Webコンテンツは“読むもの”から“使われるもの”へ。小島芳樹(chot Inc.)× 酒井新悟(RIDE)が考える、AI時代のメディア生き残り戦略

AIの進化によって、メディアの常識が急激に変わりつつあります。コンテンツのつくり方、アウトプットの方法、そしてユーザーとの接点はどう変わるのか。ちょっと株式会社代表の小島芳樹さんと、株式会社RIDE取締役の酒井新悟さんが、AI時代のメディアの可能性を探ります。
まずは自分たちが使いこなすフェーズ
小島芳樹(以下、小島) 酒井さんとお会いするのは今回が初めてなので、まずは簡単に自己紹介をさせてください。
僕はちょっと株式会社の代表を務めていて、現在7期目です。創業当初はWordPressを使ったWeb制作をやっていましたが、2021年からはNext.jsなどモダンな技術に特化するようになりました。現在はこれまでの制作で培ったノウハウをパッケージ化して、「Orizm」という独自のCMSも開発しています。数千〜数万ページ規模のWebサイト向けで、機能性と美しさを両立できるCMSを目指しているんです。

酒井新悟(以下、酒井) ありがとうございます。僕が取締役を務めている株式会社RIDEは、今年で創業20年目です。創業時から編集・制作を母体に、WebやECまで一気通貫で対応してきました。ここ10年ほどは、企業のオウンドメディア運営や、企業と長期的なパートナーシップを結んで取り組む仕事が増えています。
小島 今回は、これからの時代のWebメディアのあり方についてお話を伺いたいと思っています。この1〜2年、お客さんからの問い合わせで増えているのが「AIで何かできないか」という相談です。
クラウドは普及に時間がかかりましたが、AIはスピードがまったく違う。これまで関心がなかった人まで興味を持って、さまざまな業種の経営層の方々が「AIを活用したい」とおっしゃっています。酒井さんは、AIを仕事で活用したり、クライアントから何か求められたりしていますか。
酒井 僕も、AIの急激な進化を肌で感じています。ただ、会社としては、クライアントに対して何かをする前に、まずは自分たちが使いこなすフェーズだと思っています。

たとえば原稿やキャプションの作成は、AIのほうが早い部分もあります。でも、これをそのままクライアントへの納品物として売り物にするのは難しい。クオリティの担保や責任の所在を考えると、今はまだ「使えるけれど商品にならない」という感覚です。
小島 僕らも同じで、まずは社内のエンジニアがコーディングで使っています。ただつくるスピードは上がりましたが、効率化が進むと、結果的にやることが増えてしまうんですよ。今まで1週間かかっていたものが1日でできるようになっても、「じゃあ、これもできませんか?」と追加要望が来てしまいます。
「8割はAI、残り2割は人間」という感覚
酒井 AIは僕らの仕事と切り離せませんが、とにかく動きが早いですよね。AIに対する感覚も急激に変化していて、昨日まで許されていたことが急に怪しくなることもある。だから、恐る恐る付き合っている部分もあります(笑)。
ただ、僕はあまり悲観的には捉えていません。世の中には「AIによって仕事が奪われる」という意識もありますが、これまで僕らが価値を出していた文脈づくりやリサーチは、今や8割ぐらいChatGPTやGeminiでできてしまう。でも、残り2割は変わらないと思っています。

小島 8割がAIでできるようになっても、残り2割で勝負する、と。
酒井 そうです。むしろ8割の作業から解放されることで、クリエイターとして本当に力を発揮すべき2割に集中できる。その2割で価値を出せると、クライアントからの信頼が生まれて、次の仕事につながっていくのではないかと。
若手の育成も同じです。入社半年でも、AIを使えば8割のことはすぐにできる。だからまずは、その状態を含めて1年で基礎を身につければいい。そうすれば2年目からは、その「残り2割」に集中できる。クリエイターとしてのアイデンティティやスキルを伸ばしていけば、AI時代でも価値を出していけます。
小島 たしかに、AIを使えば経験の少ないスタッフでも一定のパフォーマンスを出せますよね。最近も、去年入ったうちの営業メンバーが、謝罪メールを送る場面で、ものすごく丁寧な文章を出してきたんですよ。これを送られたら誰も文句を言えないな、というレベルで。聞いたら「AIでつくった」と言っていました。

