「ひとつのコクヨ」へのリブランディングをmount はどう実現したか? コクヨ 新コーポレートサイト制作の舞台裏

2025年10月に創業120周年を迎えたコクヨ株式会社は、現在、新たなパーパスに基づくリブランディングに取り組んでいます。その成果のひとつとして、このほどコーポレートサイトが未来のコクヨのあり方を体現する形へとリニューアルされました。mount Inc.が作成した方針提案資料から、その道のりを読み解きます。(前後編の前編)

「長期ビジョン」資料から見えた コーポレートサイトの課題
文具のメーカーとして知られるコクヨ。しかし、より売上が大きいファニチャー事業やビジネスサプライ事業については一般にブランド認知が低く、またかつての分社化の名残りでバリューチェーン(開発〜流通)が事業部ごとに完結していたことで、本来持つ強みを事業成長に活かしにくいという課題を抱えていました。
そこで同社は2021年、持続的な成長の実現を目指す「長期ビジョン CCC2030」(CCC=Change, Challenge, Create)を策定しました。新たな経営理念「be Unique.」のもと、多様な事業の集合体として組織を変革する「森林経営モデル」を成長戦略と定めたものでした。
ところが、ロジカルに組み立てられた経営コンセプトを、誰にとってもわかりやすい表現で発表資料にまとめる作業は容易ではありませんでした。コミュニケーションのスタイルも変えていきたいと考えていたコクヨ 代表執行役社長 黒田英邦さんは、ビジョン発表を2週間後に控えたタイミングで、mount Inc. CEOのイム・ジョンホさんに発表資料のデザインや構成など、一式の制作を依頼したのです。
“ビジネスの言葉”で書かれた膨大な資料から、何をどう言えば直感的に、論理的に、かつエモーショナルに伝えることができるのか。mountは、限られた時間の中で写真を撮りおろし、言葉を抽出し、長期ビジョンの核である「森林経営モデル」へのシフトをわかりやすく表現したビジュアルを提案しました(下図)。mountの吉田耕さんはこの作業を次のように振り返ります。

「私たちがWebサイトを制作する時には、“伝える順番”を深く考えています。Webサイトは人によっていろいろな入り方があり、見方もバラバラですが、それでも伝えたいことが伝わるようにするには順番が大切です。この資料制作についても、媒体は違いますが考え方や形にする過程は同じだと感じました」(mount 吉田さん)

プロジェクト全体の統括や予算管理を担う
mountは、この時すでにコクヨのコーポレートサイトに対する課題を意識していたといいます。
「資料制作の際に役員の方々のお話をうかがったことで、コーポレートブランディングの領域から一緒にリニューアルに取り組むことができれば、絶対にいい課題解決ができると感じていました」(mount 米道昌弘さん)

完成した「長期ビジョン CCC2030」リリース資料は、直感的かつ情感豊かな表現で投資家からも高く評価されました。このようなクリエイティブの制作過程と成果は、コクヨのコーポレートコミュニケーション室(以下、CC室)にとって初めての体験でした。
「極限まで削ぎ落とされ、エッヂが立った素敵なビジュアルで、どんどん次が見たくなる。それが『CCC』の変革する姿勢とフィットしたのです。こういうやり方でないと自社のコミュニケーションは変わらないのではないかと、経営陣を含め私たちCC室のキーパーソンが思い始めるきっかけになった制作でした」(コクヨ 浅賀直樹さん)

一人ひとりと丁寧に話し合い コクヨに“のめり込む”
新たな経営理念のもと、コクヨは2023年4月にリブランディングプロジェクトを発足させ、「挑戦」や「クリエイティブ」といった方向へイメージの転換を図る取り組みを始めました(下図)。

その一方、コーポレートサイトは事業ごとに異なるドメインを持ち、デザインもシステムも別々に管理される状態が続いていました。ここに横串を通し、コクヨの目指す世界観をまずWebサイトで実現しようと、全面的にリニューアルすることを決定したのです。依頼先はmountでした。
「リニューアル制作を依頼すればスパッと提案が出てくるのかと思っていたのですが、mountさんから最初にいただいたのは膨大なヒアリングの要望でした」(コクヨ 浅賀さん)
ヒアリングの対象は、各部門の役員、本部長、現場のキーマン、Web担当者など70名以上にのぼりました。
「一人ひとりと向き合って話を聞きたいという思いがあり、大勢でのワークショップではなく、とにかく丁寧に聞くことを積み重ねました。その過程は方針提案資料の作成はもちろん、実制作における画面の構成やデザイン、実装まですべてのプロセスに及んでいます」(mount 米道さん)
「私たちにとっては毎回行う“のめり込む”ための作業なのです。のめり込むという過程を踏まずに、クライアントの思いをサイトに反映することはできません」(mount 吉田さん)
コクヨ側にとっても「社内で誰がどんなことを考えているのか、私たち自身も空白だった部分が埋められていく」(コクヨ 浅賀さん)感覚があったといいます。
「mountさんは現場の社員と2〜3時間かけて話し、Webで困っていることを聞くのではなく、事業の課題についてWebを使ってどう解決していくのかを掘り下げてくださいました。今思えばこの時間があって良かったと感じています」(コクヨ 安達さん)

