AIがWeb制作の役割分担を壊し始めた今、私たちはどう働くか?|《対談》小島芳樹(chot Inc.)×長谷川恭久

近年Web制作の現場では、これまで当たり前とされてきた役割分担や制作プロセスが、静かに、しかし確実に揺らぎ始めています。AIやノーコードによる効率化は、果たして現場を楽にしたのでしょうか。それとも、別の負荷を生み出しているのでしょうか。
次世代Webサイト構築プラットフォーム「Orizm」を開発するちょっと株式会社代表の小島芳樹さんと、フリーランスデザイナーの長谷川恭久さんが、激動の2025年を振り返りながら、2026年に向けて「何を仕事としていくのか」を語り合います。
日本と海外で異なるWeb制作の常識
小島芳樹(以下、小島) 今日は、「2025年のWeb制作やUIデザインまわりのトピックを振り返り、2026年を予測する」というテーマで話をしたいと思います。長谷川さんは、デザインやコンサルティング、ブログやポッドキャストなど、広い視野で活動していらっしゃるのでピッタリだと思ったんです。
長谷川恭久(以下、長谷川) ありがとうございます。小島さんが2025年を振り返ったとき、何か記憶に残るトピックはありましたか?

小島 2025年を振り返ったとき、印象に残っている体験の1つがVercel(Next.jsを開発するフロントエンドプラットフォーム企業)のCEOギシェルモ・ラウチさんとのインタビューです。
彼が日本のことをよくわかっていて、正直驚きました。WordPress.comを運営する企業に在籍していた経験があり、日本でWordPressが広く使われていることも理解していた。さらに、日本では広告代理店やSIerがCMSなどのプロダクトを広めているという市場構造まで把握していたんです。
長谷川 海外の制作会社と日本の制作会社では、事業形態がかなり違いますよね。CMSの展開を見ても、セールスフォースやアドビのように「企業にCMSを導入し、その企業内で育成プログラムを組んで定着させていく」という海外のやり方と、日本の「自分たちの働き方に合わせて、CMS側をカスタマイズしてほしい」という考え方とでは、大きな違いがあります。
小島 僕自身、以前在籍していたSaaS企業で「業務をシステムに合わせてください」という世界を経験しました。セールスフォースが出資していたこともあり、「セールスフォースの型に業務を合わせていくのが一番スムーズです」という前提で進めていたんですが、内心では引っかかるものがあったんです。
というのも、些細なサービスの違いこそが会社やお店の差別化につながっているとしたら、型に合わせた業務にすることで強みが失われてしまうんじゃないかと思って。

長谷川 デジタルは本来、スケーラビリティを前提にした効率化に向いているはずなのに、日本の組織には「自分たちのやり方に合わせてデジタルを変えてほしい」という発想が根強いですよね。日本でDXがなかなか進まない理由も、そこにある気がします。
あと、日本にはさらに独特の事情があります。仕様書を書くときも、余白を残すような文章が好まれる。相手によって解釈が変わる文章は本来仕様にならないはずですが、はっきり書くことが「失礼にあたる」「関係性を乱す」といった前提がある。結果として「ケースバイケース」が生まれやすくなるんです。
それに「カスタマイズしたい」という要望も、単なるわがままではないと思っています。そこには「システム導入の責任をすべて背負いたくない」という心理もある。変更できる余地を残しておけば、導入した側の責任が和らぎ、開発会社とも責任を分担できる–––––その安心感は大きいと思います。
小島 だから僕らがつくっているWebサイト構築プラットフォーム「Orizm」では、「人がシステムに合わせるのではなく、人にシステムが合わせてくれる」ことを強く意識しました。AIやノーコードによって開発スピードが上がれば、日本的なカスタマイズも、過剰な工数をかけずに実現できるようになる。そんな世界が来ると思ったんです。

