
3つの事業が生態系のように繋がるカイシャ「NON-GRID INC.」
3つの柱が紡がれて生まれるコミュニケーションとデザイン
新規事業を立ち上げよう! というとき。自社の既存顧客の好む領域だったり、これまでの知見を活かせるものから発展させたり、そんな始め方が多いと思うのですが…。人によく会うライターの私なら、コーディネーターなんかもアリかなぁ、どのくらい稼げるかしら、とか。
しかしこの道16年、クリエイティブ界で名を馳せたノングリッドが、2014年からスタートしたのはジュース屋さん。しかもブランディングだけではなく、農家さんとの取引や製造までまるっと自社営業です。最近は、野外出店用にトラックまで作ったそう。
今回の取材場所は、カンヌのトロフィーがずらっと並ぶ応接間。そのドアを隔てた向こうには、バナナやレタスがゴロゴロ。「Why Juice?」の試作品はオフィスでもつくってるとか(工場は代官山と新潟だそうですが)。
なぜジュース? そこから紐解いて見えてきたのは、彼ら独自の、とっても健康的な生態系!
小池:会社を立ち上げたのが2000年のことでしたが、長年ずっと都心での夜型生活が中心で、食生活もひどいものだったんです。でも地方に行く機会があって、そこで新鮮な野菜を食べたときに「今まで食べてたものは何だったんだ?」という衝撃を受けまして。素晴らしい農家さんたちの生産活動を、僕らのアートディレクションやプランニング、デジタルスキルでどうにか手助けできないか、と考え始めました。震災も重なって、食の安全性に対する意識も芽生えてきたんです。それで、本当に新鮮で安全で美味しい野菜を食べてもらえるように始めたのがWhy Juice?です。
ーーこれまでの事業と全く違うことを始められて、なにか変化はありましたか?
小池:農家さんや、美味しいものを食べている方々がみなさんハツラツとしているからか、私もめったに怒らなくなりました(笑)。仕事内容も変わって、農園でキャンプしたり、田植えイベントをしたり。これからは農家さんのことを知ってもらえる“場づくり”に、もっと力を入れていきたいんですよ。
ーー後ろにずらっと広告賞のトロフィーが並んでいますが、今聞いているお話とはずいぶん、方向性が異なるような…。むしろ、野菜が並んでいたほうが腑に落ちます!
小池:いやいや、ノングリッドは制作プロダクションとクリエイターマネジメントが2本の柱としてあって、そこに3本目としてWhy Juice?が加わった、というバランスですよ。ただ、最近は広告賞を狙う仕事はほとんどなくなりましたね。副産物として評価してもらえると、ありがたいですが。
ーー広告賞の話も深堀りしたいですが、それ以前にクリエイターマネジメントというのはなんでしょう?
小池:2012年に始めたんですが、才能あるクリエイターに籍を置いてもらって、彼らがクリエイティブに集中できるようサポートしています。彼らに毎日の出社義務はないのですが、週に1度の定例をして、活動内容や目標、悩みなんかを話してますね。
ーー悩み相談ができるのはすごくいいですね。フリーランスだとなかなか難しいですし…。軍司さんは、所属クリエイターなんですよね。
軍司:はい。僕の場合は、個人的にアートをつくっているのでその活動をサポートしてもらったり、ノングリッドの案件にアートディレクターとして関わったり…という形です。この環境、僕にとってはすごく良いんですよね。デザインで自分のやりたいことを実現しようとすると、ひずみが生じてしまう。アーティスト活動とデザイン案件を両立することで、俯瞰して考えられるようになってきました。デザインはまるでフィールドワークのような感じで、そこで知ったことをアート作品に還元できる。Why Juice?のアートディレクションも担当しているので、売上の数字まで細かく見られるでしょう。その視点がまた広告案件にも活かせるんですよ。
ーーものすごい好循環ですね。自社プロダクト、デザイン案件、アーティスト活動の3つが相互作用している…!
