
つくる“だけ”では通用しない。できるくん×Wixパートナーサクセスチームが示す、AI時代にWeb制作者が提供すべき「付加価値」とは?

AIやノーコードツールの進化によって、Webサイト制作は大幅な効率化を遂げています。そうした時代の変化に、Web制作者はどのように対応し、どのような価値を発揮していくことができるでしょうか。
AIとWix Studioを活用して、中小企業向けの事業支援を行っている株式会社できるくんで代表取締役を務める岩田真さんと、Wix.com Japan(以下Wix)のパートナー企業をサポートする「パートナーサクセスチーム」でパートナーサクセスマネージャーを務める坂口翠さんに、AI時代のWeb制作の現在地と将来について語っていただきました。
目次
AI×ノーコードで実現する中小企業支援
──できるくんのWebサイトには「受託産業の構造的な“負”に、AIの力で終止符を。」というコピーが掲げられています。どのような事業を手がけていますか。
岩田真(以下、岩田) 我々は、中小企業の方々の事業成長をご支援しています。そうした事業の一つとして、コストを抑えてWeb制作を行うサービス「ホームページできるくん」を提供しています。日本の中小企業は、よい技術や製品をたくさん持っているにもかかわらず、デジタルマーケティングに取り組めていないところがまだまだ多いです。労働者人口が減っていく中で、ITを活用して生産性を高めたり、国内外に情報発信をしたりといったご支援をしています。

──岩田さんご自身のキャリアでは、これまでWeb制作を手がけられてきたのでしょうか。
岩田 いえ、僕は投資ファンド出身です。だからこそ、従来のWeb制作のセオリーや常識に縛られず、最新テクノロジーの活用に抵抗なく踏み込めたのかもしれません。
以前は「Web幹事」というWeb制作会社と、Webサイトをつくりたい企業をマッチングするプラットフォームを展開していました。
──そこで見えてきた課題があったわけですね。
岩田 そうなんです。我々がかかわってきた中では、Web制作会社の受注希望額は80万〜100万円程度がほとんどである一方で、中小企業では数十万円ほどでの制作を希望するところが圧倒的に多く、需要と供給の不一致を感じていました。
そのため、AIや最新のSaaSを活用して、低価格でWebサイト制作などの支援を行える「ホームページできるくん」を1年半ほど前に始めました。なお、自社でWeb制作をする会社がマッチング事業も行うのは公平性を担保できないと考え、Web幹事は2025年中に、別の会社へ事業譲渡しています。
──ホームページできるくんのWeb制作プラットフォームとしてWix Studioを活用しているそうですが、採用の決め手は何でしたか。
岩田 WixのCEOが、早い段階からAIに注力するという声明を出していたことが一番の決め手でした。AIの登場でCMSの形は変わっていくと思い、そこに投資できない会社は淘汰されていくのではないかと考えたからです。また、Wixはグローバルで展開し、大勢のエンジニアを抱えているので、開発力の高さへの期待もありました。

