現場で機能するCMSの運用体制

CMSは導入しただけでは意味がなく、いかに使いこなすかが問われます。そこで、継続的な運用を見据えた導入支援、開発業務で実績を重ねる(株)マイクロウェーブに、CMSにまつわる運用体制のあり方について話をうかがいました。

1. CMSで実現したい理想と現実の洗い出し

導入段階で踏まえたい3要素「予算」「品質」「期限」

デジタルを使ったビジネス最適化において、CMSの導入を決めただけでは何も始めることはできません。きちんとしたCMSに絡んだ運用体制を組めてこそ、ようやくビジネスのスタートラインに立ったことになります。導入すること自体は目的とはなりえず、CMSという1手段を選んだに過ぎないからです。

まずは、CMSの運用体制と向き合うとき、CMS選びが大きなポイントになります。その際に、3つの要素を押さえるとわかりやすいです。1つ目は「予算」、2つ目は「品質(クオリティ)」、3つ目は「期限(デリバリー)」です。つまり、どれほどのコストをかけて、どういう機能を搭載したCMSが望ましくて、いつまでに導入しておくといいのかを考えます。

こうしたことに触れるのは、私たちが実務で直面するケースの中に、3要素のうち、予算と期限は明確で先行して伝えられる一方で、「どれほどのレベル感のCMSにしましょうか?」という品質にまつわる話になると、詰めてきていないクライアントが少なくありません。背景には、とりあえずCMSを導入すると便利、という考えが先立つからでしょう。

その場合は、ゴールを意識したロードマップを描くようにしてください。本来的には導入前の段階に描いて、本当にCMSの導入が必要か、のところから検討しましょう。全体像が描けると、全体の中でCMSが担う役割が何かを明確化しやすくなります。

CMSの導入背景の多くが、誰にとっても効率的に更新しやすい仕組みがつくれる、つくりやすいということが挙げられます。CMSは提供したいコンテンツを管理できるツールですが、一方で管理の主体である導入側は、何をどう管理するのかをコントロールできなければいけません。CMSは決して適切なコンテンツを自動でつくって配信してくれる道具ではないからです。

CMSという手段を、どう活かしたいのか? 予算、品質、期限の3要素に基づき用意したCMSで、ビジネス最適化を実行しましょう。

理想と現実との「乖離」を埋める

CMSが担うべき役割を整理する際、現実に即した運用について考える必要があります。実際に現場でどうCMSが活用されるのか、継続的なプロジェクト運営にCMSとその体制が寄与するのか。導入前は机上での想定になりがちですので、現場で実際に通用するのかという視点を外さずに判断しましょう。

導入後に運用が始まると、狙い通りに機能するプラスの現実とともに、意図に反してうまく機能していないマイナスの現実に直面する可能性があります。例えば、更新利便性の1つとして承認フローも自動化を目指し、CMSに多段階承認機能を搭載したら、必ずより良い現実が待っているでしょうか。

承認機能ができてしまったために、承認フローが複雑化したらどうでしょうか? 承認フローがボトルネック化して更新頻度に支障をもたらす可能性を高めては本末転倒です。機能ありきで考えると怖い点が、「いざ現場で機能するのか」です。一例で挙げた承認で言えば、CMS担当部門が小さなチームで、日頃から責任者への声かけがしやすい環境なら、アナログ管理の方がまわりやすいかもしれず、最低限の機能にとどめる選択が現実的ともなります。

特に外部パートナーと連携している場合、希望する機能について、予算や期限だけでなく使いこなしの観点から妥当性があるのか? もたらされる理想と現実について、きちんと説明を求めましょう。その内容が本当に導入側のメリットなのか、想定していたメリットと近しい内容かを判断するのです。

搭載機能と運用場面との相性に要注意!
セキュリティは、インフラ(仕組み)のほか、コンテンツの側面など、考えるべき範囲がかなり広いです。AやBのように自分がかかわる側面しか見えていないのではないか? 自らが認識できている範囲の確認から始めましょう

Point❶
「予算」「品質」「期限」に基づくCMSと、最善の運用を擦り合わせ、体制を組む。
Point❷
CMSに実装すべき機能は、運用を支える使いやすさ、現場での使いこなし度合いで判断する。

