【導入事例】なぜJamstack構想をやめ、Movable Typeを選んだのか? 幻冬舎サイトリニューアル成功の舞台裏

多数のミリオンセラーを世に送り出し、幅広いジャンルの書籍を刊行する国内有数の出版社・幻冬舎(げんとうしゃ)。同社は2023年7月、コーポレートサイトをリニューアル公開しました。10年単位で安定して運用できるWebサイトを目指し、CMSにはMovable Type クラウド版(以下、MTクラウド)を採用しています。
数あるCMSの中で、なぜMTだったのか。本記事では、株式会社幻冬舎 編集本部 コンテンツビジネス局の柳生一真さん、サイト開発を担った株式会社TAM プロジェクトマネジャー/ディレクターの神嵜雅弘さん、そしてMTの開発元であるシックス・アパート株式会社 代表取締役の平田大治さんによる鼎談を通じて、今回のリニューアルの背景と、長期運用を見据えたCMSのあり方を深掘りします。

Movable Type導入前に抱えていた数々の課題
──はじめに、今回の鼎談に参加されているみなさんの自己紹介をお願いします。
柳生一真(以下、柳生) 株式会社幻冬舎 編集本部 コンテンツビジネス局で課長を務めています。前職はWebディレクターで、今回のコーポレートサイトリニューアルでは、社内側の責任者のひとりとしてプロジェクトに関わりました。
神嵜雅弘(以下、神嵜) 株式会社TAMでプロジェクトマネージャー/ディレクターを務めています。今回の幻冬舎さんのサイトリニューアルでは、プロジェクトマネージャーを担当しました。
平田大治(以下、平田) Movable Typeの開発元である、シックス・アパート株式会社の代表取締役を務めています。
──さっそくですが、今回のリニューアルは、どのような課題意識から始まったのでしょうか。
柳生 大きな理由は2つあります。ひとつは、当時の自社サイトがモバイルに対応していなかったこと。もうひとつが、更新作業の煩雑さを根本的に解消したかったことです。
当時は出版社向けに特化したCMSを使っていたのですが、入力項目が多かったり、HTMLの知識が必要な部分があったりと使いづらくて……。さらにデータの一括更新ができないので、ページの追加や修正は1ページずつ行うしかありませんでした。その結果、更新の外注費用もかさみ、早急に改善する必要がありました。

このサイトはコーポレートサイトでありながら、弊社の商品カタログとしての役割も担っています。毎月20〜30冊の新刊があるので、本来であれば常に鮮度の高い情報を発信したい。でも、操作が難しくて、予約投稿ひとつとっても戸惑う社員が多かった。一部の人しか使いこなせていない状況を、なんとかしたかったんです。
──リニューアルは、どのような進め方でスタートしたのでしょうか。
柳生 まずは、社内の要望をまとめたRFP(提案依頼書)を作成しました。それを複数の制作会社さんにお渡ししながら、内容を一緒にブラッシュアップしてくれる開発パートナーを探していきました。
──その結果、TAMさんにお願いすることになった、と。
柳生 はい。リニューアルを検討していた当時(2021〜2022年)は、Jamstackという考え方が定着し始めた時期でもありました。フロントエンドの高速化やセキュリティの強化を見据えて、なるべくモダンな構成で作りたい、という思いがありました。

神嵜 TAMでは、Next.jsなどのフレームワークとヘッドレスCMSを組み合わせた案件を多く手がけてきました。その点を評価いただき、今回のお話につながったのだと思います。
──当初は、いわゆる“モダンな構成”を前提に検討されていたのでしょうか。
神嵜 そうですね。スタート時点では、正直に言うとMTの話はまったく出ていませんでした(笑)。ただ、幻冬舎さんのサイトを詳しく調査していくなかで、「この規模感に本当に合う構成なのか?」という疑問が出てきたんです。
幻冬舎さんのサイトは、1万ページ以上ある大規模サイトです。モダン構成を採用すると、定期的なアップデート対応や毎年のメンテナンスだけで、かなりのコストがかかる提案になってしまう。その点は慎重に考える必要がありました。
Movable Typeが「安定して長期運用を実現する」近道だった
──そこで、TAMさんからMTを提案されたわけですよね。
平田 私たちとしてはとても嬉しい流れですが、お話を聞いていると、MTを提案するのはなかなか勇気がいる判断だったのではないでしょうか。