AIで効率化したのに忙しい。止まらない「リッチ化競争」
長谷川 AIやノーコードによって開発スピードが上がり、カスタマイズもしやすくなる。そうした期待は確かにありますよね。ただ僕は、「効率化すれば考える時間が増える」という論調には、正直疑問を持っています。これは、リモートワークが始まった頃から感じていることです。
昔は、打ち合わせの移動だけで2時間くらいかかっていました。それが今は移動ゼロになり、「1日に2〜3件なら余裕だろう」と思っていたら、気づけば8件、9件と入るようになってしまった。AIもリモートワークも、構造は同じだと思っています。効率化によって本質的な業務に向き合いやすくなる期待はあるけれど、実際には、むしろ忙しくなっている。
小島 たしかにそうですね。うちの会社でも、AIを導入してコーディングは確実に効率化されました。体感では、1.5倍くらいのスピードでつくれるようになっていて、自動化もかなり進めています。それでも、僕自身も含めて、みんな以前より忙しくなっているんです。
例えば夜に企画書をつくるとき、1本目をAIで生成して整えている間に、別の企画書を並行してAIに回す。結果的に、2本同時に企画書をつくる、ということが普通に起きています。以前なら考えられなかった働き方です。

長谷川 「考えて書いて、それが終わったら次へ」という流れが、変わったわけですよね。
小島 そうなんです。考える役割のAIと、書く役割のAIを分けて使う、という感じですね。そうやってスピーディにつくれるようになると、今度は「じゃあ、機能をもう1つ追加しよう」となる。結果として、つくるもののリッチ化がどんどん進んでいく。
余暇を増やそうと思っても、競合もAIで効率化して、より高度なことをやってくる。それと戦うために、こちらもさらに頑張らざるを得ない–––––そんな構図になっている気がします。
長谷川 デザインの世界も、まったく同じですよね。市場が何を求めるかというと、「ほかもAIで効率化しているから」「もっと安く請け負っているところがあるから」という話になりがちです。
その中で、自分のポリシーや意志をどこまで守り続けられるのか。正直、簡単な話ではない。最終的には「食べていけるかどうか」という現実的な問題にも直結しますから。
2025年は「AIにデザイナーの仕事が食われ始めた」
長谷川 2025年は、「AIが自分の仕事を侵食してきた」とデザイナーがはっきり実感し始めた年だと思っています。
小島 それは何がきっかけだと思いますか?
長谷川 おそらく「Nano Banana」(Googleが発表したAI画像生成モデル)の台頭ですね。それっぽいUI画像をつくる段階ではなく、実際にプロトタイプとして使えるクオリティに達した。
2024年の時点でも“兆し”を感じていた人はいたと思いますが、多くの人は現物を見ないとわからない。2024年までに触れていた生成AIとは明らかに違うアウトプットが出てきて、「一線を超えた」と感じた人が一気に増えた印象です。

小島 僕らも、お客さんの目の前でv0(VercelのAIコード生成ツール)を使って、その場でプロトタイプをつくりながら提案しています。
話しながら形にできてしまうなんて、昔だったら考えられなかった。「一度持ち帰ってワイヤーを引き直します」といったやり取りは確実に減りました。v0だとNext.jsのコードまで出てくるし、やろうと思えばボタン1つでサイトを公開できてしまう。

長谷川 そんな状況で「じゃあどうするのか?」ですよね。僕が本当に変えていかなきゃいけないと思っているのは、プロセスではなく「役割分担」のほうです。
Web制作業界は、ディレクター、デザイナー、エンジニアという古くからの役割体制を前提に、その中でワークフローを最適化してきました。でも今、AIがその前提自体を壊そうとしている。既存の役割を固定したまま、その中で「AIをどう使うか」と考えていると、いずれ限界がくると思います。
小島 今週も、まさにその課題が表面化する出来事がありました。社内のディレクター、デザイナー、エンジニアと僕とで、ものの見方が圧倒的に違うんです。
従来のワークフローでは、何もないところからコツコツ積み上げて、最終的なゴールにたどり着く。でも僕の場合は、お客さんと話す中で「こういうものをつくればいいんだな」という完成形が先に頭の中にあって、そこから逆算してどうつくるかを考える。
だからAIが出してきたアウトプットに対しても「ここはそうじゃない」と判断できるんですが、積み上げ型で考える人たちとは、その感覚をなかなか共有できない。積み上げていくタイプの人ほど、そのズレに強いストレスを感じていると思います。

