
「UXの5段階モデル」って何のこと? フレームワークを活用してユーザーリサーチを推進しよう!
ユーザーリサーチは行っている方の中には、「いまいち施策への落とし込み方がわからない」と悩んでいる人も多いのではないでしょうか。そこで、書籍『ユーザーリサーチのすべて』(マイナビ出版)の著者であるリサーチャー・菅原大介さんに、ユーザーリサーチの意義や手法について聞きました。第1回目は、組織開発やプロジェクトキックオフの場面で使用される企画書や提案書の中によく登場する「UXの5段階モデル」についてです。
執筆者

菅原 大介さん
リサーチャー。上智大学文学部新聞学科卒業。新卒で出版社の学研を経て、株式会社マクロミルで月次500問以上を運用する定量調査ディレクター業務に従事。現在は国内有数規模の総合ECサイト・アプリを運営する企業でプロダクト戦略・リサーチ全般を担当する。著書に『ウェブ担当者のためのサイトユーザー図鑑』(マイナビ出版)、『売れるしくみをつくる マーケットリサーチ大全』(明日香出版社)がある。
プロダクト運営の工程全体に関わるメリット
よくある課題:永遠にユーザーテストの繰り返しで能力開発が起きない
UXデザインは組織では後発の部門・業務であることが多く、企画と開発の間に挟まって仕事をすることになります。そうすると、既存部門では担当するのが難しいデザインの制作実務とユーザーテストに業務ニーズが集中します。
この状況は組織が人を管理するには都合が良いのですが、そのまま放置していると担当者はずっと同じ手法でひたすらプロダクトの表層部分の改善を担当することになります(もちろんこれは一つの役割設定として大変重要です)
そして不本意なことに、周りからも「細かい場所のテストばかりしている人」という印象が付き、業務評価も「対応チケット数」など時間処理能力を競う方向性になっていくので、個人としてはキャリアが行き詰まっていきます。
リサーチがあると、スキルをきっかけにさまざまな工程に関わる機会がある
リサーチスキルを持っていると、それをきっかけにプロダクト運営の様々な工程に関わるチャンスが生まれます。スキルの希少性が高いため領域横断を歓迎されやすく、例えば競合調査のデータを経営と話し合う機会も得られます。
この時に活用したいドキュメントが「UXの5段階モデル」です。UXの5段階モデルを使うと、当期あるいは来期のプロダクトUX業務(戦略〜表層)に対して、自分がどのように関わっていくのかを関係者皆に知らせることができます。
また、仮に同じ階層(例えば表層のUIデザイン)を担当し続けるとしても、組織の連続的な業務の中で意義を説明することができ、「デザイナーは画面の見た目を変えているだけ」という限定的な印象を払拭することができます。
UXの5段階モデルとは?
概要
UXの5段階モデルは、プロダクトの構成要素を「表層・骨格・構造・要件・戦略」の5階層で定義するモデルです。
UXリサーチの領域では組織開発やプロジェクトキックオフの場面で使用される企画書や提案書の中によく登場し、プロダクト開発のガイドラインとして世界中で支持されているフレームワークです。
米国のUXデザイナー・Jesse James Garrett/ジェシー・ジェームズ・ギャレット氏が著書『Elements of User Experience』で提唱し、プロダクト運営の原則モデルとして広く使われるようになりました。
このモデルはプロダクトベースでどの部分に問題があってどの部分を改善するのか組織で討議するのを助け、戦略段階から表層段階へと適切な波及効果が働いているかを意識づけることができます。
UXの5段階モデルの構成要素は以下のようになります。
1.戦略 / Strategy
・誰に何を提供するのか体験価値を定義する段階
・事業戦略・市場環境などのビジネス要件に加え、ユーザーニーズを踏まえたプロダクト展望を描く
<メソッド>
・コンセプトワーク
・プロダクトビジョン
・ユーザーモデリング
<アウトプット>
・コンセプト
・リーンキャンバス
・ペルソナ
・ストーリーボード
・サービスブループリント
・NSM(North Star Metric)
・KPI(Key Performance Indicator)
・プロダクトロードマップ
2.要件 / Scope
・ユーザーに提供するストーリーとそれを実現するプロダクトの内容・仕様を定義する段階
・組織や顧客から求められている要件を整理して、必要な開発・制作・施策の優先度判断を行う
<メソッド>
・KA法、KJ法
・要求理解
・要件定義
・ユーザーモデリング
<アウトプット>
・価値マップ
・ユーザーストーリーマッピング
・カスタマージャーニーマップ
・バリュープロポジションキャンバス
・PRD(Product Requirements Document)
・エレベーターピッチ
・プロダクトバックログ
3.構造 / Structure
・プロダクトに実装する情報・機能の全体の枠組みを定義する段階
・開発や改修を行う場所や範囲を特定し、情報構造や操作体験を整理する
<メソッド>
・情報設計
・OOUI(Object Oriented User Interface)
・インタラクションデザイン
<アウトプット>
・IAダイアグラム
・メンタルモデルダイアグラム
・オブジェクトマップ
・サイトマップ
4.骨格 / Skeleton
・プロダクト内でユーザーが受け止めやすい遷移導線・機能活用・行動喚起を定義する段階
・レイアウトやナビゲーション、アクションを訴求する機能を可視化する
<メソッド>
・レイアウトデザイン
・ナビゲーションデザイン
・インターフェースデザイン
・ユーザビリティテスト
<アウトプット>
・プロトタイプ(テキストペーパー)
・プロトタイプ(ワイヤーフレーム)
・プロトタイプ(ビジュアルモック)
5.表層 / Surface
・プロダクトに表示する視覚的なグラフィックやモーションを定義する段階
・ブランドアイデンティティに沿って、カラー・フォント・ロゴ・メッセージなどを表現する
<メソッド>
・デザイン原則
・A/Bテスト
・ユーザビリティテスト
<アウトプット>
・デザインカンプ
・コンポーネント
・カラーパレット
・タイポグラフィ/フォント

書誌情報

- 定価(紙/電子):3,179円(税込)
- B5変:416ページ
- 978-4-8399-85554
- 発売日:2024年10月22日
Text:菅原大介