Whatever・川村真司に聞く「デザインとストーリー」の関係性「共感できるものをつくるには、できるだけシンプルにしたほうがいい」

Whatever Co.の川村真司さんが、長編コマ撮り映画を手がけると耳にしたのは2023年のこと。その後、なにやら映画化に向けて動きが加速しているとか。それならば、このタイミングでデザインとストーリーの関係について聞いてみたい! ポッドキャスト番組と連動した連載「デザインの手前」特別編集版として、編集者の原田優輝さん、山田泰巨さんとお話いただきました。(『Web Designing 2025年4月号』より抜粋)

目次

価値やメッセージを言語化・視覚化する手法

原田優輝(以下、原田) 今回のゲストは、Whatever Co.のチーフクリエイティブオフィサーで、クリエイティブディレクターの川村真司さんです。

川村真司(以下、川村) よろしくお願いします。

原田 僕が川村さんと初めてお会いしたのは、まだ海外から戻られて間もないころでした。Webカメラで撮影した素材を緻密に組み合わせてつくられたSOUR『日々の音色』のMVなどで多くの人から注目を集めていた時期だったと思います。

山田泰巨(以下、山田) まさにコロナ禍を経た現在を予見する作品でしたよね。そのころに僕が所属していた媒体でも、原田さんと一緒に取材をさせていただきました。

原田 今日は10数年ぶりにまた2人でお話を伺えればと思います(笑)。

川村 同窓会的なノリになりすぎないように気をつけないとですね(笑)。

Whatever Co.チーフクリエイティブオフィサーの川村真司さん。世界各国のクリエイティブエージェンシーでクリエイティブディレクターを歴任した後、2011年東京でPARTYを設立。PARTY New YorkおよびPARTY Taipeiの代表を務めた後、2018年にクリエイティブスタジオWhatever Co.をスタート。数々のグローバルブランドのキャンペーン企画を始め、プロダクトデザイン、テレビ番組開発、ミュージックビデオの演出など、その活動は多岐に渡る。

原田 今回は、川村さんのクリエイションの軸にある「アイデア」の話と、『Web Designing』の特集テーマである「デザインとストーリー」の話を前後編に分けてお聞きできればと思っています。

Webをはじめデジタル領域のデザインでは、UXデザインやデザイン思考などの文脈でストーリーが重視されることが多いですが、今日はストーリーという言葉をより広く捉え、コミュニケーション全般の話をお聞きしたいと思っています。

山田 川村さんのお仕事は、デザインのジャンルで見ると幅広いですが、「ストーリー」というテーマで切ると一貫性が見えてくると感じています。

川村 そうかもしれないですね。本質的にやりたいことは、新しいアイデアやストーリーによって世の中の見え方が少し新しくなるような提案なんです。大きくても小さくてもそれが実現できるなら何でもやりたいというのがあって、それが会社の名前(=Whatever)にもなっています。

原田 ストーリーには受け手の共感性を高めたり、理解や記憶を促したりする力があり、それがコミュニケーションデザインにおいても活用されてきました。また、ペルソナやストーリーボードなどユーザー理解を深めることや、スペキュラティブデザインやSFプロトタイピングなど未来を構想するデザインの手法としてもストーリーが活用されています。まずは、川村さんのクリエイションにおけるストーリーの位置づけから聞かせて下さい。

川村 僕もかなり前から、「ストーリーテリングとテクノロジーを組み合わせる」ということを標榜していたのですが、あまりその意味を理解されていなかったんじゃないかな(笑)。ブランディングやマーケティング領域で「ストーリー」や「ストーリーテリング」という言葉が流行った時期もありますが、これはCMなどを通じて価値をいかに物語化して伝えるのかという話ですよね。

要は、可視化されていない価値やメッセージを言語化・視覚化することです。例えば、商品やサービスをどの視点からどう語ると共感してもらえるのかという観点から、トーンオブボイスやヴィジュアルを含めたストーリーを考えていくことが、ここでいうところのストーリービルディングの作業だと思っています。

「THE物語」にチャレンジした『HIDARI』 の制作秘話

原田  川村さんはMVやCMなどの映像を手掛けることが多いですが、長編映画公開を目指しているストップモーション時代劇『HIDARI』は、これまで以上にストーリーが重要になり、新しいチャンレンジだと言えそうですね。

株式会社カンバセーションズ代表の原田優輝さん。編集者/ライターとして活動する傍ら、「問い」をカタチにするインタビューメディア「Qonversations」や、地域と地域をつなぐインターローカル·プロジェクト「◯◯と鎌倉」などを主宰している。

川村 おっしゃる通りですね。先に話したブランディングやマーケティングにおける「ストーリー」と、小説や映画の脚本などの「ストーリー」は少し違うもので、『HIDARI』は後者の「THE物語」で勝負しようとしている作品です。

きっかけは、以前から協働していたコマ撮りスタジオの老舗「スタジオ・ ドワーフ」から、オリジナルIPの映画をつくりたいというご相談を受けたことでした。映像作家としてはやはり「いつか映画をつくりたい」という夢があったので、ぜひやりましょう! と二つ返事でプロジェクトがスタートしました。

山田 その時点では、ドワーフさんからどんな役割を求められていたのですか?

