12の制作会社に聞いた「いまWeb制作の現場で必要とされる能力とは？」

2018年12月18日

１.「間（あいだ）」を繋ぐ能力

聞いた人：北川尚宏さん
面白法人カヤック執行役員クライアントワーク事業部業責任者／プロデューサー

面白法人カヤック：鎌倉に本社を置き、ゲームアプリ、オリジナルWebサービスなどのコンテンツを数多く発信。サイコロ給などユニークな人事制度やワークスタイルも実施。2014年12月東証マザーズ上場。

1985年生まれ。慶應大学卒業後、2010年に入社。現事業部に配属後、ソーシャルゲーム事業部を経て、2016年より現事業部事業責任者。2018年より現事業部管轄の執行役員に。あだ名はオペロン。

私たちが扱う技術領域と体験領域はますます拡がっています。たとえば、VR空間内での2D映像の体験、あるいはAIボットと連動したテレビ番組の体験。それらを現場での能力に言い換えると、VRと映像の両方の知見を持ったテクニカルディレクター、AIボットを理解しているプランナーなど、より領域を横断した知見が必要になってきます。そうした横断領域を示す能力には、その都度、肩書きが考えられますが、肩書き化された時点では既に遅いのです。というわけで、まだ肩書き化されてない「間（あいだ）」を繋ぐ能力・楽しむ姿勢が必要だと考えています。

２．プロジェクトを主導できるデジタルコンサルティング

聞いた人：岩上貴洋さん
（株）GIG代表取締役

（株）GIG：「テクノロジーとクリエイティブでセカイをより良くする」をミッションに、クリエイティブ制作、システム開発、Webマーケティングを一貫して提供している。

学生時代、モバイルマーケティング、ITベンチャー企業に参加。2007年（株）LIG創業。2017年、デジタルコンサルティング、フリーランスのプラットフォームを展開する（株）GIGを創業。

あらゆる業界でデジタルの重要度が増しているなか、全体の予算組みからサービス開発、プロモーション支援、運用保守、ブランディング戦略、インタラクティブなコミュニケーション設計など、求められる範囲が広がり複雑化しています。単なる「Web屋」ではなく、総合的なデジタル領域の戦略立案、実行力が求められていると感じます。そのため弊社では、サービス開発やコンテンツマーケティングのノウハウ、「workship」という自社サービスの知見を経営陣などによって体系化しています。これにより、総合的、長期的にプロジェクト全体をリードできるデジタルコンサルティングのスキルを伸ばし、事業成長のパートナーになれる人材を育成しています。

３．領域を超えて挑戦する姿勢

聞いた人：土屋尚史さん
（株）グッドパッチ代表取締役社長／CEO

（株）グッドパッチ：UI / UXデザインを強みとした新規事業の立ち上げや、企業のデザイン戦略立案、デザイン組織構築支援などを行い、デザインの価値向上を目指しているデザイン会社。

一つの領域にとどまらず、異なる領域が混じりあうことで新たな価値が生まれます。問題解決のために、自分の仕事を狭い範囲に限定せず、デザインとビジネス、エンジニアリング、マーケティングなど違う分野への好奇心や視点を持つこと。部門や職種で領域を閉じて自分の世界を狭めることなく、経験したことのない分野や役割に挑戦する姿勢を持つことがデザイナーには求められているのです。常に他の領域への好奇心を持ち、領域を超え続けることで成長していきましょう。より大きなインパクトのある仕事をするために。

４．突出した能力またはプロジェクトマネジメント力

聞いた人：加藤琢磨さん
SHIFTBRAIN代表取締役プロデューサー

SHIFTBRAIN：デジタル領域を中心にコミュニケーションプランニング・デザイン・テクノロジーまでを一気通貫で行う25名のデジタルクリエイティブエージェンシー。現在絶賛人材募集中。

1977年生まれ長野県出身。最近近所の社長たちとnoteはじめました。「青山CEOへべれけトーク」

世は変われど、生み出すことを生業とする会社である限りは、アウトプットの品質が最も重要です。特に最近は、弊社の実績を見て、直接クライアントから問い合わせをいただく機会が増えているため、自分たちらしいクリエイティブが必要とされています。そのため弊社では、突出した能力を持つ人と、その人たちが能力を発揮しやすい環境をつくる人（プロジェクトマネジメント）の二つの構造が重要だと考えています。
突出した能力を持つ人は、デザインや開発力はもちろん、ライティング力など、一つでも人を惹きつけるようなものをつくれる能力を持つこと。プロジェクトマネジメントをする人は、総合的な能力とクリエイターをリスペクトするマインドが必要だと考えています。

