AIとノーコードが再定義するWeb制作の現在地──Wix.com Japan代表・積田英明が語る2026年の展望

2025年は、ノーコードツールやAIの浸透により、Webサイトのつくり方や制作者のありようが大きく変わったエポックな年でした。どのような変化・進化があり、制作者に求められることはどう変わってきたのでしょうか。ノーコードツール「Wix エディタ」やプロ向けの制作プラットフォーム「Wix Studio」を日本で展開するWix.com Japan代表の積田英明氏に、Web制作環境や制作者の2025年の潮流、そして2026年の予測・展望についてうかがいました。

目次

AIの浸透が著しい2025年を総括する

–––––2025年のWeb業界の動向を、積田さんはどのように見ていましたか。

積田英明(以下、同) 「AIをとりあえず使ってみる」段階から一歩進み、「AI前提の制作環境が当たり前になった」年だったと思います。コンセプト設計や運用のプロセスなど、これまで人が担ってきた領域にもAIが入り込んできたことが、最大の特徴です。利便性とクオリティ担保のバランス、効率と人間らしさのバランスをどう取るか––––そのせめぎ合いが、大きなテーマだったのではないでしょうか。

Wix.com Japan株式会社の代表・積田英明さん(撮影場所: WeWork 日比谷パークフロント)

–––––そうした変化を、積田さんは想定していましたか。

制作ツールにAIが統合されること自体は、当然想定していました。ただ、チーム全体のワークフローにここまでのスピードで組み込まれるとは、正直、想像以上でした。AIの活用によって、専門分野ごとに分業されていた境界が次第に曖昧になり、より短時間で、生産的に制作・運用を回していく方向へと進んだと思います。

一方で、物価高や採用難といった社会課題が、Web制作プラットフォームへの期待値そのものを大きく変えたことは想定外でした。Wixも、かつては「安く、早くつくれる」ことが評価されがちでしたが、最近では「グローバル基準のセキュリティ基盤を担保しつつ、少ない人数で運用できる」点に価値を見出していただけるようになってきています。

–––––Wix エディタやWix Studioの利用のされ方も変わりましたか。

Wixのプラットフォームは、単なる制作環境ではなく、公開後のマーケティングやコンテンツ運用まで支える基盤として捉えられるようになっています。特にWix Studioは、クリエイティブ志向の強い制作会社やデザインスタジオを中心に、クライアントの運用まで見据えて使われるケースが増えてきました。

Wixが開発するプロフェッショナル向けのWeb制作プラットフォーム「Wix Studio

また、エンタープライズ領域では、Wix CMSをビジネスデータを扱うデータベースとして位置づけ、商品情報や店舗情報、記事・ナレッジなどを一元管理する使い方が広がっています。そうした内製化が進んだことも、2025年の大きな特徴でした。SMB(中堅・中小企業)でも、オーナーや店長ご自身が更新する運用が一気に広がっています。

自前のサーバやオンプレミスCMSについても、保守運用に追われるより、WixのようなSaaS型に切り替えて、インフラコストや外部ベンダーとのやりとりにかかる手間を減らしたいというニーズが非常に高まっています。早くつくれることに加えて、保守や法令、ブランド面も含めて、きちんとした状態を無理なく維持できる仕組みが求められるようになりました。

2026年のWeb業界の動向を予測する

–––––そうした流れを受けて、2026年はどのような変化が起きると見ていますか。

「AIエージェント」「検索・SEOの再定義」「アクセシビリティと倫理」の3つの変化が、さらに加速すると考えています。Wixでは、AIエージェントによる「ビジュアルサイトマップとワイヤーフレーム」や、「ニーズを伝えると機能提案までしてくれるAIアシスタント」といった機能をすでにウェビナーなどで発表・紹介していますが、今後はより実用的な製品を出していく予定です。

例えば、英語圏で1月に発表した「Wix Harmony」は、自然言語でWebサイトの構造からデザイン、コンテンツ、必要なビジネス機能までを一気に立ち上げられる、新しいAIエディタです。

新しく発表されたWixのAIエディタ「Wix Harmony」

検索とSEOについては、大手検索エンジンやブラウザ、OSにまで生成AIの導入が進む中で、検索順位を追いかけ続けるやり方は、限界に近づきつつあります。そこでWixでは、標準機能として、生成AI検索結果の概要を可視化するダッシュボードを提供しています。AIが回答を生成する際に、自社サイトがどれだけ信頼できる情報源として扱われているかを意識しながら、コンテンツの信頼性やオリジナリティを積み上げていくことができます。

アクセシビリティと倫理に関しては、高齢化や多様性への意識の高まりとともに、誰もが使えるWebサイトであることが、これまで以上に求められるようになっています。これらは、意識の高い企業だけのオプションではなく、標準仕様へと移行していくでしょう。

撮影場所: WeWork 日比谷パークフロント

–––––Web制作プラットフォームに求められることは、さらに増えそうですね。

ページやコンテンツを早くつくれることは、もはや前提条件です。その先に求められるのは、Webサイトを少し変えたときに、コンバージョンにどう影響するのかを、すぐにわかりやすい形でフィードバックできることだと思います。

