《特別対談》Figma CPO・山下祐樹に、necco inc.が“現場目線の本音”で迫る。新プロダクトの真意と、Figmaが描く“これからのデザイン”

現地時間2025年5月6日〜8日、米・サンフランシスコでFigmaの年次カンファレンス「Config 2025」が開催されました。Web制作のあり方を塗り替える4つの新ツールが発表され、世界中から大きな注目を集めています。本記事では、FigmaのCPO(最高製品責任者)である山下祐樹さんに、新ツールの開発背景や今後の進化について伺いました。聞き手には、少数精鋭でクリエイティブを追求する制作会社necco inc.の阿部文人さんと中川小雪さんを迎え、現場視点ならではのFigmaの使い方や期待について語り合います。

目次

4つの新ツールが誕生した背景とは?

山下祐樹(以下、山下)  Figmaは先日、年次カンファレンス「Figma Config 2025」を開催しました。お二人はご覧になりましたか?

Figma CPO(最高製品責任者)の山下祐樹さん

阿部文人(以下、阿部)  もちろんです。これまでにない規模の新機能が発表されて、「超大型アップデートだな」と感じました。

山下  今回のConfigでは、新たに4つのプロダクトを発表しました。まずは、その背景について簡単にご紹介させてください。

まず1つ目は、Figmaで作ったデザインをそのままWebサイトとして公開できる「Figma Sites」です。これは「アイデアから製品までのスピードをいかに高めるか」がコンセプト。これまではFigmaでデザインしたあと、別のツールで実装・公開する必要がありましたが、Figma Sitesを使えば、その一連の流れがFigma内で完結します。

necco inc. CEO / Creative Director / Design Engineerの阿部文人さん
Figmaで制作したデザインをそのままWebサイトとして公開できる「Figma Sites」

阿部  将来的に出るかもとは思っていましたが、ついに実現したのかと驚きましたね。

山下  2つ目の「Figma Make」は、AIを活用してWebアプリやプロトタイプをスピーディーに構築できるツールです。3つ目の「Figma Buzz」は、キャンペーン素材の制作に特化したマーケティング支援ツール。プロダクトを作ったあとの施策、たとえばSNS投稿や広告バナーの制作などを、マーケティング担当者自身が手軽に進められるよう設計しています。

AIを活用してWebアプリやプロトタイプを構築できる「Figma Make」
マーケティング支援ツール「Figma Buzz」

中川小雪(以下、中川)  Figma Buzzはテンプレートが豊富で、「これなら私でもできそう」と思える設計になっているのが魅力ですね。非デザイナーにとって非常にありがたいツールだと思いました。

山下  Figmaは「誰でもデザインを」というミッションを掲げています。Figma Buzzも非デザイナー向けですが、一方で「デザインモード」に切り替えることで、プロのデザイナーにも対応できる設計になっています。

中川  あのモード切り替えは秀逸ですよね。使い方に応じてUIや機能が変わるので、職種を問わず誰でも使いやすい。結果的に、チーム全体のコラボレーションもスムーズになりました。

山下  そして、4つ目が「Figma Draw」。手描きのような有機的な表現ができるドローイング機能です。最近、AIやデザインシステムの普及により「画一的なデザインばかりでつまらない」という声を耳にすることが増えました。Figma Drawでは、そうした均質化から脱却し、人間らしさや遊び心のある表現ができることを目指しています。

イラストやビジュアル表現向けのクリエイティブツール「Figma Draw」

阿部  質感のあるノイズやラフな線も描けるようになって、これまで外部ツールで対応していた表現がFigma内で完結するようになったのは、本当に大きな変化ですね。

中川  私たちも、実装しやすさを重視するあまり、オートレイアウトを使いすぎてしまって……結果として画一的な表現になることが課題でした。社内でも「もっと自由に、機能に縛られずアイデアを出そう」とよく話していて。そういう意味でも、Figma Drawのような自由度の高いツールには大きな可能性を感じました。使っていて、とにかく楽しいんですよね!

necco inc. Designer / UI Designerの中川小雪さん

プロダクト開発の起点は「ユーザーがどう使っているか?」

中川  新機能を開発する際に、「Figmaらしさ」を保つための基準や思想のようなものはあるのでしょうか?

山下  新機能を考えるうえで常に意識しているのは、「ユーザーが実際にFigmaをどう使っているか」です。

たとえば、Figma Slidesが登場する前から、Figmaでプレゼン資料をつくっている方はたくさんいましたし、「FigJam」が生まれる前にも、ホワイトボードのように使っているケースを見かけました。そうしたリアルな使い方を観察し、「こういうニーズがあるんだ」と気づくことが、新しい製品開発の起点になっています。

川延浩彰(以下、川延)  確かに、Figmaのように自由度の高いツールだと、ユーザーが独自の使い方を自然に生み出しますよね。

Figma Japan株式会社 日本カントリーマネージャーの川延浩彰さん

阿部  僕も以前、Figmaで家の間取り図をつくったことがありますよ。1ピクセル=1センチにして(笑)。

中川  会社では、オフィスの席替え図をFigmaで作成しましたね(笑)。

川延  こうした使われ方こそFigmaの面白さですが、一方で、日本のユーザーにとってはフィードバックの届け方がわかりづらかったかもしれません。そうした課題もあり、2022年には日本拠点を立ち上げました。カスタマーミーティングやSNSなど、さまざまな接点を通じて、皆さんの声をキャッチできるようにしています。気づいたことがあれば、ぜひ気軽にお知らせください。

阿部  アップデート直後のタイミングで恐縮ですが、今後の進化については、どのような方向性を考えていらっしゃいますか?

