価格競争に一撃! 生き抜くためのデジタル施策

 

「現地情報=付加価値」で差別化

(株)パムは、沖縄に本社を置く旅行予約サービス会社。同社が9月から本格的な運用をスタートさせたサービスが、予約申し込み者のためにカスタマイズした、デジタル版の旅のガイドブック「旅しおり」を贈呈するというものだ(01)。

01 デジタル版「旅しおり」

パムが運営する旅行予約サイト「たびらい沖縄」でホテルの予約をする特典として、スマートフォンで確認できる「旅しおり」が用意されている。現地担当者経由の地元情報を盛り込みながら、申し込み者に合わせたカスタマイズ版旅のガイドブック。問い合わせにも対応する

単なるガイドブックではなく、旅行前から旅行期間中にかけてのサポート対応までも含めた無料特典である。例えば、慣れない旅先でわかるのは有名店くらい、ではなくて、地元ならではの「知る人ぞ知る店や観光スポット」について、事前に希望を伝えておけば、その好みに合った情報をスマホ版ガイドブックの形で提供してくれる。

「旅行予約の世界は価格競争が激しい業界の一つです。全国各地に実店舗を持つ大手企業や、国内外の有力なオンライントラベルエージェンシーがシェアを占めます。価格訴求だけではかなわないので、2年前から注力したのが差別化策でした」(パム・高田昌平氏)

その最初に行ったのが「たびらい」という旅行予約サイトの立ち上げだ。予約のほかに、現地の常駐担当者が入手した、地元密着のディープな情報提供を開始。そこに付加価値を感じる利用者たちから高い評価を受ける半面、大手企業の価格訴求やブランドの前では、直接的なコンバージョン向上に必ずしも至らなかった。この付加価値の強みを、さらに活かした形にしたのが「旅しおり」なのだ。

 

世の中に存在しないサービスで勝負

はじめに、沖縄版の予約サイト「たびらい沖縄」での実現を目指し、カスタマイズ版「旅しおり」をPDFファイルで発行した。昨年から半年かけてテストマーケティングを行い、顧客満足度を注視しながら、メニューの構成(予約者の希望をどこまで反映するか)や中身の分量を模索。他社で類似サービスが実施されていないだけに、探りの期間が続いたという。

「旅行予約は検討期間が長い商材です。一度の来訪で予約獲得になることは少なく、特典が予約の決め手になることも稀で、価格要因が決め手になりがちです。まずは予約完了前の検討層に“最後のひと押し”として作用することを目指しました。KPIは利用者の満足度に据え分析すると、8割以上が肯定的な評価でした。ずば抜けて満足と評価する声も徐々に増えて、“本格化できる”手応えを感じました。満足の声が強いほど、お客様が事業者の想像を越えて感動していただいている目安になるからです」(高田氏)

 

02 「価格競争」でなく「付加価値」が活路を生む

価格競争は、一部の大手、もしくは利益度外視の価格戦略に走る企業のつぶし合いしか生まない。価格だけでなくサービスの中身、他社にない付加価値で勝負できるようにすると、価格と異なる選考基準をユーザーに提示できる。今回の施策がその好例といえる

 

人肌が伝わるサービスとして具現化

本格的なデジタル化で重視したのが効率的な生産性と、媒体ではなく「サービス」を提供したいという意図の訴求だ。

「今回を機にMicrosoft PowerPointを使ってつくるプロトタイプの状態から脱却したく、制作時間の圧縮と品質向上にもつながるデジタル化に踏み切りました。デジタル管理によって閲覧時間など利用度調査がしやすくなり、今後の改善施策にも役立てられます」(高田氏)

目標は、1部あたりの制作時間やコストをPDF版より約4分の1に抑制。また、旅行者が任意のタイミングで担当者に相談できる仕組み化を目指した。UIは沖縄を想起しやすいイラストを背景に、手づくり感が漂う温かさを意識した(03)。

03 サービスはクリエイティブトーンを統一

人肌が伝わる温かなテイストが特徴のUI。バナーやランディングページのトーンも統一した。申し込み者にはメールでアンケートが送られ、その回答をベースにつくられる。後日、HTMLメールで旅しおりが届けられると、開封時に手紙が開くようなアニメーションが再生される。「顔が見える対応=現地担当者の顔」も掲載されている

「これまで15年以上Web開発や制作に携わってきて、単にWebをつくる、キャンペーンを手がけることは減り、スマホファーストなサービス設計を求められる機会が増えました。今回はコンセプトである現地の生の情報やサポート体制が伝わるメニューや構成について、何度もパムさんと意見交換を重ねました。旅行期間専用のアプリを受け取ったような利便性をベースに、内容のカスタマイズ感と人肌感が伝わるデザインによって、老若男女どなたもが直感的に操作できるように仕上げていきました」(YRD・吉原潤氏)

当面の目標は、PDF版の時より申し込みユーザー数が約2倍に増えること。すでにPDF版のリピーターや新規申し込み者から満足度の高い声が届き始めているそうだ。他社にないサービスの仕組み化に挑戦したことで、パムはさらなる事業展開へと舵を切ろうとしている(04)。

04 次の勝ち筋につなげるサイクル

付加価値のサービス化に踏み切って以降、サービスを軌道に乗せるとともに、チューニングしながら新たな勝ちパターンへとつなげていくことが、ビジネス最適化といえる。ここではパムを例にしたが、各工程を自社の要件に置換しながら、勝ち筋サイクルの参考にしたい

「九州版“旅しおり”の展開を本格的に検討中です。レジャー志向が強い沖縄と異なり、宿や温泉を堪能したい九州では訴求点が変わりますが、九州版も現地編集者が収集した活きた情報をベースに最適化していきます」(高田氏)

「正式に決まった場合は、九州版に最適化したクリエイティブ、導線設計を目指します。最適化の先に顧客満足があるので、パムさんと一緒に九州版が担うべきUI、UXを模索します」(吉原氏)

本施策公開と同じ9月、パムは全国への事業展開をにらみ、東京支店を浅草へと移転させ、業務強化に動き出した。パムが提供する付加価値が、業界の独自ポジションの確立にどれほどつながるか。今後のサービスの先行きに要注目だ。

 
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