相手に伝えるための「言語化」力を磨こう! 「言語化」に強くなる習慣と組織のつくり方(1)

WebデザインやUXデザインの領域において、「言語化」は必須スキルになりつつあります。そこでnoteで話題となった記事「『言語化』を言語化する」の著者、Algomaticの野田克樹さんに、デザインにおける「言語化」の役割と、「言語化」の実践的なプロセス、そして「言語化」に強い組織づくりまで、お話を伺いました(前後編の前編)。

目次

「言語化」の重要性が増している背景

ここ数年「言語化」の重要性が増していることを、仕事をする中で実感しています。その一つの要因としては、やはりコロナ禍の影響が挙げられるでしょう。

3年ほど前に、僕がnoteで「『言語化」』を言語化する」という記事(https://note.com/ktknd/n/nf6f4e35e0f84)を書いた背景には、コロナ禍によるリモート化が進んだことがありました。当時は、チャット等のテキストベースのやりとりが増え、逆に、相づちや表情、場の空気といった非言語的コミュニケーションに頼っていた部分が失われたことで、明確に言葉にして伝える「言語化」の重要性がクローズアップされた部分があったと思います。

しかし、出社する就業スタイルが戻ってきた現在も、依然として「言語化」の重要性は変わっていません。そこであらためて「言語化」が求められる背景を考えてみると、実はコロナ禍以前から、「言語化」を求めるビジネスあるいは社会の変化があったように感じます。

近年、VUCA(不確実性が高く予測困難な状況)の時代と言われて久しくなり、ビジネスのあり方も様変わりしています。ひと昔前であれば、経営陣が事業の仕組みをつくり、それをトップダウンで推進することで、中長期的に安定した経営を実現することは可能でした。しかし、先の「見通し」が困難になった現在、その複雑性に、組織一丸となってオープンイノベーション的に立ち向かっていく気運が高まっていると感じます。

ここで必要になるのが、人の共感を呼ぶ、いわば「エモーショナル」な経営思想です。そして、思想という概念的なものに求心性を持たせる際、最初に行われる試みが、言葉による伝達、すなわち「言語化」であり、それゆえ「言語化」のニーズが高まっているのでしょう。

加えて、AIの台頭によって、人にしか行えない知的労働の価値は高まっています。そのため、デザインやコンサルティングという、抽象度の高い領域で仕事をしていく上では、概念を具体的な言葉に落とし込む「言語化」スキルは、大きな強みになっていくと思われます。

UXデザインにおける「言語化」の役割と“あるべき姿”

ここであらためて、UXデザインという僕の仕事における「言語化」の意義や役割を紐解いていくと、「言語化」は、ステークホルダー間での「合意形成」と不可分のものだと気づかされます。

僕自身の「言語化」の原体験を振り返ってみます。デザインやマーケティングの世界は、抽象度の高い言葉、いわゆる「ビッグワード」が飛び交いやすいところがあって、同じ言葉を使っていても、その具体的な定義は人によって異なることがよくあります。「デザイン」や「UX」という言葉自体も、多様な解釈をはらむ言葉ですよね。

こうした個々の解釈が入り込みやすい言葉について、表面的な合致に慢心して物事を進めてしまい、あとあと認識の齟齬がトラブルに発展することがよくありました。そこで、仕事を進める上では、まず、自分が用いる言葉に対して、自分が与えている意味を明確に示し、相手と言葉の定義を擦りあわせていくところから始める必要があり、それが僕の「言語化」の原点になっています。

UXデザインも、その延長線上にあるもので、一方には、ビジネスオーナーの事業コンセプトや理念等を持ち、他方には、ユーザーのインサイトや行動特性等を持ち、どちらも非常に概念的なものを扱いながら、両者を結びつけていく仕事と言えます。このときに行うのが、「言語化」です。

すなわち、それぞれの概念やそれらの関係性といった、曖昧で抽象的なものを、自分たちの言葉で定義し、それを通して共通認識をつくることで、合意形成を図っていると捉えることができます。そしてここで、場の合意とともに得られた「言語化」されたものが、より多くのステークホルダーを巻き込んでいく、先述した「求心力」へとつながっていきます。

そう考えると、「言語化」という行為には、必ず相手が存在すると言えます。すなわち、自分の頭の中をなにかしらの言葉で成型して終わり、ではなく、相手に伝わるところまで考える必要がある点が、「言語化」の理解には重要です。

ビッグワードが常態化すると、認識がバラバラなまま大事故につながる可能性も…。意味するところを定義し、認識を擦り合わせるのに、「言語化」力が求められます

いきなり上手く言おうとするのは失敗のもと! まずは頭の整理から

「言語化」の具体的なプロセスを考える前に、「言語化」が上手くいかない原因を考えてみましょう。

言語化が不得意な人がやりがちな失敗は、いきなりアウトプットを始めようとすることです。頭の中が整理されていない状態で書き/話し出そうとすると、自分自身、何が言いたいのか明瞭でないので、迷走して頓挫するわけです。それに付き合う読み手/聞き手も同様に、混乱して終わりになってしまいます。

そのため、「どのように」書くかの前に、自分の中で「何を」書くのかを熟考し、伝える筋道を立てる、いわば「内在的言語化」を行う必要があるのです。

「内在的言語化」といっても、特に難しいことはなく、自分の頭の中を順を追って整理していけばOKです。僕はおおむね、次の手順で実践しています。

まず❶何を伝えたいのか、テーマ(主題)を決めます。次に、❷テーマと関連する構成要素を書き出してみます。構成要素とは、例えば、キーワードやエピソードといったものです。思いつくままに書き出していくと、だんだんと構成要素同士の関係性や、話の軸や道筋のようなものが見えてきます。そこで、この軸に従って、❸構成要素の「構造化」を行います。「構造化」とは、構成要素を組み立て、話の道筋を整理していく工程です。

実際に、「入社エントリ」の執筆を例に考えてみましょう。まず、記事で最も伝えたいテーマを決めます。ここでは「入社して実現したいこと」としましょう(❶)。そうすると、そう思うに至った理由や経緯は何かといった情報が欲しいですよね。そこで、前職を退職した理由や、転職活動時の印象的なエピソード、あるいは幼少期の原体験といった構成要素が浮かんできます(❷)。これらの要素を書き出していくと、自分の感情を読者に追体験してもらうのが良さそうだと、話の軸が見えてきます。そこでここでは、構成要素を時系列をベースに「構造化」するのが良いと決まります(❸)。あとはそれぞれの構成要素を、自分の心情を交えて記していけば記事の完成です。

「内在的言語化」は、伝えたい主題を相手に届けるために、必要な情報を整理・加工する下ごしらえと言えます。「内在的言語化」を大事にすることで、最終的なアウトプットも、スムーズかつ洗練されたものになるでしょう。

優れた「言語化」には、まず自分の頭の中を整理することが大切。順を追って、情報を「構造化」していきましょう

教えてくれたのは…

野田 克樹さん
(株)Algomatic
執行役員 横断CXO
https://algomatic.jp/

Text:原明日香
※本記事は、「Web Designing 2024年6月号」の記事を一部抜粋・再編集して掲載しています。

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