
【イベントレポート】CMS選定の基準は「公開後」にある。CMS選定サミット2026で語られた判断軸とは

2026年8月28日、Web Designing主催のオフラインイベント「CMS選定サミット2026」が、東京・銀座のマイナビPLACE 歌舞伎座タワーで開催されました。CMSの選択肢が増え、従来型に加えてSaaS型、ヘッドレスCMS、クラウドサービス、さらにAIを組み込んだ制作・運用まで視野に入る現在、制作会社は何を基準にCMSを選べばよいのでしょうか。
本イベントでは、制作会社とCMSベンダーがそれぞれの立場から、CMSの選定に関する判断基準や公開後の運用のあり方、セキュリティの重要性、AI時代のWeb制作について語りました。
16時のオープニングを皮切りに、CMS選定の判断基準を伝える基調講演、CMSベンダーによる実践的なセッションを実施。また、業界キーパーソンを招いたトークセッションや、参加者同士が交流するネットワーキングも開催しました。イベント冒頭、「Web制作会社で働いている人」を尋ねると半数以上から手が上がり、制作現場に近い参加者が多いこともうかがえました。
また、当日に来場者限定で配布した特別冊子「CMS選定ガイド2026」を、いまなら期間限定で電子版として無料公開中です。CMSにまつわる最新トレンドやニーズ別のCMS選定のヒントをコンパクトにまとめた一冊を、以下のバナーまたはボタンから無料でダウンロードいただけます!
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目次
基調講演:「つくる」から「選び、育て、責任を持つ」へ
基調講演には、株式会社GIG代表取締役の岩上貴洋氏が登壇。「今、CMS選定で何を基準に考えるべき? 『つくる』から『選び、育て、責任を持つ』制作会社へ」をテーマに、制作会社の視点からCMS選定の考え方を語りました。
岩上氏はCMSを、オープンソース系、ヘッドレス系、SaaS型、ノーコード系の4種類に大きく分類。そのうえで「CMSは手段であって、目的ではない」と強調します。

CMSを決める前に明確にすべきなのは、「誰が使うのか」「何年使い、移行をどうするのか」「誰が保守・運用の責任を持つのか」「他のシステムとどう連携するのか」という4つの問いです。
実際にGIGでは、ヘッドレスCMSを担当できるエンジニアが退職して保守が難しくなったケースや、CMSを導入したのに運用担当者が決まっておらず半年間更新されなかったパターンも経験したといいます。また、脆弱性対応の責任分界を決めていなかった例や、AI生成記事の承認や履歴管理を設計していなかった例も紹介されました。
これらに共通していたのは、CMSそのものではなく、「運用・組織・契約」の設計不足でした。岩上氏は、AIによって「つくる」ための工数が下がるほど、制作会社は納品だけでなく、その後の「活用」へ仕事を広げる必要があると指摘。CMSを選び、運用し、成果につなげるところまで担うことが、これからの制作会社の役割になると語りました。

セッション①:要件に合わせて選ぶMovable Typeシリーズ
スポンサーセッションの冒頭では、シックス・アパート株式会社の早瀬将一氏が「用途と課題で紐解く Movable Type シリーズ選定ガイド」と題して登壇しました。
Movable Typeには、自社サーバーに導入するソフトウェア版、サーバー管理やアップデートをシックス・アパート側に任せられるクラウド版、AWS上で利用するAMI(Amazon Machine Image)版、SaaS型のMovableType.net、さらに大規模運用向け製品や、フォーム、サイト内検索の単機能サービスまで用意されています。

早瀬氏は、要件に応じた選び分けをフローチャートで紹介しました。独自プラグインなどが不要ならMovableType.net、拡張性と運用負荷の軽減を両立したいならクラウド版、自社インフラや高度なシステム連携が必要ならソフトウェア版や上位製品を検討します。CMSの名称から選ぶのではなく、サーバー保守、カスタマイズ、セキュリティといった条件を順に確認することで、適した形態を絞り込む考え方です。

セッション②:「案件・運用・開発体制」の3軸でヘッドレスCMSを考える
株式会社microCMSの中嶋春葵氏と中野紘子氏は、「案件・運用・開発体制から考える 制作会社のためのヘッドレスCMS入門」をテーマに、ヘッドレスCMSが適する条件を紹介しました。
ポイントは、CMSを「案件」「運用」「開発体制」の3軸で考えること。将来的にサイトや利用チャネルを拡張したい、デザインや外部サービスとの連携を重視したい案件にはヘッドレスCMSが向きます。一方、小規模で更新頻度が低く、拡張予定もないサイトなら、静的サイトやノーコードツールの方が適する場合もあります。

公開後にフロントエンドを保守できる人材がいなければ、継続運用が難しくなる点にも触れました。CMSの機能だけでなく、構築後に誰が保守するのかまで含めて判断する必要があります。
管理画面のデモでは、コンテンツの項目を定義する仕組み、記事の公開、APIから返されるデータ、担当者ごとの権限管理などを紹介。セレッソ大阪の事例では、Webサイトの表示速度だけでなく、運用側の使いやすさも含めて構成を見直したことが説明されました。ヘッドレスCMSを単なる高速化の手段ではなく、コンテンツを複数の場所で利用するための基盤として捉えている点も特徴です。

