【イベントレポート】AI時代のプロダクト開発はどう変わる? Figma Japanが明かす日本戦略と現場のリアル

2026年2月26日、Figma Japanはメディア関係者を対象としたラウンドテーブルを開催しました。Figma Japanカントリーマネージャーの川延浩彰氏とデザイナーアドボケイトの谷拓樹氏によるプレゼンテーション・デモに続き、LINEヤフーおよびDeNAの幹部を交えたパネルディスカッション、さらに一般社団法人日本CPO協会理事との対談セッションが行われました。イベントの様子をレポートします。
AI時代のプロダクト開発にFigmaはどう応えるか?
日本は、Figmaにとって世界でも月間アクティブユーザー数が上位5カ国に入る重要市場です。Figma Japanの川延氏によれば、日経225採用企業の60%以上がすでにFigmaを導入しています。導入先としては、カプコン、DeNA、LINEヤフー、みずほ銀行、SANSAN、SmartHRなど、業種をまたいで多くの企業で活用されている状況です。また、ユーザーコミュニティ「Friends of Figma」も国内20拠点以上で活動しています。
こうした日本での広がりを受けて、新たなサポートプログラム「Figmaアドバイザリーサービス」の開始が発表されました。日本語による戦略的ガイダンスやトレーニング、技術支援、24時間365日のメールサポートを提供するもので、これまで以上に日本の顧客企業に寄り添う体制を整えるものです。Figmaが日本での事業をさらに本格化させていく意思表示とも言えるでしょう。
続いて川延氏が語ったのは、AI時代のプロダクト開発が直面している構造的課題です。

生成AIの普及によって、ソフトウェアの設計や実装のハードルは劇的に下がりました。以前であれば専門的なスキルが必要だった作業が、誰でも短時間でこなせるようになっています。その結果として起きているのが、「それなりに動く、それなりに見栄えのするプロダクト」が大量に生まれる状況です。これについて川延氏は「AIに指示を出すことで70%の完成度までは素早くたどり着けるが、そこから先の価値を生み出すことは、依然として人間の判断や文脈理解、審美眼や執念にかかっている」と語りました。
また川延氏は「Lowering the Floor, Raising the Ceiling(床を下げ、天井を上げる)」という考え方を紹介しました。ここでいう「床」とは、その分野に参加するために必要な最低限の力のこと。「天井」は、プロフェッショナルが到達できる可能性の上限を指します。

AIの登場によって、これまでデザインに馴染みのなかった人がプロンプトを打つだけで簡単なプロトタイプを作れるようになりました。こうした状況を川延氏は「床を下げること」だと説明します。
一方で、作業の約70%をAIに任せられるようになったことで、プロのデザイナーは残り30%の差別化に集中できるようになります。AIは創造プロセスへの参入障壁を下げるだけでなく、表現や設計の可能性そのもの–––––つまり「天井」も押し上げていく存在だといいます。
FigJam、Figma Make、外部AI連携
続いて、Figmaデザイナーアドボケイトの谷氏が最新のAI機能を実際に操作しながら紹介しました。

まず紹介されたのがオンラインホワイトボード「FigJam」のAI機能強化です。ミーティング用のテンプレートが自動生成されたり、ブレインストーミングで出てきた付箋をAIが整理・分類したりできます。さらに、ChatGPTやClaudeなどの外部AIエージェントに指示することで、FigJam上で編集可能なダイアグラムが直接生成される機能も紹介されました。
続いて披露された「Figma Make」は、テキストで指示を出すだけで、実際に動くプロトタイプが生成されるという機能です。自社のデザインシステムをFigma Makeに読み込ませることでブランドイメージに沿ったプロトタイプを出力できるなど、デザインツールであるFigmaと連携できる点が魅力です。
AIとの連携という観点では、「Figma MCP Server」を使って仕様書や外部ドキュメントをAIに読み込ませ、デザインとコードの間をシームレスにやり取りするワークフローも紹介されました。ClaudeやChatGPTのアプリ内でFigmaを直接操作できる機能、Claude CodeやOpenAI Codexとのラウンドトリップワークフローなども発表され、開発プロセスの各所にFigmaが活用されていくことが予見されます。
デザイナーとエンジニアの壁が溶けた──リーダー2人が語る、この1年の変化
続いて、LINEヤフー株式会社の市丸数明氏(ショッピングSBUプロダクト開発1ユニットリード)、株式会社ディー・エヌ・エーの増田真也氏(グループエグゼクティブ ライブコミュニティ事業本部 本部長)、川延氏の3名によるパネルディスカッションが行われました。

まず市丸氏が挙げたのは、Figmaの導入によって社内のコミュニケーションのあり方が変化したことでした。
「以前は、デザイナーとエンジニアが受発注のような関係になってしまっていました。同じ社員同士なのに『デザインデータを納品しました』といった言葉が使われていたんです。現在は、Figmaの画面を一緒に操作しながら議論するスタイルへと変わりました」(市丸氏)
市丸氏はこの変化について「コミュニケーションはイノベーションそのもの。コミュニケーションの量が増えたことは、とてもよい変化だと思います」と語ります。
一方の増田氏は「AIがデザインのプロセスに入り込んだことで、アウトプットの物量は何倍にもなった」と話し、その先にある課題を指摘しました。
「AIが作成したデザイン案を見て『これは違う』と言えるかどうかが重要。分析し、判断して、ブラッシュアップしていく力を磨くことが、これからのデザイナーにとってより重要になっていきます」(増田氏)
さらに増田氏は、企画職のメンバーが自分でFigma Makeを使ってプロトタイプを作ることが当たり前になりつつあると話します。
「Claude CodeとFigmaが接続したことで、デザインだけでなく製品に近い実際に動くプロトタイプを作って議論できるようになりました。開発における職種間のコンテキスト等の翻訳作業がなくなったのは、本当に大きな変化だと思います」(増田氏)
「1か月が1時間になった」──プロトタイピングの常識が変わる
パネルディスカッションに続いて、一般社団法人日本CPO協会理事でテックタッチ株式会社取締役CPOの中出昌哉氏が登壇し、川延氏との対談が行われました。

中出氏はまず、AIがソフトウェア開発にもたらした変化について次のように語ります。
「AIによって80〜90%程度のクオリティのソフトウェアは、簡単に作れるようになったと実感しています。ただし、細部のデザインにこだわることはまだ難しい。微妙なデザインの違いによって、顧客の課題にうまく当たっていないプロダクトになってしまうこともあります。最後の10〜20%をどう埋めていくのかが鍵になるでしょう」(中出氏)
その変化は、プロトタイピングのスピードにも大きく表れています。以前のBtoBプロダクト開発では、新機能のプロトタイプを作るだけでも、PMが仕様書を作成し、デザイナーが画面を設計し、エンジニアが実装するという工程を踏む必要がありました。完成までには数週間、場合によっては1か月以上かかることも珍しくありませんでした。
しかし現在では、取引先企業とのミーティングの場でFigma MakeやClaude Codeを使い、その場でプロトタイプを作成しながら議論と修正を進めるケースも増えているといいます。中出氏は「以前は1か月かかっていた作業が、1時間でプロトタイプとして形になるようになりました」と現況を語ります。
Figmaは今年6月、年次カンファレンス「Config 2026」の開催を予定しています。日本市場での展開をさらに強化する中、今後どのような機能拡張が発表されるのか、その動向にも注目が集まりそうです。
取材・文:鈴木亮一
