なぜ、WebデザインにUXの視点が必要なのか? 「なんとなくよい」から、よりよいユーザー体験のためのデザインへ

Webデザインを制作する際に「UX」が意識されるようになって久しくなりました。しかし、UXとは何なのか。「ユーザー体験」と言い換えてみても、イマイチよくわからないのが正直なところ……。そこであらためて、UXの概要を整理するとともに、今、Webデザインに求められるUXとの向きあい方を考えていきます。(『Web Designing 2026年10月号』より抜粋)
UXは、プロダクトにまつわる体験と感情の総体
UXとは何か? 結論を急ぐ前に、少しユーザーの目線になって、ユーザーとプロダクトとの関わりを考えてみましょう。
プロダクト(製品やサービス)のあふれる昨今、私たち消費者(ユーザー)は、買うもの/使うものを自由に選べます。例えば、食事記録アプリ一つとっても、食事内容の記録・集計という基本機能を持つスマホアプリはいくつもあります。しかし、すぐに使わなくなるものもあれば、日常の一部として使い続けているものもあります。その差異はどこからくるのでしょうか?
考えてみると、「他と比べて圧倒的に使いやすい」、「マスコットキャラクターの反応が面白い」、「ユーザー同士の交流が励みになる」など、基本機能の充足だけではないさまざまな理由が複合的に絡みあい、使い続ける動機になっていることに気づきます。
このように、私たちユーザーは、プロダクトに対して、単に「使える」だけでなく、それを超えた多様な価値を体験し、感じ取っています。プロダクトにまつわる一連の体験とそれに伴う感情の総体。それこそが、UXなのです。
すなわち、UXはもはやプロダクトに不可欠な要素であり、ときに購入や利用継続の強い動機にもなります。それゆえに、UXに直接寄与するアプリ画面(いわゆるUI)のデザインはもちろんのこと、プロダクトの価値を伝え、ユーザーの期待を育む広告・広報用のWebページデザインもまた、UXを考えることと無縁ではいられません。
現在のWebデザインは、UXと切り離して考えることはできない。この事実が、私たちが今、あらためてUXの意味を問い直す理由なのです。
UXは複数の文脈で語られる
ところで、Webデザインの議論において「UX」という言葉が用いられるとき、よく見ると下記のようないくつかの文脈・視点があることに気づきます。
UXを捉える視点の違い
●ユーザーの行動動線としてのUX
プロダクトを利用する前後を含めたユーザーの行動の流れや、プロダクトを利用するシチュエーションの想定
例 ➡ カスタマージャーニー
●プロダクトそのものから得られるUX
プロダクトを実際に利用することで得られる体験や感情
例 ➡ ユーザーテスト、価値マップ
UXの性質の違い
● 機能的価値に関するUX
「使いやすい」「便利」「わかりやすい」など、操作性・利便性に関する体験・感想
● 情緒的価値に関するUX
「楽しい」「かわいい」「励まされる」など、プロダクトへの愛着や感情的なつながりを深める体験・感情
もちろん、UXは、プロダクトに関連してユーザーが体験した・感じたことの総体であり、個々の構成要素を明確に切り分けることはできません。
しかし、実際の制作の現場では、何を焦点に考え・議論しているのかを意識的に明確にすることで、より深い理解や認識のすりあわせに役立つ場面も多いでしょう。
「接触面」としての、UI(インターフェース)のイメージ
Webデザインにおいて、よくUXとセットで語られるのが「UI」です。
UI(ユーザーインターフェース)は、プロダクトとユーザーの「接触面」を指す言葉。いわば、機器とヒトをつなぐ「架け橋」と考えるとイメージしやすいかもしれません。
より具体的には、ユーザーの操作や入力を助けるためのものと言えます。身近な例では、テレビのリモコンやゲーム機のコントローラーなどが代表的です。
これをWebデザインに当てはめると、言ってみれば「リモコンをパソコンやスマートフォンの画面の中にスライドさせたもの」と捉えることができます。セルフレジのタッチパネルやスマホアプリの操作画面などは、まさにその典型といえるでしょう。
Webサイトは「UI」と言えるのか?
Webサイトにおいても、特にコンポーネントなどを指して「UI」と呼ぶ場面をよく見かけます。
確かに、効率的な操作が求められるECサイトやメディアサイトであれば、前述した「操作を助ける仕組み」としての、狭義のUI設計が中心となるでしょう。一方で、ブランディングを主眼としたWebサイトやLP(ランディングページ)を考える際、ナビゲーションなどの一部に狭義のUI理論を応用できるものの、それだけでは語り尽くせない領域が多く存在します。
いずれにせよ重要なのは、UIであるか否かで分別して画一的な設計理論を当てはめることではありません。「ユーザーにどのような体験(UX)をしてほしいか」を想像し、自らがデザインしようとする画面・Webページが、その中でどのようにユーザーと関係性を持ち、どのような役割を果たすべきなのかを考える。そしてその体験に寄与するために、一つひとつの要素を丁寧に組み立てていくことこそが、優れたUXにつながっていくのです。
UXをブラックボックスにすることなかれ
UXは、ユーザー一人ひとりの個人的な体験であり、厳密に言えば、それ自体を直接的にデザイン(規定)することはできません。
しかし、ユーザーのよりよい体験のためにデザインができることは、思いのほか多くあります。
そのためには、UXを漫然と捉えるのではなく、明確な視点から掘り下げていくことが重要です。大きくは下記の3つの視点に細分化し、調査や思考を深める一助とするとよいでしょう。
- UX仮説の全体像の把握
利用前後を含めたユーザー行動や心の動きに仮説を立て(UX仮説)、私たちの制作するものが、どこに位置し、どのように使われ、どのような役割を果たすべきかを意識する - 機能的価値の実現
ユーザーが目的を達成できるか、スムーズにタスクをこなせるかといった側面に注目し、機能性や利便性を向上させる - 情緒的価値の表現
ユーザーの心に響くような体験を提供できているかに注目し、プロダクトへの共感や愛着、感情的なつながりを深める
UXのためのデザインは一本道にあらず
近年、制作にさきがけて、UXリサーチが実施されることも増えてきました。しかし、リサーチ結果から自動的に最適なデザインが見えてくるわけではありません。また、制作の現場は必ずしも、「全体像の把握→機能性→情緒性」と一直線に進むものでもないでしょう。
重要なのは、複数の視点を相互に行き来し、必要に応じて検証を繰り返すプロセスです。多角的な視点から思考を深めることで、“望ましいUX”のあり方の解像度が上がり、真にユーザーを向いたデザインへと昇華されます。
ユーザーのよりよい体験のために、デザインにできることを一つひとつ積み重ねる。その誠実さ・堅実さが、豊かなUXへと結実するのです。

文:原 明日香(アルテバレーノ)、イラスト:高橋未来
