《Q&Aでスッキリわかる!》Web制作者に「文章力」が求められる理由とは?──生成AI時代の“文章の価値”を考える

テキストコンテンツのプロであるワン・パブリッシング取締役社長の松井謙介さんは、「人が書く文章」の重要性はますます高まっていると考えています。それはWeb制作に携わるクリエイターにとっても同じとのこと。ならば、現場から届いた質問に直接答えてもらうことにします。松井さんとの「文章力」についての一問一答、じっくりと読んでみてください!(前後編の前編)

答えてくれた人

松井謙介 さん

株式会社ワン・パブリッシング取締役社長兼メディアビジネス本部長。長年にわたって文章編集・校正現場の最前線に立ち、雑誌『GetNavi』発行部数最大記録なども打ち立てた実績のあるプロ。雑誌、Webメディア、広告のコピーライティングなど、多岐にわたる制作を通じて読者の心に訴えるコンテンツを生み出してきた。2020年からは、『Web Designing』の連載「文章力を上げる鉄板ルール」を担当。2025年9月には『生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術』(マイナビ出版)を上梓。日々、コンテンツと格闘しながら生きている。

目次

テーマ①|もう文章力は必要なくなるのか?

AIが使えるようになってからというもの、自分で文章を書くのがバカバカしいと考えるようになりました。これから文章を学ぶ意味がありますか?
(Webディレクター・33歳)

「生成AIの時代に、文章を学ぶ価値はあるか」という問いは、いまの時代たいへん注目度の高いテーマです。ここでもう少し考えてみたいと思います。

日々の仕事で、私たちは実に多くの文章を書いているはず。メールやチャット、企画書に報告書など、その内容も多岐に渡ります。

例えば1日の中でも、クライアントや上司にプロジェクトの現況をまとめた報告書を提出したかと思えば、Slackでチームの仲間と打ち合わせを行い、それが終わったら一度は一緒に仕事をしたいと思っていた外部のデザイナーさんにアプローチするメールを書く、といった具合です。これらの文章はそれぞれ性格が異なるため、文章の中身、例えば言葉遣いや表記の仕方はそれぞれまるで違うものになるでしょう。

では、皆さんはこれらすべてのケースで、AIが生成した文章を使いますか? もしかしたら、クライアントに仕事の状況を報告するメールでは利用するかもしれませんが、仲間に送るくだけた文章や、相手の感情に訴えかける文章では、おそらく多くの人が「自分の言葉を使いたい」と思うのではないでしょうか。

私は、生成AIは「事務的な文書ではどんどん使うべき」というタイプ。でも、文章を通じて自分の感情を伝えたり、相手に行動を促したりする場合は、自分の言葉を文章にすべきでしょう。それは決してバカバカしいことではなく、自分らしさを表現する大切な作業だと思います。

AIが生成した⽂章と⼈間が書いた⽂章は、どこが違うんですか?
(Webデザイナー・27歳)

AIはすでに人間が及ばないほどの大量の情報を収集し、それらをもとに文章を生成しています。そうしたAIの背景を鑑みて「もうできないことはないのではないか」、そんな印象を抱く人もいるかもしれません。ただし、その性格を考えてみると、AIには不得手であり、生成しづらい文章があるということもわかってきます。

そのひとつが、書き手と読み手との間の相互の関係性のうえに成り立つ文章です。信頼の度合いや関係性の深さによって、どのような表現を使うのが適切かを、(相手のことを知らない)AIが正しく判断するのは難しいことだと思います。

また、取材を経て得た知識や、フィジカルな体験から生まれる文章についてもAIには生成できないでしょう。極端な例ではありますが、新聞記者が行うという「夜討ち朝駆け(※)」などはその好例です。

加えて、「面白い」文章もまだ苦手。皆さんが書いた文章を「面白くして」と頼むと、途端にうすら寒い文章が生成されませんか? それは、「面白い」のツボが、人によって違うから。AIが考える「面白い」は、「あなたにとって面白い」ではなく「最大公約数として面白い(かも)」という表現なので、正直全然面白くありません(笑)。AIは、やはり読者が見えていない。その課題はいつか解決されると思いますが、現時点では人間に及ばないポイントです。

※取材対象者の自宅などに夜遅くや早朝に予告なく訪問し、強引に取材を試みる行為のこと

テーマ②|相手の心を捉える文章を書くには?