酒井 AIって、今はまだドラえもんのポケット的な扱いで、「便利さ」で価値が出ていますよね。でも、その価値はすぐ当たり前になります。電卓で計算したとか、Excelで作ったとか、今では誰も言わなくなったのと同じ。だから細かなことに一喜一憂せず、活用の幅をどんどん広げていくほうが建設的ですよね。
小島 今は「AIを使っていることがバレてはいけない」という拒否反応と、「AIを使いこなせていてすごい」という肯定的な反応が両方ありますよね。時間が経てば、拒否反応は解消されると思いますか。
酒井 いずれ完全に解消されると思います。個人的にはもう解消されていて、むしろ「AIを使わずに書きました」と言う人に、なぜなのか理由を聞きたいぐらいです(笑)。

社内でも、AIの回答と個人の意見を分けてディスカッションしています。少し前までは、世の中の情報がAI生成かどうか曖昧で信用しにくかった。今のように「AIの要約」と書いてあるほうが、AIであることが明確で、むしろ安心できる部分もあります。
ページからデータへ。メディアの形が変わる
小島 最近気になっているのは、AIはコンテンツのつくり方だけでなく、最終的なアウトプットの形まで変えてしまうのか、という点です。
たとえば、Webサイトの閲覧対象は、もはや人だけではありません。つくり手は「AIにどう見てもらうか」を考えて、今までとは違うアウトプットをする必要があると感じています。酒井さんは、そこを意識して何かやっていることはありますか。
酒井 オウンドメディアをAIに見てもらうためにつくっているわけではありませんが、AIにも見てもらえるようには意識しています。ただ正直、どう調べられて、どう引っかかっているかはわからない。本質的には、つくり方より素材の問題だと思っています。
つまりコンテンツの内容が、ネットで調べた情報を整えたものなのか、自分で見た一次情報なのかで、価値は変わる。結局、一次情報でつくり上げたオリジナルのものにこそ価値があると思います。
小島 「一次情報が重要」という文脈で、僕も最近感じたことがあります。採用サイトをつくっているお客さんから、「抽象的でエモいサイトにすべきか、具体的な内容でページ数を増やすべきか」と相談されました。今なら、具体的でページ数が多いサイトをつくりたいと答えます。なぜなら、一次情報が豊富にあれば、抽象度の上げ下げは最終的にAIがやってくれるからです。
志望者がAIに「この会社の雰囲気を教えて」と聞けば、100人分のインタビューをもとに要約してくれる。昔なら同じ予算で、インパクトのある動画を1本つくったかもしれない。でも今なら、100人にインタビューして「この会社には100通りの働き方がある」と見せる提案ができます。