データ分析の専門家でなくても、ダッシュボードを見れば何が良くて、何がイマイチだったのかが直感的にわかる。そのうえで、次の打ち手をAIが提案してくれる–––––そうした体験こそが、これからのWeb制作プラットフォームに求められる役割だと感じています。

–––––Wix Studioのようなプロ向けの制作環境については、いかがですか。

現場では案件の複雑化が進み、デザイナー、フロントエンドエンジニア、マーケター、ライター、クライアント担当者など、多様なロールがプロジェクトを支えています。その中で求められるのは、「誰が触っても壊れない設計」と「誰が見ても状況がわかる透明性」だと思います。

Wix Studioでは、コンポーネントモデルやスタイルシステム、権限管理などを通じて、複数人が関わっても破綻しにくい環境づくりを進めてきました。さらに今年は、レビューやコメント、バージョン管理、クライアントとの承認フローといった「制作以外に費やす時間」をいかに減らせるかが、大きなテーマになると見ています。クリエイターが価値を生む仕事に集中できるように、周辺のコミュニケーションや事務的な作業を、プラットフォーム側で支えていきたいと考えています。

そのためにも、Wix HarmonyのようなAIネイティブのプラットフォームや、Wix Studioのようなプロ向け環境を設計する際には、「内側で高度なことをやっていても、触る人にとって使い心地がいいか」を何度も自問しています。「これくらいなら自分でもできそうだ」と思ってもらえる体験に落とし込むことを、常に意識しています。

Web制作者はAIやノーコードとどのように向き合っていくべきか?

–––––WixやWix Studioのようなノーコード/ローコードツールやAIを活用した機能によってつくるハードルが下がる中で、Web制作に関わる人に求められるスキルや役割はどのように変わっていくと考えられますか。

つくるハードルが下がった一方で、クライアントの課題はより複雑になり、しかも変化のスピードも速くなっています。そうした中で、本質的な課題を見極め、どこにフォーカスすべきかを一緒に考え、伴走するパートナーとしてのニーズは、むしろ高まっていると感じます。

Web制作にとどまらず、経営課題と直結した課題解決まで期待されるようになってきました。AIは、そうした人間らしさが問われるブランディングや、深い洞察に基づく情報設計といった高付加価値な領域に、より多くのリソースを割けるようにしてくれる技術だと言えるでしょう。

撮影場所: WeWork 日比谷パークフロント

–––––そうしたニーズに応えるため、Web制作に関わる人たちが意識しておくべきことは何だと思われますか。

リサーチ力やファシリテーション力、意思決定を支える説明力といったヒューマンスキルではないでしょうか。クライアントと共に問いを立て、ビジネスとユーザーの間をつなぐ戦略的パートナーとしての役割が、より一層求められていくと考えています。そうした時間こそが本質であり、これからの時代に一番価値を生む部分だと、私は思っています。

また、AIを含む新機能が次々と登場し、物価高や人材不足などさまざまな課題もある中で、あれもこれもと追いかけていると、心身がすり減ってしまいます。すべてを追う必要はなく、例えば「クライアントのストーリーを聞き出すのが得意」「UIの細部にこだわるのが好き」「数字を見て改善していくのが楽しい」など、自分なりの軸を一つ持っておくといいでしょう。AIや新しいツールは、その軸を支えたり、広げたりするためのものだと思います。

–––––最後に、2026年の展望をお聞かせください。

Wix.comの日本法人として、AI機能を日本のユーザーのワークフローにきちんとフィットさせていくことを、引き続き最優先で進めていきます。インターフェースを日本語化するだけでなく、日本のビジネス文化や商習慣、法規制に根ざした形で、AIとWeb制作が自然に共存できる環境を整えていきたいと考えています。

あわせて、WixのAIノーコードアプリ開発プラットフォーム「Base 44」の日本展開も進めていきます。Base 44は、プロンプトベースで業務ツールや顧客向けポータルなどの本格的なアプリを素早く構築できるソリューションで、非エンジニアのチームでも自分たちの業務課題に合ったアプリを開発できるのが特長です。

エンタープライズレベルのセキュリティやSSO、権限管理、共同開発機能も備えており、社内ツールから大規模アプリまで幅広く対応します。エンタープライズ、SMB、個人利用を含むあらゆる規模の方々が、Base 44を含む制作環境とサポートを日本語で享受できる体制を整えていきます。

WixのAIノーコードアプリ開発プラットフォーム「Base 44」

そして、日本のユーザーやパートナーのみなさまと一緒に、私たち自身も日本の社会に還元できる存在でありたいと思っています。「AIに仕事を奪われるのでは」と恐れるのではなく、「AIを使って、自分の仕事のどの部分をもっとおもしろくできるか、どう価値を高められるか」を一緒に考えていけたら嬉しいですね。

撮影場所: WeWork 日比谷パークフロント

メールインタビュー・編集:平田順子、写真提供:Wix.com Japan株式会社

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