シンディー:軍司くんはデザインも得意だからいろいろとお願いしてるけど、契約関係や進行管理、金銭面をノングリッドがサポートしている、というケースもありますね。案件内容によっては、マネジメント側は通さずやりとりしてもらうこともありますが。才能のある方が、働きやすい環境をつくるのも僕らの仕事です。
ーーすごい。まるでタレント事務所みたい。
小池:クリエイターマネジメントの部分は、まさにそんな感じです。でも、もしノングリッドがマネジメントだけの会社だったら、すぐに解散していたと思うんです。あくまでも広告制作がベースにあって、そのためには優秀なクリエイターとしっかり繋がっていたい。お互いに必要な関係だからこそ、マネジメント環境が機能してくる。「NON-GRID」という社名の通り、既存の制度や物事を「グリッド」と捉えるとすれば、僕らはそれを越えていきたいんです。
ーー個々人のタレント性を大切にするのは、なんだかとっても2016年的な組織の在り方ですよね。2000年創立で、Web業界だと老舗と言われるかもしれませんが…類を見ないような組織体系にびっくりです。
小池:僕らも、所属クリエイターをプロモーションしていく力はもっと伸ばしていかなければいけないし、まだまだ課題もあるんですけどね。でも、たとえばノングリッドの展覧会では、軍司くんのアート作品を販売したり、所属クリエイターの丹羽俊介くんが手がけているファッションブランド「MEAN」の展示会も兼ねたりして、できる限り機会を増やせるようにしています。
ーーいやいや、至れり尽せりな環境に思えてくるのですが…でも、一般的な制作プロダクションよりも事務作業が増えて、社員さんは大変なのでは? 瀧瀬さん、ぶっちゃけいかがでしょう?
瀧瀬:私はノングリッドに新卒入社しているので、一般的な…というのがよくわからないのですが、所属クリエイターだけじゃなくて、社員も自分のスキルや興味の方向にあった領域の仕事ができていますね。当たり前のことかもしれませんが‥私の場合は制作進行やディレクションがメインですが、広報や通訳もします。
ーー当たり前のようで、意外とそうじゃない会社も多い気がします。採用のときから、一人ひとりの適正をよく見られるんですね。
瀧瀬:あっ、でも実は私、最初、関連会社のIMG SRC(イメージソース)に入社したと思っていて。蓋を開けたらノングリッドだったんですよ。どちらも小池が代表だし、オフィスも同じ場所だし。私が気づいてなかっただけなのかもしれないのですが(笑)。
ーーそこの境界線も越えてくるんですね(笑)。実際、デジタルプロダクションのイメージソースとは、どのように関わっていらっしゃるのでしょう?
小池:イメージソースではインスタレーションやデジタルサイネージに早くから注力していました。一方でノングリッドはテクノロジーに限らず、必然性があればテクノロジーを使うし、なければ他の手法で提案します。だからテクノロジーを使った規模の大きな案件などは協業することが多いですね。もちろん、ほかのデジタルプロダクションとご一緒することもありますし、そこも型にはまらず、という感じです。
ーーお話を聞いていると本当に、クリエイターにとって最高の環境ですね…。
小池:ありがとうございます。でも、Why Juice?を運営することで、クリエイターもマーケティングの観点から物事を見られるような環境にしたいし、これまでにない広告を制作するためには所属クリエイターの才能が必要だし。すべてに必然性があって3つの柱をつくって、それぞれを繋げている…というのが今の形ですね。
ーーまさに“NON-GRID”ですね。ありがとうございました!

- Text:塩谷舞(しおたん)
- 1988年大阪生まれ、京都市立芸大卒。PRプランナー/Web編集者。(株)CINRAにてWebディレクターとして大手クライアントのコーポレートサイトやメディアサイトなどを担当。その後、広報を経てフリーランスへ。お菓子のスタートアップBAKEのオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」の編集長を務めたり、アートに特化したハッカソン「Art Hack Day」の広報を担当したり、幅広く活躍中。 ciotan blog:http://ciotan.com/ Twitter:@ciotan