
Webディレクターの仕事から徹底解剖! “良い”言語化のための思考のデザインとは?(2)

タグラインやSNS運用、そしてステークホルダー間でのコミュニケーション。ブランディングにおける言葉の役割が大きくなる中、その起点となるWebデザインにおいても「言語化」が必要な場面は増えています。現場のディレクターがどのように「言語化」しているのか、頭の中を言語化してみました(前後編の後編)。
Webサイト制作における言語の設計
企業・ブランドの性格を決める「トーン・オブ・ボイス」
人を印象づける要素として、「話し方」の影響は大きいですよね。Webコンテンツについても同様で、テキストの文体や語彙は、企業やブランドのパーソナリティを表すものとして重要度を増しています。最近では、「トーン・オブ・ボイス」や「ボイス・アンド・トーン」という名称で、文章に関するガイドラインを定めるブランドも増えてきました。
文章のトーンを構成する要素はさまざまありますが、大きくは2つに分類できます。
まず1つは、企業やブランドの「内面」から立ち現れてくる要素であり、口調や好んで使う語彙等、パーソナリティを直接形成する部分です。
代表的なものとしては、漢字とひらがなの配分があります。例えば、「やわらかい」と「柔らかい」では受ける印象が異なりますし、「柔軟性のある」と書くとさらに堅い印象になりますよね。基本的には、漢字を多くするとビジネス感/堅実さが出て、ひらがなを多くすると、やさしい/親しみやすい印象になります。地域性のあるコンテンツで、方言を意図的に混ぜることも、「らしさ」を表現する工夫の一つですね。
もう1つの要素は、ターゲットにあわせて調整する部分です。主には語彙レベルの設定です。例えば、ローティーン向けのコンテンツの場合は、一般的に使える語彙よりも意識的にレベルを下げ、平易な言葉に限定する必要があるでしょう。逆に、BtoBサイトの場合、あまりに平易すぎると信頼性を損なう場合もあります。この場合は、業界内のコミュニケーションを観察し、専門用語を自然に取り入れると良いでしょう。
実体験として、文体や語彙に書き手の「癖」は思う以上に出ます。そのため、ブランドパーソナリティを維持する上で、トーン・オブ・ボイスの設定は非常に重要だと感じます。これまで文章のディレクションは見過ごされがちでしたが、言葉や文体もまたデザインの一部として方針を示す必要があることを、ディレクターはしっかり意識しましょう。

安易な“エモ”に要注意 言葉の「余白」設計
視覚的デザインにおいて、「余白」が印象において重要な役割を果たすように、言葉のデザインにも「余白」の考え方は必要です。文章における「余白」とは、「受け手の解釈に任せる部分」と言い換えることができます。
例えば、ファミリー向けマンションのPRサイトで、住環境の良さを訴求するコピーを考えてみます。「公園や自然が多く、子育てしやすい町です」と、具体的に情報を説明する場合、これは解釈を要しない「余白の狭い」設計と言えます。一方、「道端に咲く花のなまえを、子どもといっしょに覚える町」と、具体的情報は入れずに、イマジネーションをかき立てるような表現に留めると、「余白の広い」設計になります。
言葉の「余白」の広さをどう設計するかは、情報の受け手に与えたい影響によって変わります。例えば、ECサイトの商品紹介では、その商品がどういうものであるか、購入するとどのようなベネフィットがあるかを、受け手にしっかり伝える必要があります。情報の伝達を目的とする場合は、曖昧性のない明瞭な説明が適しており、すなわち「余白」を狭くするほうが向いています。
一方、観光情報サイトのように、受け手の想像力やワクワク感等、内的な体験や感情の喚起を重視したい場合は、「余白」を広くとるほうがよいでしょう。情緒をくすぐる言葉を使ったり、説明的な言い回しを避けるほか、テキストそのものを減らし、写真や動画に任せる等、言語情報と非言語情報のバランスを含めて設計するのがポイントです。
「余白」設計で注意したいのは、「余白」を広げる場合です。やはり情緒的なコピーは、“エモ”くてかっこよく見えます。しかし、“シナジー”のようなビックワード同様、情緒的なワードは「ブラックボックス」化しやすいものです。そのため、骨抜きの表現にしないためには、伝えたいメッセージを、一度「余白」のない状態にまで落とし込むことが必要です。そして、真意を把握した上で、「余白」をつくっていく手順が大切です。

