デザインシステムの真骨頂は「化学反応」にあり? 有識者たちが語る運用と意義「デザインシステムがあると、同じテーブルについて議論ができるようになる」

近年、一つのトレンドワードとなっている「デザインシステム」。その構築と運用のリアルな話から、デザインシステムの普及で変わるデザインの未来について、「Spectrum Tokyo」主宰の三瓶亮さんをモデレーターに、デザインシステムの最前線で活躍する、Figma Japan株式会社の谷拓樹さんと合同会社DMM.comの河西紀明さんをゲストにお迎えした特別鼎談をお届けします(前後編の前編)。

「Spectrum Tokyo」とは?
「Spectrum Tokyo」は、デザインの多様性をテーマに、デジタルなものづくりにおけるデザインの捉え方を拡張し、複雑化する課題をクリエイティブに解決する人を増やすことを目的としたコミュニティ。ウェブマガジンを母体に、リアルイベントなども積極的に開催中。https://spctrm.design/jp/ 

目次

「デザインシステム警察」って
やっぱり存在するんですか?

Spectrum Tokyoプロデューサーの三瓶亮さん。「Spectrum Tokyo」主宰。さまざまなコンテンツ発信・イベントを通して、デザインの多様性と楽しさを領域横断的に考え、デザインに関心のある人々の輪を広げる活動に精力的に取り組む

三瓶 亮(以下、三瓶)  運用フェーズになると、やはり「デザインシステム警察」みたいな問題は発生しますか?

河西 紀明(以下、河西)  発生しますし、その必要もあると思います。しかし、ここで重要なのは、「警察になってはいけない」ではなくて、フィードバックサイクルの中心にデザインシステムを根づかせることだと考えています。

組織全体で、「より良い議論の基盤としてデザインシステムを運用しよう」という志向性ができるところまで持っていってようやく、運用の第一歩という感じはしますね。

谷 拓樹(以下、谷)  デザインシステムを本質的に活かすという意味では、運用するための組織や体制づくりは一番重要です。ある程度の秩序を保つためには自治的な機能も必要ですし、一方で、制約によってなにかしらのクリエイティビティや活用性が失われてしまうと、本末転倒な部分もある。その「あそび」の部分を含めたガバナンスの設計は、一段と難しいけれど、不可欠な部分です。

三瓶  少し話は変わりますが、僕がデザインシステムに関わる中で面白いと感じるのは、デザインシステムと使う人の化学反応みたいなところなんですよね。デザインシステムを通すことで、誰がどんなに無茶なアウトプットをしても、きちんとブランドは保たれる。

ときには、デザイナーではない人から、目を見張るようなアウトプットが生み出されることもある。それがデザインシステムの真骨頂なのだとすれば、デザインシステムとは「枠を規定する」ものではなくて、最低限の土台でブランドの統一性を担保しつつ、使い手の「自由を支える」プロダクトと言えるのではないかな、と。

河西  デザインシステムを「プロダクト」と捉えると、「ユーザー」は、それを使うプロジェクト関係者になる。であれば、通常のプロダクト開発と同じように、ユーザーから愛されるデザインシステムになっているかの評価は当然必要ですよね。そして最終的に、組織の皆が進んで利用するプロダクトとなっている状態にすることが、デザインシステムの運用・定着と言えるでしょう。

合同会社DMM.com VPoE室 エクスペリエンスデザイナーの河西紀明さん。DMM.com内のデザインシステムの構築支援や社内導入の推進を行う。社内の60以上の事業を横断する立ち位置で、デザイナーを支援し、サービスと組織を成長させる役割を担う。

一人でも多くの人に
デザインする喜びを届ける

谷  例えば、エンジニアでも、営業部門でも、カスタマー部門でも、デザイナーでない人たちが、デザイナーと同じように一貫したアウトプットが生み出せる。そういうプロダクトをつくっていると思うと、しみじみと夢がありますね。

Figma Japan株式会社 デザイナーアドボケートの谷拓樹さん。国内有名企業の大規模デザインシステム構築プロジェクトに多数参画。現在はFigmaのベストプラクティスの指南やコンテンツ作成のほか、他企業のデザインシステム構築支援・アドバイスも行う。

三瓶  海外のDesign Systems Internationalという会社は、ブランドごとにデザイン生成ツールを開発して、納品先で誰でもそのブランドのデザインをつくれるようにしているんですね。彼らが実際に開発に使う「Mechanic」は、OSSとして公開されていて、これがつくるのも使うのもとても楽しい。彼らのつくるデザインシステムに触れると、デザイナーでない人にも、ポジティブな体験を与えられることは、デザインという行為を多くの人に広げることにつながると感じます。

谷  僕の関わったプロジェクトでも、デザインシステムをつくる中で、エンジニアの方からもデザインに対する意見や本音が出てくるようになったことがあります。それまで、デザイナーでないからと遠慮して言えなかったことも、その中心にデザインシステムがあると、同じテーブルについて議論ができるようになる。そういうものとして、デザインシステムがポジティブに受け入れられたことは、とても感慨深かったです。

三瓶  一人でも多くの人が、デザインに関わり、デザインを生み出せるようにするのが、デザインシステムの本来あるべき姿と言えますね。

河西  逆に、デザインシステムが機能し、誰でもデザインができるようになると、従来のデザイナーの仕事が奪われる…と不安視する声も聞かれます。でも実際には、多くのデザイナーが、余剰になったリソースを一番関心のあることに注ぎ込めるようになり、クリエイティブを極めたり、新しい領域を開拓したりしています。こうしたキャリアの再構築が行われることは、個人にも組織にもポジティブな影響を与えるもので、恐れずに変化に飛び込んでほしいと思っています。

三瓶  デザインシステムの普及でデザインそのものがどう変わっていくのか。もっとワクワクする方向性で広まるとよいですよね。

Mechanic」は、Design Systems Internationalが開発する「デザインシステムを生成する」システム

(前編はこちら)

Text:原明日香(アルテバレーノ) Photo:山田秀隆

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