最適なUXは「対話」から生まれる–––––クライアントとつくるWebサイト設計のプロセス

Webサイトに最適なUXはどのように探り、実現するのでしょうか? 大阪や和歌山を拠点に、ブランディングデザインの制作に定評のある株式会社スピッカートで代表を務める細尾正行さんに、WebサイトでどのようにUXを表現しているかについて話を聞きました。(『Web Designing 2025年10月号』より抜粋)

目次

プロフィール

細尾 正行
株式会社スピッカート
代表取締役


UXを意識したWebと、印象を決定づけるロゴやグラフィックの両軸で「好きになる理由」を設計するデザイン会社。タイポグラフィ年鑑ベストワーク、グッドデザイン賞金賞受賞。
https://spicato.com/

決まったヒアリング項目に縛られない
社内外の対話がUX最適化の鍵

私たちがUX(ユーザーエクスペリエンス)に向き合う際に重視するのは、ブランド価値を的確に伝え、ユーザーの感情に働きかける体験を設計するために、必要な要素を丁寧に探り出すことです。Webサイトは、あくまでブランドを表現する手段のひとつです。制約があるからこそ、戦略的かつ工夫を凝らした設計が求められます。

適切なUXを見出すには、クライアントとのコミュニケーションの積み重ねが不可欠になります。制作側は、相手が「このパートナーと取り組んだから自社のブランディングに成功した」と納得できる関係を築く必要があります。そのため私たちは、アンケート形式のヒアリングよりも、対話を通じて本心を引き出すことを優先します。

こうしたやり取りを重ねながら、案件ごとの性質に応じて意向を掘り下げ、UXにつながるデザインを探っていくのです。

また、社内での情報共有と意見交換を初期段階で徹底し、必要な要素の抜け漏れや認識のズレを防ぎます。そのうえで、クライアントとの折衝を重ね、社内外のコミュニケーションを往復させながら設計を進めます。

UXは、制作側からクライアントに対して、一方的に与えるものではありません。クライアントとともに「つくり上げていくもの」です。ここまで述べてきた過程の積み重ねによって、クライアントが自信をもって世の中に出せるWebサイトが生まれるのです。当たり前をおろそかにしないことこそ、最適なUXを導く鍵となります。

依頼されたWebサイトのもっとも適した表現やあり方は、社内外の不断のコミュニケーションを重ねることで、徐々に最適解の輪郭が見えてくるものではないでしょうか?

どのように相手の真意を引き出すのか?

Webサイトの最適なUXに問われるのが、相手(クライアント)とのコミュニケーションのあり方です。相手が制作側に心を開きやすくする、関係性の築き方を考えましょう。

#1|方向性を初期段階で「見える化」しておく

まずは、問い合わせフォームでいただいた情報を手がかりに、フォームの内容から依頼の中身を読み取り、初回のヒアリングでおおよその予算感を相手とすり合わせます。そのうえで、クライアントと「共通言語」をつくるために、こちらで必要な情報を整理し仮説を立てたうえで「クライアントに最適なもの」を提示します。

具体的には、希望するWebサイトの全体像や、リニューアルなら現状の問題点とその解決方法、仮説とゴールの設定、必要なコンテンツ、ビジュアルの方向性やリファレンスになります。

これらは、クライアントから無理やり情報を引き出すのではなく、制作側から初期の方向性を仮設定し、クライアントが考えやすくなるためのたたき台を示すイメージです。こうすることで、クライアントがフィードバックしやすくなり、制作側も軌道修正しやすくなります。

本格的に進める前に、これからやろうとすることを「見える化」します。これらを共有して、制作側とクライアントの認識を揃えていきます

#2|親近感を抱く理由を解明していく

私たちは、クライアントやエンドユーザーの立場に立って思考を重ね、制作者として何ができるかを俯瞰的に考え続けることを大切にしています。このプロセスによって、課題や可能性を多角的に把握できます。その際、プラスアルファのアイデアが浮かぶこともあります。

例えば、当初の依頼内容を越えた「キャラクターづくり」や「キャンペーンの新規提案」などのアイデアは、クライアント自身がまだ言語化できていない特長や可能性を「見える化」することで生まれます。

さらにフィードバックの過程で、賛同を得た部分と見解にズレがあった部分を整理し、相手の意向や潜在的な思いの本質に近づいていきます。その作業の往復で相手の価値観やサービスへの理解が深まり、親近感や愛着が必然的に生まれます。

相手に親近感を抱いたり、愛着が生まれるのには、理由があるはずです。理由を探って言語化し、プロジェクトと向き合う際の気づきにしていきましょう

#3|感覚の共有は、必ず「言葉」で行う!

私たちは、クライアントへのヒアリングを起点に、リサーチと追加の打ち合わせを重ね、依頼されたWebサイトを最適な状態(UX、情報設計、デザインなど)へと具体化していきます。これら一連の行為は、単なる制作作業ではなく、クライアントと感覚をすり合わせ、表現したい方向性や中身の一致点を見つけ出すための「共有のプロセス」です。

この共有を可能にするために、言葉による説明が不可欠です。デザインの現場では、「言葉にするのが苦手」という人でも、自分の内側にある判断の根拠や感覚の基盤を持っています。それらを言語化し相手に伝わる形にすることで、初めてクライアントやエンドユーザーと正確に感覚を共有できます。言葉による説明は、付随的なものではなく、ごまかさずに相手と感覚を共有するための中核的な手段なのです。

言葉で説明できないならば、クリエイティブの根拠が希薄である証拠。相手が誤って受け取ることを避けるためにも、言葉による説明を習慣化しましょう

COLUMN|言語化は大切! だけれども……

「言語化は重要」と強調する一方で、「すべてを言葉で説明しきれるわけではない」という現実も忘れてはいけません。他者の理解を促すには、言葉による説明を避けるべきではありません。しかし、「何事も完璧に言葉で整理できる」と思い込むのも違うと、細尾さんは指摘します。

「“見える化”の意識を思い出してほしいのです。社内メンバーにも徹底しているのは、必ず言葉で説明をすること。でも、どうしても言葉にできない部分は、そのことを正直に伝えたうえで、何かビジュアルでニュアンスを補強しよう、と。言葉の説明を省くためのビジュアルではなく、必要だから補う。言語化を補う工夫を常に意識してほしいのです」(細尾さん)


「声なき声」やニュアンスを、言葉だけでなく伝える工夫を示し明らかにする姿勢が、相手との相互理解を深めていきます。

取材・文:遠藤義浩

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