中長期的に考えるCMSの運用と体制づくり

せっかくCMSを開発/導入しても、運用体制が整備されていないと十分な成果に結びつけることができません。円滑に運用を進めるためにはどんな課題があり、どんな対策を講じればいいのでしょうか。企業・団体・自治体など、CMSサイト構築で多数の実績を持つ株式会社インフォネットの岸本誠さんにうかがいました。

導入したCMSが数年で使えなくなってしまう理由とは

いま、企業・団体などが持つWebサイトには何らかの形でCMSが導入されていることがほとんどです。しかし、(株)インフォネットに依頼を寄せるクライアントから多く聞かれるのは、それが「使えない・使いづらい」という声だといいます。その理由として同社代表の岸本誠さんが指摘するのは、導入時点からWebを取り巻く環境が大きく変化しているということです。

「当初はお知らせの部分だけ社内で更新する形で導入したものの、コンテンツの量が増え更新するページが多岐に渡るようになった。あるいはスマートフォンへの対応が必須になった。そうした変化によって当初の想定が崩れ、改修を余儀なくされているケースが多く見られます」(岸本さん、以下同)

導入当時はこれでいいと納得していたものでも、ビジネス環境に合わせて事業の規模や内容が変われば顧客から求められる情報も変わり、導入時の設計が実情に合わなくなってきます。制作・更新業務などの社内体制も再編する必要が出てくるでしょう。

また、導入が4~5年前にさかのぼるCMSではスマートフォンへの対応が十分でないまま使われ続けているケースもあるかもしれません。現在、スマートフォン対応は「お作法」のレベルで必須であるだけでなく、検索順位に大きな影響を与える要素にもなっています。

さらに、導入した当時の担当者は問題なく使えたものの、それが適切に後任へ引き継がれず運用に支障が出てしまうことも少なくないといいます。

もうひとつ、改修を検討する理由として最近増えているのは業界的にオープンソースを避ける流れがあることです。

「省庁や自治体がWebサイトを持つ際にはオープンソースのCMSを使わないよう総務省から案内が出て久しい中、一般企業においてもセキュリティ意識が高まってきています。ある程度高機能、高セキュア、そしてきちんとサポートのあるものが必要とされるようになっています」

変化し続ける環境の中で円滑な運用を継続するために何が必要なのか、そのポイントを見ていきましょう。

OPERATION #1 円滑に継続するために運用視点で設計する

現状の基準では長持ちしない長期運用を見据えた設計を

CMSを開発/導入したら、できるだけ長期間、円滑に活用を続けたいもの。しかし、設計段階ではどうしてもその時の環境を基準に考えがちになってしまうと岸本さんは指摘します。

「例えば、その時の担当者のスキルを基準に(機能の使用が)できる・できないを判断したり、いま作業で困っていることを持ち出してこの点をこうしてほしいと細かい要望が挙がることもあるでしょう。しかし、“長持ち”するCMSをつくるためにはこれはお勧めできません」

Webサイトは基本的に何年も運用を継続していくことが前提です。3年後、5年後にどうなっているべきなのかを見据える必要があります。そのとき土台となるのは、そもそもWebサイトの目的が何なのかということです。CMSは、その目的を実現するための環境として設計される必要があります。そして重要なのが、その環境を機能させる運用体制を並行して考えていくことです。

例えば、製品紹介・IR・採用などさまざまな情報を複数の部署から更新する場合、各部のコンテンツ制作体制や掲載権限を社内的に整理しなくてはなりません。一方、人事異動に備えてスムーズに業務を継続するためのマニュアルやガイドライン整備も求められます。

「私たちが担うプロジェクトでは運用を見据えた制度設計やマニュアル整備などもタスクに組み込むことがあります」

同社が手がけた学習塾「スクールIE」などを運営する(株)やる気スイッチGHDの事例では、全国約1,300の教室がそれぞれにお知らせや時間割などの情報を更新できるシステムを構築。すべての教室で講師が随時更新できる使いやすさに配慮し、全国共通で更新される情報との兼ね合いなど、効率よい運用のための制度設計も行いました。

設計段階から中長期的な運用方法も織り込んでいくことが“長持ち”するシステム開発のポイントです。

現在の状況を基準にすると、環境が変わった際に対応しにくくなる。その時点で必要な条件だけでなく、中長期的な運用方法も検討要素に織り込もう

Point
【1】現状を基準にせず、中長期の運用を想定しよう
【2】運用の制度設計やマニュアル整備も並行して行おう

明文化しないと陥りがちマニュアル化すべきポイントは

実際の運用に際しては、マニュアルやガイドラインの策定、またサポート体制も考えておく必要があります。具体的な内容は個別に大きく異なるため、設計段階から開発元と検討を進めるのがよいでしょう。しかしミニマムな部分では共通して注意したいポイントがあると岸本さんはいいます。

「ひとつは文体です。ページによって『です・ます調』と『だ・である調』が混じったり、砕けた文体が使われてしまうことを避けるため、ルールを設けたが良いでしょう。また商品・サービス等の名称の表記も統一したい部分です」

