
顧客からの愛着度を高めるためには?●特集「リピーター&ファンを生む新法則」
目指すのは「感動体験」をつくること
エンゲージメントを向上させるには、サービスに対する顧客の愛着度を高める必要があると前ページで述べた。では具体的に、どのようなことをすればいいのだろうか。その方法はいくつかあるが、もっとも理想的なのは、顧客の期待を超えるような「感動体験」をつくることである。
顧客のニーズには、顧客が自覚している顕在的なものと、無自覚である潜在的なものとがある。重要なのは、顧客の潜在的なニーズを捉え、それに応えることだ。顧客が「まさか、ここまでしてくれるなんて!」と思うような体験が感動体験であり、それを実現することができれば、サービスのファンになってくれる可能性が大きく高まる。

愛着度は段階的に上げることができる。まずは当たり前のことを当たり前に対応することで信用を獲得し、最低限の期待に応え顧客の欲求を満たすなど「問題のない」体験を提供していく。さらにその上にいくには、顧客の予想外、予想以上の「感動体験」を提供していくことになる
感動体験を実現しているサービスの好例が、現在世界で58カ国・地域の300都市において展開している配車サービス「Uber」だ(02)。Uberはアプリのユーザービリティが高いことに加え、顧客とタクシーをマッチングさせるアルゴリズムにより、顧客をほとんど待たせることなくタクシーがやってくる。さらに、事前に目的地指定や決済を済ませられ、乗客からの評価により運転手の質も担保されている。これにより、アプリを立ち上げてからタクシーを降りるまで、すべての体験がシームレスに進んでいくのである。「タクシーを捕まえたい」という顕在ニーズだけではなく、「目的地まで快適かつ安全に移動したい」という潜在的なニーズに対応できたことが、Uberのヒットをもたらしたと言える。
まずは「顧客のストレスをなくす」ことから
とはいえ、感動体験といわれてもイメージが湧かない、難しいという方もいるだろう。また、感動体験の実現には、Webだけでなく、接客やカスタマーサポート、キャンペーンなど、あらゆる接点を通じた一貫した施策が必要となる。これを完全に実現できているのは、世界でもグローバル企業を中心とした数十社しかない。では、顧客エンゲージメントを高めるには、何から始めればよいのだろうか。
まずは、顧客がサービスを使うときの労力やストレスをなくすことから考えるとよい。すなわち、左ページの図の下部にある「顕在ニーズ」の部分を満たし、感動体験を目指すための土台をつくるということだ。例えば、「使い方がわかりにくい」「知りたい情報が見つからない」などの基礎的なユーザビリティの問題や、「電話をたらい回しにされた」といったカスタマーサポートの問題など、対応できるものは多い。これらの基本的な利用ステップに問題があると、せっかく感動体験を設計しても、それが伝わる前に顧客は去ってしまう。
Uberの例でも、アプリの使いやすさが感動体験をつくり上げる重要な要素となっている。いくら乗車時の体験を高めたとしても、顧客がアプリで配車予約をする時点でストレスをためてしまえば、タクシーを呼ぶのをやめてしまうだろう。利用時のストレスをなくしていくことも、顧客の愛着度を高めていくことに大いにつながる。

Uberはユーザーエクスペリエンスをとことん追求したサービスの一つだ。煩雑な入力の必要なく、下車時に料金を払う手間もかからず、すべてが引っかかることなく流れるように利用することができる。実際に使ってみると、ただの「タクシー配車アプリ」という認識のはるか上をいく利用体験を得ることだろう

- Text:大谷直也 (株)ビービット コンサルタント
- 東京大学経済学部卒業後、ビービット入社。 テクノロジーとユーザー中心設計に関する調査・研究活動に従事。