Zolty(BREAKFAST)|NYで最も注目される男との、やたらと落ち着く会話

IoT。「インターネット・オブ・シングス」。去年くらいから誰も彼もが使うようになってしまったトレンドワード。1年前にはほとんどの人が知らなかった言葉を、いまや誰も彼もがバカの一つ覚えのように使っている。要は「ネットとつながっている便利グッズ」みたいなものだ。そんな「IoT」の領域で、恐らく世界で最も注目を集めているのが「BREAKFAST」である。

Instagramの写真をポラロイドカメラからすぐに現像できるプロダクト「InstaPrint」が大きく成功し、その後もインターネット道先案内板「Points」など、「その手があったか!」というプロダクトを生みだしつづけている。受注モデルからオリジナル商品の開発という方向にいち早くシフトし、新しいビジネスモデルも構築した。

今回はそんなBREAKFASTの創業者で、最高クリエイティブ責任者であるZolty(ゾルティ)氏としゃべりに行った。

アナログのフリップ板で構成された「BREAKFAST」とZolty(この壁もまた、インタラクティブなディスプレイになっている)。BREAKFASTという社名は「すぐ(FAST)ものを壊す(BREAK)」という自虐的な理由から来ているとのこと http://breakfastny.com/

 

「IoT」のパイオニアの一人であろう彼に、最初の質問を投げてみた。

「『IoT』っていう言葉についてどう思う?」

私は、なんとなくある一つの答えを期待してこの質問をしてみた。私も同じ領域で仕事をしているぶん、いろいろ思うところがあるのだ。彼は笑いながら答えた。

「『IoT』なんて『Web2.0』と同じで実態のないセールス用語だよ。今の時代、インターネットにつながっていないものはないんだし」

まさに期待していた答え。そう。そんなものは今に始まったことではないし、何も特別なことではないのだ。

彼がどういったキャリアを経て今のような仕事をしているのかを聞くと、私と彼には驚くほどの共通点があることを知った。

彼も私も、もともとデザインを学びながら、Flashでプログラミングを始め、やがてコンテンツのディレクションに関わるようになり、広告のクリエイティブ・ディレクターになった。

「で、言われたことをやる広告のやり方に疲れちゃって、つくりたいものをつくって生きていくためにはどうすればいいか考えるようになったんだ」

だいたい同じだ。私もそれをやろうと思ってニューヨークに出てきたのだ。

「自分たちのモデルは、言われたものをつくることではなく、先に自分がつくりたいものをつくって成功させて、それをスポンサー(クライアント)に売る、みたいなモデルだ」

 

ここまで来て、私は一つのことに気づいた。Zoltyはいま、私の目の前でかなり面白い話をしてくれていると思う。しかし、にもかかわらず私は刺激を受けたり興奮したりせず、全然盛り上がらず、むしろ安心感のような落ち着いた気分を抱いてしまったのだ。温泉にでも浸かっているような気分だ。それは、だいたい考えていることが一緒で、期待した答えが返ってきてしまうからだ。「広告」であれ、「IoT」であれ、かなり近い考え方で捉えている。

Webサイトにしろ何にしろ、私たちの多くは「受注」の形でものをつくっている。もちろん、そういった形で顧客の要望を聞いてそれを叶えるものをつくるのは、長年培われてきた一つの「つくり方」だ。

ただ、そのやり方だと、クライアントと受け手の想像を超えるものをつくることができないことがある。いろんな都合だって入ってくるから「打率」が下がってしまう。だけど、「先に面白いものをつくって流行らせてから売る」という別の形を取れば、もっとつくり手が楽しんで生み出した、純度の高いものを世に出せるはず。そのあたりまでだいたい同じことを考えているので笑ってしまった。

あまりに予想通りなので、意外な答えを得るべく、最後に難しい質問を投げてみた。

「10年後、何してると思う?」

「10年後のことなんてわからない。2、3年後に楽しくものづくりをできているかにしか興味がないんだよ」

まいった。どこまでいっても考えていることが同じだ。私たちはつくり手出身だから、10年後のビジョンとかよりも、その瞬間に素敵なものを生み出すことに気がいってしまう。つくっているものが「IoT」かどうかなんて関係ない。私たちにとっては、いかに幸せに幸せなものがつくれるか、つくっていて楽しいかどうか。それでしかないのだ。

世界は広い。似たようなキャリアをたどって、いろいろあった末に似たようなことを考えている彼のような「兄弟」が、人種や国籍を超えて存在するものなのだ。出自や言語は関係なく、私たちは同じ「つくる人」だ。

ふと遭遇する、こういう「なんか落ち着く」出会いこそが、世界に出てやっていく醍醐味の一つ、と思ったりする。

Zolty氏と筆者。数ヶ月前にリリースされたForever21のフィジカルスクリーン「F21THREADSCREEN」の前で。すべてが「糸巻き」で構成され、その糸の色をコントロールすることでイメージを再現するという「ものすごいつくるの大変そう」な壮大な作品。実際ものすごく大変だったらしい

 

F21THREADSCREENの裏側。仕組みはもちろんインターネットにつながっていて、Instagramで投稿された写真が実際にスクリーンで再現される

 

BREAKFASTがつくってきた様々なプロダクトたち。そして、つくり手としては萌えざるを得ない様々な機材。歩き回っていてこんなに面白いオフィスはなかなかない

 

 

清水幹太のQuestion the World:
30代後半になってニューヨークに移住した生粋の日本人クリエイター清水幹太(PARTY NY)が、毎月迎えるゲストへの質問(ダベり)を通して、Webについて、デジタルについて、世界を舞台に考えたことをつづっていくインタビューエッセイ。

Photo : Suzette Lee (PARTY NY)

 

Text:清水幹太
Founder/Chief Technology Officer/PARTY NY 1976年東京生まれ。2005年より(株)イメージソースでテクニカルディレクターを務める。2011年、クリエイティブラボ「PARTY」を設立。企画からプログラミング、映像制作に至るまで、さまざまな形でインタラクティブなプロジェクトを手がける。現在はニューヨークを拠点に広告からスタートアップまで幅広い領域にチャレンジしている。
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