長谷川 そこは、業界が成熟してきたことのよさでもあり、悪さでもある気がします。つまり「プロセスを踏めば成果物が生まれる」というマインドセットが強く根付いてしまったわけです。でも今は、「このプロセスって本当に意味があるんでしたっけ?」と問い始めた人にとっては、むしろ煩わしく感じられる。
最近「越境」という言葉がよく使われるのも、従来のデザイナー、エンジニア、ディレクターという枠組み自体が、この変化に合わなくなってきているからだと思います。
AI時代にCMSとデザイナーが果たす役割とは?
小島 「変化」という文脈でいうと、最近、少し打ちのめされたインタビュー記事がありました。とある媒体で、星野リゾートの星野佳路代表が「AIの普及でブランド力が効かなくなる」と話していたんです。
長谷川 星野リゾートって、めちゃくちゃブランドじゃないですか。
小島 簡単に説明すると、これまでは「星野リゾートに行けば、いい体験ができる」というブランドで価値を提供してきた。でもAI検索の時代になると、人が覚えているブランドから選ぶのではなく、AIが持っている情報を起点に旅をするようになる。星野リゾートを知らなくても、その人のニッチなニーズに合う宿やアクティビティがあれば、AIがそちらをおすすめするかもしれない。そうなると、ユーザーにとって星野リゾートというブランドの力は薄まってしまう––––という話なんですよ。
長谷川 なるほど。確かに、そういう流れはありそうですね。
小島 だから今、星野リゾートはどういうお客さんがどういう行動をしてどれぐらい満足したかを、より細かく把握しようとしているそうです。AIに覚えさせるための情報を、とにかく蓄積している。
長谷川 それって「AIがすべての情報を公平に見て、正しく判断している」と信じている前提ですよね。
小島 そうですね。あとは「その情報の信頼度がどこまで担保されるのか」という話でもある。
長谷川 そもそも「AIが自分に合ったものを本当におすすめしてくれる」という点も思い込みかもしれませんよね。
「インテリジェンス(AI=Artificial Intelligence)」という言葉から知性がある存在だと錯覚しがちですが、実際は少し違いますよね。膨大なデータベースから情報を補完して、提示してくれる存在に過ぎない。でも人は、AIが知性的に考えて提案してくれたと受け取り、その内容を正しいものとして信じてしまう。
小島 AIが人間には到底扱いきれない情報量の中から、その人のニーズに合う選択肢を示すことができるようになりました。AIを通じて顧客に情報を届けるためには、これまでの広告とは違った企業独自の情報発信がより重要になっていきます。
だからこそ、オープンなプラットフォームであるWeb上で、オウンドメディアとして発信していく必要があると思っています。企業が正しく、責任のある情報を発信するために、次世代のCMSは不可欠な存在になっていくと考えています。
長谷川 誠実な情報を、きちんと伝えるための仕組みづくりは大事ですよね。
小島 実際、最近弊社に問い合わせてくるお客さんからは「AIでページを大量に生成したい」という要望はあまりありません。それよりも「責任ある情報を扱っているからこそ、きちんとチェックできる仕組みにしたい」という相談のほうが多い。
例えばアレルギー情報のような人の生死に関わるセンシティブな内容や、法律に基づいて公開している求人情報。金融機関だと、レギュレーションを外すと業務停止命令が出ることもありますから。
長谷川 AIが生み出した情報の正確性をどう担保するか、という点は、まだまだ混乱が続きそうですね。

小島 2026年も、その課題は解消されないまま、バタバタし続ける気がしています(笑)。
長谷川 2026年は、「何を仕事としていくのか」が、より強く問われる年になると思います。デザイナーがどうなる、というような小さな論点ではなくて「自分がどんな未来に向かって働いているのか」。AIをどう使うかは本質ではなく、自分がどう生きたいのかが問われる時代になったと感じています。
小島 ちょうど今日、社内の定例会議で「3つのWhyを考えましょう」と話したんです。「Why this(なぜこれをやるのか)」「Why now(なぜ今なのか)」「Why you(なぜ自分なのか)」。2026年は、この3つをしっかり考えながら、仕事と向き合っていきたいですね。

取材・文:小平淳一、写真:山田秀隆、企画協力:ちょっと株式会社
※本記事はちょっと株式会社とのタイアップ企画です。
