【対談】なぜUXデザインはうまくいかなかったのか──プロダクトファースト時代の再定義

UXデザインの有用性が語られるようになって、すでに20年が経とうとしていますが、Web制作の現場からは今も、「UXの活用は難しい」という声が聞こえてきます。ではUXデザインは、どう活用すればいいのでしょうか。ここでは、UXの理想と現実の境界線に立つ2人のデザイナーに、その課題と解決策を語りあってもらいました。(『Web Designing 2025年10月号』より抜粋)

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プロフィール

金 成奎
プロダクトデザイナー/UIデザイナー/Webデザイナー

早稲田大学第一文学部卒業後、Webデザイナー/UIデザイナーとして事業会社、広告代理店、制作会社などで経歴を重ねる。行政・保険・交通・教育などの分野でコーポレートサイト、サービスサイト、業務アプリケーションなど、デジタルプロダクトのUIデザイン・ビジュアルデザイン・アートディレクションを数多く手がける。

佐々木 祐真
株式会社アイスリーデザイン執行役員 デザイン部 部長

武蔵野美術大学卒業後、2014年にアイスリーデザインに新卒入社し、現在は執行役員、デザイン部部長。業務アプリケーションやネイティブアプリなど多岐に渡ってデザインを長年担当し、現在はデザイン組織のマネジメント及び、クライアントワークでのデザインディレクションに従事。『現場の「あるある」から学んだ 今すぐ使える「UIデザイン」41の法則』(翔泳社刊・アイスリーデザイン・P093参照)共著。

現場におけるUXデザインの過去と現在

─まずは簡単な紹介をさせていただきます。まず、金成奎さん。金さんには、今号の特集の他の記事でもご協力をいただいています。

金成奎(以下、金) UI/UXデザイナーの金です。行政サービスなどで情報設計やUIデザイン、UXデザインに従事しています。

─もうお1人は、i3DESIGNの佐々木祐真さんです。今回、金さんからの要望をいただき、佐々木さんにお声掛けをさせていただきました。

 今回の対談では、UXデザインの活用が進んでいる、業務システムやアプリケーションの開発に携わる方と話をしたいと考えまして、そうした領域に強いi3DESIGNさんに相談をさせていただきました。私も、かつて制作会社で、アプリ開発や業務システムの構築などを担当していたのですが、最新の動向がうかがえると思い、楽しみにしています。

佐々木祐真(以下、佐々木) i3DESIGNの佐々木です。ご紹介いただきました通り、弊社はWebサイトやアプリだけでなく、業務システムやアプリケーションを手掛ける点に強みのある会社です。私はそこでデザイナーを……といっても、最近は主にマネジメントの仕事をしています。よろしくお願いします。

 さっそくおうかがいしたいのですが、佐々木さんは普段の業務で、どんなふうにUXデザインの視点を採り入れているのでしょう?

佐々木 いきなり難しい質問ですね……。というのも、いろいろと感じるところがありまして。せっかくですので、経緯も含めて、お話させていただいてもよろしいでしょうか?

 はい、ぜひお願いします。

佐々木 私が最初にUXデザインに取り組んだのは10年ほど前のことです。デザイン業務の見直しを進める中で、試行錯誤を繰り返しながら、例えば、お客様が用意されたアプリの企画や構想に対して、こちらでリサーチやテストを行い、改善案を提案するような取り組みをしていました。ただ、そこでの反応は、決して芳しいものではありませんでした。

 具体的にはどんな反応だったのでしょうか?

佐々木 たいていは、「テストやインタビューの意義はわかる」けれど、「そんなことよりも、こちらが持ってきたものをそのままつくってほしい」といった感じでしょうか。

 受託制作の場合、お客様がやりたいことが良くも悪くも明確な場合が多いですよね。それに当時の感覚だと、「UXデザインのようなよくわからないものが出てきた」ことが困惑を産んだのでしょう。

佐々木 もちろん、自分たちのスキル不足にも原因があったと思っています。それこそ、学びながら実践していた部分もありましたので。それでも頑張って模索はしていたのですが……、当時はUXデザインという言葉が先行し、社内でも解釈がバラバラで、言葉が独り歩きしていた印象があります。自分も少し疲れていたのかもしれません。

 その感覚、とてもよくわかります。私も「UX→UI」という、いわゆる教科書的なプロセスでUXデザインを実践しようとして、結果を出せない、共感を得られないといった経験をしました。そのときの感覚はまさに、佐々木さんのおっしゃる「疲れた」だったと思います。

その後、順序を逆にして、「UI設計の精度を高めるためにUXデザインにアプローチすればいい」と考えるようになって、上手にUXデザインと付きあえるようになりました。

UXデザインとプロダクトファースト

佐々木 最初の質問、UXの視点をどう採り入れているかという話に戻りますと、最近は、リサーチやユーザーテストといったUXデザインのスキルを、工程の中で自然に使うようになってきた、という感じです。

 何かきっかけがあったのですか?