課題解決を支える、Wixパートナーサクセスとの連携体制
──一方で、坂口さんはWixのパートナーサクセスチームで、どのような業務を行っていますか。
坂口翠(以下、坂口) Web制作会社などのパートナー企業に、いち早く新機能をご紹介したり、実装時の疑問点を解消したりする業務を担当しています。また、現場の声をプロダクトチームに届ける役割も担っています。一人で数十社ほど専任で担当していて、私は2025年4月からできるくんの担当になりました。Wix Studioを活用して中小企業の急成長を実現されているできるくんは、他のパートナーサクセスチームのメンバーからも注目を集めています。
岩田 我々からすると「困った時の坂口さん」ですから(笑)。課題が出てくるごとに、社内のみんなが坂口さんにご相談しています。最近では、リリースしたECの決済の不具合であったり、HubSpotを連携させてWix Studioに埋め込んだフォームから顧客の導線を取り込む方法などをご相談しています。
坂口 岩田社長をはじめ、ディレクターのみなさまからのご相談によって、現場で抱えている課題に気づくことができます。これからも、エンドクライアントである中小企業のみなさまに貢献できるよう、一緒に解決していきたいです。
岩田 ときには、実装の問い合わせをすると、坂口さんご自身がAIを活用して仮実装してくださることもあります。エンジニアに依頼するのではなく、非エンジニアが自ら直接実装するなんて「時代は変わったな」と思いました。
坂口 今はAIやノーコードのおかげで、非エンジニアでも形にできる時代ですからね。
岩田 しかも、すごく早く対応してくださるので。弊社では、顧客対応はスピードが命だと考えています。怒っている方でも、連絡が来てすぐに折り返すとむしろ信頼を得られる場合があるからです。そのため、お客様からお問い合わせがあったときは、坂口さんにも速さを求める圧をかけてしまっているかもしれません(笑)。
1,000以上のWebサイト運用を可能にする、AI活用とSaaS一括管理
──ホームページできるくんでは、すべてのWebサイトをWix Studioでつくっているのですか?
岩田 そうです。もともとWixエディタを使って、いろいろな会社さんと連携しながらプロトタイプをつくっていきました。そこから、クオリティを上げるにはWix Studioのほうがよいと考え、移行しました。
──AIは何を、どういった場面で使っていますか。
岩田 ChatGPTやGemini、Claudeも使っています。たとえば、Webサイトのコンテンツの方向性をAIと壁打ちしながら調整したり、AIにお客様とのヒアリング内容を入れてWebページの構成をつくったりしています。素材が足りないときは、AIで画像生成する場合もあります。
また、HubSpotには問い合わせ履歴などを蓄積しています。AIも活用しながら、お客様から問い合わせがあった際に過去のやりとりを踏まえた対応をできるようにしています。
──制作フローとしては、ディレクターの方がヒアリングし、AIを活用して要件を整理し、デザイナーの方が制作するという感じですか。
岩田 はい。Wix StudioとAIで実装するので、社内にコーダーはいません。だからこそ、低価格でのサービスを提供できています。
坂口 ホームページできるくんは、低価格でありながら、とても高い価値を提供していると感じています。AIとWix Studioを活用した制作フローの最適化に加え、納品後の継続サポートまで含めて、お客様の成果につながる仕組みになっているからだと思います。