セッション③: 機能だけでなく「事故」「コスト」「将来」を見る
フェンリル株式会社の「NILTO」セッションでは、株式会社エイチツーオー・スペースのたにぐちまこと氏を迎え、フェンリルのNILTO部 シニア・マーケター山口 孝行氏と一問一答形式でCMS選定の基準について検討しました。
取り上げられたのは「案件の見極め」「機能面」「コスト」「セキュリティ」などです。構造化されたデータが多い案件ではヘッドレスCMSが有力になる一方、自由度の高いランディングページなどではノーコード系が適する場合もあると、たにぐち氏は説明します。

なかでも重視していたのが、運用担当者が「事故を起こすのが怖くて触れない」状態を避けることです。承認フローは必要でも、厳しすぎれば更新そのものを妨げます。担当者に不要な機能を隠せるか、承認を柔軟に設計できるかもCMS選定の条件になります。
さらに、将来サイトが増える場合には、ドメイン数やユーザー数によって料金がどう変化するのか、ライセンス体系まで初期段階で確認すべきだと指摘しました。セキュリティについても「ヘッドレスなら安全」と単純化せず、フロントエンドを含めた対策と、継続的なメンテナンスを誰が担うのかまで検討する必要があります。

セッション④:AIが変える「つくる」と「育てる」
ANNAI株式会社と株式会社マカルーデジタルのセッションでは、「AI時代のCMS選定。『つくる』から『育てる』へ」をテーマに、「Concrete CMS」「Drupal」、クラウド基盤の「amazee.io」を取り上げました。
マカルーデジタルの菱川拓郎氏は、ページを見ながらブロック単位で編集できるConcrete CMSを実演。AIにページの翻訳を指示すると、日本語版が生成される様子を披露しました。翻訳だけでなく、アクセシビリティの確認などにもAIを利用できるほか、CMSの機能そのものをAIに実装させるデモにも挑戦しました。

ANNAIの紀野惠氏と太田垣恭子氏は、Drupalは従来「難しい」という印象を持たれやすかったものの、AIを用いたバイブコーディングによって、Drupalの作法に沿った実装やテストをAIに任せやすくなっていると説明しました。
一方、官公庁やエンタープライズ案件で大きな負担となるのは、サイトの機能そのものよりも、インフラ、可用性、セキュリティといった非機能要件だと指摘します。

amazee.ioのようなクラウド基盤を利用し、デプロイやセキュリティ・アップデートといった公開後の作業を省力化できれば、制作会社もサイトの運用まで担当しやすくなります。AIによる実装の省力化だけでなく、公開後の保守まで含めて「育てる」ことが、このセッションのもう一つの焦点でした。
トークセッション:「どのCMSが一番か」ではなく「誰のために選ぶか」
最後のトークセッションでは、GIGの岩上氏と株式会社ミツエーリンクス代表取締役CTOの藤田拓氏が、モデレーターの小平淳一氏を交えて、CMS選定の実際について語り合いました。
岩上氏によれば、CMSに詳しいクライアントは現状まだ一部で、多くの場合は「自分たちで更新できるようにしたい」といった要望から相談が始まります。そのため、制作会社側の専門知識をそのまま伝えるのではなく、クライアントの事業や運用体制に合わせて選定理由を説明する必要があります。

一方、藤田氏は、理論上は最適なCMSであっても、制作会社内に構築・保守できる人材がいなければ選びにくいことを指摘。CMS選定にはクライアント側だけでなく、制作会社自身の開発・保守体制も影響すると説明しました。
ヘッドレスCMSについて藤田氏は、AIがAstroやReactといったフロントエンド技術を扱いやすいことから、今後は「AIが扱いやすいプラットフォームか」も判断軸になり得ると語りました。

また、SaaS型ではアップデートやセキュリティ対応をサービス側に任せられる一方、自前で運用するCMSには自由度があります。どちらが優れているかではなく、組織のルール、保守体制、サイト数、必要な自由度によって選択は変わります。

AI時代のCMSについては、将来の管理画面にも話が及びました。岩上氏は、CMSを「ページをつくるための道具」から「コンテンツを活用する基盤」へ捉え直す必要があると説明。藤田氏は、自然言語で指示すると作業に必要な画面そのものが生成される「Generative UI」のような仕組みによって、固定されたCMS管理画面そのものが変わる可能性を挙げました。
さらに、検索エンジンを使わずAIに質問する利用者が増えたとしても、企業自身が正しい情報を整理し、蓄積しておく必要性はなくなりません。藤田氏は、CMSを組織にとって正しい情報の基準となる「Single Source of Truth」として位置づけることができれば、AI時代にも大きな価値を持つと語りました。
CMS選定とは、公開後を設計すること
今回のCMS選定サミットを通じて繰り返し語られたのは、「どのCMSが最も優れているか」という比較ではありませんでした。
誰が更新するのかや、誰が承認するのか。誰がセキュリティを維持するのか。何年使い、将来どこへ移行するのか。AIや外部サービスとどう接続し、蓄積したコンテンツをどう活用するのか。CMS選定では、こうした公開後の状態まで見据える必要があります。
AIによって実装や制作の工数が減るほど、制作会社にとっては、要件の整理やCMSの選択、運用設計、改善支援といった仕事の比重が高まります。さらに、正しい情報を蓄積するだけでなく、Webならではの表現や体験をどうつくるかも引き続き制作会社が担う領域です。
基調講演で示された「つくる」だけでなく「選び、育て、責任を持つ」という考え方は、その後の各セッションでも形を変えて繰り返し登場しました。CMSを選ぶことは、公開時点の機能を選ぶだけではなく、そのサイトを誰が、どのように使い続けるのかを決めることでもある。今回のサミットを通じて見えてきたのは、そんなCMS選定の現在地でした。

取材・文:栗原亮 写真:黒田彰