佐々木 おそらく、お客様の間で「プロダクトファースト(※1)」の考え方が浸透してきたことが背景にあると思っています。

 よいプロダクトをつくることが、事業のもっとも重要な軸だと考える人が増えてきた、と。

佐々木 ええ。例えばユーザーテストを提案した場合でも、「早いタイミングでユーザーに当てて(テストをして)、確実性を上げるやり方は効率面はもちろん、投資効果も高い」と前向きな回答が返ってくることが増えたんです。

 なるほど。プロダクトファーストというとAppleやGoogleのような革新的な企業や、スタートアップなどが先んじているイメージがありますが、業務システムの構築・アプリ制作の現場でも浸透しはじめているんですね。だからといって、「さあ、これからみんなでUXデザインをやるぞ」という感じではないですよね。

佐々木 そうはならないですね。UXデザインがそのまま受け入れらているのではなくて、視点のひとつとして、あるいはスキルとして部分的に入り込んできている、という感じでしょうか。

 私も、大きく振りかぶってUXデザインに取り組む、というよりは、必要な時に、その状況にあったUXデザインのスキルやフレームワークを“まぶしていく”というのがいい考え方だと思っています。

例えば「ユーザーから使いにくいという苦情があるけれど、原因が今ひとつはっきりしない」といったときに、「ワークショップ(UXワーク)をやって、課題を洗い出す」といった形です。

ウォーターフォールからアジャイルへの変化

佐々木 今の話を聞いていてふと思い出したのですが、プロダクトファーストに加えてもうひとつ、「ウォーターフォールからアジャイルへ(※2)」という、開発工程の変化も、UXデザインが浸透しはじめた理由のひとつに挙げられると思います。

例えば以前のUXデザインは、「制作の初期で徹底的に調査をする」といったように、まさにウォーターフォールのスタイルで実践するものとされていましたが、今は開発のやり方がアジャイル的になり、開発とテストを繰り返しつつ、制作を進めていくようになりました。そうした環境だと、UXデザインのスキルは浸透しやすい。

 ウォーターフォールの場合、初期に立てた計画を、その通りに実行することが重視されますよね。UXデザインをそのやり方で実践した場合、初期調査の誤りや失敗に気がついたとしても、後戻りしづらいといった問題が生じそうです。

佐々木 UXデザインのスキルも万能ではないので、うまくいかないこともあります。アジャイル型の開発の場合、「失敗を成長につなげる」といった考え方があるので、UXデザインとの相性もいいのではないかと感じます。

 ところで最近、「UXデザイナー」という肩書きを以前ほど聞かなくなった印象があります。

佐々木 最近は「UXデザイナー」という肩書きが、「リサーチャー」や「サービスデザイナー」など役割ごとに分かれ、以前のような曖昧さは減ってきたように感じます。

 そうした肩書きの変化も、UXデザインが「スキル」として受け入れられている現状を示しているのかもしれません。

佐々木 ただ、UXデザインを突き詰めている組織、例えばGoodpatchさんのように、リサーチを通じて「そのプロダクトが本来解決すべき課題は何か」を見極めるアプローチをされている会社では、UXデザイナーが活躍されているということは言っておきたいと思います。

 私も、アカデミックな領域のUXデザインについてはリスペクトしていますし、もっと勉強をしないといけないとは思っています。ただ、現場のデザイナーとしては、「何をアウトプットできるのか」、そして「そこでどれだけユーザーのことを考えられるのか」といったところを大事にしながらUXデザインと向きあいたいなと思います。

(※1)プロダクトファースト……よいプロダクト(製品・サービス)をつくることを事業のもっとも重要な軸、あるいは出発点とする考え方のこと。そこに顧客価値の創出やUXの追求といった要素を含むことが多いといえます

(※2)ウォーターフォールとアジャイル……プロジェクト開始時に「最終的に何をつくるか」を詳細に計画し、予測した通りに進行することを大切にするウォーターフォールに対し、アジャイルは、大まかな方向性だけを決め変化する状況にどう対応するかを重視します

<後編に続く>

取材・文:小泉森弥、写真:山田秀隆

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