“使いやすさ”にこだわり続けて24年。最新「Movable Type 9」に込めた開発チームの想いと注目の新機能

2001年のサービス開始以来、長く支持されてきたCMSの草分け的存在「Movable Type」。膨大なコンテンツを効率的に管理できる機能性や高い拡張性、そして国内企業が運営する安心感から、企業を中心に多くのユーザーに活用されています。
そして2025年10月22日、最新バージョン「Movable Type 9」がついにリリース。使い勝手や表現力がさらに進化しました。今回は、開発を手がけたシックス・アパートの早瀬将一さん、天野卓さん、重田崇嗣さんに、その機能改善のポイントを伺いました。

企業が安心して長く使えるCMS
──まずは、皆さんのMovable Typeにおける担当領域やミッションについて教えてください。
重田崇嗣(以下、重田) エンジニアとして機能開発やバグ修正などを担当しています。また、開発シニアマネージャーとして、複数チームが関わる開発体制の中で調整役を担う立場でもあります。
天野卓(以下、天野) 私は開発シニアエンジニアとして、新機能の開発を中心に、他のエンジニアが実装した機能のレビューや改善、要望に対するアイデア出しなどを行っています。
早瀬将一(以下、早瀬) 私はプロダクトシニアマネージャーとして、製品全体の方向性や仕様の策定を担当しています。加えて、プラグインパートナーとの連携やセミナー登壇など、対外的なPR活動も行っています。
──Movable Typeは2001年のリリース以来、長くユーザーに支持されていますよね。開発する立場として、どのような点が強みだと感じますか。
早瀬 Movable Typeの特徴の一つとして、コンテンツを管理するCMSと出力・公開の仕組みを完全に分離していることが挙げられます。これにより、生成されたコンテンツをさまざまな用途で柔軟に活用できる点が強みですね。
また、日本企業が運営していることによるサポート体制やセキュリティ対応への安心感も、多くのユーザーに評価いただいています。もともとMovable Typeはアメリカ発のプロダクトでしたが、当時は日本からの細やかなフィードバックがなかなか反映されにくい状況もありました。しかし2011年に日本のシックス・アパートが運営を引き継いで以降は、日本のユーザーの声にしっかり応えられるようになったと感じています。

──利用しているのは、やはり企業など法人が多いのでしょうか。
早瀬 はい、現在はほとんどが法人ユーザーです。Movable Typeでは「安心して長く使っていただけること」を大切にしており、バージョンアップを重ねながら継続的に改善を行っています。実際に解約率は非常に低く、10年、20年と使い続けている企業も少なくありません。
重田 古いバージョンを継続利用するケースも多いため、旧バージョンのサポートも提供しています。後方互換性にも配慮しており、たとえばMovable Type 3を使っていた方が、Movable Type 9にデータを移行できるようになっています。

天野 あと、サードパーティによる拡張機能(プラグイン)を追加してカスタマイズできる点も、Movable Typeの強みだと思います。ほとんどのプラグインが、数バージョン前から最新バージョンに移行しても問題なく動作するよう設計されています。
「どんな人にも使いやすいUI」を目指して
──先日、最新バージョンの「Movable Type 9」がリリースされました。どのような課題や目的のもとで開発を進めたのでしょうか。
早瀬 ユーザーから寄せられるフィードバックの反映や、細かな機能改善などは日常的にマイナーアップデートとして対応しています。
一方で、メジャーアップデートとなる今回は、よりよいユーザー体験(UI/UX)の実現や新機能の追加を目的に、社内で積極的にアイデアを出し合いながら開発を進めました。
──Movable Type 8のリリースから約2年の間に、ノーコードツールやAIによるWeb制作が広く浸透しました。そうした時流は開発にどのような影響を与えましたか。
早瀬 シンプルなWebサイトや小規模案件であれば、ノーコードやAIでも十分に作れるようになっていますよね。ただ、Movable Typeは膨大なコンテンツを効率的に管理・出力する場面で使われることが多く、想定しているユーザー層が少し異なります。
もちろん私たちもAIには取り組んでいますが、コンテンツそのものをAIで生成するというより、「ユーザーの作業をどう支援できるか」という視点で研究を進めています。
天野 Movable Typeが果たすべき役割は、ユーザーが持つコンテンツをいかに管理・発信しやすくするかだと考えています。その上で、管理画面のUIは常に時代のトレンドに合わせてアップデートしてきました。
Movable Type 9では、スマホアプリの操作感に慣れた人が増えていることを踏まえ、それに近い操作性を意識しました。ただ、「どうすれば使いやすいか」を突き詰めるのは毎回本当に難しいですね。