川村  「こいつならちょっと違った面白いアイデアを考えてくれて、それをなんとか一緒に実現する道を見つけてくれるんじゃないか」くらいに思われていたのだと思います(笑)。コマ撮りでつくるならどんな物語がいいかと考えていく中で、コマ撮りのよさは実物を動かして撮ることで生まれる“得も言えぬ質感”にあると気づきました。そこから素材にこだわったコマ撮りをつくりたいと考え、鉄や火、水などさまざまな素材の可能性を探り始めました。

そんなとき、以前に落語で「左甚五郎」という伝説の彫刻職人の話を聴いたのを思い出したんです。甚五郎の彫る動物はあまりにリアルで、まるで命を吹き込まれたかのように歩き回るんですが、その逸話がなんとも「コマ撮り」っぽい話だなと思ったんです。それなら「甚五郎が彫ったような木彫りの人形で、甚五郎自身の物語を描いたコマ撮りアニメ」ができたら面白いんじゃないか、というアイデアが生まれました。

山田 先日、徳川家康がソースになっている『SHOGUN 将軍』がゴールデングローブ賞を受賞しましたが、日本の歴史の中にも世界的な話題になりそうなストーリーがいろいろとありそうですね。

編集者の山田泰巨さん。『商店建築』『Pen』編集部を経て、2017年よりフリーランス。建築、デザイン、アートなどを中心に、『Pen』『Casa BRUTUS』『ELLE DÉCOR JAPON』『Harper’s BAZAAR』などで編集·執筆。展覧会の企画や図録制作などにも携わる。

川村 プロジェクトが始まった当初に『SHOGUN』はまだ出ていませんでしたが、日本発で世界に共感してもらえるような物語の舞台として、「時代劇」はわかりやすいだろうという考えはありました。過去にも日本の侍モノがアメリカでヒットした例はあるし、日本のコンテンツが評価されている近年の流れもあったので、王道的なテーマをコマ撮りというニッチな手法で表現したら面白いのではないかと。

さらに、黒澤明の時代劇のように人を斬りつけたときの血しぶきをおがくずで表現するなど、木の質感を最大限に活かした演出を入れつつ、アニメのようなダイナミックなアクションをコマ撮りで魅せるといった要素を組み合わせていくことで、これまで見たことがないコンテンツがつくれるんじゃないかと考えました。ドワーフのプロデューサーとも「これは面白い」と盛り上がったのですが、企画書だけではこの作品のよさはわからないし、お金を集められないということでパイロットフィルムをつくろうとなりました。それがYouTubeで現在公開されているパイロットフィルムです。

原田 およそ90分におよぶ長編の脚本も川村さんが手掛けたそうですね。

川村 自分自身、これほど長いストーリーを書いたことはなかったので学びや気づきだらけでしたね。僕の経験上、1〜2分の映像はアイデアだけでもいけるんですよ。でも、3~5分以上の尺になると、音楽など何か他のドライバがないと飽きられてしまう。さらに5分以上になると、キャラクターがいて、感情のドライブがあるストーリーが必要で、尺が長くなればなるほど、物語の強度や登場人物の数、世界観のつくり込みなどにより精度が求められてくる。

90分にも及ぶ物語についてきてもらうには、やはり感情を揺さぶらないといけないことを改めて感じましたし、ワールドビルディングの過程や、キャラが徐々に独り歩きしていく状況も面白く、こうしたプロセスを経て“強いIP”というものが生まれるんだろうなぁと想像できました。

原田 普段の仕事におけるストーリーテリングの手法は、今回の物語づくりに役立ちましたか?

川村 結構役に立ったと思います。日本発のインディーズコマ撮り時代劇というニッチな作品を、ハリウッドで資金を集めて全世界で公開される映画にするという結構無茶な夢を描いているわけですが、それを実現するためには、社会情勢やコンテンツの方向性などを俯瞰的に考えていく必要があります。

その点、どうすれば業界的に話題になるか、投資してみたいと思ってもらえるかということをロジカルに考えていったところがあって、それが先ほど話した作品の設定や質感の表現にもつながっています。先日開催した「渋谷パイロットフィムフェスティバル」にしても、パイロットフィルムへの関心や熱量を育み、『HIDARI』のような作品を応援してくれる仲間を増やしたいという思いがありました。普段コミュニケーションデザインをしているからこそ、純粋に映画監督が脚本を書くという部分とは異なる俯瞰的な視点で取り組むことができ、それがプロジェクト全体の役に立ったと思います。

