一言のプロンプトでモーションデザインを生成する「Brik」––––頭の中のデザインが開放され動き出す

ノーコードのWeb制作プラットフォームを世界的に展開する「Wix.com Ltd.(以下、Wix)」が、先日「Brik」という新たなプロダクトのベータ版を公開しました。これは、プロンプトを入力するだけでアニメーションやモーションをつくれるツールを生成するものです。もともとはWixのデザイン部署内で活用していたものを、一般公開したといいます。

なぜこうしたプロダクトを開発・公開したのでしょうか。Wixのデザイン部署を統括するブランドディレクターのニブ・ファルキさんと、Wix.com Japanデザイナーの楊令傑さんに話をうかがいました。

Wixが公開したプロダクト「Brik
目次

「つくれない」という制約からの解放

–––––BrikはWixのデザイン部署における内部ツールとして開発されたそうですが、どのような目的でつくられたのでしょうか。

ニブ・ファルキ(以下、ニブ) 私はWixのデザイン部署を統括していて、そこには世界各地のデザイナーが300人ほど在籍しています。日本で活躍する楊(令傑)さんも、メンバーの一人です。

そうした大規模なインハウスエージェンシーを統括する上で、これまでは専門性ごとに分かれているメンバーをどのようにして繋いでいくかが大きな課題でした。たとえばデザイナーがアニメーションを企画したいと考えても、アニメーションデザイナーが他の業務で忙しくて実現できないということが起こり得ました。

Wix.com Ltd. でデザイン統括 兼 ブランドディレクターを務めるニブ・ファルキ(Niv Farchi)さん

ニブ 従来グラフィックデザイナーは静止画をデザインしていましたが、静止画だけを扱いたかったわけではありません。ただデザインを動かす手段がなかっただけなのです。しかしAIの台頭により、そうした制約はなくなりつつあります。頭の中にあるクリエイティブをAIを用いてアウトプットするためのプロダクトとして、Brikが生まれました。

–––––Brikでは何ができるのですか。

ニブ 2つのことができます。1つは、プロンプトを入力して3Dアニメーションやインタラクションなどをつくるツールを生成することです。そしてもう1つは、他の人が制作してギャラリーで公開しているツールをベースにカスタマイズするリミックスです。

Galleryページで公開されているツールは誰でもリミックスできる

ニブ 画像生成AIのように、Diffusionモデルを用いてAIが直接画像を生成する仕組みではなく、LLMやコーディングエージェントによってAIがプログラムを書き、デザインツールそのものをつくる仕組みである点が特徴です。

–––––デザイナーがBrikを使うことで、表現はどのように変わるのでしょうか。

ニブ どのようなスキルセットのデザイナーであっても、技術やツールの習熟度に制限されることなく、頭の中にあるクリエイティブな表現をアウトプットすることが可能になります。これにより、我々デザイナーが手がけられる範囲は格段に広がりました。デザイン業界全体にとって革命的なことです。

–––––エンジニアやアニメーションデザイナーなど他の専門分野のクリエイターと協業するための人件費や人手といったリソースの障壁がなくなるだけでなく、イメージ通りのものをつくってもらうためのコミュニケーションコストや齟齬もなくなるわけですね。

ニブ それだけではありません。これまでデザイン全工程を担えるフルスタックデザイナーになるためには、デザイナーはさまざまなデザインソフトを学ぶ必要がありました。それらを使いこなすには、何年もの時間と経験を要します。しかしBrikの登場により、想像力さえあればすぐに自身で形にできるようになりました。

次の動画はBrikのプロダクトができた当初に、社内で制作したものです。このときアニメーションデザイナーは誰も手があいていなかったのですが、他のメンバーでこれだけの動画をつくることができました。

Brikでさまざまなデザインツールを生み出す

–––––Brikはどのように使うのでしょうか。

ニブ たとえば「マウスの動きに追従してアニメーションする3Dギャラリーをつくって」というようにプロンプトを入力すると、開発が始まります。複数の情報を統合して制御できるマルチモーダルオーケストレーションでAIエージェントが動くので、この簡単な指示だけで数分後にはデザインツールが完成します。

Brikにプロンプトを入力して生成された3Dギャラリーのツール

ニブ 完成後にも、画面左下にあるチャットから追加のプロンプトを入力して改善したり、右側にあるさまざまなコントローラーの値を調整してデザインを試行錯誤していくことができます。

また、ギャラリーページには、他の人がつくったさまざまなツールがあります。これらを使ってタイポグラフィやイメージを生成することもできますし、ツールそのものを自分仕様に変えるリミックスもできます。

Galleryで公開されている「camera to pixal」という映像が加工されるツールを試しているニブさん

–––––他の方が制作したツールも自由に使えるのですね。

二ブ バイブコーディング界隈では、他の人がつくったものをリミックスして活用するカルチャーがあります。ただ、自分がつくったツールは、全体に公開、クライアントなど特定の対象に限定公開、自分だけが見られるといった形で公開設定を選べます。

–––––ニブさんはBrikでどのようなツールをつくっていますか。

ニブ この前、Instagramのストーリーズに合わせたアニメーションを生成するツールをつくりました。SVG形式のロゴをアップロードするだけで、よい感じのムービーが自動でできます。カメラアングルも変えられますし、貼り付けコードが生成できるので、つくったアニメーションはどのようなWebサイトにも置くことができます。

