リサーチや学術論文で「共感」の価値を理解しよう! 共感の力を知るための15のヒント

共感は、仕事や暮らしにどのような価値をもたらすのでしょうか。そして、どうすれば効果的に活用できるのでしょうか。ここでは、これらの疑問を解決するためのリサーチや学術論文、インタビュー、書籍を紹介します。共感の力を深く理解するための探求の旅に出かけましょう(『Web Designing 2025年4月号』より抜粋)。

目次

「共感したかどうか」がSNS拡散の決め手

総務省の調査によると、SNS利用者が情報を拡散する一番の基準は「内容に共感したかどうか」でした(46.2%)。この結果から、SNSでは事実の信憑性よりも共感や面白さが重視される傾向があることがわかります。さらに、この調査では、共感を重視する傾向が若年層に限らず、あらゆる年代に共通していることも明らかになりました。

[公開元]総務省(2015年)
[URL]https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/h27_06_houkoku.pdf

「ふるさと納税」も共感が後押し

ふるさと納税には、災害支援や課題解決支援など、お礼の品を受け取らないタイプのものがあります。こうした支援型のふるさと納税を利用した人にきっかけを尋ねたところ、58.3%の人が「自治体の特定の課題・取り組みに共感したから」と答えました。支援型ふるさと納税は、特に若い人の利用率が高いそうです。

[公開元]トラストバンク:ふるさと納税に関する意識調査2022(2022年)
[URL]https://www.trustbank.co.jp/newsroom/newsrelease/press576/

新型コロナの拡大により共感性が減衰

新型コロナウイルス感染症は、社会の共感性にも影響を与えたようです。米国の調査では、感染拡大前の2019年と比べて、人々の共感意識が約14%低下したといいます。特に、ミレニアル世代(20代後半〜40代前半)への影響が大きかったようです。要因を尋ねたところ、多くの回答者が「SNS上の誤った情報が共感レベルを低下させた」と答えました。

[公開元]UNITED WAY of the National Capital Area(2022年)
[URL]https://unitedwaynca.org/blog/empathy-burnout-survey/

経営理念への共感度が、働くモチベーションを左右する

MS-Japanが企業の管理部門で働いているビジネスパーソンに調査したところ、経営理念やMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)への共感度が高いほど仕事へのモチベーションも高いことがわかりました。企業は、従業員が共感しやすいMVVを掲げ、周知の徹底に努める必要がありそうです。

[公開元]MS-Japan:管理部門の企業文化に関する意識調査(2023年) 
[URL]https://www.manegy.com/news/detail/7781/

管理職のみなさん、もっと共感して!

米国の調査によると、企業のリーダーと従業員との間の共感度は、業務の効率性や創造性、さらには収益向上にも影響を与えるとしています。その一方、従業員の52%が企業との共感性で不満を感じているという結果も明らかになりました。企業は、管理職に対して共感的なリーダーシップを養うトレーニングを実施することが大切だといえます。

[公開元]Ernst & Young LLP(EY US)(2023年)
[URL]https://www.ey.com/en_us/newsroom/2023/03/new-ey-us-consulting-study

「共感」の定義は世代間で異なる?

Z世代(10~20代前半)が捉えている「共感」は、ほかの世代と少し意味合いが異なるかもしれません。静岡文化芸術大学の研究によると、Z世代は「自身の思考や行動に賛同する意見」に対して、共感という言葉を使う傾向があるといいます。Z世代とのコミュニケーションでは、共感の意味のギャップに注意してみましょう。

[公開元]静岡文化芸術大学(2023年)
[URL]https://suac.repo.nii.ac.jp/records/1879

共感的な振る舞いで、AIへの信頼感が増加

人々がAIに対して信頼感を抱くには、共感が1つの鍵になるようです。論文によると、AIエージェント(ロボットのCG)が共感的に見えるジェスチャや言動をしたところ、利用者の信頼感が高まったそうです。本当に共感しているかどうかはともかく、「共感的に振る舞う」ことがこれからのユーザインターフェイス全般に求められるのかもしれません。

[公開元]HAIシンポジウム2024/津村賢宏、山田誠二(2024年)
[URL]https://hai-conference.net/proceedings/HAI2024/html/paper/paper-G-12.html

言葉で伝わらないときは、アートで共感し合おう

「私たちは、言葉では理解し得ないときにも、アートを通して共感し合うことがあります」と語るのは、九州大学芸術工学研究院の中村美亜教授。このインタビューで中村教授は、アートを活用した非言語コミュニケーションによって、人々は新しい関係を築き、他者の存在や自分の人生に価値を見出せるようになると答えています。

[公開元]九州大学(2024年)
[URL]https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/topics/view/2110/

コミュ力が高い人は逆に共感力が低い?

