
デジタルマーケティングの潮流と実態
1.デジタルマーケティングの導入状況
DATA1_デジタルマーケティング関連製品・サービスの導入状況
数ある施策の中で1つのみを実施している企業もあれば、複数の施策のデータを集約・分析し適切な施策へと改善している企業もあります。「Web広告配信」「メール送信」「アクセス解析」「モバイル向け広告配信」「動画広告配信」の順で各42~34%と多くなっていて、広告系が先行しています。しかし、近年注目されている「プライベートDMP」や「統合型マーケティング支援」も今後導入が加速していくでしょう。

2.デジタルマーケティングの運用体制
DATA2_デジタルマーケティング推進部門/チームの構成比率
デジタルマーケティングを推進する部門/チームとしては、「社内の専門部門/チームを設置」がもっとも多く、この体制に「外部人材も含めたチーム」が次に多くなっています。一方、既存のマーケティング部門で推進している企業は、「基本的にマーケティング部門のみ」が約2割、「デジタル専門のチームを設置」「IT部門や営業部門からもメンバーが参加」が共に約1割となっています。ただし、このデータの調査対象は、デジタルマーケティングの重要性が高い、ECサイトや会員制サービスを提供する企業が中心である点には留意が必要です。

DATA3_[業種別]デジタルマーケティング推進部門/チームの構成比率
DATA2を業種別で見たデータです。流通では「社内の専門部門/チームを設置」が5割以上と高い一方で、製造ではこれらが低く、「マーケティング部門内にデジタル専門のチームを設置」が他業種と比べ高めになっています。変わったところでは、通信では「マーケティング部門以外の部門内に専門のチームを設置」の比率が約2割と高いです。流通では、従来からの店舗におけるマーケティング施策とO2Oなどのデジタル施策の融合が求められ、それらを統括あるいはブリッジとして機能する別組織の重要性が高いのかもしれません。

3.デジタルマーケティングの予算配分
DATA4_広告媒体別広告費
電通が発表している「日本の広告費」で、2019年にインターネット広告費(30.3%)が、テレビメディア広告費(26.8%)を初めて抜き、2兆円を超えたことが話題となりました。マスコミ4媒体広告費(37.6%)やプロモーションメディア広告費(32.1%)には及ばないものの、近い将来インターネット広告が最も大きな市場となることは容易に予測されます。マスコミ4媒体のデジタル版の広告費はインターネット広告費に含まれ、プロモーションメディアもデジタル化が進んでいるため、これらの領域でもデジタル広告が急速に拡大しています。

DATA5_インターネット広告媒体費の広告種別構成比
DATA4のインターネット広告費の内訳を、広告種別に分析したデータを見ると、特に「ビデオ(動画)広告」の前年比の成長が目立ちます。今後も、5Gの開始・普及に伴い、動画配信サービスでのビデオ広告が増加するだけでなく、ゲームやその他のアプリ利用時にも、ビデオ広告が挿入されるケースが増え、市場では高い成長を示すものと予測しています。また、デジタルマーケティングの浸透に伴い、広告の費用対効果の可視化が進むことで、既存の「ディスプレイ広告」から「成果報酬型広告」へシフトする企業も増えると予測しています。

4.デジタルマーケティングの導入意向・計画
DATA6_デジタルマーケティング関連製品・サービスの今後の導入意向
今後の導入意向では、「モバイル向け広告配信」や「動画広告配信」「SMS」「CMS」、資料請求や各種申し込みで利用されるWebフォームにおける「EFO」、「Web接客/チャットサポート」などのチャネルの施策も高くなっています。しかし、それらを介して得られるデータを収集・分析する「MA」や「広告効果測定」、「パブリック/プライベートDMP」「ソーシャルメディア・モニタリング/マーケティング」の導入意向がさらに高くなっています。

DATA7_業種別統合型マーケティング支援(MA)の導入状況および計画
DATA6で導入意向が最も高いMAの導入状況・計画を業種別で見ると、通信では「導入済み」の企業が他業種より高くなっていますが、今後導入予定と回答した企業は他業種の方が多く、その差は縮まりつつあるでしょう。流通でのMAの導入率は高くありませんが、スマホアプリやSNSなど各チャネルのデジタル施策でのデータを分析するフェーズに入っていくにあたり、プライベートDMPやMAのニーズが高まっていくことが予想されます。

5.デジタルマーケティングの効果・手応え
DATA8_統合型マーケティング支援(MA)の導入による効果
MA導入による効果は、各種チャネルとの連携により得られるものですが、どの施策においても概ねその効果は似た傾向にあることがわかります。全般的に 「大いに効果あり」は2割弱、「効果あり」が3~4割、「僅かに効果あり」が3割前後となっています。特に高い効果を感じられているのが「レコメンデーションの精度向上によるクロスセルやアップセルの拡大」で、「大いに効果あり」「効果あり」合わせて57%となっています。

DATA9_デジタルマーケティング推進にあたっての課題
本来、デジタルマーケティングによる効果は、企業全体で取り組むことで最大化できます。しかし、現時点では、ブランドや部門ごとなどに分断して進められるケースが多く見受けられます。こうした背景もあり、デジタルマーケティング推進にあたっての課題としては、「会社全体のマーケティングを統合的に見る人(CMOなど)が社内にいない」が1位となるなど、組織や人材に関連するものが上位を占めています。


- 教えてくれたのは…三浦竜樹
- 株式会社アイ・ティ・アール シニア・アナリスト。企業におけるクライアント運用管理(仮想化/DaaS)、Web/EC戦略策定、マーケティングオートメーションやCDP、SAF / CRMなどのマーケティング、SalesTech分野、およびこれら業務領域での音声認識など、AI適用に関するアドバイスやコンサルティングを提供している。 https://www.itr.co.jp/