酒井 その考えは理にかなっていますね。いろんな味のコンテンツを出しておけば、AIが利用者の目的に合う情報を見つけやすくなる。
一方で、検索上位の記事をつなぎ合わせたようなSEO記事では意味がない。それは、AIがすでに知っている情報の焼き直しにすぎません。そうではなく、人が集めた一次情報が100個並んでいることに価値がある。人が100ページ読むのは大変でも、AIなら要約して俯瞰できる。そういうつくり方にしていきたいですね。
小島 最近考えていることをまとめると、2つあります。1つは「ファクトの積み上げがブランドをつくる」ということ。これまではタレントを起用した情緒的なコンテンツが多かったけれど、これからは具体的な情報の積み重ねが価値を持つのではないかと。
もう1つは、「コンテンツの単位が『ページ』から『データ』に変わる」ことです。データを大量にためて整理しておけば、AIがそこからコンテンツをつくるようになります。
酒井 コンテンツがページからデータに寄っていく、というのはシンプルだけど刺さりますね。ファクトの積み上げとして事実を集めていく、という方向性には非常に納得できます。
小島 そうなると、データの定義自体も変わりますよね。これまでは、食べログの点数のように、情報を単一の基準に圧縮してきました。人間の認知には限界があるから、複雑な情報をわかりやすい形にまとめる必要があった。
でも、AIにはその限界がない。企業ごとにアピールしたいことが違っても、そのままデータとして出しておけば、AIが利用者の見たい基準で整理してくれます。
AIは情報ではなく行動を変える
小島 もう1つ、AIがもたらす変化として、「ユーザーの行動が変わる」という点を感じています。これまでは「中目黒 居酒屋」のように検索して、上から順に見ていました。でもAIなら、「二次会で使えて、人数はこれくらいで、雰囲気はこう。しかもPayPayが使える店」といった条件を、会話ベースで投げかけられる。
だから最近は、飲食系のクライアントに「店舗情報は、できるだけ多く載せましょう」と提案しています。人はすべての情報を見ませんが、AIがそれを読み取っておすすめを出すのなら、情報は多いほうがいい。
酒井 なるほど。「情報の受け手がAIになることで、情報量の制約がなくなる」わけですね。
小島 もう1つは「体験の前倒し」です。これまでは、商品やサービスを実際に体験するまで、自分に合うかどうかわからなかった。たとえば服も、店内で試着はできても、別の場所でどう見えるかは買ってみないとわかりません。
でも今は、AIを使えばシミュレーションできる。もしかしたら居酒屋でも、事前にAIで店内にいるような画像を生成して、それを見て「これならSNS映えしそうだから行こう」と決める人が出てくるかもしれません。
酒井 面白いですね。これまでメディアやコンテンツは、人を惹きつけることまではできても、その先の行動まで左右するのは難しかった。でも、AIで体験を前倒しできるようになると、知るだけじゃなく、買う、使う、そこまで含めた顧客体験の設計ができるようになりますね。

小島 それでいうと、旅行はもっと可能性があると思います。これまではインフルエンサーの投稿を見て想像するしかなかったけれど、あくまで他人の体験でした。でも今なら、自分がその場に立ってSNSに載せたらどうなるかを、自分ごととしてシミュレーションできる。そうすると「これは絶対行きたい!」と、確信を持って決められるようになります。
酒井 VRのような没入型コンテンツは、数年前でも実現する方法はありましたが、膨大な予算が必要だった。一方で今なら、アイデアを早く、誰でも形にしやすくなった。そこがAIの強さですね。以前なら巨額のコストをかけていたものが、「こういう体験ができたらいいんじゃないか」と、すぐ示せる。
小島 やろうと思えば1億円かければできたかもしれない。でも、それがスマホで実現できるぐらい簡単になりました。
酒井 お試し体験の前倒しという文脈でいけば、リテールやEC、ライブコマースといった分野でもAIは活用できそうです。何か大きな変化が起きそうで、ワクワクしますね。
AI時代、メディアに関わる人は何を意識すべきか
小島 既存メディアや企業のオウンドメディアに関わっている人は、AIの進化に対してどんな意識でいるべきでしょうか。AIに聞けば、Webメディアを見なくても知りたいことが解決する時代になって、訪問回数も減っていくと思います。そんな状況で、運営する側は何を考えればいいでしょうか。
酒井 ここ数年で強く感じているのは、メディアのビジネスモデルが大きく変わってきているということです。広告出稿だけで食べていくのは、もう現実的ではありません。だから、既存メディアが生き残るには、マネタイズポイントを複数持つ必要があります。
1記事単位で課金するモデルもありますが、どこを勝ち筋にするかを考えないと、既存メディアを存続させるのは難しい。一方で、コーポレートのオウンドメディアは、採用やブランディングなど目的が明確なので、比較的成立しやすいと思います。
小島 現実的な収益設計は重要ですね。僕はコンテンツをつくる立場ではありませんが、技術者の視点から、メディアに対してどんな提案ができるかを考えています。
酒井 今日の話を通して、AI時代におけるメディアの役割が少しクリアになりました。情報を届けるだけでなく、「行動を変える装置」としてメディアを捉え直す––––––そこに、これからの可能性がありそうですね。

取材・文:小平淳一、写真:秋山枝穂