こうしたヒアリングやリサーチの積み重ねを経て、377ページに及ぶWebサイトリニューアルのための方針を提案する資料が制作されたのです(下図)。

「300ページ以上あるのに、Webページのデザイン提案はひとつもありませんでした。一番のポイントは、コクヨがこれまで何をしてきたのか、今後どうしたいのかに真正面から向き合い、解明したうえで、『これまで』と『未来』を同じベクトルで語るサイトをつくろう、と提案していただいたことでした」(コクヨ 浅賀さん)
この提案が経営陣に受け入れられ、リニューアルの方向性が固まりました。最初のフェーズで時間がかかったとしても、この点を押さえておくことが両社にとってもっとも重要だったのです。

<後編はこちら>
サイトクレジット
▶ クライアント:コクヨ株式会社 ▶ 制作:mount Inc.
クライアント:黒田英邦、下地寛也、浅賀直樹、安達沙樹、佐藤佳織、中島伊紅、清水千穂、安部井美香、加藤リサ、石橋有希子、織田真理、奥山由希子、加藤里奈、川人慎右、戸田康鉄、服部慎吾、永井 潤、亀井典子、小川 剛、大橋真人、若林淳一、志村 武、川嶋彩夏、幸森 史、大嶋菜生、内田有香、上山哲史、嶋﨑紘平、間宮賢治、小林 悠、坂田由花、小貫寛武、吉城基裕、松尾聡子、安永哲郎、佐々木拓、金井あき、萩原航大、木田千穂、望月美恵子、小沢菜穂、藤野 晶ほか
Executive Creative Direction: イム ジョンホ(mount)
Creative Direction, Art Direction, Planning, Design:米道昌弘(mount)
Technical Direction, Development:梅津岳城(mount)
Design:井出裕太(mount)
Edit, Information Architect:堀江由利子(mount)
Design:タイ トウオン(mount)
Design:劉 逸葳(mount)
Development:寺田奈々(mount)
Development:須多 望(mount)
Produce:吉田 耕(mount)
Project Management, Information Architect:楠本莉沙(mount)
Project Management:津留正和(ingraft)
special thanks:岡部健二、山下亜香里、ハン ユジュン
Project Management /Planning:ハン・ジュホ(DFY)、ソク・ミス(DFY)
Design :イ・ウンビ(DFY)、キム・ヒョンモ(DFY)、ユン・アミ(DFY)、キム・ソヨン(DFY)
Development : キム・チョルジュン(DFY)、オ・ハヌル(DFY)、イ・ジンジェ(DFY)、ペク・ミンギョン(DFY)、キム・ジェリム(DFY)、小林信次(まぼろし)、大出直街(ファクトリアル)
Accessibility Supervision: 堀江哲郎(Torque inc.)、阪口卓也(Torque inc.)、小島準矢(Torque inc.)、上瀧
悠平(Torque inc.)、本田一幸(Torque inc.)
Copy Writing : 小藥 元
Illustration (history):小林千秋
Photography Produce:有馬知良(JXL)、市川悠(JXL)
Photography:福岡秀敏、中村実琴、堀陽真
Photography(interview):小山 奈那子
Photography (products):タカハシトミユキ assistant :瀧川やよい、佐藤萌、鎌田采花、高橋識如
Hair makeup :加古高規、島チカ、迫田美沙希、笹原彩珠夏
Interior Styling:酒井翼、牧野梨沙
MAGAZINE
Direction / Planning:伊藤総研
Edit, Planning:山﨑若菜 (itskn)、森木友香(itskn)
Produce, Project Management: 山田理沙(itskn)、天本季恵(itskn)
Writing:船橋麻貴、大芦実穗
Photography:井上昌明、浦将志、嶋崎征弘、柿崎豪
Interior Styling :竹内優介
SPETIAL SITE
CG animation : MORIE Inc.
Copy Writing : 小藥 元
Copy Writing :小山佳奈(株式会社 上田家)
Translation:シルバ・リリア(LATINA FORTIS)
llustration :髙橋あゆみ
Music :有村崚
資料ダウンロード
mount Inc.が作成したコクヨ株式会社コーポレートサイトリニューアルのための方針提案資料をダウンロードできます。https://mount.jp/kokuyo-links/
取材・文:小泉森弥、写真:山田秀隆
※本記事は「Web Designing2025年12月号」の内容を一部再編集して公開しています。