ロゴ・カラー関係のレギュレーションを策定している企業は多いと思われますが、テキストは意外に見落としがちです。特に複数人体制や部署をまたいだ体制の場合は注意したいポイントです。

また、ある程度作業に慣れてくると、情報を強調しようと太字や背景色を使うなどの“工夫”をしたがる人が出てくるものです。作業手順についても、慣れによる自己流はミスの元になりかねません。作業パートごとに最低限守るべき作法や手順を明文化しておくことが望ましいでしょう。

「私たちはそれらのドキュメント化もプロジェクトに含めて行なっています。予算との兼ね合いになりますが、場合によってはCMSの管理画面にヘルプページの形で用意することも可能です」

さらに、インフォネットでは自社開発の「infoCMS」導入企業に対して電話・メールでの問い合わせ対応やチャットボットなどの形でサポートを提供しています。先のやる気スイッチGHDの事例では、各教室に更新の手順をまとめたマニュアルを配布。オンラインのサポートもよく利用されているといいます。

多数の拠点のサポートを企業が自前でカバーするのは大きな負担です。運用体制に含めて検討し、利用できるサービスがあれば適切に活用しましょう。

文体・表記の統一もWebサイトのクオリティのひとつ。項目によっては文字装飾の機能をCMS上で制限してしまうのも手段

Point
【1】文体・表記・手順などは明文化して共有しよう
【2】サポートサービスがあれば状況に応じて活用を

OPERATION #2 ビジネス成果を出すために運用計画を立てる

事業計画がコンテンツに直結 Webサイトにも運用計画を

企業の顔となるコーポレートサイトは、本業のビジネスと切り離して考えることのできないものです。それだけに、事業計画と二人三脚で歩めるようWebサイトの運用計画も中長期的な視点で考えていく必要があります。

日々の更新作業に追われている現場では中長期的な計画と言われてもピンとこないかもしれません。しかし、コーポレートサイトは企業の動きに連動して情報を提供する場。つまり、企業の事業計画を手がかりにサイト運用計画を考えれば良いのです。

「例えば、事業計画書や各部門に聞き集めた情報などから、来年はこの事業に力を入れる、新卒採用を今年より増やす、あるいは数年後に上場を計画している、といった動きがわかったとします。コーポレートサイトでは必ずそれに即したコンテンツを載せる必要がありますから、担当部門としてこれらの動きに対応するためにやるべきことを検討していきます」

やるべきことが整理できれば、その対策と具体的な時期をある程度見通し、運用計画にまとめることができるでしょう。実際に要望や提案を起こす際には承認を得るための説得材料としても役立ちます。

担当者が1名体制で、計画策定まで行う余力がないという場合でも、可能な範囲でできる対策を採ることを岸本さんは勧めています。

「少なくとも、現在担当者が行なっている作業をドキュメント化・マニュアル化しておくことが望まれます。いまは一人でも、ゆくゆくは部下や後輩ができるかもしれません。事業拡大や新規ビジネスのためにコンテンツの量が急増するかもしれません。その時、人員を教育するにしてもシステムを更新するにしても、現状の作業内容や課題点をしっかり把握できていることが大事なポイントになります」

必要となるコンテンツや制作体制など、経営計画や社内の動向に対応した形でWebサイトの運用計画を立てよう

Point
【1】会社の事業計画に合わせてWebサイトの運用計画を立てよう
【2】できない場合は最低限、現在の作業のドキュメント化を

円滑な運用を継続するためにさまざまな状況への対策を

ビジネスの現場では毎日のように“何か起きる”のが当たり前。日々さまざまな状況の中で、円滑に運用を続けるためにどんな準備が必要なのでしょうか。

例えば掲載承認の権限を持つ人が休暇や出張、または不測の事態で出社できない場合があるかもしれません。必要な時に更新できない状況に陥らないよう、別の承認ルートをあらかじめ用意しておくことが考えられます。

また、異動や組織変更の際に滞りなく業務を引き継ぐには、先にも述べたようにマニュアルやガイドラインを策定しておくほか、定期的な勉強会の開催も長期的な視点から取り組みたい項目です(後述)。

さらに、災害などの緊急時にどのように対応するべきかという点も事前に検討し、起き得る事態に備える必要があります。岸本さんは、企業がBCP(Business Continuity Planning:非常時の事業継続・復旧計画)を策定する際にはWebサイトもその項目に含めておくことが望ましいといいます。

「すでにBCPが策定されている企業でも、その中でWebサイトの対応については触れられていないことがあります。被災地域にある企業のWebサイトが長期間更新されない状態では事業継続の信用に関わります。『全社員の安否を確認しました』『何月何日より営業を再開します』など、お知らせが一言あるだけでも違います。特に、ある程度の規模の企業なら社会的責務として対策しておくことが必要だと思います」

