《制作会社インタビュー》MovableType.netが広げる“横展開”の可能性──制作効率と価値提供はどう変わるのか?

シックス・アパートが提供するSaaS型CMS「MovableType.net」は、エンドユーザーはもちろん、制作会社にとっても多くのメリットがあります。中でも注目したいのが、一度構築したテーマを同種のWebサイトへ応用できる「横展開」という考え方です。これにより、制作や運用の効率化が期待できます。
本記事では、数多くのプロジェクトでMovableType.netを活用しているWeb制作会社・AMR株式会社の近藤光央氏にインタビュー。現場で実感されているメリットや、MovableType.netが生み出す制作会社にとっての新たな価値について伺いました。
老舗CMSの遺伝子を受け継ぐSaaS型CMS
MovableType.netは、長年の実績を持つ老舗CMS「Movable Type」の流れを受け継いだSaaS型CMSです。SaaS形式のため、サーバー構築やOS・ミドルウェアの保守に悩まされることがなく、すぐに運用を開始できます。
こうした導入のしやすさから、MovableType.netは特に大学の学部・研究室、自治体の各部署、クリニックなど、多様な組織で高い関心を集めています。専任の担当者を設けられないなど、Webサイトに割けるリソースが限られるケースでは、SaaS形式による管理負荷の小ささが特に評価されているためです。
さらにMovableType.netは、厳しいセキュリティ要件に対応できる点や、初期費用なしで低コストから導入できる点も魅力として挙げられます。こうした要素が、導入を後押しする大きな理由になっているのです。
MovableType.netの主なメリット
- サーバの構築や保守からユーザを解放
- 不正アクセス・不正ログイン対策などセキュリティ機能が充実
- サイトスケールに応じた柔軟な料金体系
- シンプルで直感的な管理画面。動作もスピーディ
- HTMLやCSSの編集に制限がなく、デザインの自由度が高い
- 本格的な運用を支える高度な機能
MovableType.netの「小規模事業でも導入しやすい」という特長は、エンドユーザーだけでなく、Web制作会社が同サービスに注目すべき理由にもつながります。その鍵になるのが、「横展開」という考え方です。
MovableType.netは、SaaS型でありながら高いカスタマイズ性を備えています。HTMLやCSS、JavaScriptをコードレベルで編集でき、制作したサイトのテーマや、ページ内パーツを定義するカスタムブロックは、簡単にエクスポートとインポートができます。
こうした特性を活かすと、1つのプロジェクトで構築したテーマやカスタムブロックを、同じ業種の別のプロジェクトにも展開できます。例えば、ある大学の学部サイトで構築したテーマを別の学部に応用したり、1つのクリニックで作成したカスタムブロックを別のクリニックに流用したりできます。こうした横展開を行うことで、制作会社は作業効率の向上や収益性の向上につなげられる可能性があります。
では、制作会社はMovableType.netのどのような点に扱いやすさを感じているのでしょうか。数多くのプロジェクトで同サービスを採用してきたAMR株式会社に、制作現場で実感している利点や、横展開がもたらす可能性について伺いました。
制作会社から見た、MovableType.netの優位性
大阪を拠点とするAMR株式会社は、シックス・アパートのパートナーネットワーク(ProNet)に参加し、全国から寄せられる問い合わせに対応しているWeb制作会社です。
同社がMovable Typeシリーズに取り組み始めたのは、20年以上前のこと。10〜15年前にはオープンソースCMSのWordPressが急速に存在感を高めましたが、同社はその時期もMovable Typeシリーズを軸に提案を続けてきました。共同代表の近藤光央さんは、当時を次のように振り返ります。
「多くの制作会社がWordPressへ移行していた一方で、弊社はセキュリティやサポート面に不安を抱いていました。たしかに導入自体はハードルが低いですが、問題が起こった場合はクライアントが甚大な被害を受けますし、Web担当者が責任を問われることもありますよね。だからこそ、クライアントが安全に運用できるツールを勧めたいという思いから、Movable Typeを提案し続けてきました」(近藤さん)

