インターネットアーカイブは著作権侵害? Wayback Machine訴訟から考える日本の課題

目次

Wayback Machineと著作権

インターネット上には膨大なコンテンツが流通していますが、サーバから削除されると消滅します。注目を集めたものはユーザーによって複製され、拡散し続けますし、それを消滅させることは不可能です。

しかし、そのようなものを除くとサーバから削除されたコンテンツには二度と触れることはできません。絶版になった書籍が古本として流通し続けるのとは大きな違いがあります。

インターネット上のコンテンツも時代を象徴する文化的な価値があるので、消滅してしまわないよう、アーカイブとして保存しておく必要性は否定できません。米国のInternet ArchiveによるWayback Machine(WM)は、そんな考えから設立されたサービスです。WMでは、収集されたWebサイトのページのコピー、配信されていた様々なコンテンツを無償で利用することができます。

アーカイブとしても価値がありますし、消えてしまった古いコンテンツを楽しめるという意味でもなかなか魅力的なサービスですが、著作権との関係では問題があります。サーバから消えても著作権はなくなりませんし、サーバから消えたから自由に利用してよいということにはならないからです。

実際に、米国ではWMが著作権を侵害するとして大手出版社が訴訟を提起する事態に発展しました。WM側は、フェアユース(公正使用)に該当するとして著作権侵害には当たらないと反論したようです。しかし、第一審に続き控訴審でも大手出版社に有利な判決が下されました。

インターネットのアーカイブとして重宝しそうなWMだが、著作権的には問題あり。利用者だけでなく、権利者の立場から見ると、また違った議論が必要になってくる

日本では著作権侵害に?

日本の著作権法にはフェアユースのような規定はありません。また、インターネット上のコンテンツをアーカイブだからという理由で利用してよいという規定もありません。Internet Archiveのようなサービスが日本で行われたら、米国と同様に著作権侵害ということになってしまうと思われます。

この問題は、インターネット上のコンテンツを保存し、消滅した後もアーカイブとして利用できるようにすることは大切だから一定の範囲で著作権侵害にならないようにすべきだという文脈で語られることが多いです。たしかにそれも一理あるでしょう。

しかし、WMのようなサービスが合法化されると、著作権者としては一度インターネット上に作品を公開してしまうと、様々な理由から人知れずこっそりとサーバから削除したつもりでいた作品、考えが変わって封印したいと思った作品も、永遠に利用される可能性があるということになります。

そうなると気軽に作品を公開できるのが利点だったはずのインターネットの利用に対して、慎重にならざるを得なくなるのではないでしょうか。この問題にはそういう側面もあるように思います。

日本で今後どのような議論がなされるのか、注目していきたいです。

プロフィール

桑野 雄一郎

1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2024年鶴巻町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など。 http://kuwanolaw.com/

文:桑野 雄一郎 
※本記事は「Web Designing 2024年12月号」からの抜粋です。

  • URLをコピーしました!
目次