５. 企業を活性化させるコミュニティプランニング力

聞いた人：井手聡太さん
（株）CINRAクリエイティブ事業部長

（株）CINRA：メディアサービスの運営、ブランドコンサルティングなどのクリエイティブ、イベント企画、グローバル展開支援を行うクリエイティブエイジェンシー。

デジタル制作を行うクリエイティブ事業部を統括しつつ、アートディレクターとしても活動。多様な課題解決の経験を統合し、コーポレートメッセージの開発からVI策定、アウトプットまで一環して携わる。

弊社はデジタルクリエイティブとメディア運営を行っています。その特徴を活かし、これまでオウンドメディアなど情報発信型のプロモーションに多く携わってきました。最近はその発信力を内部に向けた「インナーブランディング」を行いたいといったご相談が多くなっています。「企業で働く意義」が問われる今後の社会情勢を考えると、会社のビジョンを浸透させ、アイデンティティやオーナーシップを持って働くための仕組みをつくるということは、多くの企業が直面している課題です。そのため弊社では、企業にパートナーとして入り、組織活性の設計を一から行う「コミュニティプランニング力」が必要だと考えています。

６. アナログ感覚とデジタルデータ分析力の融合

聞いた人：村田健さん
（株）ソニックジャム代表取締役

（株）ソニックジャム：デジタル技術で、新しいユーザー体験をつくるクリエイティブ・スタジオ。人を動かすクリエイティブ、未来につながるプロジェクトをつくりだしている。

2001年SONICJAM設立。プロデューサー、クリエイティブディレクターとして、Webだけでなくデジタルサイネージ、デバイス開発など、新しい体験を生み出すプロジェクトに日々挑戦している。

ずっとデジタルコンテンツの制作をやってきていますが、「PC→スマホ→音声」のように、デジタルがどんどん見えなくなっていくというか裏方化しています。これまでの「スクリーンに何を映すか」というデザインから、「人間の行動」をいかにデザインするかというUX的な考え方にシフトしているので、人間の心理や感覚をいかに捉えるかがとても重要です。そのため、テレビやPC、スマホは捨てて、自分で見る・聞く・感じる体験をたくさん積むことが大切になっています。自分の感覚とデジタルのデータを組み合わせることが今後のサービスのキモになります。たとえるなら「ラーメン店をデータアナリストがアップデートする」みたいなことかもしれません。

７. UXファーストで考えられる力

聞いた人：築地 Roy 良さん
（株）BIRDMAN 代表クリエイティブディレクター

（株）BIRDMAN：クレイジーなアイデアを先端技術で実現するデジタルデザインスタジオ。“まさか”な体験で驚きと感動を呼び、企業やブランドのコミュニケーション課題を解決する。350以上のアワードを受賞。

ソフトウェア／ハードウェアを問わずあらゆる手法で人を動かすプロジェクトを手がける。デジタルエクスペリエンスの制作を中心として、誰も体験したことがないようなモノ・コトの実現に常にチャレンジしている。

近年Webはシンプルさが求められるようになり、よりスマホの見せ方を重視した構成になっています。今後はターゲティングデータを元にAIがその人固有の情報を自動で提示するようになり、Webにおけるクリエイティブの幅が狭まっていくでしょう。そうしたなか弊社では、企業とコラボレーションしプロダクトやサービスを開発するなど、広告の枠を超えた依頼が多くなっています。その際今まで培ってきたUI / UX、ストーリーテリングの知見が活かされています。テクノロジーファーストで考えるのではなく、何をどう伝えたいのかストーリーテリングをできるということが改めて大事になっているのです。そうしたUXファーストで考える力を、弊社では全クリエイターが持てるようにしています。

８. ビジネス・テクノロジー・デザインを結び付ける力

聞いた人：田口亮さん
（株）フォーデジット代表取締役

（株）フォーデジット：デジタル領域のデザインを提供するデザイン＆テックカンパニー。大手クライアントにおける顧客体験の創出から実装、運用まで幅広い顧客ニーズに対応している。

音楽業界からフリーランスを経てクリエイターとして2002年にフォーデジット入社。2008年より同社取締役、子会社代表を経て、2017年より代表取締役（現職）。

デザインに対する要求がビジネスソリューションまで広がっており、クライアントのビジネス文脈とユーザーを理解した上でアウトプットに結びつけること、そして継続的な動きが求められています。クライアントサイドが着目しているデータドリブンやデジタルトランスフォーメーションといったキーワードに対して、専門性を持ったプレイヤーと連携しつつ、ユーザーを中心としてビジネス・テクノロジー・デザインを結び付けていく必要があると考えています。そのために弊社では、ユーザー状況やビジネスプロセスの理解を深めるべく、7年前からリサーチに取り組み、顧客状況の把握ができる仕組みにしました。また、デザインリサーチに関するイベントも開催しています。