現在、同社が手がけるプロジェクトの約9割は「Movable Type」シリーズで、そのうち7〜8割がMovableType.netを採用しています。そもそも、同社がクライアントにCMSを提案する際には、まず「そのプロジェクトがMovableType.netで実現できるかどうか」という視点から検討を始めているそうです。
「管理画面がシンプルで扱いやすいこと。それでいて十分な機能を備えていること。加えて、プラグイン経由のハッキングリスクを抑えた設計であることが、提案時の大きな理由になります」(近藤さん)
またサーバー管理から解放される点は、クライアント・制作会社の双方にとってメリットが大きいと指摘します。
「MovableType.netなら、どのプロジェクトでもサーバーやミドルウェアなどの環境が共通です。万が一トラブルが起きても状況を把握しやすく、対応手順も明確にできます。
自前サーバを使う場合、再構築の遅延や表示速度低下が起きたときに、サーバースペックなのか実装なのかネットワークなのか、原因の切り分けに時間がかかります。しかしSaaS型のMovableType.netなら原因の究明がしやすく、調査費用も抑えられる。この点を説明すると、クライアントにもメリットとして理解してもらえます」(近藤さん)
AMRのクライアントは、中小企業や大学の学部など、Webサイトに割けるリソースが限られる組織が中心です。そうした顧客に対して、同社は「まずMovableType.netで小さく始め、必要になった段階でソフトウェア版へ移行する」という段階的な進め方を提案しているとのこと。十分なセキュリティを備えながらも、低コストから導入できる点は、多くのクライアントから高く評価されています。
効率化により変化するWeb制作会社の役割
前述のMovableType.netが持つ「横展開」のポテンシャルについては、同社も大きな期待を寄せています。
過去にはとある企業において、実際に「1つの部署から複数部署へ」「1つのプロジェクトからグループ全体へ」といった形で、MovableType.netの採用が広がっていった事例もあったそうです。管理画面の使いやすさやセキュリティ面の安心感がほかの部署へ自発的に伝わり、連鎖的に採用されたという流れで、ユーザー側にとっての利点がよく表れたケースと言えるでしょう。
一方で、制作会社側の効率化──つまり、テーマを雛形化して展開する仕組みづくりについては、これから本格的に取り組んでいきたいとのこと。近藤さんは、次のように可能性を語ります。
「MovableType.netには、外部のテーマ開発会社が公開している“作り込みすぎていないテーマ”があります。そうしたテーマを活用すれば、カスタマイズを抑えて制作期間をさらに短縮できると思いますね」

近藤さんが重視しているのは、こうした横展開によって生まれた余力をクライアントの「ファンづくり」に充てることだと言います。
「SaaS型のWebサイトが広がると、構築の省力化や保守費の削減によって、制作会社の売り上げが一時的に下がる可能性があります。だからこそ、制作会社は自分たちの役割を見直す必要がある。『Webサイトをつくる会社』ではなく、『ファンづくりを支えるパートナー』へとシフトしていくべきだ、というのが弊社のスタンスです」
MovableType.netを、自社のビジネス転換を支える存在として位置づけているAMR。MovableType.netの横展開のしやすさは、制作効率の向上だけにとどまりません。制作会社のビジネスそのものを、より高い価値提供へと導くきっかけになり得るのです。
プロフィール

近藤光央 さん
AMR株式会社 代表取締役 / プロジェクトマネージャー
AMR株式会社は、2001年の創業以来、企業・団体・地域の課題に寄り添いながら、ブランド構築からマーケティングまで一貫して支援。対話を通じてクライアントと共に悩み、考え、成果を実感できることを何よりも大切にしており、表面的な対応ではなく、伴走型の支援を心がけています。Movable TypeやMovableType.netなど、信頼性の高い国産CMSを活用し、安定性とセキュリティに優れた構築。また、シックス・アパート社の公式パートナー「ProNet」に加盟し、豊富な導入実績を有している。
取材・文:小平淳一