重田 管理画面のUIは、チームの中でも特にこだわりが強い部分です。議論が尽きず、たとえば天野が改良版を上げてきても「こっちのほうがよかった」「いや、前のほうが自然だった」と意見が二転三転することもあります。ユーザーの視線や動線を細かく想像するエンジニアが、弊社には多いんです。
早瀬 操作工程をできるだけ減らす工夫もしています。ただ、ひと口に“使いやすさ”といってもさまざまな視点があって、一つの改善が別の使い勝手を損なうこともある。そのバランスを取るのは、なかなか大変ですね。
天野 アクセシビリティの観点も重要です。たとえば、目がまったく見えない方、少し見えづらい方、マウスを使わずキーボードで操作する方など、さまざまなケースを考慮しなければなりません。
重田 みんな本気でよりよいプロダクトを目指しているからこそ、議論は時に白熱します。厳しい意見が飛ぶこともありますが、衝突が生まれないよう調和を保つのも、相談役としての私の大事な役目です(笑)。
エディタの刷新と新機能で、さらに運用しやすく
──Movable Type 9では多くの新機能が追加されました。まずは主要なものをご紹介いただけますか。
天野 管理画面のリッチテキストエディタを刷新しました。これまでは「TinyMCE」という既存エディタを組み込んでいましたが、今回は「Tiptap」というフレームワークをベースに、オリジナルのエディタを新たに開発しています。
TinyMCEでは既存の機能内でしか実装できない制約がありましたが、Tiptapベースにしたことで拡張性が大きく向上し、将来的には独自機能の追加も可能になりました。

早瀬 リッチテキストエディタは、バージョンが変わるとソースコードの構造が変わってしまうことがあり、その点が課題でした。今回の刷新にあたっても、TinyMCEで作成したコンテンツが極力そのままの形で出力できるよう、互換性に細心の注意を払っています。
──Web制作ツール全般でブロックエディタへ移行する流れが進むなか、リッチテキストエディタの刷新にも「どんな環境でも使いやすく」という姿勢が感じられます。
早瀬 そうですね。Movable Type 8で導入したブロックエディタは、パーツをブロック単位で組み合わせてレイアウトできるなど、とても便利な機能です。
ただ、長年リッチテキストエディタを使い慣れているユーザーも多く、特にニュース記事のようにテキスト中心の更新では、こちらのほうが使いやすいという声もあります。
──Tiptapベースになったことで、リッチテキストエディタの使い勝手はどのように変わりましたか。
天野 URLを貼り付けると、自動で埋め込み表示できるようになりました。oEmbedに対応しているサービス(YouTubeやXなど)のURLであれば、APIから埋め込み形式を取得してそのまま表示します。対応していないサービスの場合でも、URLからメタデータ(OGPなど)を取得し、カード形式のHTMLを自動生成して埋め込むようにしました。また、テキストやリンク、HTMLなど、貼り付ける形式を任意に選べるようにもなっています。
最近はGoogleドキュメントなどでMarkdownを使う方も増えているので、Markdownをそのまま貼り付けても自動で変換できるようにしました。コンテンツを別の場所で作成し、管理画面にコピー&ペーストするケースは多いと思います。その際に思った通りの形式で貼り付けられることで、編集体験がよりスムーズになるよう工夫しています。

