声優の“なりすまし実演”は違法? AI音声生成と実演家の権利をめぐる法的論点

AIが生む“声のなりすまし”
先日、有名声優たちによる有志の会「NOMORE無断生成AI」がYouTubeに投稿した動画が話題になりました。
彼らが訴えたのは、自分たちの声を学習したAIを使ってつくられた、あたかも本人が出演しているかのような「なりすまし実演」の動画が増加していることに対する危惧でした。
「声優にとって命ともいうべき音声を勝手に使うことは許さない」という声優たちの主張は当然のことと思われますが、実は法律家の間では「『なりすまし実演』は違法ではない」というのが一般的な見解です。
著作権法で声優は「実演家」と呼ばれ、自分の行った「実演」の利用を禁止する「実演家の権利」が認められています。自分の行った実演ですから、たとえばものまねタレントによるものまねなどは、実演家の権利侵害にはあたりません。
また「実演家の権利」には、「実演」を録音・録画する権利、録音・録画したものをそのまま放送や配信等に使う権利が含まれている一方、著作者に認められている「翻案権」に相当する権利はありません。翻案権とは、著作物を加工して新たなものを創作する権利ですが、声優の場合、自分が話した台詞が編集され、まるで別の台詞を話しているように加工されても、それに対応する権利がないのです。
そのため「なりすまし実演」に関しても、人間の耳には似ているように聞こえるものの、声紋分析を行えば別人の声である場合、実演家の権利侵害にはなりません。また、仮にAIが実演家の声そのものを使用して生成したとしても、ただちに実演家の権利を侵害している、とは判断されないのです。
同一性保持権はどこまで機能するのか?
ただし、実演家にも著作者と同じく「同一性保持権」という人格権が認められています。そのため自分の実演から「なりすまし実演」がつくられることは、同一性保持権を侵害していると言いたいところですが、実演家の同一性保持権は、著作者の場合のように「意に反する改変」を禁止できるものではなく、「自己の名誉や声望を害するような改変」だけが対象です。
差別的な発言や犯罪を指南する発言などをさせない限り、同一性保持権の侵害にはならないでしょう。「なりすまし実演」を法的に禁止するには、実演家の同一性保持権の対象を「意に反する改変」にすることが有効なのではないでしょうか。

なお、これについては「パブリシティ権を侵害する可能性がある」という見解もあります。パブリシティ権は直接定めた法律はないものの、著名人の肖像や氏名等の商業利用を禁止するものとして判例上認められています。
しかし、音声についてどのような場合にパブリシティ権が認められるかはあまり議論されていません。判例上認められている権利に過ぎないので、声優の音声について認める判決が出ないと、権利として確立されたとは言いにくいのも悩ましいところです。
プロフィール

桑野 雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2024年鶴巻町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など。 http://kuwanolaw.com/
文:桑野 雄一郎
※本記事は「Web Designing 2025年2月号」からの抜粋です。