2. 現場での使いこなしを意識した体制づくり

CMSに関わる人たちの置かれた状況を整理する

導入したCMSを、いかに現場で機能させるかは、CMSに関わる部門や人材について細かく洗い出せるかどうかにかかってきます。ある程度洗い出せると、運用体制を組む上でも現場に即しやすくなります。

例えば、CMS担当部門がコンテンツを管理するのか、部門横断的に、さまざまな部門がそれぞれの適切なタイミングで公開できる体制がいいのか。特に後者は、業務内容や属性など異なる人たちが数多く集い、関与する可能性が高まりますので、きちんとした洗い出しが求められます。

意識してほしいのは、CMSに携わる部門と人の定義をすることです。組織や人によって、デジタルスキルの度合いが異なるからです。もし特定の部門が更新/公開業務を担うフローにしたい場合、日頃から利用頻度が高いので、一定以上のスキルがある人たちが操作するという前提でCMSを導入することになるでしょう。

一方で、さまざまな部門で操作の可能性がある場合、一人ひとりの背景もスキルセットもまちまちですし、部門によってはそれほど頻繁に操作しない場合も考えられます。判断としては、なるべく操作の可能性がある人たちの誰もが迷わない、ベーシックでやさしい設計にする。もしくは、ベーシックな設計は変えずとも頻度が少ない部門にはあわせない、という判断もできるでしょう。どちらにしても、スキルレベルと利用頻度を評価軸にして、関係者を割り出すことで、現場に即したCMSについて検討しやすくなります。設定したレベルの根拠になるので、可視化できて考えやすくすることは、とても大切なことです。

ほかにも、担当者が変わることも想定しておくべきでしょう。スキルレベルを高めに設定するリスクは、属人性の強い判断をしたことで、引き継ぐ立場の変更後の担当者が操作できかねないことです。あらゆる要因を可視化しながら、部門や人材の洗い出しは行うようにしてください。

CMSに関わる人や部署を整理する
コンテンツを更新機会のある部署や人を割り出す場合、例えばスキルや利用頻度でマッピングしながら、どのゾーンにあわせるともっとも望ましいCMSとなるか検討しやすくなります

社内と外部も交えた現場に即した体制を組む

導入する側、社内の洗い出しとともに、社外が関わる動きもあわせて可視化できるようにしましょう。多くの場合は、外部パートナーとともに進めるケースが多いと想像します。運用体制を組む場合の登場人物を、外部パートナー、社内と、それらを支える管理環境も含めて洗い出します。さらに社内については、現場で動く担当者と承認者では求められる動き方のレイヤーが違うので、ここも分けておきます。

上の図は、デジタル施策としてCMSを搭載したWebサイトを構築した際のワークフローの一例です。みなさんは、実際の施策にあわせて各タスクや位置づけをカスタマイズしながら利用してみてください。フローの可視化ができて、各レイヤーで共有できると、全員が同じ全体像を描きやすくなるだけでなく、ボトルネックの解消にも役立ちます。

実際に進めていくと、うまく進まないタスクが出てきますので、共通で可視化してあるフローがあると具体的にどこで何に詰まっているのか? 人材なのか技術なのか手順なのか、というボトルネック要素が見つけやすくなります。実際に開発や制作が進むと、目の前の工程を優先し、俯瞰した判断がしがたく、フローの問題点が深刻になりかねません。初期段階で関係者にわかりやすく表面化できれば、現実に即した運用フローへと軌道修正しやすいです。

ただし、ガチガチにルール化しすぎても、現場でフローがまわらなくなります。洗い出した要素をどこまで突き詰めるか、現実にあわせるかは、社内外の状況を勘案しながら最終判断しましょう。

社内外の運用/管理体制を視覚化する
社内外でレイヤーの異なる人がどう関わって制作/公開されるのかを視覚化しておけると、より現実に即した運用体制が組みやすくなるほか、運用後のボトルネックが洗い出しやすくなるでしょう

Point❸
CMSに関わる登場人物を洗い出し、スキルレベルと利用頻度にあわせた体制を組むのがベター。
Point❹
社内外の動きを可視化し、関係者同士で共有しておくと、後々出てきた課題にも取り組みやすい。

3. ボトルネックが解消できる運用体制づくりを!

