
「動画」の効果測定のイロハ
いかに見られているか?「再生回数」が示す明確さ
これから動画マーケティングに取り組もうと考える側にとって、何からどのように手をつけるべきか、用意した動画をどのように評価したらいいのか、迷いどころが多いことだろう。動画初心者が気を使うべき指標とは、何なのか?
動画マーケティングを中心に、規模の大小を問わず手がけるグッドエレファントに尋ねると、真っ先に「再生回数」を挙げた。「再生回数」とだけ聞けば、あまりに単純な指標で肩透かしを食った思いの読者がいることだろう。
「長年、動画マーケティングに取り組んできて、巡り巡った見解が“再生回数こそが何よりの原点”だということ。これほど明確でわかりやすい指標が他にないからです」(村岡雄史さん、以下同)
再生回数自体は、管理画面を見るまでもなく、誰もが目にできる指標だ。わかりやすい指標だからこそ、安易に一喜一憂していいのか、とも思ってしまう。
「動画は主に投稿か広告かで分けられますが、両者に共通しているのは見られてナンボ。ましてや広告展開で利用するなら、なるべく短い動画ですよね、広告なんて長々と見てくれないですから。数秒でも視認できる、目につくことこそ重視すべきなのです」
だからこそ、シンプルに「再生回数」を重視する姿勢を確立しよう。

「再生回数」が「見られている」ことを明確に表す指標。その他の指標は、「再生回数を増やす原因を探るための指標」とも解釈できる
FacebookページとFacebook広告、どちらにするか?
ここでは具体的なシチュエーションで考えてみよう。例えば、Facebook(Fb)ページへの動画投稿から始めたとして、重視すべき指標は何だろうか。「再生回数」以外だと、具体的にユーザーがアクションしたことが伝わる指標を気にするべきだと村岡さんは語る。例えば「いいね!」や「シェア」、「コメント」の数だ。
「Fbページの管理画面では、ユーザーのアクションにまつわる指標“エンゲージメント率”を用意していますが、慣れないうちはわかったようでわからない指標です。再生回数のほかは、いいね!などの数値ならピンときやすい、ユーザーにリーチしていれば伸びてくる指標です。これらの数字も含めて、見られている度合いを確認すればいいでしょう」
また、Fbページの管理画面では、リーチやクリック数について確認できるページ(メニュー)がある。動画の本数がそれなりに増えてきた場合は、一覧で確認できるので便利だろう。
ただし、動画をやり始めた時期はほとんどのケースで、初速の伸び悩み(再生回数が伸びない)に直面するはず。初速を伸ばしたい場合に、Fb広告という選択肢が出てくるが、採用するかどうかは目的次第だとも村岡さんは語る。
「動画を使ってのマーケティングは、なかなか短期間で一定の成果をつかむのは難しいです。中長期的に見据えて進めるべきですが、あまりにスタートが低調である時、初速をつかむのにFb広告を利用する手はあります。広告経由でいいね!を集めたり、見せたい動画に触れる機会を増やすことはできるので、後はやる以上、少しずつでも継続的に行いましょう。月額5万円などと決めて単発ではなく毎月続けてやることが肝要です。一時的な突貫工事のような対策は効果が持続せず、投じた予算が無駄になりかねないからです」
少額の予算でも、継続して知見を貯めるビジョンを持っておきたいところだ。

動画の「完全視聴率」には気を取られないほうがいい
動画を運用していると、完全視聴率や視聴完了率という指標を目にすることとなる。動画を視聴したユーザーが、対象動画をすべて見た人の割合を示す指標のことだ。他にも「再生50%」(再生時間の半分を視聴)なら何人、というデータが取得できるので、動画のあるページのインプレッション数(もしくはセッション数)に対して、再生回数で割り出せば、訪問者がどれほどの割合で動画を再生したのかも数値化できる。
動画の質を高めるなど、より粒度の高い、きめ細かな対応を志向する場合、完全視聴率にまつわる指標は着目しておきたいが、「これから動画を始める」という人たちには、いたずらに気にする必要がない、と村岡さんは説く。
「動画初心者という人たちが、完全視聴率という指標に捉われ過ぎるのは非効率です。そもそもこの指標は、投稿動画の長さにも左右されます」
スモールビジネスも含めた動画マーケティングを実践してきたからこそ得た見解だという。動画「広告」を例にするとわかりやすい。本来は見たくない(見る気がない)動画を見てもらうためには、短尺(短い秒数で完結する動画)での展開が無難。そうした15秒の短尺動画をどれほどの秒数まで見たか、と細かく解析するメリットはあるだろうか?
「15秒は極端な例ですが、再生回数が伸びていないが完全視聴率が高い動画があったら、それは評価すべきかというと疑問が残ります。リーチできていないにも関わらず、見てくれた人の満足度の高さ(完全視聴率)でつい評価してしまう危険性には注意したいところです」
特に集客目的、認知拡大を目指す場合、スクロール中の最初の数秒で印象に残る動画なら、完全視聴率が高くなくても再生回数が高ければ、評価するべきだろう。完全視聴率に捉われ過ぎるくらいなら、継続的な動画投稿をきちんと守ることに注力していきたい。

