《2026|Web制作の現在地 Vol.8》岡部健二(mount inc.)が語る、AIと「ほどよい距離感」のつくり方

変化のスピードが速まるなか、Web制作・開発の現場は、いまどこに立っているのでしょうか。2025年を振り返りながら、2026年をどう見据えるのか。現場で向き合う人たちの言葉を手がかりに、現在地を探っていきます。第8回は、mount inc.テクニカルディレクター/エンジニアの岡部健二さんにお話を伺いました。

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プロフィール

岡部 健二
mount inc.
エンジニア・テクニカルディレクター


Webサイトの企画・実装を手がける。
個人サイト:https://kenjiokabe.com

2025年、制作の前提はどう変わったのか?

これを答えにするのは、なんだか負けた感もあるのですが、やはり「AI」としか言えないです。つい先日もFigmaとClaudeの提携が発表されて、いよいよ別次元のワークフローがつくれるかもしれない、という段階に入ってきたなと感じています。

コードを手打ちする幸せな時代を、それなりの期間味わえたのはラッキーでした。とはいえ、2025年に関して言うと、プログラムをまったく書かなくなったかというと、そんなこともなくて。特に演出やパフォーマンス調整まわりは、「誰か代わってくれないかな」とボヤきつつ、まだ自分で書いている部分も多いです(これはたぶん、ぼくのAI力の低さゆえかもしれません)。

例えばFunTechの橋本卓磨さんは、AIをハックしておもしろいアウトプットを連発していて、本当に素敵だなと思います。AIがどうこうというより、技術をひょいひょい使い分けて、軽やかに使いこなしている感じが、純粋に格好いい。

プログラムだけでなく、今年は写真も映像もナレーションも、とにかく生成しまくって、AIには助けてもらいっぱなしでした。AIに対して、「自分の仕事が奪われそう」と思うと急にネガティブになるのに、もともと誰かにお願いしていた仕事だと「楽になってハッピー」としか思わない自分の現金さには驚きます。

制作の現場で浮かび上がった課題感

またAIの話になってしまいますが、教育については本当に難しくなってきていると感じています。教える側も、どんな能力を伸ばしていくべきかが曖昧なままですし、たいていのことが「AIでできる」時代のなかで、どうやったら本質的な理解につながる学びを、小さな成長の喜びとともに積み重ねていけるのか。特に初学者の方に対しては、相当に難しい問題だと思っています。

「エンジニアはAIが書くコードを判断する人になる」という話もありますが、100%ではないにしろそうなんだろうとは思います。

ただ、一方で「書けなきゃ読めない」「読めなきゃ判断もできない」という矛盾もある。AI含め他人が書いたコードを読むことは当然勉強にはなりますが、やはりどこかで「書けなくていいんだっけ?」という思いは捨てきれずにいます。

自分の手でコードを書けるということは、結果的に自分の価値を守る可能性もあるので、あきらめずにいたいとも考えています。

個人的な話で言うと、ディレクションする立場で仕事をすることも増えてきたなかで、「自分をわきまえつつ、でも適切な自信を持つこと」の大切さを、あらためて痛感しています。自分の判断ひとつで、関わる人の貴重な時間を無駄にしてしまう可能性もある。だからこそ、誰に対しても誠実に、かつ毅然とした態度で向き合いたいと思っています。

2025年を通して、あらためて重要に思ったこと

話題がAI一色のなかで、日々何を積み上げていくのかを、油断せずに考え続けること。それが、あらためて重要だと感じています。

AIを前にして、これまでと同じことをただ続けていていいはずはない。でもその一方で、安易にAIにフルベットするのもどうなのか、という気もしてなりません。

他社のメディアに「『日報をAIに丸投げ』した新人の1年後の悲惨な末路」という記事がありましたが、ざっくり言うと「日報をAIに丸投げし続けた人に、AIなしで文章を書かせると、恐ろしく薄っぺらい内容しか書けなくなっていた、」という話でした。直感的に感じていたことが、現実になったような気がしています(この記事が作り話じゃないといいのですが)。

僕はすでに、「パソコンがないと何もできない人間」になってしまっていますが、さらに「AIがないと何もできない人間」になるのは、なんとか回避したいと思っています。

楽をするところと、あえて負荷をかけるべきところ。その部分を、しっかり見極めていきたいです。

2026年を迎えて、意識したい仕事のあり方

まずは発声練習です。ちょうど昨日から、毎朝やることに決めました。朝、子どもに気味悪がられながらやっています。そのうち、きっと見慣れた光景になるはずです。

あと、サイネージやインスタレーション系の仕事を、もっとやりたいですね。去年、サイネージの仕事を立て続けにやらせていただいたのですが、自分たちがつくった映像が駅や商業施設などで流れるのは、Webサイトとはまた違った高揚感があります。

リアルな場で目にしたときに、どう感じられるかを考えながらものをつくること。それは、いまのところ人間がちゃんと悩める領域として残されている感覚があって、AI時代の今だからこそ、よりおもしろみを感じるところでもあります。

とんでもなく大きなディスプレイで、わちゃわちゃ動いているのに、ほとんどの人が少しも見ようとしない。その圧倒的なスルーっぷりにも、「広告」というものの味わいを感じられて、新鮮な体験でした。

いま制作に向き合う人たちへ

「職人になりたい」という憧れが、ずっとありました。ひたすら同じことを繰り返しながら、芸を極めていくような。だから、正直に言うと、AIはあまり好きではなかったんです。

でも、ある日、なんの前触れもなく、「このものすごいスピードに、いっそ巻き込まれてみてもいいかも」という気持ちがふと湧いてきた瞬間がありました。

そんなふうに、ClaudeのMaxプランを契約したり、解約したりを繰り返しながら、なんとか折り合いをつけつつ、やっていきたいと思っています。

文:岡部健二(mount inc.)

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