた情報をただ便利に使ったり、無意識にショート動画を楽しんだりすることが習慣となれば、どうしても言葉を頭で考えることから遠ざかってしまいます。そうした習慣の変化から、言語化というものを苦手とする人が増えているのかもしれません。

言葉が苦手でも始めやすい
仕事でのオノマトペ活用

イメージを言語化するのが苦手な人にとって、企画プレゼンテーションをはじめ仕事上のやり取りでも取り入れやすいのが、オノマトペの活用です。

オノマトペとは、状態や動きを音で表現した言葉のことで、感情や光景など言葉にしにくいものをわかりやすく表現してくれる魅力的なツールの一つです。日本独自の文化でもあり、特にマンガは本当にたくさんのオノマトペが使われているので、親しみのある方も多いことでしょう。古いものでは、宮沢賢治もオノマトペの大名手で、『注文の多い料理店』や『風の又三郎』などでは、一文の中にオノマトペが何個も登場します。風の表現一つとっても「風がどうっと吹いて」「ごうごう風の吹く」などと、オノマトペを自由自在に使い分けることで、微妙なニュアンスを情感豊かに読者に伝えることに成功しています。

このように感覚的なイメージの伝達を補助してくれるオノマトペですが、その一番の効果は、臨場感が加わることでしょう。例えば、「パンを口に入れた」ではなく「パンをさっと口に放り込んだ」と言うと動きが生まれますし、ただ「肉汁が美味しかった」と言うよりも「口の中で肉汁がじゅわっとして美味しかった」と言った方が、食べ物のイメージが鮮明に浮かびますよね。オノマトペを一つ足すだけで、あたかも目の前で起きているかのように感じられたり、人の心情がよりリアルに伝わったりするのです。

「歩く」の表現だけでも、オノマトペを変えると全く印象が異なる。無数にある言葉の中から自分がイメージする感覚に近いオノマトペを考えたり、見聞きしたものから取り入れたりするのも、言語化の重要なプロセス

私も講演など人前で話すときには、オノマトペをよく使います。それは話に臨場感が増すと同時に、聞いている人の情緒を活性化する効果があるからです。個人的な見解ではありますが、物事を言葉で伝えるときには、話の中にロジック(論理)とエモーション(感情)の両方が備わっていることが大事だと考えています。

理屈や根拠など筋道がしっかり通ったロジカルな話は理解しやすいですが、それだけでは面白みに欠けるものです。その点、人の感情が動くようなオノマトペを入れると、物事に楽しさやストーリー性が加わって、自分も伝えやすく、相手も言葉を受け取りやすくなります。なので、私も話の合間に「実は私、ソワソワしていまして…」などと、直接的に伝わる言葉を自然に取り入れるように意識しています。そうした一工夫を取り入れるだけで、話の伝わり方は何倍もよくなります。

オノマトペ+αで
イメージの解像度を高める

オノマトペは感覚的に自由に使えるのも魅力の一つです。しかし、クリエイティブの過程など相手と同じイメージを共有しなければいけないときには、個性的すぎるオノマトペではなく全員が共通理解できるものを使うなど、注意が必要です。またオノマトペだけでは十分にイメージが伝わらないことが多いため、具体的な比喩や例え話、固有名詞、数字などを組み合わせてイメージの解像度を高めることをおすすめします。

例えば、「ツルツル」という表現の場合、「シルクのようにツルツル」と「プラスチックみたいにツルツル」では伝わる質感がだいぶ違うかと思います。緊張の気持ちを表す「ドキドキ」という言葉にしても、数字を組み合わせて「普段は100の心拍数が、今は200まで上がっている」といった表現にすると、緊張の度合いが「ドキドキ」なのか「ドキドキ×2倍」なのかすぐにわかりますよね。このような質感や程度、温度感など細かいニュアンスを具体的・直感的な言葉で補うことで、自分の意図したことがよりクリアに相手に伝わるはずです。