とはいえ、日常的にありがちな状況から非常時まで、具体的にどんな事態に備えるべきかは企業によって異なり、その対策も違います。

「企業のWeb担当者だけでこれらの対策をすることは実際には難しいと思います。開発会社・制作会社に話を投げかけ、タッグを組んで対応していくのが良いでしょう」

日常的な担当者・部署間の連携から、異動や組織変更、災害などの緊急時まで、さまざまな状況を想定した対策を用意しよう

Point
【1】さまざまな状況を想定して円滑な運用のための対策を立てよう
【2】経験ある開発会社・制作会社の協力を得て取り組もう

OPERATION #3 経験が推進力になる社内風土を育てる

クリエイティブな活用のために負荷を集中させない仕組みを

Web担当者の仕事とは何でしょうか。岸本さんは、それはWebサイトを更新することではないと言います。

「いま求められるのは、Webサイトをいかに活用するのかを考えることです。担当者が更新作業に手を取られるばかりになると、どうしてもクリエイティビティが損なわれてしまいます。それはビジネスチャンスのロスを招く事態になると私たちは考えています」

日々、必要な情報を更新していくことはもちろん重要です。しかし、マーケティングの一環としてWebサイトを運用していくならそれだけでは不十分です。コンテンツを企画・制作しPDCAを回す、顧客との信頼を築く、それをビジネス成果につなげる。そうしたクリエイティブな仕事が求められます。では、これを実現する環境づくりのためにどんな対策を講じればいいのでしょうか。

営業や人事など複数の部署がコンテンツの制作・掲載を必要とする場合、各部署に適切な権限を付与することで担当部署1カ所に負担が集中することを避けられます。また、システム管理やサポート系など制作以外の業務をフォローする体制も整備が望まれます。

コンテンツの種類によってはCMSの開発段階で工数削減の工夫を取り入れることも可能です。例えばECサイトや商品カタログページなどの場合、データベースと連動させて追加・更新情報を自動的にWebサイトへ反映する仕組みをつくることができます。ミスを防ぐ意味でも自動化は効果的な手段となります。

いまのWeb担当者は、コーポレートサイトのみでなくSNSアカウントの管理やオウンドメディアのコンテンツ制作なども任されるケースが少なくないでしょう。そうした中、単に「更新係」に留まらず、中長期的なサイト運用やマーケティングを念頭において活用に取り組める仕組みづくりが求められています。

負担が集中する状況ではクリエイティブな活用ができない。急な要望や上司の思いつきに担当者一人が振り回されない仕組みづくりを

Point
【1】負荷の集中を避けクリエイティブな仕事ができる仕組みを
【2】CMS開発段階から運用時の工数を削減する工夫をしよう

担当者の取り組みが左右するWebを活用する風土づくり

インフォネットでは、infoCMS導入企業を対象に希望に応じて年2回程度の頻度で勉強会を行なっているといいます。勉強会といっても、そこで学ぶのはCMSの操作方法やコンテンツのガイドラインばかりではありません。担当者にとって、知識の他に「意外に必要なファクター」と岸本さんが挙げるのは、Webサイトを更新する“楽しさ”です。

「最初は、自分はわかっていないからと敬遠する人もいます。兼務で担当に配属され、業務が増えただけと思う人もいるでしょう。だからこそ知識を教えるばかりでなく、更新したページから問い合わせがあった、コンテンツに反応をもらえたなど、良い経験を共有する場にすることが大切です」

これは長期的な視点から社内にWebの活用を推進する土台づくりにもなる取り組みです。いくら良いCMSを開発/導入しても、コンテンツの充実度は担当者の姿勢が左右します。楽しさを覚えれば継続するし、より積極的に取り組むようになるでしょう。担当部署にこの土壌ができればまずは成功。その後、人事異動で経験者が各部署へ散らばったとき、新しい仕事でもWebを活用してみようと、さまざまな発想が生まれてくる可能性があります。

人事異動は現場にとって負担となる面もありますが、円滑に引き継げる体制があれば、社内にWebを活用する風土を育てる機会にもなり得ます。これは結果論としてではなく、中長期の運用計画の一環として組み込みたいポイントだと岸本さんはいいます。

「コーポレートサイトに限らず、ECサイトもオウンドメディアも、Webサイトは基本的に時間をかけて育てていかなくてはならないものです。担当を経験していない人や経営陣に対しても、Webサイトをどう使っているのかを地道に共有し全社的な風土づくりに取り組むことが大切です」

CMSの使い方を学ぶだけでなく経験や楽しさの共有にも勉強会の意義がある。全社的にWebを活用する風土ができれば、運用にとってもよい影響となるだろう

Point
【1】勉強会ではスキルだけでなく楽しさも共有しよう
【2】社内にWebを活用する風土を育てていこう

岸本 誠
株式会社インフォネット 代表取締役社長

株式会社インフォネット
株式会社インフォネット。Webサイト、CMSサイト構築を包括的に担う。自社開発のCMS「infoCMS」をASPの形で提供。運用サポートにも力を入れている。 https://www.e-infonet.jp/

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