
1度の買い物で2人から愛されるために。「パジャマ屋」の360度高品質戦略●特集「EC再強化」
ものづくりを真面目に手掛けてきたメーカーだからこそのパジャマ
熊坂雅之さんはかつて、パジャマを仕立てる小さなメーカーを経営していた。
「父から引き継いだ、絵に描いたような下請け企業です。人件費や資材の高騰の波にさらされて、ご多分に漏れず、経営は厳しくなっていきました。1990年代に入ってからは価格を下げるのも限界に来ていましたね」
ECサイト「パジャマ屋」をスタートさせたのは2001年。早期のスタートだ。
「先見の明なんてとんでもない。食うためにどうしたらいいのかを考えていたら辿り着いたのがECだったというだけなんですよ。売上ですか? 開店1カ月目はわずか3万5,000円でした(苦笑)。でも、何のノウハウもないし、そもそも商品が二つしかなかったので仕方ないと思いました。下請けでしたから、オリジナルの商品がそれしかなかったんです」
光が見えたわけではなかった。しかし雅之さんには確信があった。
「安さだけを求めているお客さまばかりではないはず。既存のパジャマの常識を超えるような快適なパジャマを作れば、高くてもきっと受け入れてくださる。他メーカーが安さを競う中、我々はとにかく、よい製品を作ることに徹しよう」
苦戦しつつも、1年半後には徐々に売り上げも上昇。「手応えを感じはじめていた」という雅之さんは、父から引き継いだメーカーを整理し、新たにEC専門の会社を起ち上げる。オリジナルの製品開発に、本格的に乗り出したのはこの時からだ。

商品としての「パジャマ」とは?
安価な製品が流通しており、一般的には価格競争が激化している。かつてデパートなどにあったパジャマコーナーは今ではファストファッション系の商品に押され消滅気味。なお、夏場はパジャマを着ないで過ごす人が多く、売上は冬場に集中する。他のアパレル製品と違い、デザインの流行り廃りがあまりないのも特色の一つ。
「ギフト」を主力商品に選んだ必然的な理由
パジャマ屋のサイトを見ればひと目でわかるように、その主力は「ギフト」だ。現在、売上の約4割を占めるというギフト商品は、雅之さんが泉さんとともに考え抜いた生き残りのための戦略商品だった。
「パジャマはふつう、“いかに安くつくるか”が大事な商品なんです。自分が寝る時に着るパジャマなんて、こだわって買う人は少ないでしょう。でもギフトは違うだろう、と。素材、縫製、風合いと、贈る相手に恥ずかしくない、“いいもの”を選ぶ方が多いんです。そこは、うちの会社がこだわっているものづくりの部分と合致するな、と」
パジャマ屋では、当時も今も新製品開発には長い時間をかける。場合によっては糸から開発することもあるくらいだ。
「袖を通した瞬間に、安いものとの“違い”がわかる商品なんです」
泉さんはECにおけるギフトには、ある強みがあると話す。
「ギフトって、注文をした方だけではなくて、受け取った方もお客様なんです。ほんとうにいいものを提供できれば、1回の注文で2人のお客様に喜んでいただけるということ」
受け取った側が喜ぶと、送った側も喜ぶ。しかもその喜びは、強く伝播するという。
「最近はSNSやブログに、詳しく書いてくださる方が多いんです。これって、日本特有の文化なのかもしれないんですけど、自分で購入したものについてはあまり人に勧めたりしない方でも、いただきものについては、強く人に勧めたりするんです。いいものを作れば、ちゃんと広がるはずだ、と」
ふと事務所の奥に目をやると、スタッフが、ラッピングを一つひとつ、丁寧に施している様子が見えた。600円の「有料包装」を選ぶ人が多いと言うが、オリジナルのパッケージを使っているというラッピングのクオリティを見れば、十分に納得できる話だ。
商品も包装も高品質。他でマネできないところまで作り込む。雅之さんは「満足」してもらうだけではダメ、と話す。
「“満足“ではお店の名前までは覚えてもらえないんですよ。でも、これは素晴らしいと“感動”してもらえたら、記憶に残りますよね」

パジャマ屋代表。2001年に楽天市場にパジャマ専門店「パジャマ屋」を出店。現在は独自ドメイン店舗「パジャマ屋 本店」ほか、Yahoo!ショッピング、Amazonにも出店し、素材と着心地にこだわった自社開発のオリジナルパジャマを販売中。
お話しを伺った人:熊坂泉さん
店舗統括マネージャー。商品企画、Webデザインの統括と顧客対応をメインにサービスを構築。他のショップができない(やらない)ことをやる! をモットーに、独自のシステムを考案、徹底的にシステム化。顧客目線の対面接客でギフトショップのノウハウを蓄積していく。

当たり前を実現するための地道な努力
配送の対応にはこだわっている。
「毎日締め切りがありますから、時間との闘いです。でもできるだけのことをしないといけませんし、こちらに落ち度があるようなら、追加送料を負担してでもお届けします」
ミスの少なさも自慢の一つだ。
「店舗ごとの在庫連動についても、しっかりとシステムを組んでいますし、支払い方法なども二重、三重にチェックできるよう、カスタマイズしています。時々、ギフトなのに『代引き』を選択するお客様がいたりするんですよ。代理注文などの場合もあるんですが、確認せずに出荷してしまったら大変なことになってしまいますので」
当たり前のことを当たり前にできるか。そこが大事だと、泉さんは言う。
「何かあった時に、『このお店はまじめにやってるな』『細かいところにも気がついてくれるんだな』、そう思っていただければいいなと思っています」
こういったことの地道な繰り返しが店の評価につながっているのだ。
雅之さんは今でも、感謝の言葉が届くと舞い上がるような気持ちになるという。
「だってね、下請けをやっている頃は、耳に入ってくるのは『もっと安くならないか』、そんな言葉だけでしたから。それが今では、お客様に喜んでもらえて、お礼まで言ってもらえる。ものづくりをしてきた身としては、これほど嬉しいことはありませんよ」

パジャマ屋では、さらなる売上アップを狙い、2015年3月から楽天市場店でA/Bテストを導入した。検索を行った際に表示されるサムネイル画像を定期的に入れ替え、どちらの反応が良いかを探るというものだ。 売れる・売れないを数値化して確認できるため、狙い通り売上アップに寄与したというA/Bテストだが、それだけではない波及効果もあった。 「ECサイトの制作も社内で行っているのですが、客観的な数値が出るようになったことで担当者の意識が変わり、ほかの商品にもいい影響が出ています。また、これまで売れ行きの悪かった商品を見直すきっかけにもなっています」 ちなみに上の画像でより売れたのは‥‥「B」だ。
「パジャマ屋」が売れている理由
●自社開発の高品質商品を目玉に
●贈り物の満足感をリピートにつなげる
●配送などのサービス品質も高める