運用体制の可視化が導くブラックボックス化の防止

運用体制で大切なことは、やりたい理想とできる現実を洗い出しながら、現場で機能するフローを組めるかどうかです。ここまでに、関わる人材や社内外の体制を洗い出してきましたが、最終的には、CMSを導入し運用するそもそもの動機や狙いについて洗い出し、運用体制に反映してください。

そもそも運用の肝は、CMSを通じて実現したいことです。実現したいことがあって、その手段としてCMSが選ばれたわけです。仮にCMSで何かしら問題が生じた場合、まず立ち返るのは実現したいこと、やりたいことです。もちろん、運用を進めるために「手順」が必要で、手順を実行する「人材」が必要です。上の図は考え方、思考の流れを可視化した例になります。運用を支える3要素(実現したいこと/手順/人材)をしっかり洗い出しましょう。洗い出しても出てこなかった要素は、CMSの運用には反映されていないので、もしボトルネックが洗い出しになかった要素であれば、実情にあわせて要素を加えて、適宜中身をチューニングしてください。

こうした整理を勧めるのは、フローのボトルネックが生じたとき、円滑に原因究明しやすく、問題解決が効率的にできるからです。また、洗い出せていなかった要素も可視化できるので、体制の強化に便利です。あとは、洗い出しに基づいた運用(アウトプット)に対して、定期的に検証をかけて状況を確認しておけると、目的に沿ってプロジェクトが機能していないといった問題がブラックボックス化、見えにくくなることも防げます。

例えば、現場で作業が遅延しているのは、タスクに対して経験者でないとできない操作を未経験者が担っているのか? 未経験者が操作できる仕様だったか? 指示書がないからできないのか? 担当者の原稿待ちなのか? 現場は常に動いています。可視化と相性がよくない「情報」を扱う業務だからこそ、洗い出しによる可視化は意識しましょう。責任の所在が問われる場面でも、対応しやすくなります。

CMSでなぜ、何を、どのように運用するかを可視化
目に見えない「情報」を扱うので、CMSでの運用をコアに置き、関わる要素を可視化できるとベター。やりたいこと、手順、人材について常に立ち返りながら、深刻なボトルネック化を防ぎ、CMS運用の円滑化につなげましょう

継続性を念頭に置きながら変化に対応できる体制を組む

ここまで見てきた通り、CMSに関わる人や要素を洗い出し、整理していくと、案件ごとで最適化し、現場で動かせる運用体制が組みやすいです。そうすると、上のような工程にもつながります。

運用体制を念頭に置いて工程の順番を追えると、各項目の中身が現場でいかに機能するかという視点が抜け落ちずに内容を詰めていけます。ビジネスの現場で難しいのは、工程ありきになりがちで、本来なら現実に即しながら導き出したいところ、その過程を待てずにCMS導入側がいきなり正解を求めてしまったり、制作側も経験上の手順ありきで先へと進めてしまうところです。そうなると、現実的には機能しづらい側面が残りやすくなるので注意が必要です。

また、運用過程の中で何かしら齟齬が出てきたら、現在進行形のプロジェクトと並走しながら問題解決できることが求められます。いくら理想と現実に敏感になりながらでも、商品リリースやずらせないタイミングにあわせて準備した時点でのCMSと、運用が始まって、ビジネス体制の変化にあわせて求められるCMSでは違ってきます。役割の変化にも対応できるCMSを組み込み、運用できるのが理想です。

運用体制を考える場合は、中長期を見据えながら、ビジネス上の変数要素もうまく取り込める形でフローや仕組みに反映できるか。そこにCMSがどういう役割として存在するのか。役割をまっとうできるために、関わる人材が動けることが大切です。

実行できる運用を意識して開発工程を組む
運用を背景にして工程を組めると、操作水準や細部の使いやすさを導入側に沿って組みやすくなります。上はマイクロウェーブの協力のもと、編集部が作成

Point❺
CMS導入に必要な要素、手順、人材に立ち返ると、問題が生じても、解決に向けて対応しやすい。
Point❻
関わる部門、人の違いで思惑は異なる。各所の思惑のコントロールこそ運用体制の中枢を握る。

教えてくれたのは…高田志郎さん(株)マイクロウェーブ 執行役員https://www.micro-wave.net/
関 俊春さん(株)マイクロウェーブ セールス本部 アシスタントマネジャー プロデューサーhttps://www.micro-wave.net/
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