「迷わずプロジェクトを進める」ための計画づくり。プロジェクトマネジメントで必ず押さえるべきこととは?

多様で複雑化する社会状況を背景に、制作手法は多岐に渡り、人や組織によって働き方も異なります。だからこそプロジェクトの推進には、全体の動きを把握するプロジェクトマネジメント(以下PM)が欠かせません。そこで、PM業務に定評のある株式会社コパイロツトに取材。実務で活かせるPMのあり方を、事前の「計画」とプロジェクトの進行に欠かせない「会議」という2つの切り口を中心に、解説します。
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教えてくれたのは……

株式会社コパイロツト
多様な目的やメンバーのプロジェクトにコパイロツト(副操縦士)として伴走するプロジェクトマネジメント集団。自社には制作部隊を持たない。デジタル領域を中心に、マーケティング戦略の伴走支援、新規事業開発、ナレッジマネジメント、組織づくりなどをサポートする。今回は、同社プロデューサーの船橋友久さん、プロデューサー/プロジェクトマネージャーの多田知弥さん、プロデューサー/プロジェクトマネージャーの三浦祐子さん、プロジェクトマネージャーの亀岡真由さんにお話を伺いました。
PART①|プロジェクト計画を立てよう!
❶ PMは1人に押しつけるものではない!
ある案件やプロジェクトに携わる際には、規模の大小や各案件の事情を踏まえながら、立場の異なるさまざまな人たちが関与しているものです。
いわゆるプロジェクトマネージャーには、制作者側とクライアント側の両者を統括する役割を期待されます。たしかに、プロジェクト全体を把握し、責任ある代表者としてプロジェクトを推進する旗振り役は必要な存在です。一方で、1人にPM業務が集中するやり方は本当に妥当でしょうか?
私たちは、PM業務の負荷が1人に集中することや、チーム全体の主体性が低い状態は、PMの機能を損なう大きな要因の1つだと考えています。本来プロジェクトとは、関与する誰もが当事者意識を持ち取り組むもので、1人のプロジェクトマネージャーに任せっきりにするものではないはずです。
PMの基本は、チームメンバー全員が携わり、プロジェクトの成功へと導くことです。PMへの意識や考え方を改めるところから始めましょう。

❷ PMは、スタートが肝心!
では、プロジェクトを推進する旗振り役、プロジェクト全体を把握している責任ある存在としての「プロジェクトマネージャー」には、どのような役割が求められるのでしょうか。
PMの役割の1つが、プロジェクト推進にかかわるあらゆること(例えば業務フロー、参画者の役割など)を可視化して、関係各所と一緒に進めるためのルールをつくる責任者、だと定義してみましょう(ルールなどの中身は、チーム全員で考えていく)。
下の図は、プロジェクトの開始前後でやるべきことをまとめたものです。プロジェクトの性質や規模で細部は変わってきますが、大枠として下図の進め方を参考に実践するといいでしょう。

❸ 役割を可視化するためのプロジェクト計画書づくり
PMの役割が理解できたら、まずはプロジェクト計画書をつくり、制作チーム内だけでなくクライアントなどプロジェクトにかかわる参加者全員とその内容を共有しましょう。プロジェクトの「目的が何か」から始めて、業務範囲などのスコープがどうなるか、体制をどうするか、スケジュールやタスク一覧なども最初に可視化して、話を詰めていきます。
また、プロジェクトの進捗や課題管理の方針も細かく定義したり、ルールを設けたりします。会議についても、会議体ごとに目的や頻度などを設計します。
他にも、ゴール(目的)までに複数のフェーズを設けた場合、次の段階へと移る条件が何かも詰めておきます。その際「要件定義までは現場判断で進めていいが、デザインカンプは経営層の確認が必要」など、フェーズごとで承認プロセスが異なる場合には、あらかじめルールを明記しましょう。
こうした一連の内容をまとめたプロジェクト計画書は、プロジェクトがスタートする前段階で制作側が叩き台をつくっておき、キックオフに臨みます。クライアントに確認しながら、叩き台をブラッシュアップして、例えばプロジェクト始動後1週間を目安にして関係者全員に共有。プロジェクトが進行するにつれて当初の想定と変わるのであれば柔軟に修正し、計画書に基づいてPMを行います。

