Web制作会社は「紹介頼み」をどう超える? 小島芳樹(chot inc)× 鈴木源大(レディクル)が語る営業戦略

Web制作業界において、多くの経営者を悩ませるテーマの一つが「営業活動」です。紹介案件を中心に成長してきた企業ほど、組織規模が大きくなるにつれて、「紹介だけでは案件が足りない」「社長が動かなければ新規案件が止まってしまう」といった壁に直面しがちです。

では、制作会社はどのように新たな市場を切り拓いていくべきなのでしょうか。今回は、Web制作とシステム開発を手がけるちょっと株式会社代表取締役社長の小島芳樹さんと、ビジネスマッチングサービス「レディクル」を運営する株式会社フロンティアの鈴木源大さんに、Web制作会社の営業のリアルについて話を聞きました。

目次

社長が営業しないと、新規案件の獲得が止まる

––––まず、ちょっと社の営業体制について教えてください。

小島芳樹(以下、小島) 基本的に、フロントに立って新規開拓を担っているのは僕1人です。そのうえで、契約実務やアポイント調整を担当する「コーディネーター」が支えつつ、案件の確度に応じてディレクターやエンジニアが企画提案に加わる体制ですね。新規案件の内訳は、6〜7割が紹介。残り3割が自社サイトへの問い合わせと、レディクル経由です。

––––小島さんご自身の人脈が大きいのですね。

小島 もちろんそれだけではないですが、前職時代のつながりや、「昔ご一緒しましたよね」といった関係から始まることは多いですね。すでに信頼関係があるぶん成約率も高く、非常に強いチャネルだと思います。

ただ、その一方で再現性がありません。つまり僕が動けなくなれば、新規案件の獲得も止まってしまう。これは組織として大きな経営課題でした。

ちょっと株式会社代表取締役社長の小島芳樹さん。会社員としてWebデザイン・ディレクション・事業開発の仕事に携わるかたわら、勉強会や技術者向けのコミュニティを主催。2018年5月に独立し、2019年4月にちょっと株式会社を設立

––––組織規模の拡大によって、営業のあり方も変える必要があったのでしょうか。

小島 まさにそうです。10人以下の頃は、いわゆる営業らしい営業はほとんどしておらず、紹介だけで回っていました。

10人を超えたあたりで一度手が空く時期があり、外注の一括見積もりサイトに登録したんです。ランディングページ1本、バナー数本といった案件が中心でしたが、受注から収益化までのサイクルが早く、小規模な会社には合っていました。

ただ、30人規模になると、数百万円規模のWebサイト案件をコンスタントに獲得しなければ経営が成り立ちません。そのタイミングで本格的に活用し始めたのが、レディクルでした。

––––レディクルはどのような体制で案件を掘り起こしているのでしょうか。

鈴木源大(以下、鈴木) 弊社は創業17期目で、約350名体制で運営しています。そのうち約140名が営業チームに所属し、年間147万件ほど企業へ電話をかけています。

特徴的なのは、単なる売り込みをしない点です。「何かお困りごとはありませんか?」というコンテキスト(文脈)営業から入り、予算化のタイミングまで中長期で追いかけ続ける–––––それが案件獲得の基本姿勢です。

コロナ前までは、対面で打ち合わせできることを重視し、1都3県が中心でした。しかし、リモート商談が定着してからは、全国47都道府県のニーズを拾えるようになりました。

レディクル」はサービス利用企業約6万社以上の実績を持つビジネスマッチングサービス。Web制作をはじめ、システム開発、デザイン、映像制作など、幅広い分野で利用されています

「担当者の好み」まで理解した、対話から生まれる案件情報

––––レディクル経由で制作会社に届く案件情報は、どの程度の「粒度」なのでしょうか。

小島 単に「Webサイトをつくりたい」という漠然とした情報が届くわけではありません。サーバーのスペックや利用中のCMS、前の制作会社とどのような経緯で契約終了に至ったのか。さらに、担当者の業務の進め方における嗜好やタイプまで、かなり細かな情報が共有されます。

正直、初回ヒアリングだけでここまで引き出すのは、ベテランのWebディレクターでも簡単ではないと思うレベルですよ。

鈴木 弊社は単なる商談供給ではなく、パートナー企業の受注まで責任を持って支援したいと考えています。そこで「寺子屋」という勉強会を設け、実際に案件を受注しているパートナー企業の方に登壇いただき、「どんな情報があれば提案しやすいか」を直接伺いながら、ヒアリング項目を常にアップデートしているんです。