山下  大きく2つのテーマがあります。1つは「デザインとコードの関係性」です。デザインが完成しても、それがユーザーの手元に届くまでにはギャップがある。このギャップをどう埋めていくかが、まだまだ重要だと考えています。

もう1つは「時間」。誰もがアイデアを持っていますが、それを形にする時間が足りない。そこをどう突破できるか。「Figma Make」は、まさにその課題に応えるためのツールです。

中川  AIによって単純作業の時間が減ったことで、「ゼロから何かをつくる」という一番クリエイティブで時間のかかる部分に集中できるようになったのは、本当にうれしい変化です。

阿部  山下さんご自身として、AIがデザインプロセスに入り込んできたことをどう見ていますか?

山下  私は「デザイン」という言葉を広く捉えています。ツールを使ってレイアウトするだけがデザインではなく、AIにプロンプトを入力することもデザインの一種だと思っていますし、コードを書くこともまたデザインの手段の1つです。

結局、デザインとは「ユーザーの課題を解決するための手段」であり、AIもその手段のひとつにすぎません。大切なのは「ユーザー中心の視点」と「クリエイティブな思考」であって、その本質はこれからも変わらないと思います。

中川  私自身はコードが書けなくても、Figmaの進化によって、自分のアイデアをもっと多くの人に届けられるようになる。そう感じられるのは、とても希望がありますね。

デザインの現場がFigmaに望むもの

山下  今度はこちらからnecco inc.さんにお伺いしたいのですが、新しいツール以外で、Figmaを使っていて感じる課題や改善してほしい点があれば教えてください。

中川  私たちは少人数のチームですが、職種に関係なくFigmaを使って密に連携しています。正直、大きな困りごとはあまりないですね(笑)。でも、「こうだったらもっといいのに」と思うことはあります。

たとえば、最近はテンプレートのテキストスタイルやカラースタイルがとても使いやすくなってきましたが、新しいプロジェクトを立ち上げたときにも、ある程度スタイルが整った状態から始められると、もっと便利になるのかなと。

阿部  あとは、以前は「UIが小さくて見づらい」という声もありましたね。オブジェクトが小さくて、少し扱いづらく感じる場面もあったかもしれません。

山下  FigmaのUIは、あえてミニマルに設計されています。キャンバス上のデザインを主役にし、UIはそれを支える存在という考え方に基づいています。

ただ、ご指摘のような使いづらさも事実としてあるため、デスクトップアプリでは設定でUIサイズを調整できるようにしていますし、今後はアクセシビリティ向上にもさらに取り組んでいく予定です。

阿部  それでも、Figmaは機能が増えているのに、「重くなった」とか「複雑になった」といった印象がほとんどないのがすごいですよね。

山下  ありがとうございます。ただ、私たち自身も、年々少しずつ複雑さが増しているという自覚はあります。このまま進むと将来的に使いづらくなる可能性もある。その危機感を常に持ちながら、機能の進化と使いやすさのバランスをしっかり保っていきたいと考えています。

川延  日本ならではのニーズで、「このツールと連携できると助かる」といった要望はありますか? たとえば海外ではGitHubとの連携などが一般的ですが、日本独自の事例があれば、ぜひ教えてください。

中川  最近は3D表現を取り入れることが増えていて、BlenderやIllustratorで作ったオブジェクトを使うこともありますが、特に多いのは、After EffectsでアニメーションをつくってWebサイト上で表現するケースですね。

阿部  そのあたりまでFigmaで一体化できるようになると、かなり便利になると思います。

山下  現状では、After Effectsで動画を書き出して、それをFigmaに読み込む形になりますよね。

阿部  はい。動画を読み込んで、メインビジュアルとして動かすことが多いです。きっと私たち以外にも、3Dやアニメーションを積極的に活用している制作会社は多いと思います。

山下  確かに、日本のクリエイターの皆さんは本当に情熱的で、アイデアも豊かです。Figmaとしては、「頭の中にあるアイデアを、いかに簡単に形にできるか」を大切にしています。その“翻訳”をサポートするのが、私たちの役割だと考えています。

だからこそ、「こうだったらもっと使いやすい」「こんなことができたらうれしい」といった声を、ぜひ気軽に届けていただきたいです。それが次の進化につながります。

川延  日本のコミュニティサポートも、引き続きしっかり取り組んでいきます。

阿部  本当に有意義なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。

Interview:阿部文人(necco inc.)、中川小雪(necco inc.)、Text:小平淳一、Photo:秋山枝穂

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