❹ 「これで前へ進める!」というプロジェクトストーリーをつくる
プロジェクト計画書と同様に重要で、プロジェクトの初期段階で共有したいのが「プロジェクトストーリー」です。言い換えるならロードマップとも言えますし、目的に基づくゴールに向けて、プロジェクトがどう進んでいくかという道のりを、参加者で一致させておくことが大切です。
私たちへの問い合わせや相談でよくあるのが、「新たな分野への挑戦を会社から命じられたが、何から手をつけたらいいのかがわからない」というものです。こうしたモヤモヤした状態は、プロジェクトストーリーを想像し、納得できる形に落とし込めると、前へ進みやすくなります。
「目的に基づき、最終ゴールがどこにあるのか?」を考えるうえでは、そこに向かうための道のりをいくつかのフェーズに分解して、中間的なゴールを設定していきます(私たちはそのゴールを「マイルストーン」と呼んでいます)。フェーズ間では「ここまでのことを終えたら、次のフェーズに進む」といったことを参加者同士で議論し、決めておきましょう。
「こうして進めていけば、うまくゴールに行きそう」と、常に腹落ちしながら進むために道のりを可視化する作業が、プロジェクトストーリーづくりなのです。

❺ ストーリーは、“一点突破”で描かない!
腹落ちできる状態、つまり「こうやっていくと、うまく進みそうだ」といった納得できるストーリーがつくれると、たとえ未知の領域や慣れない事業に挑む際にも、プロジェクトを推進しやすくなるでしょう。ここでは、“腹落ち”の状態をもう少し詳しく紐解いておきます。
まずは、成果物や工程とともに、「実現したい状態」をイメージしましょう。実現したい状態があるからこそ、成果物に求める内容が鮮明になります。
次に、ストーリーをつくる際は、点や線ではなく、面的なイメージを持つといいでしょう。言い換えるなら、目指すゴールに幅を持たせたり、複数のプロセスをイメージできたりすると進めやすいです。点的なイメージになると、「これでないとダメ」など、認識のズレに過敏になりやすくなったり、想定外の事態が生じても柔軟に対応しづらかったりします。
これらを踏まえて、あとは何度もチーム内の対話を繰り返しましょう。その結果、腹落ちできるストーリーがチーム内に、さらにクライアントにも共有されていきます。もちろん、一度共有されたイメージがプロジェクトの進行とともに変化していくのならば、状況に沿ってイメージもアップデートしていきましょう。
とりわけプロジェクトの立ち上げ時は、こうした納得感の高いイメージの共有が大事になります。

|COLUMN| PMは専任 or 兼任? 判断の決め手は?
PMは、人によっても企業によっても、指し示すイメージや業務範囲が異なります。だからこそ、どのような範囲で、どこからどこまでを担う役割としてプロジェクトマネージャーを立てるのかについては、事前にしっかりと整理しておき、誰もが確認できるように可視化した状態で議論するようにしましょう。
みなさんの現場でも考えられるのは、他業務とPM業務との兼務です。兼務状態のプロジェクトマネージャーの負担が非常に大きくなってしまいます。一方、社内リソースを考えた場合に、兼任せざるをえない現場も少なくありません。
特に兼任の可能性が大きい現場では、最初に自分たちが抱える既存業務の可視化を行うことをお勧めします。なぜなら、これから担う予定のPM業務は、既存業務に加わるものだからです。既存業務は、どういう役割があって、どの時期に誰が何をするのかなどを洗い出しましょう。
厳密に行うことが難しくても、おおよそでも可視化できれば、専任か兼任かを迷う場合の判断材料になるでしょう。また、兼務で進めなくてはならない場合にも、チーム内で業務を分担する議論が可能になります。予算が許されるなら外部委託の可能性も考えられますし、社内リソースの確保を検討できます。1人にPM業務を任せきりにしないことが、確実なPMの一歩なのです。
《Vol.3へ続く》
取材/文:遠藤義浩
※本記事は「Web Designing 2025年4月号」に掲載した内容を一部再編集して公開しています。
