「これからは“誰が発信したのか”という視点がもっと重要になる」小島芳樹(chot Inc.)×宇野雄(note)が語る、生成AI時代の情報発信

ちょっと株式会社が採用情報の発信やデザイナーブログに利用しているメディアプラットフォーム「note」。個人、そして企業がnoteで発信する意義とは? CMSとの使い分けは? 情報発信を技術やデザインでサポートする、ちょっと株式会社 代表取締役 小島芳樹さんと、note株式会社 執行役員 CDO 宇野雄さんが語り合いました。

「書いて終わり」ではなく、出会いを生む「noteの街」
小島芳樹(以下、小島) 最近、デザイナーの方がデザインについて書いたnoteの記事をよく見かけるようになりました。
宇野雄(以下、宇野) そうかもしれません。noteがデザイナーに愛されているのは、著名なクリエイターの方々が使ってくださっていたり、UIが洗練されていて気持ちよく使えたりといった理由があるのだと思います。また最近はエンジニアのように個人の名前で発信し、貢献を視覚化する文化が根づいてきたという面もあるかもしれませんね。
デザイン系の記事には2パターンあって、ひとつは企業アカウントでの企業としての発信。もうひとつは個人のアカウントでの発信です。デザイナーは実績を重ねだり転職したりしながらその人のストーリーを積み上げていくわけですが、特に自社サービスを持つ事業会社ではなかなか個人の実績を出しにくいという問題がありました。
また、企業サイト内のブログで書いても退職すれば本人に紐付きにくかったり、消さなくてはならなかったりする場合もあります。企業の発信が世の中的に重視されるようになっている一方で、デザイナーが自分の名前で発信できる媒体は意外と少なかったんです。

小島 宇野さんご自身も、noteに入社されるずっと前から書いていらっしゃいましたが(宇野雄 / note inc. CDO|note)、そのことがキャリアやお仕事で役立った場面はありましたか?
宇野 やはり、お会いする皆さんがnoteを読んで、私を知ってくださっていることです。以前は仕事以外のこともよく書いていたので、「あの話、読みましたよ」と言っていただいたり、「今こういうことで悩んでいるので話を聞いてほしい」と個人的にご連絡をもらったりもしました。小島さんはどうですか?
小島 当社では採用広報の一環としてnoteを活用しています。入社すると数週間後に「入社エントリ」を書くスケジュールが組み込まれているんです。また、デザイナーブログもnoteで運営していますし、働き方や子育てに関する記事がきっかけで取材を受けたこともあります。発信そのものが広報活動につながるうえ、関連記事からの流入など、プラットフォームとしての機能にも期待する面があります。

宇野 まさにそこがポイントで、私たちは「ブログサービス」とは呼ばず「プラットフォーム」と表現しています。記事を「書いて終わり」にせず、新しいコミュニケーションや出会いが生まれることを大切にしているからです。知らなかった分野の記事を読んで、旅行に出かけるきっかけになることもあるかもしれません。
私たちは「noteの街」という表現で、住んでいる人、遊びに来る人、お店を開く人など、皆さんがそれぞれのスタイルで安心して「この街に住みたい」と思ってくれるような場づくりを目指しているんです。
機能が最小限だから、内容にフォーカスできる
小島 デザイナーがnoteで発信することには、どんな意義があると思いますか?
宇野 私がnoteを好きな理由のひとつは「ストーリーがあること」です。デザイナーは通常、ポートフォリオで作品や自分の役割、課題解決のプロセスを実績として提示しますよね。一方noteでは、「なぜこれをつくろうと思ったのか」「どう考えて実行したのか」といったエモーショナルな部分から始まることが多い。そこには個人の感情があり、その人が何を考え、どんな人なのかが見えてくるんです。