短尺を例にしたが、長尺でも基本的な考え方は同様。特に長い動画ほど、最後まで見られないほうが自然ではないだろうか?
動画の貢献度を知りたい! 期待する反応を想定しておく
自社で動画を用意する場合、当然ながら目的によって評価の方法は変わる。ここでも、集客、認知拡大施策にとっての動画を中心に考えたい。というのも、これから始める場合に、事実上、主な目的となりやすいからだ。
「コンバージョン目的で動画投稿を続けても、正直難しいです。みなさんが動画に挑む理由が、集客要因、認知拡大が目的であればなおさらです。“知ってください”という相手に売り込んでも、“買いません”としかならないでしょう」
ここまで、まずはとにかく「再生回数」と謳ってきたが、もう少し踏み込んで動画の効果を知りたい、もしくは以前と異なる動画を展開したという場合、動画ごとで貢献度の違いを知る手立てはあるのだろうか?
「例えば、リアル店舗への集客施策で動画を活用するなら、“動画を見たお客様は、一声いただければサービスします!”といった内容を仕込んでおくと、来店客のお声がけの数から動画の浸透度をある程度は把握できます」
他にも、動画展開後の店名や商品名、社名などの指名検索数は見ておきたいところ。動画公開前後で数字に変化があるのか、その際の再生回数との相関性は? 原因と結果が見えてくる何か(検索数の伸びor伸び悩み)があるのか? など、決して小難しい指標にあくせくせずとも、確認しやすい指標を通じて、「その後」の対策につながる示唆は感じ取れるのだ。
「指名検索については、集客目的ではない動画でも同様です。例えば、商品説明用の動画を用意した場合、その動画の貢献度合いを指名検索数で見たり、再生数に対して動画のあるページへの来訪者数やセッション数などと比較する手もある。来訪ユーザーに対して再生回数が少なければ、動画の置きどころが悪いか中身が悪いのかを疑い、すぐに対策を打とう、と動けます」

動画投稿もしくは広告展開後に「再生回数」に合わせて、成果に結びつくユーザー行動を想定しておこう。動画が機能すれば、想定する行動指標が伸びているはずだ
動画でコンバージョンを気にしてもいいケースは?
では、動画でコンバージョン(購買、申し込み)を求めるのはすべてNGか、と言えばそうではない。
「すでに集客力がある状態で、集客後のユーザーを想定したLP(ランディングページ)で展開する動画は、コンバージョンを意識して構いません」
ここで村岡さんからは、実際の店舗に置き換えた説明をいただいた。
「動画初心者や、ここまで主に想定してきた集客目的の動画のミッションは、(知らない相手への)認知拡大です。いかに広まるか。その指標として再生回数をはじめ、ユーザーのアクションがわかる指標に着目してきました。では、集客目的の動画によって関心を持ったユーザーが、LPに来訪したら? リアル店舗で言えば、お店の中に入ってきた状態です。お店の前を通りかかった人、“何だろう?”と思っている人に無理やり買わそうとするのは無理がありますが、店内のお客様に対してなら、もう少し踏み込んだアプローチでもいい。もちろん、さじ加減はありますが、無関心ではない相手には、直接的な目的を求めた動画を用意する道理はあります」
再生回数とコンバージョン数を比べることで、どれほど動画が効力を発揮しているかを測ることもできるだろう。
「これから動画を始める場合、コンバージョン目的の動画を用意できる余裕は持てないと想像します。無理して用意するなら、集客目的の動画を定期的に投稿して、まずは動画そのものの運用に慣れる方を優先してほしいですね」
とはいえ、動画を展開する延長線上には視野に入ってくる導線だ。先のことかもしれないが、意識はしておきたい。
最後に総括すると、効果測定=難しい指標の読解ではない。より微に入り細に入った分析に、さまざまな指標の読解は欠かせないが、主だった指標のみでも意味を噛み締めて確認すれば、事業に役立つ効果測定が可能なのだ。

集客目的の動画にコンバージョンを求めるのは無理があるが、LPへの来訪ユーザー(集客後)ならば、踏み込んだ内容の動画で結果(コンバージョン)を追求するのは合理的だ

- 教えてくれたのは…村岡雄史
- (株)グッドエレファント 代表取締役 宮崎県に本拠地を置くデジタルマーケティングカンパニー。自社動画メディア「ゴルファボ」を運営中。