──納品後の運用は、それぞれの企業側でしているのですか。
岩田 いえ、基本的には我々で管理しています。ご要望がある場合に限り、管理画面を共有して触っていただけるようにしています。
累計で1,300サイトほど制作し、そのうち1,000サイト以上を継続サポートしています。
──1,000サイトもあると、運用・管理の負荷は高くならないですか。
岩田 たとえば、WordPressなどで運用していたら、1,000を超えるような数は難しいでしょう。しかし、同じSaaSのインフラで管理しているので、圧倒的に負担が軽減できています。セキュリティ面もWix側で対処してくれるので、不正アクセスなどの対策にリソースが割かれずに済んでいます。
坂口 セキュリティなどWixのインフラ面はしっかりしているので、お任せください!
Wixを選ばれる理由の一つとして、インフラ面を挙げていただくことも多いんです。セキュリティ対策や保守をWixに任せられる分、パートナーのみなさまにはクライアントへの提案や改善といった、より価値の高い業務に時間を使っていただけます。
──ホームページできるくんは、どういった企業の方々に利用されていますか。
岩田 日本全国からご利用いただいています。最初に受注したのは北九州市の体操教室でしたね。ほかには、心理カウンセリングや遺品整理・不用品回収など、さまざまな業種の方々にご利用いただいています。
こうしたニッチな業態のローカルビジネスは、WebサイトをつくってSEO施策などにコツコツと取り組むことで、けっこうな集客効果が出ています。おかげさまで、体操教室は生徒さんがいっぱいになって新規の募集を締め切っていたり、心理カウンセリングは予約数が倍になったり、遺品整理では問い合わせが月に数十件増えたり、といった成果が出ています。
──坂口さんから見て、Wix StudioやAIを活用して成長しているパートナー企業の共通点はありますか。
坂口 できるくん同様に、AIを取り入れながら制作フローを最適化していることだと思います。さらに、効率化で生まれた余力を、集客支援や運用改善といった「クライアントの成果に直結する提案」に使っている点も共通しています。
コスト構造に変化が。二極化するWeb制作業界
──AIやノーコードの浸透で、Web制作業界はどのように変わったと感じていますか。
岩田 ここ数年でWeb制作の単価は下がりました。制作効率が上がった分、価格競争が激化しているからです。その一方で、少数精鋭の制作会社はより高い付加価値の提供へと舵を切っており、低価格化と高付加価値化といった二極化が進んでいます。
──AIやノーコードが、Web制作業界にポジティブな効果をもたらしていると感じる点はありますか。
岩田 活用の仕方次第で、自社ならではの付加価値を多種多様に生み出せる点です。我々の最大の成果は、価格破壊でしょう。AIとWix StudioをはじめとするSaaSを活用することで、大幅なコストダウンを可能にしました。その結果、これまで予算の問題でWebサイトを持つことが難しく、デジタルマーケティングを諦めていた中小企業も支援できるようになっています。
また、100万円の予算があるとしたら、以前ならWebサイトをつくることしかできなかったのが、制作費を30万円に抑えて、残りの70万円で広告運用やLPの検証・改善にまわすといった予算配分が可能になりました。よりお客様の事業を前に進めやすくなっています。
AI時代の制作者の役割と、今後の可能性
──Web制作者の方の中には、AIやノーコードと今後どう向き合えばよいか悩んでいる人たちも少なくありません。岩田さんはどのように考えていらっしゃいますか。
岩田 AIの進化で、事業上の脅威に直面していない事業者はいないと思います。誰もが不安を抱えていますし、当社の「ホームページできるくん」のような事業モデルであっても、将来的には不要になる可能性すらあります……。どの立場にいても、全員がそれぞれで最適解を模索しているのが現実でしょう。
ただ、どれほど不安を抱いても、時代の波を止めることはできません。そうであれば、AIの進化を前提に、自分たちなら「どのような付加価値を提供できるのか」を考えるほうが建設的です。
──AIが進化しても、人間だからこそ担える「役割」を考えていく?
岩田 はい。AIにも、当然限界はあるので。たとえば、お客様とAIをつなぐ存在として、まだまだ人間が求められる時代が続いていく、と感じています。
坂口 パートナー企業の中では、AIを活用して制作の効率化で生まれた時間を、クライアントの集客や売上を伸ばすための提案・支援に充てるといった領域に重きを置く企業が増えている印象があります。
岩田 マーケティングやリクルーティングなど、顧客の成果をより追求している企業であれば、AIでさらにブーストがかかっているところはあります。その分、ディレクターに求められることは幅広くなり、従来以上に複合的な知識が求められる印象を持っています。
──技術の進化に伴って状況が変化している昨今ですが、今後事業をどのように発展させていきたいですか。
岩田 将来的には、中小企業の採用支援にも取り組んでいきたいです。
また、AIがさらに進化すると、AIエージェントが自分でLPをつくり、SEOやAIO対策をはじめ、さまざまな企業支援活動を自動でできる時代が来ることでしょう。そうなれば、コスト面がハードルとなっていた多くの中小企業で、デジタルマーケティングを加速させられます。こうしたAIネイティブな顧客体験や事業グロースの支援を日本中に広めていきたいです。
坂口 Wixには、エンドクライアントのニーズに応じた多様なプロダクトがあります。直近では、ビジネス支援のためのAIエージェント「Symphony(シンフォニー)」もリリースしました。こうしたプロダクトを活用することで、制作の効率化で生まれた時間を、より価値の高い提案や支援に充てていただけるのではないかと考えています。今後も、パートナーのみなさまと一緒にビジネス成長を支える取り組みを進化させていきたいです。

インタビュー・文:平田順子 写真:黒田 彰
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