９. 課題を見つけ解決策を提案できるスキル

聞いた人：尾方太郎さん
（株）フルスケール代表取締役

（株）フルスケール：熊本県熊本市のWeb制作会社。デジタル分野における企画立案から制作、公開後の運用までトータルにサポートしている。

1978年熊本県生まれ。大学卒業後、熊本県内の制作会社での勤務を経て、2005年フリーランスとして独立。2007年にフルスケール設立。Webサイトのプロデュース、ディレクションを行う。

“カッコいいもの”といったクリエイティブのニーズから、結果の出るWebサイト制作の依頼や相談が多くなってきており、今後も増えていくと考えています。社内スタッフが全員デザイナーということもあり、クリエイティブの追求は今後も変わりませんが、企画や設計、運用に関するサービス体制の強化を図っています。現在はスタッフそれぞれで課題解決のためのテーマ（マーケティング、アクセス解析、Web広告など）を決め、週1回社内のミーティングで発表し、全員で情報共有しています。クリエイティブのスキルに加え、結果を出すために必要な能力を自ら把握し、その能力がクライアントに対しどんな利益をもたらすかを考えられることが必要となっています。

10. クライアントのビジネスおよびWeb技術への深い理解力

聞いた人：木達一仁さん
（株）ミツエーリンクス取締役（CTO）

（株）ミツエーリンクス：Webサイトの構築・運用を中心としたさまざまなサービスで顧客企業さまのビジネスを持続的発展に導く、国内屈指のコミュニケーション・デザイン・カンパニー。

宇宙開発関連組織でWebマスターとしての経験を積んだ後、IT業界へ。以来、Webコンテンツの実装工程に多数従事。2004年2月より（株）ミツエーリンクスに参加、現在は取締役（CTO）。

Webサイトの構築や運用を受託する大前提として、クライアントのビジネスに対する理解力はとても大切です。その理解力があって初めて、クライアントのビジネスゴールとWebサイトを利用するユーザーのニーズ双方に根ざした、真にクライアントのビジネスに貢献し得る企画の立案と実行を提供できると考えるからです。
その一方で、Web技術を核としたコミュニケーションデザインのプロフェッショナルとして各種サービスを提供する立場上、Web技術に対する理解力もまた必要不可欠です。理解の対象には、技術の表層的なトレンドのみならず、その根底にあってWebの普遍的な価値を支える基礎的な技術も含みます。

11. 表現視点、ビジネス的視点両方の価値を融合する

聞いた人：佐々木芳幸さん
（株）monopo CEO

（株）monopo：東京を拠点にさまざまなアイデアを形にするクリエイティブエージェンシー。自社プロジェクト「poweredby.tokyo」を通じ、東京の魅力を世界に発信している。

2011年早稲田大学在学中に起業。コミュニケーションや経営の上流から課題解決のプランニングを行う。東京の真の姿をブランディングするプロジェクト「poweredby.tokyo」を運営。国内外受賞多数。

「エンジニアやデザイナーが、全方位に企画する広告やWebサイトの方がおもしろい」と確信しています。今は、たった一人の技術者やデザイナーがダイレクトに世の中にクリエイティビティを発表し、影響を及ぼせる時代です。クラフトマンシップを持った人たちがただの“制作作業”でクリエイティビティを消費するのは、本人だけでなく、クライアントにとっても社会にとっても良くないことだと思います。そのためには、制作者がビジネス的視点やクライアントとの共通認識を持ちながら、プロジェクトを推進する力が必要です。「クライアントのプロダクション化」と「プロダクションのクライアント化」を繰り返しながら、両者の境界線を曖昧にし、意思決定に深く関わっていくスキルです。そのため弊社では、複数のスキルを持つメンバーが多くなっています。

12. 仕事を拡張する力

聞いた人：木下謙一さん
RANA UNITED代表取締役CEO

RANA UNITED：（株）ラナデザインアソシエイツをはじめとするグループ。デザイン、Web、映像、データビジュアライズ等それぞれの特徴を活かしたクリエイティブとソリューションを提供。

90年代半ばの黎明期よりWebデザインを手がける。現在は資生堂や出版社のデジタル戦略を担当するほか、インスタレーションやテレビ番組のデータビジュアライゼーションなど仕事の幅を広げている。

「仕事を拡張する力」というのは、単純に規模の拡大を追うという意味ではなく、Webサイト制作がコモディティ化するなかで、そのデザインや技術をどのように周辺に拡張していくかという意味です。実際にRANA UNITEDでは、Webサイトの制作からキャンペーン、動画、さらにはデータビジュアライゼーション、IoTまで仕事の範囲を拡げています。しかし、それらはまったく新規のビジネスというよりも、いま会社やスタッフの持っているアセットをどのように活かしたらいいのかという試行錯誤の上に成り立っています。その時にどのような方向に発展させるのか、どんなリソースが必要なのかを思考した上で踏み出すことのできる能力と、それを持った人材が必要です。