生成AIを使った文章では伝わらない? Web制作者にも「文章力」が求められる理由

いまやAIは、いい感じの文章を凄まじいスピードで、大量に生成してくれるようになりました。しかし、こんな時代だからこそ「人が書く文章の価値が高まっている」と話すのが、長年にわたって文章編集・校正現場の最前線に立ち、雑誌、Web、広告コピーライティングと、多岐にわたる制作に携わってきたテキストコンテンツのプロ、松井謙介さん。Web制作者にも文章力が必要だと話す松井さんに、さまざまな疑問をぶつけてみました。いま、文章力って本当に必要なの?
話してくれた人

松井謙介 さん
株式会社ワン・パブリッシング取締役社長兼メディアビジネス本部長。長年にわたって文章編集・校正現場の最前線に立ち、雑誌『GetNavi』発行部数最大記録なども打ち立てた実績のあるプロ。雑誌、Webメディア、広告のコピーライティングなど、多岐にわたる制作を通じて読者の心に訴えるコンテンツを生み出してきた。2020年からは、『Web Designing』の連載「文章力を上げる鉄板ルール」を担当。2025年9月には『生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術』(マイナビ出版)を上梓。日々、コンテンツと格闘しながら生きている。
メディアの多様性が文章の価値を高める
こんにちは、松井です。私がこのWeb Designingという、Web制作者向けの雑誌で「文章力」をテーマにした連載記事「文章力を上げる鉄板ルール」を執筆させていだくようになって、もう5年が経とうとしています。
一見場違いなようにも見えるこの連載を長く続けさせていただけていているのは、読者であるWeb制作者の皆さんが「文章」について関心を抱いている、いや、抱かざるを得ない背景が広がっているから、と考えています。
その背景としてまず第一に考えられるのが、「プラットフォーム・メディアの多様化」です。
公式Webサイトやオウンドメディア、さらにはXやFacebook、noteなど「書く」ことを求められる場は増える一方です。しかも、それらのメディアには、それぞれタイプの異なる読者がついていますから、同じ内容を書くにしても、文体や表記などを各プラットフォームに対応させた文章をそれぞれ用意しなければなりません。
このように、異常なまでの多メディア化は文章の重要性を大きく高めています。その最前線にいるWeb制作者の皆さんが、いま「文章力」を気にするというのは必然と言えるでしょう。
働き方の変化が文章の価値を高めた
連載「文章力を上げる鉄板ルール」が始まったのは2020年。コロナ禍による「非接触」が叫ばれていた時代でした。
その際にテレワークやオンラインミーティングなど、「新しい働き方」が急速に一般化しました。そこで重要性を高めたのが、メールやチャットを使った「テキストコミュニケーション」です。その変化の大きさは、「2019年には1日あたり38件だったメールの受信数が、非接触が進んだ2022年には66通に増えた」というデータ(一般社団法人日本ビジネスメール協会の調査による)からも明らかですね。
いまは非接触の習慣こそなくなりましたが、前述の新しい働き方は定着しました。自分の言いたいことを文章にして伝えることの重要性は、変わらずに高いままだと考えることができるでしょう。
プロジェクトの進行状況を正確に伝えるためにはどう文章を組み立てればいいのか。相手の信頼を勝ち得るためにはどんな文章が必要なのか。仲間内のコミニュケーションを円滑にする際の文章はどんな形を取るべきなのか。
日々の仕事の質を高め、効率を上げるためにも文章力は役に立つのです。
生成AIは、実は人の文章を際立たせる
文章力について考えるうえで、2025年のもっとも重要なテーマといえば、言わずもがな「生成AI」でしょう。
生成AIで一定の品質の文章を素早く、大量に生成できるようになったいま、「もう文章力など必要ない」と考える人が増えているのも当然のことだと言えるでしょう。しかし現在のAIが生成した文章にはまだまだ課題があるということは頭に入れておく必要があります。
課題のひとつは「生成AIは誤った文章を生成する可能性ががある」という点です。ChatGPTにもGeminiにも、「生成される回答は必ずしも正しいとは限らない」といった旨の注意書きが記載されていますし、実際にAIで生成した文章をそのまま公開したことで、大きなトラブルになった事例も発生しています。
さらに、内容が均質で個性のない文章になりがちだったり、そもそもAIでは生成できないタイプの文章があったりすることも忘れてはいけません。こうした問題が存在する限り、人間が書く文章に対するニーズが失われることはありませんし、それを生み出す「文章力」の価値がなくなることはないと思います。
書籍情報
生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術

●定価(紙/電子):1,980円(税込)
●著者:松井謙介
●判型:B6変/208ページ
●ISBN:978-4-8399-90271
●発売日:2025年9月24日
生成AIの進化により、議事録やレポート、マニュアルといった事務的な文章は効率的に自動化できるようになりました。しかしビジネスの現場では、それだけでは不十分。企画書や提案書、人材募集文、オウンドメディアの記事など──人の感情を動かし、行動へとつなげる文章には、書き手自身の思考や意見、そして「相手にどう動いてほしいか」という意図が不可欠です。
最新のAIは流麗な文章を生み出し、表現力も増しています。しかし、「誰に向けて、何を伝えるのか」という視点は、人間にしか持ち得ません。読み手を意識し、関係性を踏まえて言葉を選ぶことこそが、成果を生む文章の鍵なのです。
本書では、生成AI時代にあっても欠かすことのできない「自分で書く力」を、実践的かつ最新のテクニックとともに解説。あなたの仕事に直結する「伝わる文章術」をお届けします。
取材・文:小泉森弥、イラスト:村林タカノブ
※本記事は「Web Designing 2025年12月号」に掲載された内容を一部再編集して公開しています。