クライアントやユーザーに信頼される文章って、どう書けばいいですか?
(Webディレクター・27歳)

文章における信頼感は、読み手との関係性や距離感を意識すること、つまり相手のことを考えるところから始まります。独りよがりな文章はNGで、「どう書いたら相手が理解しやすいか」という発想が必要です。

ここではその第一歩である「表記」の話をしておきたいと思います。いわゆる文章「術」の部分です。例えば「てにをは」や「敬語表現」がきちんとできているか、さらには「表記の統一」がなされているか。文章をきちんと整えようという書き手の姿勢は、読み手にちゃんと伝わります。

なお、ここで紹介した要素の中で、なじみの薄いのが表記の統一でしょうか。これは「ウェブ」と書くか「Web」とするか、「サーバー」と記すか「サーバ」とするか、文字の表記方法についてのルールをつくることを言います。

私はさまざまな企業と仕事をさせていただいていますが、統一表記を用意している企業は多くありません。その重要性を理解できている人がまだまだ少ないのです。「統一表記」はそれほど手間なく用意することが可能。これがあるだけで、信頼度の高い文章を書けるようになり、「誰でも余計なことに惑わされずに文章を書けるようになる」と言った副次的な効果も生まれます。

文章力が足りないことにデメリットがありますか? そんなに困らないのでは? (Webデザイナー・32歳)

文章の書き方が適切でなかったために、相手にマイナスのイメージを与えてしまうことって、我々が考えているより頻繁に起きているのではないかと思っています。

例えば、皆さんの周りに「会っているといい人なのに、メールではいつも怒っている(ように見える)人」、いませんでしょうか? また、「言いたいことを婉曲的に表現し、読み手に不快感を与えてしまう人」、いるのではないでしょうか? そうした人たちからメールを受け取った経験のある人ならば、「デメリットがない」とは言い切れないのではないかと思います。

ではなぜ彼らは、そんなメールを書いてしまうのでしょうか。もちろん、文章そのもののクオリティに問題があるケースもあるとは思いますが、彼らが読み手との関係性や距離感を掴み損ねていることに大きな理由があると思います。飲みに行く間柄の人に出すメールなのに、文章では妙に堅苦しい敬語を書いてしまう……そうしたズレが、人間関係にも悪影響を及ぼすリスクがあります。

体験に基づく文章の基礎である「ナラティブ」。それはどんな文章のことで、どんな使い道がありますか?  (Webディレクター・30歳)

そもそも、ナラティブとは「語り」などと訳される言葉で、「ある出来事や経験を、特定の人物の体験や主観的な視点から語る」といった意味があります。

例えば新型掃除機のPR文を書く際に、「吸引力が2倍になりました」と事実だけ書くのではなく、「実際に1週間使ってみたところ、吸引力が2倍になったおかげで掃除の時間が半分になり、生活に余裕が生まれました」と、体験をベースに主観的な視点で書くわけです。するとそこには共感が生まれ、文章は俄然イキイキとしてきます。

しかし、ナラティブには弱点もあリます。テーマとした体験や主観的な視点に共感できない人が出てくるからです。そんなときは、「主婦の皆さんへのアンケートでのお悩み第1位は、プライベートの時間がとれないことだろう。この掃除機が解決してくれるはず」と、多くの人が関心を抱く「ソーシャル」な情報を結びつけましょう。こうすることでナラティブはより魅力を増し、読み手を惹きつける文章になります。

<後編に続く>

書籍情報

生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術

●定価(紙/電子):1,980円(税込)
●著者:松井謙介
●判型:B6変/208ページ
●ISBN:978-4-8399-90271
●発売日:2025年9月24日

生成AIの進化により、議事録やレポート、マニュアルといった事務的な文章は効率的に自動化できるようになりました。しかしビジネスの現場では、それだけでは不十分。企画書や提案書、人材募集文、オウンドメディアの記事など──人の感情を動かし、行動へとつなげる文章には、書き手自身の思考や意見、そして「相手にどう動いてほしいか」という意図が不可欠です。

最新のAIは流麗な文章を生み出し、表現力も増しています。しかし、「誰に向けて、何を伝えるのか」という視点は、人間にしか持ち得ません。読み手を意識し、関係性を踏まえて言葉を選ぶことこそが、成果を生む文章の鍵なのです。

本書では、生成AI時代にあっても欠かすことのできない「自分で書く力」を、実践的かつ最新のテクニックとともに解説。あなたの仕事に直結する「伝わる文章術」をお届けします。

取材・文:小泉森弥、イラスト:村林タカノブ

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