神嵜 そうですね(笑)。当初は「ヘッドレスCMSを前提に」というご要望がかなり明確でしたから。最終的な判断の分かれ目になったのは、やはり幻冬舎さん側の運用・管理の負担でした。エンジニアを介した調整が常に必要になる点は、長期的に見ると大きいなと。
──一方で、「モダンな構成を避ける」という判断に至ったとしても、CMS自体は他にも選択肢があります。その中で、なぜMTだったのでしょうか。
神嵜 理由は大きく3つあります。
まず1点目は、「長く使えること」です。柳生さんからは、膨大な情報量を扱いながら、常に鮮度の高い情報を発信できる基盤をつくりたいということに加えて、「10年単位で安定運用できるWebサイトにしたい」というご要望をいただいていました。MTは静的CMSなので、安定性の面で非常に相性がいいと考えました。
2点目は、MTクラウドの存在です。MTクラウドを使えば、追加でインフラを用意する必要がなく、運用面・コスト面の負担を抑えられます。

──確かに、CMSを自由に選べたとしても、別途クラウド環境を構築・運用するとなると、その分の工数やコストが発生しますよね。
神嵜 そうなんです。そして3点目が、テンプレート出力による表現の自由度の高さです。
──表現の自由度が高い、というと?
神嵜 MTはカスタマイズの柔軟性が高いので、目指すデザインに合わせて、必要な箇所にMTタグを実装していけばいい。保守の観点でも、モダンな構成に比べて堅牢で、長く使い続けられるWebサイトをつくれると判断しました。
柳生 実際、修正やちょっとした調整が必要なときも、MTならMTタグで自分たちで対応できます。本当はTAMさんにお願いしたほうがいいケースもあると思うんですが……(苦笑)。
神嵜 いえいえ(笑)。実際に幻冬舎さん側で対応していただけて、とても助かっています。ヘッドレスCMSだと、どうしても些細な修正でも弊社エンジニアの対応が必要になってしまうので、結果的にお待たせしてしまったと思います。
──最初にMTという話を聞いたとき、驚きはありませんでしたか?
平田 ……大丈夫でしたか?
柳生 はい、お世辞抜きで大丈夫でした(笑)。操作性や運用面をしっかり確認できましたし、使いやすさを実感できたからこそ、迷わず導入を決められました。MTは20年以上、現場の最前線で使われ続けていて、国内メーカーが継続的に開発している。その安心感や信頼性も、大きな判断材料でしたね。
平田 ありがとうございます。私たちも、長期で継続的に運用しやすいCMSであることを重視して開発してきましたので、MTの強みがしっかりフィットした事例だと感じています。
導入後に「業務効率」と「使いやすさ」を実感
──MTを導入してから、実際の運用面ではどのような変化がありましたか?
柳生 以前と比べて、明らかに費用を抑えて運用できています。MT導入前は、サーバ費にCMS費、さらに更新・入力作業の外注費が重なっていました。それがMTクラウドであれば、サーバ費込みで導入できますし、更新作業もCSVから一括で行えるようになりました。費用面だけでなく、これまでの運用負担そのものを根本から見直せた感覚があります。
経営層や他部門のメンバーに対しても、「以前より月額で◯◯◯◯円コスト削減できています」と、数字でわかりやすく説明できるようになったのは大きいですね。
平田 サーバや運用を含めたトータルコストの面で評価していただけたのは、開発元としてもとても励みになります。
柳生 あとは、率直に言って使いやすくなりました。もちろん、TAMさんが私たちのニーズを丁寧に汲み取って、業務フローに合わせて最適化した形で導入してくださったことも大きいと思います。
神嵜 事前に、「編集者の方々は、自分が手がけた本をしっかり宣伝したい気持ちがとても強い」とうかがっていました。自由度の高い管理画面をそのまま用意すると、思い思いに使おうとする人が出てきて、逆に混乱が生まれる可能性があります。
そこで、部署ごとに機能制限を設けたうえで、インテグレーションされた管理画面を設計しました。属人化せず、誰にとっても使いやすく、迷わず操作できることを重視しています。
検索性や回遊性が向上! 一元管理で、情報の信頼性を担保した運用に
──出版社ならではの課題として、膨大なデータの整理がありますよね。この点について、もう少し詳しく聞かせてください。
神嵜 特に力を入れたのが、書籍情報にひもづくカテゴリやタグの整理でした。以前は、似たようなカテゴリやタグが数多く存在し、そのまま使われ続けていたんです。たとえば、「新刊」「新着」「ニュース」「お知らせ」といった同義・類義のカテゴリが乱立していて、検索性や回遊性を下げる要因になっていました。
そこで、カテゴリ構造を全面的に見直し、ユーザーが求めている情報に、できるだけ迷わずたどり着ける構造へと整理しています。
──確かに、「『新刊』と『新着』の違いは?」と迷ってしまいますよね。
柳生 検索性の改善は、社内からも要望が多かったポイントなので、とても助かりました。