早瀬 編集体験の向上という点では、コンテンツ作成のステップ削減にも取り組みました。これまでは新規作成に5ステップ必要でしたが、最短2ステップで完了できるようになり、分かれていた操作ページも1画面で完結できるようにしています。

天野 あと、画像挿入ウィンドウも改善しています。以前はファイル名の一覧から選ぶ形式でしたが、今回からサムネイル表示で直感的に選択できるようになりました。スマホのカメラロールやSNS投稿と同じ感覚で操作できるようにしたかったんです。さらに、画像アップロード中でも待たずに次の作業へ進めるよう改善しています。
早瀬 新しい画像挿入ウィンドウでは、「情報を編集」というメニューから画像のラベルや説明文を入力できるようになりました。これにより、アップロード済みの画像を再利用する際にも、目的のファイルを見つけやすくなっています。
──管理画面のUIには、どのような変更があったのでしょうか。
早瀬 これまではプラグインを導入しないと実現できなかった「任意のダッシュボードウィジェットの作成」が、管理画面のテンプレート機能だけで行えるようになりました。
ダッシュボードウィジェットのテンプレートではMTタグも利用できるため、より柔軟なカスタマイズが可能になりました。管理者が全ユーザー向けにお知らせを掲示したり、個々のユーザーが自分の使いやすさに合わせてレイアウトを調整したりと、活用の幅が大きく広がっています。

さらに、企業での利用が多いMovable Typeですが、外出先からの更新ニーズにも応えるため、スマートフォンでの操作性も大きく向上しています。PC版と同様に多くの新機能がスマホ管理画面にも対応し、急な修正や更新にもスムーズに対応できるようになりました。
ユーザーのコンテンツを広く届けるツールに
──Movable Type 9の新機能は、どのように活用してほしいと考えていますか。
早瀬 今回のアップデートでは、管理や投稿をよりスムーズに行えるよう意識して新機能を追加しました。操作性が上がることで情報発信のハードルが下がり、企業やチームがさらにスピーディに情報を届けられるようになればうれしいですね。
重田 早瀬も話していたように、Movable Typeは「管理」と「出力・公開」を分離しているのが特徴のひとつです。そのため、Webサイトだけでなく、アプリ内のヘルプページやデジタルサイネージなど、さまざまな場面で活用されています。Movable Type 9でさらに便利になったことで、そうした多様なシーンでも利用が広がるといいですね。
天野 Movable Typeをカスタマイズして販売しているWeb制作会社も多く、そうしたパートナー企業を通じて導入されるケースもあります。今回のアップデートで拡張性が一段と高まったので、パートナーの皆さんが提供するサービスをより強化するための基盤としても役立ててもらえればと思います。
──この先も“使いやすいMovable Type”を提供し続けていくことで、どのような未来を描いていますか。
早瀬 Webサイトは、この先10年、20年経ってもなくならないメディアだと思っています。その未来においても、進化を重ねながら長く愛され続けるプロダクトでありたい。常にバージョンアップを重ね、ユーザーの皆さんに安心して使い続けてもらえる存在を目指しています。
重田 AI時代が進むことで、Webサイトに人を呼び込む難易度は今後さらに上がっていくはずです。そうした時代の変化の中でも、ユーザーが発信したい情報をさまざまな場所に柔軟に届けられるようにし、情報発信の価値を高めるサポートができればと思います。
天野 コンテンツの主役はあくまでユーザーです。私たちの役割は、それを世に送り出す力を提供すること。Movable Typeがその“発信する力”を支え続けるツールでありたいと考えています。開発や改善を積み重ねる中で、ユーザーに「使ってよかった」と感じてもらい、ファンになってもらえたら本当に嬉しいです。

取材・文:平田順子、写真:山田秀隆、企画協力:シックス・アパート株式会社
※本記事はシックス・アパート株式会社とのタイアップです。