レディクルを運営するフロンティア株式会社ソリューション事業本部本部長の鈴木源大さん

––––AI・デジタル化が進む中で、あえて「人」が介在する理由は何でしょうか。

鈴木 効率化のためにAIも活用していますが、創業以来変えていないのは、「必ず人が介在する」という点です。

発注側がフォームに入力する方式では、本音や細かなニュアンスがこぼれ落ちてしまう。1件ずつ対面でヒアリングすることで、温度感まで含めた情報を集められると考えています。

––––案件を受注する側のパートナー企業に対しては、どのようなサポートを行っているのでしょうか。

鈴木 基本的には、専属の営業支援コンサルタントが隔週30分〜1時間の定例ミーティングに入らせていただきます。状況共有はもちろん、提案資料の相談や、事業拡大の方針整理まで、営業活動のパートナーとして伴走するイメージです。

小島 ミーティングでは発注企業向け営業資料を見てもらったり、「こう伝えたほうがお客様に刺さる」といったアドバイスをいただいたりしています。

案件紹介は、メールからWebサービスにアクセスして確認する仕様なのですが、情報ページのインターフェースもよく設計されていて、非常に見やすいですね。そこからアポイントの日程調整まで完結できるようになっているのも、嬉しいポイントです。

大企業の選定プロセスに「一次請け」として入れる

––––制作会社側にとって、レディクルを活用する最大のメリットは何でしょうか。

小島 メリットはいろいろありますが、一番大きいのは「大企業の選定プロセスに、一次請けとして直接入り込めること」だと感じています。

大企業はガバナンスの観点から、相見積もりのプロセスを取るケースがほとんどです。ただ中堅規模のWeb制作会社がその比較検討のテーブルに乗るのは、決して簡単ではありません。

実際、うちが30〜40人規模だった頃に大企業から直接案件をいただけたのは、間違いなくレディクルの介在があったからです。

2026年4月8日~10日に開催された「デジタルマーケティングEXPO」の「レディクル」ブース

鈴木 あと、経営上のリスクヘッジという側面もあると思います。特定の数社への依存度が高いと、そこからの発注が止まった瞬間に経営が傾いてしまいます。

コロナ禍の不況期には、それが原因で共倒れになるケースも少なくありませんでした。景気のよい時期から、半年後〜1年後を見据えて新規チャネルを育てておくことが、長期的な安定につながります。

小島 もう一点、市場調査としても機能しています。自分たちが接点を持っていなかった業種のニーズが流れてくるので、「いまこの分野が動いているなら、新しいサービスをつくろう」と、事業開発のヒントにもなっています。

ブースでは、AIアシスタントを搭載したちょっと社の新プロダクト「Agentic Website by Orizm」の展示も

社長の「一本足打法」を脱却し、戦える組織へ

––––一方で、レディクルを活用するうえで課題はありますか。

小島 紹介案件は、すでに信頼されている状態から始まります。一方、レディクル経由の案件は完全に「初めまして」です。だからこそ、自社の強みを言語化し、初対面の相手に刺さる提案を組み立てる力が問われます。

正直に言うと、僕は自分で会社を立ち上げるまで営業経験がほとんどありませんでした。最初の数年は紹介だけで案件が回っていたので、初対面の相手に会社を売り込む機会もほぼなかったんです。

それがレディクルを使い始めてから、初対面の商談が一気に増えました。そのときに、「自分のやり方を根本から変えなければいけない」と気づかされたんです。事業パンフレットも、それまでは中途半端なものしかなくて、他社と比較して「うちはまだ足りないな」と痛感しました。

鈴木 その突破口を一緒に見つけるのが、私たちの役割です。パートナー企業の強みがどこにあるのか、競合とどう差別化するのかを一緒に考え、言語化していきます。

––––具体的な費用感についても教えてください。

鈴木 初期費用30万円、月額35万円の年間契約をベースに、アポイント成立1件につき8万円をいただく形です。成約報酬や、二次・三次案件に対するマージンは一切いただいていません。

営業職を1名採用すれば、年収や諸経費を含めて600万〜1000万円ほどかかるケースもあります。そのコストと比較し、どちらが効率的かをご判断いただく形になると思います。

––––最後に、小島さんは今後もレディクルを使い続ける予定ですか。

小島 もちろんです。むしろ今は、レディクル経由の比率をさらに高めていきたいフェーズですね。社員数が50人を超え、「社長の一本足打法」から「組織営業」へ移行することは、現在の弊社にとって大きなテーマです。

紹介だけで回していた時代は、自分の半径数メートル以内にいるお客様しか獲得できていませんでした。その外側へ手を伸ばしていくために、これからもレディクルの力を借りたいと思っています。

取材・文:小平淳一、写真:黒田彰

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