解像度の低い言葉とは、ピントの合っていない写真のようなもの。具体的な言葉をプラスすることで、被写体(イメージ)が鮮明な写真に変身する

相手との共通理解を高めるという点では、自分の言ったことが相手にちゃんと伝わっているかを確認するプロセスもとても大事です。「はい、わかりました」という相手の二つ返事に安心していたら、想像と全く違う成果物が出てきた、という経験はありませんか? そうした齟齬をなるべく減らすためにも、具体的な話に落とし込んで、「私のイメージはこうですが、××さんはどのようなイメージを持っていますか?」といった形で、相手から言葉を引き出して、イメージをすり合わせるのが効果的です。

制作の現場では、ビジュアルの例を見せながら言葉で確認することも有効でしょう。また相手によっては自分から質問するのが苦手な人や遠慮する人もいます。その場合は「今話した内容にわかりづらい点があるかもしれないので、気軽に質問してくださいね」と質問を促すなどして、相手に言語化させるワンクッションを取り入れてみましょう。

人とのコミュニケーションで、自分の言ったことが100%伝わるということは残念ながらほとんどありません。だからこそ、そのことを前提にして、できるかぎり「伝わる」確度を上げていくために、伝え方を磨くのはもちろん、確認を取るプロセスが大切になるわけです。

言語化の上達は
アウトプットの習慣から

ここまでオノマトペの効果や活用方法について触れてきましたが、この便利なツールを上手に活用していくためにも、やはりベースとなる語彙力を高めていくことが必要です。語彙力には、読んだり聞いたりして意味がわかる「理解語彙」と、自分で書く・話すときに実際に使うことができる「使用語彙」の2種類があります。この使用語彙の総量、つまり言葉の選択肢を増やしていかないことには、いざイメージを言葉で伝えようと思っても、オノマトペでさえなかなか出てこないものです。

語彙は、書物を読んだり、映画やドラマを見たりすることでも得られますが、効率よくインプットを行うには、自分にとって身近な分野の専門誌などから意識的に読むのがよいでしょう。ファッション関係の人なら、ファッション誌で使われている言葉を意識的に読むことで、「かわいい」を表す表現が無数にあることに気づくと思います。

またオノマトペの力を磨くなら、カジュアルで軽やかな文体のエッセイがおすすめです。中でも椎名誠さんはオノマトペの達人で、私も学生時代に夢中になったほどです。文字ではなく、耳からオノマトペを取り入れたいという方は、お笑い芸人のエピソードトークも参考になります。

語彙力を高めるためには、語彙のインプットとアウトプットのサイクルを意識的に回し、「使用語彙」を増やしていくことが重要

ただここで重要なのは、言葉をインプットしたら、すぐにアウトプットするということ。なぜならアウトプットを繰り返すことで、初めて「理解語彙」が「使用語彙」に変換されるからです。気になるオノマトペを見つけたら、一週間に3回話の中で使ってみたり、SNSでつぶやいたり、意識的に使ってみることで言葉が自分のものとなります。

さらに「この場面で使えるオノマトペは何だろう」とか「これを例えるよい比喩表現はないかな」などと、意識的に言葉を考えることが語彙力の向上につながるので、ぜひ意識的に活用していただきたいです。

オノマトペは、いい意味での軽やかさやカジュアルさを持っているので、コミュニケーションを円滑にするという点でも便利なアイテムです。普段、何気なくオノマトペを使っている方も、少し意識して使ってみることで、表現の自由さや面白さに気づいてもらえると思います。そうして表現の幅が広がることで、きっと苦手意識を持っている言語化も楽しいものに変わっていくでしょう。

教えてくれたのは…

山口 拓朗さん
出版社で編集者・記者を務めたのち独立。27年間で3,700件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆や講演、研修を通じて「論理的に伝わる文章の書き方」「売れる文章&コピーの作り方」「ファンを増やす! 文章術」など実践的なノウハウを提供。著書は『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)など30冊以上にのぼる。

Text:掛谷泉(Playce)
※本記事は、「Web Designing 2024年6月号」の記事を一部抜粋・再編集して掲載しています。

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