関心を持続させるストーリーの構造

原田 プレスリリースでも「歴史の二次創作」という言葉を使われているように、史実なのかフィクションなのか定かではない「左甚五郎」を軸にストーリーを展開することで、受け手側が能動的に物語に関われる余地が生まれていると感じました。

川村 新しすぎるテクノロジーが理解されにくいのと同じで、「まったく新しい世界を愛してもらえるのか?」ということは課題だと捉えていました。本当にいたのかいなかったのかわからない左甚五郎は、現代におけるバンクシーのようなミステリアスな存在で、すでに興味を持ってくれている人々がいるということが題材を選ぶうえでもひとつの決め手になりました。

原田 『HIDARI』では、さまざまなメイキングコンテンツをYouTubeやnoteなどを通じて発信していますが、卓越したクラフトはそれ自体が作品の魅力を伝えるストーリーになると感じます。

川村さんが原案/脚本/監督を務める、江戸時代に実在したと言われる天才彫刻師「左甚五郎」にまつわる史実と逸話を繋ぎ合わせたストップモーション時代劇。木彫りの人形を用いて日本らしさを表現すると同時に、ダイナミックなアクション表現を実現した意欲的な作品として、現在はパイロット版が公開されている。

川村 僕は、常に伝えたいアイデアやストーリーに対して最適な方法や形を模索していて、今回は木彫り職人の物語を木による手法や質感で伝えることで相乗効果が生まれるのではないかと考えていました。他にないものをつくるには、他にないつくり方を取り入れることが一番の近道なのですが、そうしたプロセスにはそれ自体が物語となれる強さがある気がします。

山田 その手法で90分の映画をつくるというのは本当に大変だと思うのですが、やっぱりそこに引き込まれる。物語の共感をつくるということが、ここでも実現されていますよね。

原田 ストーリーは言葉に紐づいているイメージが強いですが、川村さんの一連の作品においては、言語に縛られないストーリーテリングがポイントになっているように感じます。

川村 さまざまな人が共感できるものをつくるためには、できるだけシンプルにしたほうがいいんですよね。要素を削ぎ落としていく過程で言葉が削られていくところがあります。自分にとっては、いかにアイデアの面白さを損なうことなく多くの人に伝えていくのかというのが勝負所で、ストーリー構築においてもそこが肝になっています。だから、MVやCMもなるべくノンバーバルなもので、ヴィジュアルのアイデアや“語らずに語る”ストーリー構築の妙でメッセージを伝えたいと考えています。

原田 起承転結などストーリーの構造について意識しているところはありますか?

川村 MVやCMは決められた尺をいかに最後まで飽きずに見てもらえるかが大切です。そのためには、これだというアイデアや設定をまずは誰にでもわかってもらえるような初級編的なアプローチで示します。そこから徐々に理解の難易度を上げていき、2つ3つの大きな山をつくるといった流れを構築するようにしていますね。

原田  川村さんのクリエイションの核となる「アイデア」を、受け手に効果的に届けていくために「ストーリー」の構造を考えているのですね。

川村 落語などもオチでしっかりメッセージが伝わるように逆算して展開を考えているところがあると思うんです。それと同じように、伝えたいアイデアやメッセージは、どうすればストンと受け手に落ちるのかということを考えているところがありますね。

山田  そうした語りの構造が、いわゆるナラティブとしてのストーリーと並行して進んでいくところがあるような気がします。

川村 思い返すと『HIDARI』に関しても、いま話したような起伏を意識しながら、物語や人間関係などを語っていくという手順を踏んでいると思います。

山田 ロジカルにストーリーの構造を考えていく部分と、感覚的に語っていく部分が並行しているからこそ、川村さんらしさが出ているのかなと。

原田 ここまで話してきたように、ひと口にストーリーと言っても、「THE物語」的なストーリーから、興味を持続させるための語りの構造までさまざまですよね。こうした多様なストーリーが何層にも重ねあわされているものほど、いいコンテンツ、いいコミュニケーションになるのだと思いました。

川村 やはり語れることがどれだけあるか、ということなのかなと思いますね。

原田 近年は、フェイクニュースや陰謀論など、ストーリーの力が悪用されるケースも少なくありません。これはデザインにも言えることですが、その力は悪い方向にも使えてしまうからこそ、倫理が問われてくるところもありますよね。

山田 特に広告などにおいてミスリードを促してはいけないし、言葉やストーリーに頼りすぎるのは危うさにもつながります。

川村 武器にも毒薬にもなり得るものですよね。その最たるものが宗教で、人類史上もっとも成功しているストーリーだと言えますが、使い方を誤ると戦争にもなってしまう。ストーリーから想像を働かせられることが人間の特徴だと思うので、それをよい方向に活用していくことを考えていきたいですよね。

文:原田優輝、写真:山田秀隆
※本記事は『Web Designing 2025年4月号』の内容を一部再編集して公開しています。

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