精神科医の斎藤環氏と評論家の與那覇潤氏の対談によれば、コミュニケーション能力の高さと共感力の高さは別物であり、スクールカースト上位の人はむしろ共感力が低い傾向があると指摘しています。さらに、発達障害における共感性の欠如は相手の視点を想像するのが苦手なだけだと捉え、寛容になることが大切だと対話を深めています。

[公開元]考える人:新潮社(2020年)
[URL]https://kangaeruhito.jp/interview/14676

「売りたい」より「語りたい」の熱量が共感を生む

オウンドメディアでは、「売りたい」よりも「語りたい」を重視しているー。カゴメと有隣堂のメディア担当者による対談では、共感を得るためのメディア運営について意見が交わされました。「動画だと本当に好きでやっているかどうかが演者の表情でわかってしまうため、本音で話すことを心がけている」など、制作上の心がけについても語られています。

[公開元]AdverTimes.(2022年)
[URL]https://www.advertimes.com/20221130/article405123/

完璧ではないコンテンツのほうが共感する?

Instagramを利用する若い消費者の84%は、「ブランドのコンテンツは完璧でないほうが好ましい」と考えているそうです。対談の中でFacebook Japan代表取締役の味澤将宏氏は、完璧につくり込まれたコンテンツよりも、視聴者が等身大に感じられるもののほうが共感を得やすいのではないかと推測しています。

[公開元]AdverTimes.(2024年)
[URL]https://www.advertimes.com/20241212/article481439/

共感革命こそが霊長類最大の革命だ

約700万年前にチンパンジーとの共通祖先から分かれた人類は、言葉を獲得する以前に「共感革命」を経験したといいます。霊長類学者の山極寿一氏はこの本を通じて、「共感革命」こそが人類史上最大の革命だったと主張。人類の進化における共感の役割を再評価しつつ、現代社会における共感の意義を探究しています。

『共感革命:社交する人類の進化と未来』
著者:山極壽一 出版社:河出書房新社

共感はトレーニングで高められる?

スタンフォード大学の心理学准教授ジャミール・ザキ氏は、共感を固定的な特性ではなく、意識的に伸ばすことのできるスキルとして位置づけています。この本では、共感の本質や社会的影響、共感と物語、共感疲れなど、多角的な視点から共感を科学的に論じ、日常生活やビジネスにおける実践的な応用方法を提示しています。

『スタンフォード大学の共感の授業』
著者:ジャミール・ザキ 出版社:ダイヤモンド社

大学カウンセラーが教える共感の技術

本書は、京都大学の学生総合支援センターに勤める杉原保史氏が執筆した、共感に関する実践的なガイドブックです。共感の仕組みを理論的に解説するだけでなく、日常生活で実践できる具体的な「共感の技術」を提供。人間関係の改善や自己成長を目指す読者に対して、たくさんの有用な指針を示してくれるでしょう。

『プロカウンセラーの共感の技術』
著者:杉原保史 出版社:創元社

「ビジネスにおける共感力」の理論と実践が集約

ハーバードビジネスレビューは、ハーバード・ビジネススクールの機関誌として創刊された世界最古のマネジメント誌で世界中のビジネスリーダーに愛読されています。この書籍では、ハーバードビジネスレビュー誌に掲載された共感力に関する11本の記事を収録。ビジネスにおける共感性の重要性と、その実践方法について多角的に論じています。

『共感力』
著者:ハーバード・ビジネス・レビュー 出版社:ダイヤモンド社

文:小平淳一 
※本記事は『Web Designing2025年4月号』に掲載された内容を一部再編集して公開しています。

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