言葉に関する力を養う方法
眠れる語彙を活性化させる日常習慣
「言語化」力に関する悩みでよく挙がるのが、「語彙の乏しさ」です。といっても、この記事をここまで読んでくれたということは、語彙自体はあり、意味はわかるという状態だと思います。つまり正確には、眠っている語彙を「活性化」させることが大事で、そのためにはどんどん使っていくことが必要です。
語彙の活性化に必要なポイントは2つあり、まず1つは、汎用性の高すぎる言葉、いわば「雑な」言葉で済まさない癖をつけることです。「すごい」や「かなり」、あるいは「やばい」もそうですね。
例えば、「すごい風」と言いたい時、もう少し具体的な情報を入れてみましょう。風の勢いを言いたいなら、「強い風」のほうが正しく伝わりますし、「暴風」と言うと、より激しさが伝わりますね。また、「風が暴れている」と擬人化風に言ってみると、臨場感が増しそうです。
このように、もう一歩だけ詳しく言ってみようとすると、言葉は意外と思い浮かぶものです。その上で、単語、形容詞、オノマトペ等でカテゴライズして整頓していくと、発想・連想力が高まります。
もう一つは、言葉の「機微」やニュアンスに敏感になることです。例えば、コーポレートサイトの制作には「経営理念」の英訳はつきものですが、どの英単語をあてるかは企業によって異なります。最近は「Purpose(目的)」という言葉が流行っていますが、「Philosophy(哲学)」が妥当なケースもあれば、「Vision(展望)」が近いこともあります。あるいは、「Promise(約束事)」や「Credo(信条)」がふさわしいこともあるでしょう。
このように、言葉の持つ意味や用法を杓子定規に捉えず、言葉のニュアンスを把握し、文脈の流れにあわせてより適切な単語を選ぶ意識づけを行うと、言葉に対する感度が上がるでしょう。
加えて、共通して重要なのは、言葉を普段から使い慣れることです。辞書で聞きかじっただけの言葉を自分の中で咀嚼せずに使うと、上滑り感があったり、鼻につく印象になってしまいます。言葉を「血肉」にする意識が大事です。

協働することで生まれる「言語化」と「読解」のシナジー
デザイナーにも「言語化」力が必要か。一般論としてディレクターの立場から言うなら、担当デザイナーが「言語化」を苦手としていても、そこはディレクター等、「言語化」に長けているメンバーがサポートすれば足りると思っています。
むしろ、デザイナーが「言語化」することに捉われすぎて、「言語化」できないことを理由に、本当にやりたい表現を諦めてしまうようなことがあれば、それは本末転倒と言えます。
思うに、「言語化」は、言葉に付与する意味を定義し、固定化する、いわば「収束」のベクトルを持つ行為と言えます。一方、クリエイティブ制作は、言葉から、言葉以外のものも含めてイマジネーションを広げる、「発散・発展」のベクトルを持つ行為と考えられます。
この2つのベクトルのうち、デザイナーをはじめとするクリエイターに期待され、かつ、クリエイターにしかできないのが、後者の「発散・発展」のベクトルでの思考です。制作の現場になぞらえて言えば、クライアントやディレクターが言葉の形で投げてくるものを、分解し、咀嚼し、非言語的なものも含めてイマジネーションで意味を拡張するスキル、いわば「読解」力が求められていると言えます。
確かに最近は、趣意書やブランドガイドラインの作成等、クリエイティブの意図を「言語化」する必要がある場面が増えています。しかし、これは必ずしもデザイナーが一人で抱え込むべきものではなく、むしろ、ディレクターとの協働で得られるものも大きいと思います。
表現から読み取れることをディレクターが「言語化」することで、デザイナーの中で漠然としていた意図が明確になり、新しいイマジネーションにつながることもあるでしょう。逆にデザイナーが提案してくれる非言語的なアイデアから、暗中模索状態のコンセプトに天啓が降ってくることもあります。協働して「言語化」と「読解」を行き来することで、コンセプトが洗練され、より強固になっていく。ああ、これが、“チームのシナジー”なのかもしれませんね。

教えてくれたのは…

原 明日香さん
アルテバレーノ株式会社
ディレクター
https://artebaleno.co.jp/
Text:原明日香
※本記事は、「Web Designing 2024年6月号」の記事を一部抜粋・再編集して掲載しています。