話題の『行方不明展』も大成功! 株式会社闇に聞く「恐怖=楽しい」へ導く手法とは?

ホラーコンテンツの企画・制作・開発を行う株式会社闇。昨年開催の『行方不明展』は大きな話題となりました。創業者の頓花聖太郎さんに、恐怖体験のストーリー構築の手法や『行方不明展』の裏側などを伺いました。(『Web Designing 2025年4月号』 特集「デザインとストーリー」より抜粋)
教えてくれた人

頓花 聖太郎さん
株式会社闇 代表取締役副社長CCO。グラフィックデザイナー・アートディレクターのキャリアを経て、2015年に株式会社闇を設立。最恐の企業ページや、ホラー作家の梨氏と制作したイベント『その怪文書を読みましたか』など、数々のかつてない恐怖体験を生み話題を呼んでいる。
https://death.co.jp/ja/pc/
ホラー×テクノロジーで、今までにない恐怖体験を
株式会社闇はホラーとテクノロジーの掛け合わせ(ホラテク)によって、新しい恐怖体験をつくる会社です。ホラー=お化け屋敷というイメージがあるかもしれないですが、私たちの制作物はタブレットを使ったホラーイベントやVRを使ったホラーコンテンツなど、最新技術を使っている点が特徴です。
テクノロジーが持つ“今までできなかったことを実現し、面白くする”という強みを生かし、体験したことのない恐怖を生み出すことで、ユーザーに「楽しい」を届けたいと考えています。楽しいを届ける手段はさまざまありますが、ホラーは自分の好奇心を原動力に恐怖を乗り越える体験を味わえます。一種の達成感を伴う楽しさは、ほかのコンテンツにはないはずです。怖いものほど見たくなる、という人間の本能をくすぐってくれるところも魅力だと思います。
しかし、不遇なことにその魅力が伝わりきっておらず、会社を立ち上げた2015年当時は特にサブカル感が否めませんでした。そのため、ホラーが苦手な方に楽しみ方を知ってもらうことも、私たちのミッションだと考えています。
「ホラテク」を体現する“最恐”の企業ページ
当社の企業ページも、公開した10年前は新しいホラー体験の一つでした。当時はまだ名が知られておらず、何ができる会社なのか知っている人はほとんどいなかったと思います。そのため、訪れるだけで「ホラテク」のデモンストレーションを体験できるような企業ページにしました。
コンセプトはお化け屋敷。ぺージをすべて見終わるまでにかかる時間は、一般的なお化け屋敷と同じ約5分です。お化け屋敷は自力で歩く必要があるので、映像で表現するのではなく、スクロールしたりクリックしたり、訪問した人が能動的に動かさないと進むことができない仕様になっています。

あわせて意識したのが“YouTuber 最適化”です。当時、市場では実況文化が広まっていました。お化け屋敷はあまり1人で楽しむものではないので、YouTuber の方々に実況してもらうことで、それを見ながらみんなで楽しんでもらえたらいいなと考えたのです。そこで、実況しやすい文字量、体験の量・タイミングを、タイムライン的に設計しました。
出合いから拡散まで、理想的な体験を小説に
コンテンツをつくるときは、まずカスタマージャーニーマップを作成します。ターゲットが「何をして、どんな感情で、どう思っているのか」を、箇条書きではなく文章でまとめます。
箇条書きだと前後のつじつまが合っていない箇所を見逃してしまうことがあるので、コンテンツとの出合いから拡散までをドキュメンタリー小説風にまとめるのが肝。1時間程度のコンテンツであれば、5,000~6,000字くらいの小説に仕上げて、制作側が理想とする体験を明文化します。小説ができたら、それをもとにマインドマップをつくったり、恐怖を引き出すギミックを考えたり、動線設計などをします。
先に理想的な体験を固めるメリットは、その後の制作過程で課題に気づきやすいことです。例えば「このユーザーは友だちを誘いたがっているのに、この動線だとできないよね」といった視点を持つことができます。
また、小説の最後には「めちゃくちゃ感動した! 二度と味わえない体験だ!」といった制作側が理想とする感情を入れておき、制作を進める中で、その一言が浮いていないかを逐一チェックします。もし浮いていたら、今つくっているコンテンツは当初の狙いを達成できていないと判断できます。

