プロから学ぶ、動画の制作費

上流工程が品質を左右する

外部に動画を発注する際、悩ましいのが金額。「動画 制作」などで検索すると、多くの動画制作会社が見つかるものの、制作費が明記されていなかったり、記載されていたとしても、費用はまさにピンキリ。同じ1分の動画をつくりたいと思っても、10万円以下で制作するものもあれば、数百万円をかけるものもある。動画の制作費はいくらが適切なのでしょうか。

BtoB向け動画を多く手がける株式会社ヒューマンセントリックスの代表取締役を務める中村寛治さんは、動画制作費の内訳を次のように説明します。

「もちろん制作会社によって異なりますが、例えば弊社の場合、動画の制作費の内訳は、大きく企画・シナリオ(構成)が2~3割、撮影費用が2割、編集が2割、交通費などの実費が1割、営業管理費が2~3割と考えています。外部に発注する際はまず、この割合を念頭に置いておきましょう。なかでも重要なのが『企画・シナリオ』とヒアリングや打ち合わせにあたる『営業管理費』のいわば、上流工程です。ここが動画の品質やスケジュールを左右するポイントで、ここがうまくいけばいくほど、撮影~編集~納品までがスムーズに運びます。ですから、発注する際もこの上流工程に力を入れるようにしましょう」

01 外部に依頼した場合の制作費内訳

全体を10として、外部制作会社のコスト配分をグラフにしたもの。ヒューマンセントリックスの場合、動画の品質に直結する企画・シナリオに加えて、クライアントとのイメージを共有し、スムーズに制作を進めるために営業管理費を重視しているという

 

ベースとなる動画の“使い回し”でコスト削減

制作費の内訳を理解していただけたでしょうか。では発注側は動画の制作費をどのように考えるべきなのでしょう?中村氏は1本あたりの制作費は、それほど大きくかける必要はないとアドバイスします。

「例えば会社紹介の動画制作費として100万円の予算を確保したとしましょう。その場合、ブランディングを訴求した会社紹介動画を1本だけつくるのではなく、ベースとなる会社紹介動画を1本つくり、それを基に編集と若干の素材を加えて、『自社サービスに特化した紹介動画』『採用向け動画』など、何本かの動画をつくることをおすすめします。例えばベースとなる会社紹介動画を短く編集して、若手社員のインタビューを追加すれば、『採用向け動画』として使用することができます。テレビCMのように、完全なBtoC動画の場合、こういった方法は使えませんが、Webサイトで使ったり、SNSで使う動画の場合は、ベースとなる動画+編集+素材追加で本数を増やし、1本あたりのコストを下げる方法は常に考えておくべきです」

また動画制作に慣れていないと、動画の目的によって予算の考え方も変える必要があると考えがちです。例えばブランディングするための動画はしっかりお金をかけ、一方で、商品の使い方を紹介する動画はお金をかけずに制作するといった考え方です。しかし、中村氏は訴求する内容によって予算の考え方を変える必要はないと説明します。

「動画の制作費は、訴求する内容によって変わるのではなく、表現によってかわることも、外部に発注する際に覚えておきたいポイントです。新しいWebサービスを紹介する動画でも、フリー素材の人物画像を使って訴求するのと、モデルが実際に使っているシーンを入れたり、凝ったCGを挿入することで、費用は上がっていきます。ただ、こうした“表現”の違いは人の好き嫌いによるところも大きいので、費用=効果とは限りません」

02 動画は“使い回し”でコストを下げる

 

「お任せ」がコストダウンのカギ

次に一番気になる金額の違いについて見ていきましょう。動画制作会社のなかには、価格帯別に費用のプランが用意されているケースもあります。例えば同じ1分の動画でも、金額によって何が変わるのかがわかりにくいと感じる人も少なくないのではないでしょうか?

下の図はヒューマンセントリックスの動画制作費の価格帯。同社では「15万~25万」「40万~80万」「100万~300万」と3つのプランが用意されており、1つのプランのなかで2倍~3倍の価格差があります。

この違いは表現の差や、使う素材のボリューム、納期といった要素のほか、金額を大きく左右するのが、「制作会社に任せる範囲」だと中村氏は言います。

「会社案内のパンフレットのように、ある程度フォーマットが決まっているものと違い、動画は表現の幅が非常に広い。ですから、動画は撮影に入るまでのイメージを共有するための時間=コストがかかります。例えば、最初にヒアリングを行い、絵コンテで細かく打ち合わせを重ねれば、当然、それが制作費に反映されます。その結果、イメージに近いものができればいいのですが、動画は、絵コンテでイメージを共有しても、いざ完成したものを見ると、思っていたものと違う・・・というトラブルも少なからず発生します。ですから、信頼できる制作会社を見つけて、イメージを共有できたと感じたら、あとは可能な限り『お任せ』でつくることが、最もコストを下げる方法です。動画は撮影そのものよりも事前のコミュニケーションに時間がかかるので、そこをいかに減らすかが、コスト削減につながります」

つまり最終的にまったく同じ動画をつくることになっても、撮影以前のやりとりや確認を増やせば増やすほど、制作費はかさむ。一方でお任せにすればするほど、制作費が下がると覚えておきましょう。

03 動画の価格は訴求内容ではなく“演出”で変わる

上の図はヒューマンセントリックスが用意している3つの価格帯と、その内容。訴求内容は同じでも、「見せ方」によって、価格が変わってくる

 

動画制作で失敗しないためにできる3つのこと

動画の制作費を大きく左右する要因は、事前のコミュニケーション。とはいえ、初めての制作会社にいきなり「お任せ」するのは、当然、勇気がいるもの。そのために自社でできるのが、「テキストの用意」「イメージする動画の共有」「決定権のある人が打ち合わせを行う」の3つです。これらを行うことで、コストを抑えつつ、イメージに近いものが作れるようになると中村氏はアドバイスします。

「まず、動画で伝えたいことを文字で用意することです。そのまま使うかどうかは制作会社との相談ですが、1分の動画で300文字を目安に、まずは自社で作ってみましょう。テキストは打ち合わせをスムーズに運ぶためにも有効です。2つめが、つくりたいと思っている動画のイメージに近いものを見つけておくこと。もちろん、イメージ通りの動画を見つけるのは大変かもしれませんが、例えば、起承転結のシナリオはこの動画、全体の雰囲気はこの動画といった具合に、すでにある動画の『テンプレート』にのっとる形で進めれば、イメージ共有に役立つだけでなく、『企画・構成』にあたる費用も削減できます。そして1番、大事なのが、決定権のある人が、打ち合わせを行うこと。前述したように信頼できる動画制作会社に依頼した場合、ある程度の品質は担保されるはず。となると、あとは好みによるところが大きいので、上司の『好き嫌い』によって修正などが発生しないように、極力、決定権のある人が打ち合わせを行うようにすれば、無駄なやりとりを減らせ、結果的にコストを下げることができます」

表現の幅が広い一方で、慣れていないと制作費や予算をイメージしづらい動画。価格アップと価格ダウンの要因をしっかり把握して、適切な価格で制作するようにしましょう。

04 動画の価格アップ要因と価格ダウン要因

発注の際は、動画の完成後、価格アップの要因によって、追加料金が発生しないか確認しておきたい。反対に、価格ダウンの要因を知っておくことで、制作費を交渉できる可能性もある

教えてくれたのは…

中村寛治

株式会社ヒューマンセントリックス 代表取締役
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