神嵜 また、幻冬舎さんが発信する情報は書籍だけではありません。ニュースや特集、採用情報なども含めて、今後さらに情報が増えていくことを前提に、常に拡張できる構造にしておくことも意識して設計しました。
柳生 今回のリニューアルを通じて、情報の大元となるデータ基盤をMTに集約できたのは大きかったですね。以前は、情報がバラバラに管理されていたため、自社サイトと書店さんのサイトなどで別々に修正依頼をかけなければならないなど、運用フローに課題がありました。
今回、情報の起点となるデータベースを整備できたことで、Webサイトの更新はもとより、書店さんとの連携から売上・マーケティング分析に至るまで、当初の想像以上に幅広く業務の効率と正確性を底上げできました。
月間PV、サイト経由の売上増が証明! Movable Type活用の成果
──現時点で、リニューアルの成果はどのように感じていますか?
柳生 MT導入後、月間PVはおおよそ2〜3倍に伸びました。まず大きかったのが、モバイル対応を実現できたことですね。そこに加えて、MTによるサイト構造の最適化と、静的CMSならではの表示速度の速さが効いて、SEO効果も高まりました。その結果、オーガニック検索(自然検索)からの流入が増えています。
ページ構成も見直しました。たとえば書籍の詳細ページでは、書籍情報に加えて、複数のオンラインショッピングサイトへのリンクや各種SNSへの導線を用意しています。購買や情報拡散につながりやすい構成にしたことで、コーポレートサイト経由の売上も5倍近くに伸びました。

柳生 以前は、著者さんや読者のみなさんがSNSで幻冬舎の書籍を紹介してくださる際、幻冬舎サイトへのリンクが貼られるケースは正直あまり多くなくて……(苦笑)。代わりに、ネット書店やレビューサイトのリンクが貼られることがほとんどでした。
──当時は、掲載情報のページが十分に整っていなかった、ということですか。
柳生 今と比べると見づらい・使いづらいページでした。それがリニューアル後は、多くの方が弊社の書籍ページのリンクを貼ってくれるようになりました。情報をきちんと整備することの大切さを、あらためて実感しましたね。
──最後に、今回のサイト制作を通じて得られた気づきや学びを教えてください。
神嵜 最近は高機能なヘッドレスCMSを導入した結果、オーバースペックになってしまうWebサイトも少なくありません。Webアプリのような高度なAPI連携が必須でないのであれば、安定感があって、現実的な予算で進められ、開発元による公式サポート体制も整っているMTは、プロジェクトを成功に導く有力な選択肢になると思います。
柳生 特に今回はコーポレートサイトということもあり、データの改ざんや不正アクセスへの懸念は大きかったですね。その点、MTクラウドであれば自動的にマイナーアップデートが適用され、常に最新の状態を保ってくれます。保守運用の負担が少なく、高いセキュリティレベルを維持できている点も助かっています。
平田 現場の本音こそが、私たちにとって何よりの原動力です。今回も、現場のみなさんのリアルな声をうかがえる、とても貴重な機会になりました。ご一緒できて、本当に嬉しかったです。

取材・文:遠藤義浩、写真:山田秀隆、企画協力:シックス・アパート株式会社
※本記事はシックス・アパート株式会社とのタイアップ企画です。