小島 制作の過程は見ていて面白いですし、なぜそうしたのかというエモーショナルな表現には感情移入したり、納得感を持ったりします。「こういう人に仕事を依頼したい!」と思うこともありますね。
宇野 そうですね。もし検索に最適化された情報提供を目的にするなら、データベース的なフォーマットのほうが向いているでしょう。でもnoteはそうではないからこそ、みんな書き方が違って、それ自体が個性になるんです。その一方で、機能はあえて最小限にとどめています。要望があっても追加しないのは、その自由さを守るためなんです。
小島 確かに文字色も表組みもありません。それでも機能は増えてはいますよね。
宇野 そうなんです。でも、本当はもっと削りたいんです(笑)。「デザイナーならポートフォリオ自体がカッコよくないと許されない」という見方もあると思いますが、noteにはそうした機能がない。だからこそ、書くときは内容だけに集中できるんです。結果的に、デザイナーがデザインではなく「内容で伝える媒体」として使っていただける場になっているのだと思います。
「note pro」で推進するマーケティング施策の可能性
宇野 制作会社の方々は、なぜあえてnoteを使ってくださるのですか?
小島 もちろん自社でブログを立ち上げることもできますが、その場合はリソースの確保が必要ですし、私は感覚的にもnoteのほうがSNSでシェアされやすいと思って選んでいます。
宇野 確かに、シェアボタンのCTRを上げるようなテストは、私たちのようにそれを本業にしていない限り、なかなか時間を割けないですよね。
小島 最近は、お客様に「note pro」をご案内することもあります。予算・期間の制約や保守管理の課題があるときに、SNSと組み合わせて戦略的な情報発信ができるツールとしてご提案しています。
コーポレートサイトにすべての機能を組み込もうとすると、各部門との調整が必要になったり、権限管理などでCMSの要件も複雑になってしまうのですが、noteなら例えば人事チームだけで採用関連の発信を始めることもできます。RSS連携を活用すればコーポレートサイトとの親和性も高いですよね。
制作会社としても、全部をいちから開発するのではなく、記事制作のお手伝いやコンサルティングフィーをいただく形でマーケティング施策を支援する──そんな関わり方がもっとあっていいと思っています。
宇野 法人での利用には、個人とはまた違った目的があります。法人向けプラン「note pro」では、独自ドメインの設定や複数人での編集、AIを活用したサポート機能など、企業の利用に適した機能を幅広く提供しています。さらに、学校や図書館といった公共機関には無料で提供しているので、ぜひ活用していただきたいと思っています。


小島 小学校のサイトはいまだにSSL非対応だったり、スマホ未対応だったりするケースも多いですよね。
宇野 そうなんです。詳しい先生が転勤してしまったり、担当していたPTAの方のお子さんが卒業したりすると、更新が止まってしまうことも少なくありません。だからこそ、note proでは“できるだけ簡単に運用できる”ことを重視しています。
「伝えること」が目的なら、まずは内容に集中してもらうことが大切。そのために、いかに書くハードルを下げられるかを常に考えています。場合によっては、AIが執筆をサポートするような機能も求められていくでしょう。
「発信者が誰なのか」が、AI時代にこそ重要になる
小島 noteや各種SNSのように多様な発信手段がある中で、「じゃあ企業は独自サイトを持たなくてもいいのか」というと、必ずしもそうではありません。当社では現在「Orizm(オリズン)」というCMSを開発・提供しています。数千~数万ページ規模の大規模サイト向けで、高速表示やセキュリティに強く、柔軟なカスタマイズ性を備えているのが特徴です。

宇野 note proにも自由度の高いページ制作ができる「サイト作成機能」があります。ただ、作れるのは1アカウントにつき3ページまでで、特定のフォーマットで大量にページを作成するような使い方は想定していません。そのあたりが、両者のわかりやすい棲み分けのポイントになると思います。noteは「形が決まっていないこと」が、CMSは逆に「求められる要件で形を定められること」が魅力であり強みである、ということですね。
小島 そうですね。組織の視点でいうと、例えば食品を取り扱うサイトでは、アレルギーの情報を掲載する部分に厳格な承認フローが求められました。命に関わる重要な情報を扱う以上、それを管理できる仕組みが欠かせません。一方で、コンテンツによってはnoteのような媒体のほうが信頼を得やすい場合もあります。だからこそ「どこで何を発信するか」を選び取る姿勢が、これからますます求められるのだと思います。
宇野 AIの利用が広がる中で、人による発信のあり方は変わっていくかもしれません。ただ、「誰が発信したのか」という視点は今後さらに重要になっていくはずです。人が何かを発信する行為はとても豊かで、だからこそハードルもある。私たちはプラットフォームとして人を支え、安心して発信できる場をつくっていきたいと考えています。
取材・文:笠井美史乃 写真:秋山枝穂 企画協力:ちょっと株式会社
※本記事は「Web Designing 2025年12月号」に掲載されたい内容を一部再編集して公開しています。
※本記事はちょっと株式会社とのタイアップ記事です。