リアリティがユーザーの恐怖を引き出す
ユーザーの想像を上回ることが恐怖につながるため、ホラーコンテンツは常に目新しいものが求められます。ゆえにトレンドの移り変わりも激しく、若い人を中心に楽しまれるエンタメだからこそ、そのときどきの若者の感性が大きく影響します。
ホラーコンテンツには「伏線が回収されることで恐怖するパターン」と、「何が起こっているかわからないけど、恐怖が積み重なるパターン」があるのですが、いまの若者には体験後に「あれってどういうことだったんだろう」と話し合えるものが人気です。
そのため、より考察に向いている後者がトレンドと言えます。作り手には、ユーザーの考察の範疇にとどまらないコンテンツづくりが求められているでしょう。フィクションという前提のもと、いかにリアルなものをつくり、没入させることができるかどうかが、恐怖を引き出すポイントだと考えます。
“わかりやすさ”でホラーの間口を広げた『行方不明展』
2024年夏に東京で実施した『行方不明展』も、昨今のトレンドに即したイベントです。張り紙や遺留品など、行方不明にまつわる架空の痕跡を展示しました。異世界転生が流行っているように、誰もが「別の世界に行きたい」という欲を抱いているはずです。私も仕事のプレッシャーに耐え切れず、逃げ出したいと思うことがよくあります(笑)。その点で多くの人の琴線に触れると思い、テーマに据えました。

普段、特に意識せず歩いていると何とも思わないものの、よく考えると「なぜ?」と思うような不思議なものが落ちていたりするじゃないですか。『行方不明展』のリアリティは、そういった日常と地続きの展示物によって演出されています。中には過去に2ちゃんねるで話題になった噂を盛り込んだ展示物も。最終的には、日常を見る目が変わり、「今、自分がいる世界は、展示を観る前と同じ世界なのか?」と疑ってしまうような、思考実験に参加した感覚を届けたいと考えました。
今回のイベントは、たくさんの人に来てもらうことでホラーの間口を広げたいという狙いもありました。そのために意識したのが、わかりやすさです。エピローグなどで意図を丁寧に語り、展示物同士のつながりを薄くすることで深読みしなくてもこちらが狙った感情になるよう設計。SNS のプロモーションも積極的に行った結果、若いカップルなどにも楽しんでもらえました。来場者の反応を見ていると、狙いを敏感に感じ取ってくれた方も多かったという印象です。
実は『行方不明展』では、ホラーという言葉を使っていません。恐怖に至る前の心のモヤモヤや不安を、面白いコンテンツにできないかと企画したイベントです。私は、お化けがでてくる従来のホラーのほか、ミステリー、ヒトコワ、グロテクスなど、ドキドキを楽しむコンテンツをまとめて「ダークエンターテインメント」と呼んでいるのですが、『行方不明展』もその一種と言えます。
個人的には同じイベントを10年前に開催しても楽しんでもらえていたかどうかはわからないと思っています。ドキドキ感や非日常感をエンタメとして楽しめる人が増えた今だからこそ、受け入れてもらえたのだと思います。
生成AI の力でユーザーを「第三者」から「主人公」へ
ホラーはユーザーの想像を超える必要があり、その点でテクノロジーとの相性がすごくいいジャンルです。すでに積極的に取り入れられつつあるXRはもちろん、最近は特に生成AIの技術との相性がよいと思っています。
これまでのホラーは、第三者の追体験をするものがほとんどでした。生成AIによって個々の人にあわせた演出ができれば、ユーザーが主人公となるホラー体験をつくることができ、より没入感を味わってもらえるのではないかと思います。ほかにも、リアルタイムでコンテンツを生成したり、コンテンツ側に人格を持たせたり、生成AI×ホラーには大きな可能性があるはずです。
実は2024年春から秋にネット上で連載していた『つねにすでに』では、一部表現でAIを使用しました。
『つねにすでに』はユーザーがインターネットに集まって盛り上がる体験をつくりたい、古のインターネットスラングで言うと「祭り」を再現したいという想いで制作したコンテンツ。小説内にユーザーを巻き込むギミックをいろいろ仕掛けており、その一つがチャットサービス「Discord」を利用したものでした。Discord内には小説に登場するお化け(AI)がいて、ユーザーは直接会話をすることができました。

みんなでつくる感覚を大事にしていたので、私たちはDiscord内の会話を見ながら、リアルタイムで物語の展開を考えていました。ユーザーとしてはコメントが展開に影響していることを感じられたり、ときには投稿したコメントが抜き出されたりすることも。Discordの公開初日にはAIと6,000回以上のやりとりがあり、うれしい反面、AIがきちんと作動するかどうかが怖くて(笑)、担当者が24時間体制で見守っていました。AIを使ってユーザーを物語の主体にする、実験的事例となりました。
ホラーコンテンツの制作は特別視されがちで、外部のクリエイターさんに制作を依頼すると「ホラーは苦手なので……」と断られることも少なくありません。エンタメをつくるという意味でほかのクリエイティブと変わらないですし、リアクションがわかりやすく返ってくるので、とても面白い領域だと知ってもらえるとうれしいです!
インタビュー・文:横塚 瑞貴(Playce)
※本記事は「Web Designing 2025年4月号」に掲載された内容を一部再編集して公開しています。