ニブさんが制作したツール。Wixのロゴを貼り、動画を自動生成しました

–––––楊さんはどのように活用していますか。

Wix.com Japan株式会社のデザイナー 楊令傑(Yang Lingjie)さん

楊令傑(以下、楊) Wixの社内で配信するニュースレターの表紙に使う画像を加工するためのツールをつくりました。画像をアップロードするとピクセル化され、右側にあるスライダーでピクセルサイズなどの微調整を行えます。これがBrikで初めてつくったものなので、まだ動的なものはつくっていないのですが。表紙には毎回違う画像を制作するので、手軽に加工ツールがつくれるのは便利です。

楊さんがBrikで制作したツール。アップロードした画像をピクセル化できます

–––––頭の中にあるクリエイティブのイメージをBrikへ的確に伝えるために、プロンプトに落とし込むコツはありますか。

ニブ Brikに限らず他のAIツールでも同様だと思いますが、最初にゴールをきちんと思い描くことが大事です。私の場合は、紙にスケッチを描いて、それをいくつかのレイヤーに分解する作業を行います。楊さんはどうしていますか?

 頭の中にあるつくりたいもののイメージの解像度を高め、それを自然言語でプロンプトに落とし込むようにしています。イメージを固められるほど、思ったのと近いものを生成することができます。

–––––Brikはとても直感的に扱えそうな印象を受けましたが、プロンプト以外にも使いこなす秘訣はありますか。

ニブ まずは誰かがつくったツールをリミックスしてみると、Brikでできることや使い方がわかってくると思います。あるいは、誰かがつくったツールを、ゼロから再現してみるのも練習になります。そうして勘所を掴むと、ゼロからつくるのもうまくいくのではないでしょうか。

デザイナーの役割を拡張し、業務を効率化する

–––––Wixでは、ニュースレターの表紙以外にもBrikを業務で活用していますか。

ニブ BrikのようなAI技術はWix StudioやバイブコーディングでWeb制作ができるWix Harmonyなどに統合されていますが、Brik自体は主力事業ではありません。これはデザイナーたちがクリエイティビティを発揮しやすくすることを目指して、自然発生的に生まれたプロダクトです。

–––––先日、Brikを一般公開して誰もが使えるようにされました。それはなぜですか。

ニブ 社内外問わず、デザイナーの可能性を広げたいからです。これを世界に公開することで、どのような反応があるのか楽しみにしていました。特別なプロモーションは行っていませんが、社員がSNSなどに載せた情報が拡散され、想像を大きく上回る反響がありました。公開から6週間で数千人のユーザーが登録してくれ、中には有料プランを申し込んでくれた人もいます。

Brikの料金プラン。無料でも月に80クレジットまで使えます

ニブ Instagramの反響では、「狂気的だ」「クレイジーだ」といった言葉で形容されていたのが印象的でした。普通クリエイティブツールが公開されても、そうした感想は多くないからです。そのような反響をいただけたのは嬉しかったです。

–––––Brikを仕事に活用するとしたら、どのようなシーンが考えられますか。

ニブ エージェンシーが活用するケースでは、クライアントのためにブランドブックをつくるということが考えられます。今までそうしたものはFigmaやPDFファイルで納品してきましたが、ツールとして提供すればブランドツールを用途に応じた形で使えるでしょう。

また、Brikでつくったツールで制作したコンテンツをWebサイトやアプリに埋め込んで活用することもできます。

–––––日本のビジネスシーンでは、どのような場面で活用できると思われますか。

 日本では提案フェーズで活用するとよいと思います。私も前職は日本のWeb制作会社に勤めていたのですが、日本のクライアントワークでは完成イメージを短期間でつくり、事前に提案するという丁寧なやりとりをする文化があります。そのため、提案段階ですぐに動くプロトタイプを見せられると、とても響くのではないかと思います。

一方、事業会社のインハウスデザイナーにとっても、有用です。日本ではDXが進む中で、デザインを内製化する動きが加速しています。しかし、モーショングラフィックスや3Dのクリエイターまで社内で揃えられる会社は多くありません。Brikは、そうしたギャップを埋めてくれるでしょう。

また、グラフィックデザイナー出身者には、コーディングに苦手意識を持つ方も少なくありません。そうした方々でもBrikは簡単に使えて表現の制約から解放してくれるので、キャリアの幅を広げる一助になり得ます。

–––––Brikによって、デザイナーの役割も広がりそうですね。

 私たちデザイナーにとって一番重要なのは、アイデアを引き出しから取り出し、迅速かつ正確に現実のものへと変換することです。Brikはそれを叶えられるプロダクトだと言えます。

先ほどお見せしたように、ツールも生成したクリエイティブも、追加のプロンプトや右側にあるバーなどで直感的に細部までつくり込んでいくことが可能です。納得いく精度まで丁寧につくり込みたいという気質の強い日本のデザイナーとの相性はとてもよいのではないかと思います。

ニブ デザイナーの仕事の本質は、クリエイティブかつエレガントに課題を解決することです。以前のデザイナーはコーディングができないことで、解決方法に制約がありました。しかし、Brikによってその制約は大きく緩和され、可能性が広がったと私自身も実感しています。ぜひあなたの頭の中のクリエイティブビジョンに、Brikのチャットを通して生命を与えてみてください。

※プロダクトの機能や料金体系については取材時(2026年6月)の情報であり、今後随時変更の可能性があります。

取材・文:平田順子

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